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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】
第12章13 【現実からの逃亡者】
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「……」
何なんだろうな、この胸のざわめきは……。
クロム「覚悟の決まらん男だな、お前は」
ゼイラと別れ、しばし黙考していた俺に爽やかな声で聖王様が話しかけてきた。
「お前はやけに清々しい顔してんな」
クロム「少し、過去を見ていてな。なんだか色々と吹っ切れた気がするんだ」
「へぇー」
俺達と話す前に自分で踏ん切り付けたって感じか。
クロム「仲間を失い、大事な人を失った。俺の両手には溢れんばかりの宝があった。だが、その全てを俺は自分の不注意で落としてしまった。お前と同じって言ってもいいか?」
「ま、似たようなもんだから一緒にしとけ」
クロム「今でもハッキリと思い出せる。俺が自警団を結成した日のこと、仲間が1人、また1人と増えていった日のこと。姉さんが死んだ日のこと。姉さんが生きていると知った日のこと。国を失った日のこと。この世界で夢を見ていた日のこと。全部、紛れもなく俺がこの目に焼き付けたものだ」
「……」
クロム「俺はこの世界に何を望んだのか。その答えが分からなかったんだが、多分、俺はこの目に焼き付けたものをもう一度見たかったんだ」
「元通りの日常が欲しかったってとこか……」
クロム「そうとも言うな。俺はあの日々が好きだった。隣にはいつもアランがいて、フェリシアが慌ただしく報告に来て、メイとかメノアが元気にやっている。それ以外の奴らも元気に俺の部下をやってくれている。そんな、何気ない日常が好きだった。そんな簡単なことに、俺は今更になって気付いた」
「……何が言いたいんだ」
クロム「……どれだけ過去を悔やんだとしても、一度落としてしまったものは粉々になって戻って来ないってことを知った」
やけに暗いことを知ったんだな。
クロム「だが、落としてしまったんだとしても、その代わりと言えばなんだが、俺の両腕は空っぽになった。また、何かを持つことが出来るようになったんだ」
「……」
クロム「出来ることなら俺はこの世界であいつらを両手に抱えていたいさ。でも、それはそれでなんだかあいつらに文句を言われそうな気がしてな」
……文句を言えるような連中じゃねぇってだろうに、なんで皆してそこら辺を気にすんだろうな。
クロム「俺は、この空っぽの両腕で新しく掴みたいものを掴みに行く。今度こそ、この両腕から落とさないように、俺は新しいものを掴みたい。きっと、姉さんなら賛成してくれるはずだ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
辛ぇ……
辛くて、息苦しくて堪らねぇ……。
どうして、みんなが元の世界に帰る覚悟を固める度に、俺の心は締め付けられんだろうか?俺だって元の世界に帰ることを望んでるはずだってのに、どうしてこんなに辛い気持ちになるんだ。
ネイ「ヴァル……」
……そうなんだ。答えは分かってるんだ。
こいつがなんと言おうと、俺はまた失っちまうことが怖くて怖くて堪らねぇんだ。元の世界に戻った時、そこにこいつはいてくれるのか。そのことが分かんなくて、ただただ震えている。
ネイ「……大丈夫です。私は消えませんから」
「……そうは言っても、やっぱり俺は信じられねぇんだ」
ネイ「……」
「だってそうだろ?俺はどれだけの間かは分かんねぇけど、お前の死体を抱いて泣いてた。どいつもこいつも俺を王に仕立てあげようとしたけど、俺は何一つとして王らしいことをしなかった。だって、ただただ泣いてたんだからな」
ネイ「……」
「それが、この世界になった瞬間にお前がやって来た。生きてる姿のお前がやって来たんだ。普通に考えておかしいだろ?」
ネイ「確かに……そうかもしれません」
「それに、お前が安心しろって言う時、お前の顔はやけに不安そうに見えるんだ」
ネイ「っ……!」
不意をつかれたかのように、ハッとした顔になって固まるネイ。その行動は、益々俺の中で疑心が固まってくだけのものだ。
「正直に答えてくれ。お前は、お前は本当にネイなのか?」
ネイ「……」
「ネイだとして、お前はどうやって生き返ったんだ?」
ネイ「……それは」
「……」
しばらくネイは完全に黙ってしまい、俺はその重たい口が開くのを待った。
ネイ「……私自身、分からないことです。なぜ生き返れたのか。それは分かりません。でも、私はこの世界で前の世界の記憶を持つ人間です。セリカさんや、ミューエさんのように、ちゃんと記憶があるんです」
「……それさえも、証拠にしていいのかどうか分かんねぇよ」
ネイ「……でも、私は生きています。ここに生きています」
「……」
それ以上は何も聞けなかった。だって、俺にはこいつの嘘を見破る術はない。どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのか。それがハッキリとしないから、俺は不安な気持ちを押し殺すしか無かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アルテミス……か」
アルテミス「あ、ヴァル……」
今度はたまたま見かけたアルテミスのところにやって来た。これで4人目か。
「誰との記憶だ?」
アルテミス「まるでこの一連の動作に手馴れてるって感じだねぇ」
「まあ、これで4人目だしな」
アルテミス「へぇー」
アルテミスもまた、どこか清々しい顔をして話を始めた。
アルテミス「師匠との記憶」
「師匠……あの、ミルって人か」
アルテミス「そ。私、何が原因だったかは分かんないんだけど、一時師匠に弟子入りして無人島に飛ばされたことがあったんだー」
ヒカリから聞いたことのある、中々にやべぇエピソードの1つだな。
アルテミス「最初は辛かったけどさ、それでも今となってはいい思い出。あんな事されてなきゃ、多分私、ここまで強くなれなかったと思うから」
多分、それだけじゃなくヒカリの存在も大きいとは思う。まあ、お師匠さんの影響力は凄まじいのだろうが。
アルテミス「師匠、元々体が弱くてさ、前の世界じゃ慣れないこっちでの生活に体調を崩して、そのまま治らなくて死んじゃったんだ……」
「……」
初耳だな。まあ、周りに興味を持てなかったんだから、誰も報告しに来ないようなことは知らなくて当たり前だが。
「あんな、めちゃくちゃ強そうなお師匠さんが死んじまったのか……」
アルテミス「うん。こっちの世界に助太刀に来てくれたのに、到着した頃にはほとんどの事が終わってて、それでなぜか元の世界に帰ることが出来なかったんだ」
……悪ぃ、多分それ、俺のせいだ。
ハッキリと覚えてんだ。俺が怒りと悲しみをそのままに、ありとあらゆるものを燃やし尽くしたってことを。まずはネイを殺した張本人であるアヌを燃やした。その次に世界各地で暴れてた龍を燃やした。敵組織の下っ端兵も全員燃やした。そして、こんな事の原因になった世界と世界の繋がりを完全に燃やし尽くした。
他の世界からの干渉が無ければこうなっていなかった。無意識にそう思い、俺は扉を全部燃やしたんだ。
アルテミス「師匠、昔人体錬成をしたとかで体が元々弱くてさ、定期的に薬を飲まないと生きられないのに、こっちの世界にはそれが無くて、私にはどうすることも出来なかった……」
「……」
アルテミス「師匠は最後まで私のことを心配してくれてた。こっちの世界で、親みたいになってくれてたんだ」
「……なあ、アルテミス。お前は、この世界に何を求めたんだ……?師匠が生きていることか?それとも……」
アルテミス「私がこの世界に……ね」
しばし考えるような仕草を取った後、アルテミスはゆっくりと話し始めた。
アルテミス「私は特に何も望んでないよ」
「……」
アルテミス「そりゃ、師匠が生きてくれたらなって思うことはある。でも、心の底から私はそうなることを望んでない。だって、本当にその人が現れたとしても、私、心の色が見えるからすぐ偽物だって気付いちゃうんだもん」
「そういや、そんな力もあったっけ」
アルテミス「実はね、最初っからこの世界がなんかおかしいなってのは思ってたの。みんな、心が真っ白すぎて気味が悪かったから」
「じゃあ、なんでセリカ達と当たり前のように過ごしてたんだ?」
アルテミス「そりゃ、もしかしたら私の力が壊れただけかな?って最初に思うのはそうでしょう?」
「そういうもんか?」
アルテミス「まあ、私がそう思っただけかもしんないけど、少なくとも言えることは、私は元の世界だって生きていけるし、こっちの世界だとしてもちゃんと生きていける。ちゃんと、師匠から生き抜き方ってのは教えてもらってるから」
「……強い……な」
アルテミス「ヴァルも、そりゃ悩むななんて言う方が無理だけどさ、ちゃんとハッキリ決めなきゃダメだよ?じゃないと、お嫁さんに怒られちゃうかもしれないからね」
「ははは……」
もうたっぷり怒られた後だよ……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なあ、ネイ。やっぱり俺は戦うべきなのかな?」
ネイ「どうしたんですか、薮からスティックにそんなことを聞いて」
「だってさ、みんなは多分、向こうの世界でもこっちの世界でも、それなりに上手くやって行けるんだ。だから、無理して戦うこともないし、わざわざ苦しむこともない」
ネイ「……はぁ。私がこの世界でも結構ですって言ったらそれで十分なんですか」
「……」
ネイ「え、まさか本気でそう思ってるんですか?」
「そのまさかだな」
ネイ「……」
そうなんだよ。なんだかんだ言って、みんなが続々と覚悟を決めてるってのに、俺はみんなの話を聞けば聞くほどこっちの世界を望みたくなる。だってそうだろ?
「みんな、辛い世界を頑張って生きてたんだ。戦いが終わったってのに、その影響で死んでいく奴らを見ながら必死に生きてたんだ。なら、もう許したって……許されたっていいだろ?」
ネイ「……」
「お前がいるかどうかってのはもういいよ。そんなの、どれだけ話しても答えは出ねぇんだ。ならさ、みんなのためにもこっちの世界を望むってのはダメなのか?」
ネイ「それは……ダメだと思います。結局、皆さんの歩みが止まってしまいますから……」
「逃げてるって言いてぇんだろ?でも、逃げることの何が悪いってんだよ。俺達はもう十分すぎるくらいに頑張ったじゃねぇか。なら、望みの1つや2つ、叶えてくれたっていいだろ?なぁ、"神様"」
ネイ「……」
難しそうな、悲しそうな、そんな複雑な表情でネイは悩み始めた。そして俺も、こいつからの答えなんか必要とせず、1人結論を早めようとした。
「それでも、みんなが戦うって言うなら俺は戦うさ。でもな、それが本心から言ってるのかどうか。それがハッキリしねぇうちは俺はこの世界であるべきだと思う。みんなが幸せでいられる。アルトが言うことは何も間違っちゃいねぇ。やり方には色々言いてぇところはあるが」
ネイ「……人形遊びをしていて虚しい気持ちにならないんですか?」
「……っ!」
不意をつくようにネイは冷たい声でそう言い出した。
ネイ「……はぁ。言われなきゃ分からないんですか?この世界に生きてる人はみんな人形。アルトが私達の理想を読み取り、それを形にしただけのもの。そりゃ、初めのうちは楽しいでしょう。でも、所詮人形遊びは遊びでしかない。現実じゃないことを知っているから、いずれは飽きるんです。それに、悲しくなるんです。だって、1人でこの世界を遊んでいるようなものなんですから」
「……お前」
ネイ「ヴァルは何を恐れてるんですか?そんなに辛そうな顔をして、ヴァルは一体何を望んでるんですか?」
「っ……俺は……みんなが幸せでいられる世界を……」
ネイ「みんなが幸せになっている世界ってなんですか?」
「それは……」
ネイ「そんなもの、存在しませんよ」
「…………」
どうして……どうしてそんな冷たい言葉が出せるんだ……。
「夢を語るのは悪いことなのかよ……!」
ネイ「悪いとは言いません。好きなだけ語ってください。ただ、私は言います」
ネイは俺の顔を両手で持ち、目線を無理矢理合わせてこう言った。
ネイ「他力本願な夢なんて叶えたところで悲しいだけです。大人しく現実を見てください。あなたが作り出した現実を、ちゃんと責任持ってあなたの手で直してください。それが、あなたが王にされた理由です」
「ぁ……」
……この時、俺は気付いた。気付かなきゃ良かった。
ーーそうか、俺が1番、現実から逃げてたのか……。
何なんだろうな、この胸のざわめきは……。
クロム「覚悟の決まらん男だな、お前は」
ゼイラと別れ、しばし黙考していた俺に爽やかな声で聖王様が話しかけてきた。
「お前はやけに清々しい顔してんな」
クロム「少し、過去を見ていてな。なんだか色々と吹っ切れた気がするんだ」
「へぇー」
俺達と話す前に自分で踏ん切り付けたって感じか。
クロム「仲間を失い、大事な人を失った。俺の両手には溢れんばかりの宝があった。だが、その全てを俺は自分の不注意で落としてしまった。お前と同じって言ってもいいか?」
「ま、似たようなもんだから一緒にしとけ」
クロム「今でもハッキリと思い出せる。俺が自警団を結成した日のこと、仲間が1人、また1人と増えていった日のこと。姉さんが死んだ日のこと。姉さんが生きていると知った日のこと。国を失った日のこと。この世界で夢を見ていた日のこと。全部、紛れもなく俺がこの目に焼き付けたものだ」
「……」
クロム「俺はこの世界に何を望んだのか。その答えが分からなかったんだが、多分、俺はこの目に焼き付けたものをもう一度見たかったんだ」
「元通りの日常が欲しかったってとこか……」
クロム「そうとも言うな。俺はあの日々が好きだった。隣にはいつもアランがいて、フェリシアが慌ただしく報告に来て、メイとかメノアが元気にやっている。それ以外の奴らも元気に俺の部下をやってくれている。そんな、何気ない日常が好きだった。そんな簡単なことに、俺は今更になって気付いた」
「……何が言いたいんだ」
クロム「……どれだけ過去を悔やんだとしても、一度落としてしまったものは粉々になって戻って来ないってことを知った」
やけに暗いことを知ったんだな。
クロム「だが、落としてしまったんだとしても、その代わりと言えばなんだが、俺の両腕は空っぽになった。また、何かを持つことが出来るようになったんだ」
「……」
クロム「出来ることなら俺はこの世界であいつらを両手に抱えていたいさ。でも、それはそれでなんだかあいつらに文句を言われそうな気がしてな」
……文句を言えるような連中じゃねぇってだろうに、なんで皆してそこら辺を気にすんだろうな。
クロム「俺は、この空っぽの両腕で新しく掴みたいものを掴みに行く。今度こそ、この両腕から落とさないように、俺は新しいものを掴みたい。きっと、姉さんなら賛成してくれるはずだ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
辛ぇ……
辛くて、息苦しくて堪らねぇ……。
どうして、みんなが元の世界に帰る覚悟を固める度に、俺の心は締め付けられんだろうか?俺だって元の世界に帰ることを望んでるはずだってのに、どうしてこんなに辛い気持ちになるんだ。
ネイ「ヴァル……」
……そうなんだ。答えは分かってるんだ。
こいつがなんと言おうと、俺はまた失っちまうことが怖くて怖くて堪らねぇんだ。元の世界に戻った時、そこにこいつはいてくれるのか。そのことが分かんなくて、ただただ震えている。
ネイ「……大丈夫です。私は消えませんから」
「……そうは言っても、やっぱり俺は信じられねぇんだ」
ネイ「……」
「だってそうだろ?俺はどれだけの間かは分かんねぇけど、お前の死体を抱いて泣いてた。どいつもこいつも俺を王に仕立てあげようとしたけど、俺は何一つとして王らしいことをしなかった。だって、ただただ泣いてたんだからな」
ネイ「……」
「それが、この世界になった瞬間にお前がやって来た。生きてる姿のお前がやって来たんだ。普通に考えておかしいだろ?」
ネイ「確かに……そうかもしれません」
「それに、お前が安心しろって言う時、お前の顔はやけに不安そうに見えるんだ」
ネイ「っ……!」
不意をつかれたかのように、ハッとした顔になって固まるネイ。その行動は、益々俺の中で疑心が固まってくだけのものだ。
「正直に答えてくれ。お前は、お前は本当にネイなのか?」
ネイ「……」
「ネイだとして、お前はどうやって生き返ったんだ?」
ネイ「……それは」
「……」
しばらくネイは完全に黙ってしまい、俺はその重たい口が開くのを待った。
ネイ「……私自身、分からないことです。なぜ生き返れたのか。それは分かりません。でも、私はこの世界で前の世界の記憶を持つ人間です。セリカさんや、ミューエさんのように、ちゃんと記憶があるんです」
「……それさえも、証拠にしていいのかどうか分かんねぇよ」
ネイ「……でも、私は生きています。ここに生きています」
「……」
それ以上は何も聞けなかった。だって、俺にはこいつの嘘を見破る術はない。どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのか。それがハッキリとしないから、俺は不安な気持ちを押し殺すしか無かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「アルテミス……か」
アルテミス「あ、ヴァル……」
今度はたまたま見かけたアルテミスのところにやって来た。これで4人目か。
「誰との記憶だ?」
アルテミス「まるでこの一連の動作に手馴れてるって感じだねぇ」
「まあ、これで4人目だしな」
アルテミス「へぇー」
アルテミスもまた、どこか清々しい顔をして話を始めた。
アルテミス「師匠との記憶」
「師匠……あの、ミルって人か」
アルテミス「そ。私、何が原因だったかは分かんないんだけど、一時師匠に弟子入りして無人島に飛ばされたことがあったんだー」
ヒカリから聞いたことのある、中々にやべぇエピソードの1つだな。
アルテミス「最初は辛かったけどさ、それでも今となってはいい思い出。あんな事されてなきゃ、多分私、ここまで強くなれなかったと思うから」
多分、それだけじゃなくヒカリの存在も大きいとは思う。まあ、お師匠さんの影響力は凄まじいのだろうが。
アルテミス「師匠、元々体が弱くてさ、前の世界じゃ慣れないこっちでの生活に体調を崩して、そのまま治らなくて死んじゃったんだ……」
「……」
初耳だな。まあ、周りに興味を持てなかったんだから、誰も報告しに来ないようなことは知らなくて当たり前だが。
「あんな、めちゃくちゃ強そうなお師匠さんが死んじまったのか……」
アルテミス「うん。こっちの世界に助太刀に来てくれたのに、到着した頃にはほとんどの事が終わってて、それでなぜか元の世界に帰ることが出来なかったんだ」
……悪ぃ、多分それ、俺のせいだ。
ハッキリと覚えてんだ。俺が怒りと悲しみをそのままに、ありとあらゆるものを燃やし尽くしたってことを。まずはネイを殺した張本人であるアヌを燃やした。その次に世界各地で暴れてた龍を燃やした。敵組織の下っ端兵も全員燃やした。そして、こんな事の原因になった世界と世界の繋がりを完全に燃やし尽くした。
他の世界からの干渉が無ければこうなっていなかった。無意識にそう思い、俺は扉を全部燃やしたんだ。
アルテミス「師匠、昔人体錬成をしたとかで体が元々弱くてさ、定期的に薬を飲まないと生きられないのに、こっちの世界にはそれが無くて、私にはどうすることも出来なかった……」
「……」
アルテミス「師匠は最後まで私のことを心配してくれてた。こっちの世界で、親みたいになってくれてたんだ」
「……なあ、アルテミス。お前は、この世界に何を求めたんだ……?師匠が生きていることか?それとも……」
アルテミス「私がこの世界に……ね」
しばし考えるような仕草を取った後、アルテミスはゆっくりと話し始めた。
アルテミス「私は特に何も望んでないよ」
「……」
アルテミス「そりゃ、師匠が生きてくれたらなって思うことはある。でも、心の底から私はそうなることを望んでない。だって、本当にその人が現れたとしても、私、心の色が見えるからすぐ偽物だって気付いちゃうんだもん」
「そういや、そんな力もあったっけ」
アルテミス「実はね、最初っからこの世界がなんかおかしいなってのは思ってたの。みんな、心が真っ白すぎて気味が悪かったから」
「じゃあ、なんでセリカ達と当たり前のように過ごしてたんだ?」
アルテミス「そりゃ、もしかしたら私の力が壊れただけかな?って最初に思うのはそうでしょう?」
「そういうもんか?」
アルテミス「まあ、私がそう思っただけかもしんないけど、少なくとも言えることは、私は元の世界だって生きていけるし、こっちの世界だとしてもちゃんと生きていける。ちゃんと、師匠から生き抜き方ってのは教えてもらってるから」
「……強い……な」
アルテミス「ヴァルも、そりゃ悩むななんて言う方が無理だけどさ、ちゃんとハッキリ決めなきゃダメだよ?じゃないと、お嫁さんに怒られちゃうかもしれないからね」
「ははは……」
もうたっぷり怒られた後だよ……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なあ、ネイ。やっぱり俺は戦うべきなのかな?」
ネイ「どうしたんですか、薮からスティックにそんなことを聞いて」
「だってさ、みんなは多分、向こうの世界でもこっちの世界でも、それなりに上手くやって行けるんだ。だから、無理して戦うこともないし、わざわざ苦しむこともない」
ネイ「……はぁ。私がこの世界でも結構ですって言ったらそれで十分なんですか」
「……」
ネイ「え、まさか本気でそう思ってるんですか?」
「そのまさかだな」
ネイ「……」
そうなんだよ。なんだかんだ言って、みんなが続々と覚悟を決めてるってのに、俺はみんなの話を聞けば聞くほどこっちの世界を望みたくなる。だってそうだろ?
「みんな、辛い世界を頑張って生きてたんだ。戦いが終わったってのに、その影響で死んでいく奴らを見ながら必死に生きてたんだ。なら、もう許したって……許されたっていいだろ?」
ネイ「……」
「お前がいるかどうかってのはもういいよ。そんなの、どれだけ話しても答えは出ねぇんだ。ならさ、みんなのためにもこっちの世界を望むってのはダメなのか?」
ネイ「それは……ダメだと思います。結局、皆さんの歩みが止まってしまいますから……」
「逃げてるって言いてぇんだろ?でも、逃げることの何が悪いってんだよ。俺達はもう十分すぎるくらいに頑張ったじゃねぇか。なら、望みの1つや2つ、叶えてくれたっていいだろ?なぁ、"神様"」
ネイ「……」
難しそうな、悲しそうな、そんな複雑な表情でネイは悩み始めた。そして俺も、こいつからの答えなんか必要とせず、1人結論を早めようとした。
「それでも、みんなが戦うって言うなら俺は戦うさ。でもな、それが本心から言ってるのかどうか。それがハッキリしねぇうちは俺はこの世界であるべきだと思う。みんなが幸せでいられる。アルトが言うことは何も間違っちゃいねぇ。やり方には色々言いてぇところはあるが」
ネイ「……人形遊びをしていて虚しい気持ちにならないんですか?」
「……っ!」
不意をつくようにネイは冷たい声でそう言い出した。
ネイ「……はぁ。言われなきゃ分からないんですか?この世界に生きてる人はみんな人形。アルトが私達の理想を読み取り、それを形にしただけのもの。そりゃ、初めのうちは楽しいでしょう。でも、所詮人形遊びは遊びでしかない。現実じゃないことを知っているから、いずれは飽きるんです。それに、悲しくなるんです。だって、1人でこの世界を遊んでいるようなものなんですから」
「……お前」
ネイ「ヴァルは何を恐れてるんですか?そんなに辛そうな顔をして、ヴァルは一体何を望んでるんですか?」
「っ……俺は……みんなが幸せでいられる世界を……」
ネイ「みんなが幸せになっている世界ってなんですか?」
「それは……」
ネイ「そんなもの、存在しませんよ」
「…………」
どうして……どうしてそんな冷たい言葉が出せるんだ……。
「夢を語るのは悪いことなのかよ……!」
ネイ「悪いとは言いません。好きなだけ語ってください。ただ、私は言います」
ネイは俺の顔を両手で持ち、目線を無理矢理合わせてこう言った。
ネイ「他力本願な夢なんて叶えたところで悲しいだけです。大人しく現実を見てください。あなたが作り出した現実を、ちゃんと責任持ってあなたの手で直してください。それが、あなたが王にされた理由です」
「ぁ……」
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ーーそうか、俺が1番、現実から逃げてたのか……。
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