グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第10章-Ⅱ 【記憶の旅人】

第10章49 【喜びの記憶】

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 平和な馬車で揺れに揺られ、特にこれといった障害もなく、私達はシグルアの街にまで帰ってこられたどあまりにも平和すぎるもんだから、予定より少し早く着いてしまい、はて?ゼイラ王女はどこに滞在させておくべきだろうか?と考える。

 夜まではまだ半日近くある。ギルドにネイりん達がいないのであれば、このままギルドに直行してもいいんだけど、流石に今日は普通にいると思うしなぁ。どうしよ。

ゼイラ「一昨年、こちらの街を視察した時とは違い、随分とご立派なギルドハウスになっていますね」

 と、ゼイラ王女が急にそんなことを言い出してきて、何事か?と思ったが、気付けばいつものギルドハウスの前にまでやって来てしまっていた。

セリカ「ちょ、ちょっと待っていてください」

 そのままギルドに入ろうとした王女を制し、私は1人先にギルドの中へと足を踏み入れた。

セリカ(ヴァル~)

 たまたま近くの席に座っていたヴァルを、右手で手招きするようにして呼ぶ。

ヴァル(またあれか?ネイを連れ出せってか?)

セリカ(うん、そうなんだけど、もう王女様連れて来ちゃったの)

ヴァル(いや、一旦お前の家にでも上がらせて待機させておけよ)

セリカ(ごめん、ちょっとボーッとしてた。それで、ヒカリんとユミはいる?)

ヴァル(ユミはついさっき帰ってきた。ヒカリは、そこでネイと何か話してる)

セリカ(そう、じゃあ、またお願い)

ヴァル(分かった)

 「今度は何の依頼に連れてきゃいいんだよ」ってボソッと呟いたのが聞こえたけど、数分としないうちに3人を連れてギルドの外に出ていった。一体、どう説得させたんだろうか?って思えるくらいにはすんなりと出ていった。

 ......さて。

ゼイラ「あの、先程ツクヨミ様達が出て行きましたが、もう入ってよろしいでしょうか?」

セリカ「はい、大丈夫です!どうぞどうぞ。ミラさーん!」

エレノア「ミラさんなら、地下の方で、ちょっと今出れない状態です」

 エレノアが、なぜか困った顔でそう言ってきた。

レラ「お姉ちゃん、何があったの?」

エレノア「調子に乗って料理を昨日のうちに作りすぎてしまっていて、で、今魔法で出来たて同然の美味しさを保てるよう、凍結させ続けてる最中です。ちなみに、ヴェルドとフウロもそっちに行ってます」

レラ「お姉ちゃん、謎のエンジンかかってるじゃん......」

セリカ「アハハ......」

 出来たて同然の美味しさを保てるよう、凍結させ続けてるか......。え?凍らせてるの?それとも、ネイりんみたいに時間止めてるの?というか、ミラさんどんだけ本気出したの!?

セリカ「まあ、いいや。最終準備、飾りつけを始めよう!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

グリード「あァなんだァこのひらひらしたやつはァ?」

フウロ「簡単に破れるから気をつけろよ」

グリード「お前、なんだァ?その紙くずの山はァ?」

フウロ「......思った以上に上手くいかなくてな」

グリード「あァ、そうかい」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ゼイラ「えーっと、こちらをここにですか」

セリカ「ゼイラ王女、もう少し上でお願いします」

ゼイラ「ここでしょうか?」

セリカ「そこです!」

シドウ「姫、高い所は私に」

ゼイラ「いえ、私がやります。あなたは肩車でもしててください」

シドウ「はっ、お気をつけて」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 数時間後ーー

 ワイワイガヤガヤとギルドの飾り付けを終えた頃には、もう外は夕焼けが綺麗に写る橙色の空になっていた。月も綺麗だけれど、私は燃えるように真っ赤な夕焼けの方が好きかな?なぁんて思ってみたりしつつ、準備は万端、いつでも来いやゴルァ!な状況には出来た。

 ミラさんが本気を出しすぎて作った料理も、とても1日経ったとは思えないほどに美味しそうで、その料理の傍らで例の3人が燃え尽きていた。この3人、ある意味1番頑張ったんじゃないかと思う。で、少し前にクロムとアランのいつもの2人と、クロムの妹だというメイがやって来て、メンバーの方も準備完了だ(あ、エレノアが頼んでくれていたのか、アルテミスがネイりん達の家族も連れて来てくれていた)。後は、ネイりん達が帰って来たら盛大にお祝いするだけ。失敗なんて文字はチラつかないし、チラつかせない。3人、特にヒカリん辺りを大泣きさせるぐらいには成功させたいーーなぜヒカリんなのかと言うと、ネイりんが泣くところはよく見るし、ユミはなんだか泣きそうなイメージが無いけれど、ヒカリん辺りは実は泣き虫で、こういうことに対しては特に泣いて大喜びしてくれるんじゃないか、と勝手に思っているだけであるーーところだ。

 ......そういや、ヴァルって、どれくらいかかる仕事に出かけたんだろう?

 ふと思い出した。そう言えば、何時間かかるとかそんなのは聞いてなかったな......。大まかに半日程度とは言っていたけど、「誕生日おめでとう!」の一言を言うためだけに帰ってくるまでずっと気を張りつめるってのは無理な話だ。でも、やるならちゃんとやりたいし、そうなれば帰ってくるまで構えているしかない。

セリカ「......少し、様子を......」

 ギルドの戸を少しだけ開け、首をひょっこりと出す。そして、左右をキョロキョロと観察した後、私が懸念していた心配は杞憂に終わったということに気づいた。

 ヴァルが、すっかり疲れきったであろうネイりんをおんぶし、その隣で、これまた疲れきったであろうヒカリんを抱えたユミが談笑しながら帰ってくる様子が伺えた。

セリカ「みんなー!もうすぐ帰ってくるよー!」

 大きな声でそう言い、みんなに打ち合わせ通りに構えるよう、手を叩いてみんなの意識をこちらに向ける。

 一昨日から始めた計画だったけど、みんなで頑張れば、たったの3日程度でどうにかなるものだと、私はこの数日でそれを知った。このギルドは凄い。仲間のためならなんだって出来る。みんなは1人のために、1人はみんなのために、そんな言葉があったけど、このギルドは正にその言葉通りのギルドだと思う。

 ネイりん達を祝うためだけに、普段は飲んだくれになっている人や、仕事一筋の人、他人には興味のない人や、ただ1人の尊敬する人のためだけに動く人達が、みんなで心を合わせて動いてくれた。そう思うだけで、なぜだか涙が溢れてくる。でも、まだ泣いちゃダメだし、私が泣くわけにはいかない。今日は我慢我慢。

《コンコン》

 普段は鳴らないノックの音が聞こえ、私達は一斉に意識を扉に集中させる。

ユミ「はーい、帰って来たぞーっとーー」

「「「 お誕生日おめでとう!!! 」」」

 みんなが手に持っていたパーティ用小規模火薬型音声機を鳴らし、帰って来たネイりん達に向けて、例の言葉をぶつける。

ネイ「は、はい?なんの騒ぎですか?これ?あれですか?この世界、もうすぐ終わります?」

ヴァル「そうじゃねぇだろ。誕生日だよ、誕生日。お前、今日が何月の何日か知ってんのか?」

ネイ「うーん?私にとって時間の流れほど興味のないものはありませんからねー......何日でしたっけ?」

 あれ?思った以上、というより、予想外の外な展開なんだけど、え?まさかまさかの失敗?

ヒカリ「4月の6日でしょ。ほら、確かに私とあんた達の誕生......日......」

ユミ「誕生日?つか、なんで泣いてんだよ、お前」

ヒカリ「......?別に......泣いて......なんか、ない......。泣いてなんか......な......い」

 その後、未だに何がなんなのか分かってない2人を置いて、ヒカリんが1人で号泣し出した。

ヴァル「お、おい、ヒカリ......」

ヒカリ「別にっ......泣いてなんか......いない、ん、だからね!」

ヴァル「そう言われても、むっちゃ泣いてるんだが......」

ヒカリ「だってっ、だってっ......うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ネイ「誕生日会......ですか」

セリカ「うん。喜ばそうと思ってコソコソやってたんだけど、思った以上に効いてないっぽい?」

ネイ「うーん、まあ、嬉しいっちゃ嬉しいですけど、正直、自分の誕生日如きに何の興味もありませんでしたからね。唯一あるとすれば、この日に貰ったたった一つの贈り物だけでしょうか?」

セリカ「贈り物?」

ネイ「はい。名前ですよ、名前。確か、ヒカリちゃんの名前であるラクシュミーも、丁度この日にあなたが名付けましたよね?」

 ネイは少し先に座る、赤髪のおじさんに向けてそう訊ねる。

ヴァルガ「ああ。確か、あの日は今日と真逆で、とても天気の荒れた酷い日だったよ。あの日、白髪の龍人がーー」

ネイ「それ以上は言わないでください。歴史に影響します」

ヴァルガ「ははっ、そうかい」

 何やら意味深なやり取りをしていたが、ネイりんにとっての誕生日とは、ただ名前を貰った日なだけに過ぎないのだろう。うーん、ちょっと予定外。

ネイ「まあ、こんなに美味しそうな料理をたくさん作って、皆さんが私達のために色々と準備してくれたことに関しては感謝しますよ。ありがとうございます。それと、あながち失敗ってわけじゃありませんよ」

セリカ「......それもそうだね」

 ネイりんとユミの反応は微妙だったけど、ヒカリんだけは私達の期待通りに涙を流して喜んでくれた。少々泣きすぎかとも思ったけど、これでいいんだと思う。今、ヒカリんはアルテミスの隣で、ずっと戯言のように「誕生日......」と呟きながら目を閉じている。きっと、幸せな夢でも見ているんだろうなぁっと思いながら、なんだか勿体ないような気がした。

 こんなに喜んでくれたのなら、ちゃんとパーティの主役として祝福されないと、って思いがある。まあでも、ヒカリんはあれでいいのだろう。誕生日を祝われること自体に意味がある。

ネイ「さて、美味しそうな料理ですけど、どことなく魔法で調整した感じがありますね。まさかですけど、セリカさんが作ってませんよね?」

セリカ「流石に私も学習する人間だからそんな事はしてないよ......」

ネイ「そうですか。じゃあ、美味しく頂いちゃいましょう!まずは酒を!」

ヴァル「何を馬鹿なこと言ってんだ、お前」

ネイ「痛っ!」

 早速調子に乗りかけたネイりんを、すぐさまヴァルが右手で小突いて制する。

ヴァル「お前、今年で何歳だ?」

ネイ「17です」

ヴァル「じゃあ、聞くが、この国の飲酒可能になる年齢は何歳でしたっけ?王女様!」

ゼイラ「うぐっ......ゲホッゲホッ!18歳です」

ヴァル「つーわけだ。お前はまだ飲んじゃダメなんだよ!これは俺が飲む!」

 と、ヴァルはネイから酒瓶を取り上げ、そのままの勢いで腹の中に全部を注いでいった。うわ、グリードみたい。

ネイ「えぇー!いいじゃないですか!私精神年齢6兆なんですから!」

ヴァル「ダメなもんはダメだバーカ!あ、ユミは体の方18超えてるから飲んでいいぞ」

ユミ「ネイへの当てつけみたいに言うな、お前」

グリード「なんだか俺の噂をされてるような気がしたなァ。どうだ、神様。俺と一発飲み比べするかァ?」

ネイ「臨むところじゃ!今日こそは負けんぞ」

ミラ「ハッ!」

グリード「うぐっ......」

 早速調子に乗りかけたグリードを、いつものようにミラさんがチョップで制する。

ミラ「あらあら、ダメよ~?今日は王女様が来てるんだから~」

 めちゃくちゃいい笑顔で言ってくるんだけど、背後に放つオーラのせいで、思わず息を飲んでしまう。

ネイ「構わん構わん、もっと持ってこ~い!妾はまだまだ飲み足りんぞ~!」

ヴァル「あ、てめ、いつの間に!」

ネイ「妾相手に隙を見せると、すぐにこうなるからのうヒクッ」

ヴァル「仕上がるまでが早すぎんだよてめぇ!王女様!」

ゼイラ「うぐっ......ゲホッゲホッ、よ、ヨミ様なら気にしませんよ?」

ネイ「というわけじゃ~。この世界で1番偉い妾の立場になれば、例え誰が相手でも逆らわせることはさせんのじゃ~」

ユミ「俺はもう何も知らねえぞー」

 あーあ、結局いつものカオス空間が出来上がってしまった。これだからお酒を買うのをちょっと躊躇ったのよ。でも、買わなきゃそれはそれで文句が出るだろうしってことで、弱めのやつを買ったんだけど、やっぱネイりんが口にしちゃったらダメだったか......。

 まあ、もういいや。私も飲んで暴れよ。

ネイ「ほーら、この世界で1番偉い妾にもっと貢げ~!!!」
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