グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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最終章 【創界の物語】

最終章40α 【モノクロの決戦】

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 皇帝と皇帝の戦いが激しさを増していくのと時を同じくしてーー

「グァァァっ!」

ミューエ「デルシア、落ち着きなさい。いくら私達が一緒であるとはいえ、刃無しで龍化するのは危険なことなのよ」

 背中に跨るミューエが優しく首筋を撫でる。

 目の前に佇む意思なき父『リエンド』から暫し意識を外し、家族の戦いを眺めて心を落ち着かせる。

(大丈夫。私には兄さん達がいる)

ミューエ「ええそうよ。何も恐れることはないわ」

 再び意識をリエンドに戻し、軽く深呼吸をする。そして、目をカッと開け、リエンドの懐に飛び込む。

 長く鋭い一本角を押し付け、明るく光る月に掲げた後、地面に叩き付けるようにして首を振る。直後、鬱憤を晴らすようにブレスを吹きかけるのも忘れずに。

ミューエ「しつこい相手ね。創世の剣でどうにかなれば楽だったのだけれど……」

(あれはあの場限りの力だったような気がします。もう一度同じことをやれと言われても、今の私には出来ませんし、何より敵が作り物のお父さんだから効果があるかどうかも分かりません)

 仮に創世の剣でどうにか出来たとして、このお父さんはどうなるのだろうか?作り物だからそのまま消える?それともまた復活しちゃう?

 私とミューエの間では結論が出ないまま。一応、アイリスさんがラナと名乗る人物から仕入れた情報によると、召喚主を倒せば消えるかもしれないとの事だったが……

(流石に、のこのこと戦場にまでは現れませんよね……召喚主さん)

ミューエ「来たとしても、こんな化け物を召喚出来るくらいだから、アルフレア達でもどうにもならないと思うわ」

 もう一度兄さん達を見る。今の私からはアリのような小ささに見えるが、皆が必死にリエンド討伐を目指して武器を振るっている。私なんかより、余っ程命を懸けて戦っている。

ミューエ「デルシア。そろそろリエンドが立ち上がるわよ」

(はい)

 リエンドがのっそりと起き上がろうとしたところに拳を1発叩き込む。が、リエンドにその拳を掴まれ、地上に引きずり降ろされそうになる。

(なっ……!)

ミューエ「新しい反撃方法……。デルシア、力を送るから耐えて」

(っ……はい!)

 拳を引き上げ、一緒に付いてくるリエンドの首筋を噛む。黒色の血が流れるが、すぐさま傷口は塞がってしまい、大したダメージにはならない。それどころか、意思がないということで痛みも感じていないようだ。私はこうして苦しみに耐えて戦っているっていうのに……。

 まだ、意思があるお父さんと戦っている方がまだマシだ。

「ぬぁぁっ!!」

 リエンドの首を掴み、地面に叩きつける。意味が無いと分かっていても、私が何かしらでリエンドの邪魔をし続けなければすぐに兄さん達がピンチになる。

 有効な手段があればいいんですけど、出来ることは全てやってみましたし、これでダメならもう後は召喚主さんがどこかで死ぬまで持久戦をするしかないですね。

ミューエ「……デルシア。このままズルズル戦い続けるのと、一か八かに賭けてみるの。どちらがいいと思う?」

(難しい選択ですね……)

 突然持ちかけられた提案だが、私にはミューエが何をしようとしているのかが分かった。

 一か八か、大技を放って活路を見出そうといったところだ。まあ、それ自体は悪い考えではないし、反対もしない。でも、それを今、このタイミングで撃つには少々賭けとなる。

 もし、その大技で仕留めきれなかった場合、あるいは動きを封じられなかった場合、奴を力で押さえられる者がいなくなる。なぜかというと、もれなく私が動けなくなるからだ。

 そもそもの話、今こうして龍の体でいること自体奇跡に近い。その上で大技まで使おうなんてことになると、完全にミューエの制御だけじゃ龍の体を維持し続けられなくなる。ーーでも。

(……やるしかありません)

ミューエ「そう言うと思ったわ」

 賭けであっても、みんなのためにはやるしかない。それに、もっと良い方向に考えてみるべきだ。成功すれば奴を、リエンドを倒せる。そう考えた方が上手く行くに決まってる。

ミューエ「じゃあ行くわよ」

(……はい!)

 口元と両手に力を溜める。背中から流れてくるミューエの力を全身に巡らせ、全身を奮い立たせる。

 外すことはないが、急所を狙えるかどうかは私次第。全身を集中させ、リエンドの心臓を狙う。イメージするのはリエンドを倒したあの日の光景。

(もう一度、あの日の力を……!)

「グァァァァァァァァ!!!」

 心臓に向けて、濃度の高いブレスを吹きかける。装甲を溶かし、爪が刺さりやすいようにする。そして、爪を剣のような形に変え、鋭く、一瞬で心臓を貫く。

(出来れば……この一撃で……!)

 爪の先が光り、あの日と同じような輝きを放ち始める。全身のマナがどっぷりと吸われ、全てをこの一撃に捧げている。

 貫けるか……リエンドの心臓。勝てるのか……私の体……!

(っ……!?)

 途中までは剣が突き進んだ。でも、途中から追い返されるように剣の勢いが止まった。

ミューエ「まずいわ!デルシア!」

「ぬぅっ……!」

 ミューエの声が聞こえるより早く、私はリエンドから身を引いた。

リエンド「ダアァァァァァァァ!!!」

 リエンドが初めて轟かせる咆哮。龍の耳だというのに両手で塞ぎたくなるくらいに高い音をひびき渡らせ、体に自然と力が入らなくなる。

(まずい……!)

 慌てて体勢を整えようとしてももう遅い。

 リエンドの巨体が間近に迫っている。大きな腕が頭より上に上がり、私の頭をガッチリと掴んでくる。抵抗しようにも、龍の体じゃ咄嗟の動きができない。

(っ……!)

 せめて、何かしらの方法で道連れに出来ないものか……。ダメだ。兄さん達を巻き込む。

 大人しくやられるしかないのか?ーーいや、頭を掴まれた程度で諦めちゃいけない。なんとかして振り解き、この場から脱出する!

リエンド「ギェアァァァァァァァァァ!!!」

 ーーと思った矢先、またしても不快な音が響き渡る。そして、同じように全身から力が抜けていく。

(……っダメ……!)

 顔から全身を引き上げられ、指の隙間から覗いて見えるリエンドの口には、眩いほどの光が溜め込まれている。

 あんなのを間近で喰らったら……

 考えたくない。考えたくない……!まだ、まだ私は死にたくない!みんなが繋いでくれたこの命を、こんな呆気ない形で終わらせたくない……!

「っ……!ヨ……ミ……さん……!」

 龍の喉で、あの日、私を助けてくれた人の名を呼ぶ。出来ることなら私がどうにかしてみせたいけど、そんなことを言って意地を張るのはバカがすることです。そして、私はもうそんな変な意地を張れるほどバカじゃないし、子供の立場でもない。

 私だって責任を取る立場にいる。だからーー

ミューエ「デルシア!」

 悲痛な叫びが聞こえ、再び指の隙間から覗いて見える景色に目を向けた。すると、リエンドが口に溜めていたマナが発射されたタイミングだったーー

「っ!」

(せめて、ミューエさんだけでも……!)

 背中の手綱を解き、ミューエさんを滑り落とす。これなら、私が殺られてもミューエさんは大丈夫なはずだ。

「いつもいつも仲間のことしか考えん傲慢な奴じゃのう。だが、僕は君のそういうところが好きだ」

「ーーぇ?」

 突如聞こえた声と共に、私の体がするすると人の形に戻ってしまった。そしてーー

リエンド「グギャァァァァァァァ!!!」

 リエンドの口元が爆発し、ドス黒い血を雨のように降らせていた。

 頬に黒い血がかかり、私はそれを軽く拭うと同時に空を見上げる。すると、そこにいたのは願ってもいない人物ーー

「誰かが呼んだ気がしてね。少々の休憩から急いでやって来たよ。デルシア」

 ヨミさん……だったーー

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「管理者権限:怠惰」

 魔法耐性を持つ者に対しても効く絶対の権限でリエンドの動きを封じる。

「何で僕が後始末を、と思うが、まあ娘のやらかしたことに責任を取るのは母の務めらしいからね。君には何の恨みもないし、何かの関わりがあるわけでもないが、死んでもらうよ。ーー裁きの風音」

 炎に温められた風がリエンドの全身を覆う。刃のように鋭い斬れ味でリエンドの体を刻み込んでいく。ドス黒い血が風に乗せられて辺りへと散り、炎に包み込まれるこの街を消化せんとばかりの勢いで強い雨となる。

 僕はただ刀を振っただけに過ぎないが、どうやら彼は作り物であるにも関わらず、この短時間で罪を重ね過ぎたらしい。ーー最も、その最大の原因は娘にあり、その責任を取るといった僕の元に罪は集まってくるが、そんなものは神様にならいくらでも白紙にしてやれる。

「ーーふぅ。アイリと戦う時も、これくらい残酷になれたら楽だったのかね。まあ、それはそれで良くない結果になってたと思うが」

 リエンドの体は消滅し、その肉片は跡形もなく消え去った。

 1度倒した相手に苦戦するとは……まあ、本質が違うわけだし、あの時の切り札も使えないんじゃ仕方ないか。

 僕はデルシアが寝そべるところにゆっくりと降り立った。

「また龍になってしまったか……。本当、追い詰められたら迷わず切り札を使う癖はどうにかした方がいいよ」

 龍化の影響が残る場所に治癒術をかけ、硬化した皮膚を溶かす。

デルシア「すみません……でも、ありがとうございます……」

 弱々しくはあるが、ハッキリとした声で彼女はそう言った。

「まあ、たまたま僕が駆け付けられたことに感謝するんだね」

 一通りの治療を終え、僕は空へと飛び上がった。

「まだやるべき事がある。僕はこの辺で失礼させてもらうよ」

 デルシアの返事も聞かず、風に乗り、僕は東の空へと飛ぶ。次はアポカリプスか……。また骨の折れそうな相手だが、何とかするしかない。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 風のように颯爽と現れ、風のように颯爽と立ち去る。私の道を示してくれた神様は、意外にもお忙しいようです。

ミューエ「デルシア……!」

 ゆっくりと上半身だけを立ち上がらせたタイミングでミューエが駆け付けてくる。自分自身の傷も酷いものだというのに、お構いなしに私に抱きついてきた。

ミューエ「バカ!無茶しないって約束したでしょ!」

「あー……無茶でしたか?」

ミューエ「無茶も無茶!あなたが死んだら私はどう生きればいいの!?ねぇ、あなたが死んだら周りの人がどう思うかくらい考えてよ!」

 ミューエにしては珍しく怒りの感情が爆発している。当たり前か……。何回も何回も心配をかけてきたのだから、心配よりも先に怒りの方が強くなってしまうだろう。

 まあ、それでも私のことを本気で心配してくれてるってことだから、ミューエには感謝しかない。

「……すみません」

ミューエ「本っ当、バカ……。でも、生きてて良かった」

「はい。私、運だけは良い方だと思うので」

 果たして、本当に運だけなのだろうか?

 ミューエを初め、イグシロナさんにガンマさん。カイナさんにネイさん。あとは、アイリスさんとか羅刹さんとか、数えだしたらキリがないですね。

 本当、運だけでここまで多くの縁を繋げられませんよ……。きっと、神様が私にはどんなことでも1人じゃ出来ないマヌケって認識してるんですかね。それでいいですけど。

「……そうだ。せめて、今この場にいる人全員にお礼を言わないと」

 ミューエの手を借り、ゆっくりと立ち上がる。兄さん達が忙しく炎が残る街で作業をしているところに向け、歩を進める。その瞬間ーー

 ……

 ……

 ……

 ーー私達の物語は、唐突に終わりを迎えた。
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