グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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最終章 【創界の物語】

最終章29 【龍の雄叫び】

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「……?」

 貧相な胸をした少女が、目の前でゆっくりと目を瞑りながら倒れた。

 あまりの恐怖に気絶してしまったのでしょうか?それとも、恐怖のあまり死んでしまったのでしょうか?

「まあ、どちらにせよ念には念を、ですよね」

 一瞬離してしまった指をもう一度額に当てる。少し、ゴツゴツとした感触があり……ゴツゴツ?

「汝求るところに我現る。我が名は精霊龍王ウラノス。汝の求めに応じ、参上した」

 ーーどういうことでしょうか。目の前にはごくごく普通の見た目をした少女がいたはず。なのに、今私の目の前にいる少女は、全身を龍の鱗で包み込み、大きな羽と尾を生やした飛龍族になっています。しかも、体格が先程までの2倍……いえ、3倍はあるのではと思う大きさ。確かに、龍人は体格が普通の人間より秀でていると言いますが、アイリでもここまではありません。いいえ、彼女は幼女そのものてすし、比べる対象ではありませんね。

 龍王……彼女が名乗ったその名が本当なのであれば、注意をしなければならないということですか。

「しかし、こんな隠し玉を用意していたとは……」

ウラノス「我が主の求めに応じ、我は貴様を冥界へと送る。拒否権は無い」

「ーー自由を求めるにはそれなりの代償を……。あなたの自由、今度こそ奪わせていただきましょうか」

 ふわりと1歩下がり、周囲に星型の閃光弾を構える。そして、敵の周囲に張り巡らせてから爆発させる。

 眩い光が敵の視界じゆうを奪う。ーーはずだった。

「我が自由は誰にも奪われることを知らず。精霊龍の咆哮」

 あれだけの光の中から龍は姿を現し、目の焦点を真っ直ぐにこちらに向けて咆哮を放ってきた。

 両手を正面に出して防いでみるが、数秒と持たず、私の体は吹き飛ばされた。

「ーー今、世界で初めて私の自由を奪いましたね」

 私の意思に反し、私の体は吹き飛んだ。私の自由が奪われた……。舐めた真似をするなと常日頃から彼らに言っていましたが、1番舐めた真似をしていたのは私のようです。

 自由を得るため、少々本気で行かせてもらいましょうか。ええ、本気を出すのも私の自由です。

「自由の権限」

 金の髪が激しく乱れ、全身を包み込む強靭な竜巻が発生する。これは自由を奪われたことに対する私の憎悪。私の負の感情が周囲のマナを食い散らかす。

 手始めに、敵の四股を縛り上げ、再び空中に固定する。一撃で殺すことはしない。拷問をして楽しむ。楽しむのもまたーー

「私の自由!」

 縛り上げた龍の体に、目には見えない鞭の攻撃をする。皮膚が裂け、赤黒い血が……血が……?

「血が……?いえ、なぜ、なぜあなたは……」

ウラノス「怪我をしないのも我の自由。貴様の言葉に合わせれば、そう答えるべきか」

「なぜ……?なぜ、私の自由がこうもあっさりと……?」

 分からない……分からない分からない……。

 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない。
 なぜ?なぜなぜなぜ?なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?

 なぜ、私の自由が妨げられる?

 この女に私の自由を奪う権利がどこにある?

 私の自由……自由は何?自由って何なの?

 自由自由自由自由自由自由自由自由自由……。

「あれ……私は……?」

 何が、何が起きている……?なぜ、『自由』を問い続けている?

 自由とは、私が生きる意味。自由であることが私の人生。食べる自由、寝る自由、生きる自由……。

ウラノス「自我を崩壊したか」

「なぜ……?なぜ……?自由とは何?自由って何だったの?」

ウラノス「ーーせめてもの情だ」

 ……

 ……

 ……

 胸から赤い血が垂れている。心臓の鼓動が鳴り止んでいる。

 自由の意味を問い続けたまま私の命が終わる?自由を知らないまま私は死ぬ?自由に生きるはずだった私が……死んじゃうの?

「嫌だ……嫌だ嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

 目の前が暗くなる。前を見る自由さえも奪われるというのか。

 せめて……

 せめて……

 …………もう、いいや。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「だー!クソ!しぶと過ぎんだろ!この野郎!」

 怒りを体現するかのように雷が飛び散りまくり、ただでさえ燃え盛る効果のせいで焼け落ちる民家に更なる追撃が与えられる。

 戦い始めてから……えっと、えっと……もう、数えられねえくらいに時間が経った。な・の・に!戦局はちっとも変わりやしねぇ!いい感じにやる気を削ぎ落としに来てんのが腹立つぜ……。

「だが、さっきも言ったが俺はしぶてぇ野郎だ。ドラゴンがどれだけ暴れようが、俺はてめぇを殺す。殺して、地上最強の男になるってんだ!」

 そのためなら、俺はなんだってやる。ーーまあ、やれることは最初から限られてるけどな。

 剣を持ち、雷を呼び、高く跳んでぶっ刺す。至ってシンプルな戦い方だ。何も難しくはねぇ。だが、映えねぇ戦いだ。

「欲を言えば、もっとこう、ガツンと来るような……。そうだな、主人公補正ってやつがほしいところだ。超次元的な力を手に入れたり、思わぬ救援が駆けつけて押せ押せムードになったりとかな」

「前者は無理かもしれませんが、後者ならプレゼント出来ますよ」

「おう、そうか!そりゃありがてぇな!」

 ……今、俺は誰に話しかけられた?

「お久しぶりです。ラストさん。最後にお会いしたのは、確か去年の暮れの頃。クロム聖王のご紹介で同盟を結ぶ時でしたっけ?」

 創真の女王デルシアが、どう見ても戦えるわけないくらいの傷を負って俺の隣に立っていやがった。

 剣を構える右手はズタズタに切り傷が出来ていて、顔を含めた左半身はなぜか龍みたいな鱗が付いている。丁度、お空を優雅に舞っているあのドラゴンと同じようなのがな。

「っ……てめぇ、自分の体がどうなってんのか見えてんのか?」

 救援に駆け付けてくれたことは素直に嬉しい。だが、俺様よりボロボロな奴が助けに来たって足でまといになるだけだ。それを、創真の女王は理解しているはず。なのに何でだ?

デルシア「私1人ではありません。頼れる家族を連れてやって来ました」

「あぁ?」

デルシア「空を見上げてください。頼もしい兄弟たちが総出で反抗期ですよ」

 …………はっ!バッカじゃねぇのか!

 あのドラゴン相手に複数の王族が一斉攻撃だと?そんなおとぎ話聞いたことあるかよ!

 空を舞うドラゴンに対し、白陽の王シンゲンと黒月の王アルフレアが派手に剣を振り回して攻撃をしている。特に、シンゲンの方は俺様の雷を余裕で超えそうな勢いだ。

 それに、周りには他の王族も王様に負けず劣らずの攻撃を仕掛け、確実にドラゴンの動きを縛っていってやがる。特に、あの暗殺隊と奇兵隊だったか?は人間離れした身体能力で次々に縄を張っていってる。そうだよな、倒せねぇなら動けねぇようにしちまえばいい。縄が千切られるのなら、千切られねぇくらいに高速で巻いてしまえばいい。正に人海戦術だ。

デルシア「1度失いかけた命。無駄には出来ません!」

 デルシアがギザギザとした刃渡りの剣を手に持ち、それを天高くに投げ上げた。

デルシア「ミューエさん!お願いします!」

 隣で、デルシアが顔やら腕やらに着いた鱗を巨大化させるようにして化けていき、あのドラゴンより一回り小さいかくらいの大きさのドラゴンになっちまった。

 はぇー……聞いてはいたが、実物を見ると本当にバケモンのように感じるなぁ。こりゃ、地上最強はまだまだ遠そうだぜ。

「……しばらく、休んでいいか」

デルシア「しばらくどころか、偽物のお父さんを討伐するまで休んでてください!」

 ダミのかかった声でデルシアがそう言った。

 ーー全く、最高な展開だぜ。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「全く、華やかな王都に邪の龍が1匹。一昨年の黒歴史を思い出させてくれるねぇ」

レイヴン「あの頃の俺達は弱かったな。ーーだが、今は強い。そうだろ?」

「ああ、そうだ。あの時の俺達なら、あんなドラゴン1人で倒してやるって無茶して返り討ちに遭ってただろうが、今はそんなことする気になれねぇな」

 空を舞い、全身に重くのしかかる雄叫びを上げる最強の邪龍『アポカリプス』。

 一昨年のグランアランドラルフ。そこで、俺達は本物の龍と戦い、惨めな結果を残していった。龍を殺すための力を持った龍殺しドラゴンスレイヤーだというのに、誰1人として龍を討伐出来ず、挙句の果てには神様が全てを解決するという事態になってしまった。

 もし、この場にあの神様がいるってんなら、俺達に活躍の機会なんざ与えずさっさとあの邪龍を殺してほしい。しかし、今この場にあの神様はいないようだ。なら、俺達龍殺しドラゴンスレイヤーがやるしかねぇよな!

グリード「はっ!拳が震えてやがんぞォ。光龍。ビビっちまったかァ?」

 1人、余裕綽々な態度をとる男が俺達の横に並ぶ。

「……いいや。俺達が英雄になる日が来るんだなぁって武者震いしてるだけだ」

グリード「言うじゃねぇか、最強のギルドォ。あ、最強は俺達だったなァ!」

「来年はその座を奪い返してやるから楽しみにしてろよ!」

シオン「おや?我らシェミスターライトを差し置いて最強になるとは頭が高いのう。最強グランメモリーズを地に引きずり落とすのは我らじゃ。しかと胸に焼きつけよ、小僧」

 どいつもこいつも最強最強うるせぇ奴らだ。

「まあ、そのうるさい奴の頂点を譲る気はねぇがな」

 最強を豪語するのは俺達コールドミラーだけだ。2年前の龍との決戦以来、忽然と姿を消したマスターとエクセリア。あいつらに変わって俺がコールドミラーを1から作り直した。

 だから、『負ける』なんて言葉はどこにも出てこねぇんだ。『勝つ』って言葉しか俺達の団旗には刻まれてねぇ。

ゼイラ「皆さん!相手はかの邪龍アポカリプスです!危険だと感じたらーー」

グリード「危険だとォ?」

シオン「随分と舐められてしまったようじゃな。やはり、今年の大会にも顔を出しておくべきだったか?」

レイヴン「グランメモリーズのいない大会など、出る価値も無いんじゃなかったか」

「そうだそうだ!グランメモリーズを潰せねぇ大会なんざ出る意味がねぇ!そして、グランメモリーズに挑戦状を叩きつけてやる!あの邪龍アポカリプス、どのギルドが討伐出来るか勝負だ!てめぇらかかれー!」

 もう既に仲間達が戦闘の準備を進めていたが、俺の叫びを合図にして一斉に攻めかかる。雷に、精霊に、氷の神殺し……。多種多様な魔法が飛び交い、俺達が1番だぞと言わんばかりの猛攻を仕掛ける。

シオン「負けてられぬな。我らも1番と最強という言葉は好きじゃからのう。者共!続け!そして追い抜け!」

 シェミスターライトの刻印を刻んだ魔導士達も邪龍に向けて攻撃を仕掛ける。これがグランアランドラルフなら、お互いに邪魔のし合いが始まるところだが、流石に状況は弁えてるらしいな。ちゃんと協力する姿勢を見せ、お互いに足りないところを補い合っている。

グリード「おめぇら、挑戦状を叩きつけた場所がどこのどいつか分かってんだろうなァ」

「ああ、分かってて叩きつけてんだよ。降参するなら今のうちだぜ」

グリード「バカヤロウ。2年前と言えど、俺達はてめぇらには手が出せねぇ強さでボッコボコにしてやったんだァ。今回もそれだァ」

 そう言うと、グリードは派手に地面を蹴り飛ばし、空中に我が身を投げ出して地龍の咆哮を放った。2年前とは比べ物にならないほどの威力になっており、頑張っていたのはお前らだけじゃないぞ、と俺達へ当てつけのようにニヒッと口の端を上げて笑っていやがる。

 いいじゃねぇか。面白ぇ。そうでなきゃ張り合いがない。

「行くぞレイヴン!2年前の雪辱を果たす時だ!」

レイヴン「とっくに心得ている!行くぞ!」

「「 双龍最終滅龍奥義・破滅の光! 」」
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