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IIIStorys 【勝利の女神】
第12章15 【主観と客観】
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王都での戦いが佳境を迎え、今が正に正念場といった頃、別の場所ではまた、同じく物語の佳境を迎えようとしていた者がいた。
ネイ「……」
1人の少女、否、この物語の主人公とでも言うべき人物が今立つ場所は、世界の中心と呼ばれる場所。全ての始まりであり、全てが終わる場所。辿り着く為の方法は存在しないが、それでも特別強い想いを持った者ならば辿り着けるかもしれない場所。
彼女の想いは世界の創造主の予想すらも超えていた。否、超えるだろうと予想はしていたが、その過程は創造主には考えられなかった。
1人の少女がただ恋をしただけの話。それ以上に深い設定を持たせて生んだ作品ではない。私はただ人の強い想いを描いてみたかっただけなのだ。
ネイ「で、あなたは結局何なんですか?私、ヴァルを取り戻したいだけであそこに現れた墓石に手を触れたんですけど、どこなんですかここ?」
世界の中心。そう言っただろう。
ネイ「いや、それは聞こえてるんですよ。耳からじゃなく脳に響く感じで」
なら、他に何を疑問に思うことがある?
ネイ「この際だから言うんですけど、この作品細かい説明が色々と不足してるんですよ。いくらそういうの書くの嫌だからって、せめて技の演出とか効果とかもっと細かく書いた方がいいんじゃないですか?」
そんなことすれば1話で進める時間が減ってしまうだろう。私は1話を大体5000字前後に収まるようにしてるんだ。そんな技の設定とか一々やってたらキリが無いし、何より考えるのがめんどくさい。もっとそこはフワッと読み込んでくれ。
ネイ「えぇ……」
それに、私が書く物語は設定と流れがあるだけだ。その他君達の行動は私が管理してるものじゃない。君達が思うように動き、そして私が定めた目標に自然と辿り着くように進んでゆく。そうして君達は物語を完成に導く。
ネイ「じゃあ、あなたが最後に定めた目標が、例えば全員が死ぬエンディングとかだったら、私達にはどうしようもないって言うんですか?」
そうなるだろう。私が全員が死ぬと目標を定めれば、物語に登場する人物は全員その方向に向かって進んでゆく。それ以外の道は有り得ない。そう、有り得ないはずだ。
ネイ「……?はず?」
そう。本来そうなるはずである。
ネイ「……まさか、本当に全員が死ぬということが確定事項だったって言うんじゃ……」
流石に全員ではない。だが、ほとんどの登場人物は死ぬ予定だった。この物語は設定上何度も繰り返している。
ネイ「ええ知っています。それを突破するために私達が奮闘する話ですよね」
そう。それが全体の流れだ。そして、終わり方は誰も報われない終わり方であり、その後たった1人の主人公だけが報われる終わり方だったんだ。
ネイ「美談にしたいのか何なのか知りませんけど、そんなどうすることだって出来るあなたに全員死ねって言われたら一溜りもないじゃないですか」
そうだろう。実際、私が思い描いた通りに進んだ物語は確かにある。あれこそ、私が求めていた終わり方だった。でも、この世界は違う。この物語は違うんだ。
ネイ「……あの時、もう1人の私が言ってた終わり方。あれがあなたが思い描いた本当の終わり方……」
……そうか。出会ったのか、私の世界を変えんとする存在に。
ネイ「あれは、あの私は何なんですか?あなたが作り出したにしては、今あなたが話していることに反するようなことばかりしてるような気がします。それこそ、もう一度何度も繰り返して自分の思い通りになる世界を作ろうとしてるように見えますけど……」
……あれは、最早私にはどうすることも出来ない。
ネイ「どうすることも出来ない?」
私の支配から外れた者。否、彼女が暗躍する物語は、彼女自身が創造主となる世界だ。恐らく、この物語に来たということはまだその力に気付いていない。だが、その力に気付いた時、彼女の住む世界は新たなエンディングを迎える。
ネイ「……自分で書きたいとは思わないんですか?」
もちろん、そういう話もあるだろうと気にはなる。だが、最初に言ったように私は目標を定めるだけ。それ以外のことはその物語に住む人物が好きなように進めるんだ。つまり、私がその物語に介入すれば、それはまた同じことを繰り返させるだけだ。
ネイ「あなたの美談がまたエンディングになってしまうと」
そうだ。なら、私はその物語を見てるだけでいい。私が思い描く物語は既に完結してるんだ。なら、他の誰かが描くもう1つの物語は、その誰かが最後まで書き切るべきだ。
ネイ「……意外とプライドはそこまで高くないんですね」
まあ、書き途中のものに手を加えられたら流石に怒るが、そうではないからな。もう既に終わった物語を他の誰かが別の方向に書き換えてるだけ。元の物語はちゃんと存在しているんだから何も文句はない。
ネイ「なら、この物語は何なんですか?この物語はまた別の世界なんですよね?もう既にあなたが思い描く物語を書き終えたのなら、なぜまた別の物語が存在するんですか?」
それは、君がそうしたんだろう?いや、君達と言った方が正しいか。
ネイ「……?」
君とヴァル。この2人の主人公が私の予想を遥かに上回った。私が定めた目標を堂々と無視したのだ。
ネイ「え、でも私特にそれらしい葛藤なんてしてませんけど」
そりゃそうだ。進めるのは登場人物の自由と言っただろう。だから特に道から逸れても縛るものなんて何も無い。ラストなんかがいい例ではないか。彼は本来死ぬ予定で書いた人物だというのに、物語の主要人物として組み込まれている。まあ、これはただ単に道から逸れただけであるし、目標には直接関係がなかったからそのままにされたんだ。でも、君達は違う。君達は1番大事な終わりの部分を変えてしまった。
ネイ「……」
アヌを倒し、その先に構えていたループ地点の要となるステラも倒してしまった。そして、私の支配から外れたヴァルが勝手に世界の再生をし、これまた支配から外れた君がここまで辿り着いた。
ネイ「つまり、私達はあなたを出し抜けたと」
そういうことになるな。ある意味、君達の勝ちとでも言うべきかもしれない。本来変わるはずのない物語を変え、そして私の前にまで来た。正直、何かしらの褒美でも与えてやりたいところだ。
ネイ「じゃあ丁度お願いしたいことがあるんですけどいいですか?」
……いいだろう。君が望むもの、その全てを君に与えよう。
ネイ「私が望むもの。それは、ヴァル以外の他には何も無い。彼だけがいたら他はいらない。あなたの力で、彼をまたこの世界で私の隣に置いてください」
分かった。私がまた、この世界に筆を加え、そして君の望みを物語の一端としよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
世界の中心で、私は神と話をした。
正直、メタいにも程があるってもんだけど、でも私の望みは叶えられた。
「ったく、無茶しすぎだぜ」
「それは私に言ってるんですか?それとも鏡の中の自分に対してですか?」
「どっちもだな」
後ろから聞こえてきた声に、私は思わず涙を流しそうになる。でも、その涙をグッと堪え、後ろを振り向き彼の後ろ姿を確認する。
「まあでも、信じてたぜ」
「何をですか?」
「分かってるくせに聞くってのかよ」
「口から言ってもらわないと何も分かりませーん」
少し悪戯っぽくそう言い、私は彼の背中に抱きついた。
「あー、まあ、お前ならなんかすげぇ感じにどうにかしてくれるんじゃねぇかって思ってた」
「……」
「お前だけを信じてた」
「……」
「お前が俺をどうしようもねぇくらいに好きだって分かってたから、辛い思いをさせるのは承知で出来る限りの小細工しかけといた。柄じゃねぇけどな」
「……本当、ちゃんと私の話を聞いてから消えてくださいよ。本当に、本当にバカなんですから」
「そうだな。俺はバカだ。大バカ者だ。好きな子に悲しい思いはさせたくねぇって決めてたはずなのに、それが何度目だってんだよ」
「本当ですよ。何度私を悲しませたら気が済むんですか」
「悪かったって。だからよ、まあ、だからってわけじゃねぇけど、今度こそ命張ってでもお前を幸せにする。それだけは絶対に約束してやる」
本当、人を惚れさせる言葉ばかり思いつくんですから。
私は立ち上がり、彼の背中に手のひらを向けてこう言った。
「お帰りなさい。私の大好きな人」
「ああ、ただいま」
彼が私の手を取り、立ち上がるや否、すぐさま私は彼の唇に自分の唇を合わせた。
ヴァル「好きだぜ。ネイ」
「……」
色んな想いが込み上げてくる。
ここに来るまでに、色んな辛いことがあった。
彼のことを思い出したくても思い出せなかったこのもどかしさ。そして、彼が目の前で消えてしまった焦燥感。
彼と初めて出会った日のことから、彼を好きになった日のこと。彼と喧嘩した日のこと。彼と共に戦った日々のこと。彼の助けを何度も借りた日のこと。
全部、全部私にはなくちゃならない記憶。1つでも欠けちゃならない記憶。
やっと思い出せた。やっと知ることが出来た。私の本当の想い。私の本当の記憶。
「ヴァル。好きです。大好きです。この世界で1番、あなたのことを愛しています」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「だァっ!!」
ネロの攻撃を、1度ならず2度も防いだ。防げた。ある意味奇跡だ。女神の力を行使した反動でもうとっくに死んでたっておかしくないくらいにボロボロなのに、我ながらよく持ち堪えてる方だと思う。でも、それだけ頑張ったとしても私1人がやってるんじゃ意味が無い。
ネロ「諦めが悪いですね。あなたが1番ボロボロだというのに、なぜそうまで抗うのですか?1度は諦めたんでしょう?なのに、なぜ抗うのです?」
「バカね。私は大バカ者なのよ。無駄だって分かってるものにほど全力尽くしちゃうのよ……!」
女神の力で銃火器を大量に配置し、ゼラの魔法と組み合わせてネロを追い詰める。だが、攻撃は全て当たることなく拡散し、街の惨状をより酷くさせていってるだけ。
今まともに戦えてるのは私とゼラくらいのもの。幹部とネロ合わせて5人の相手を私達だけが引き受け、まだ戦えるはずのシンゲンやアルフレア、クロムさん達は戦えなくなったみんなを守るために白装束の集団と戦っている。
これは戦ってる最中に気づいたことだが、恐らく敵は全員屍メモリを使っていると思われる。でなきゃ、なんの権限もない人間がここまでの戦力を誇るはずがないのだから。全く、我ながら何とも厄介なものを作ってしまった。使う人間がこうも賢いと、そのメモリが例え量産可能な代物だったとしてもこうまで力を発揮するとは……。
「ちっ……」
口から血の塊を吐き出し、また私は銃火器を後ろに並べる。だけど、並べてる最中に目の前が一瞬だけ暗くなり、私は崩れるようにして地面に倒れてしまった。
「またか……」
この戦いの最中何度も起きてる現象。ただ無理をしてるだけというのが理由に見えない。となればネイが死んだのが原因、とも思えない。
私の体が尽きようとしている。ただでさえ悪かった視力がこの戦いの間にどんどん酷くなっていってるのだ。体の方が限界を迎えるのももう時間の問題だろう。
ーーでも、だからといって私がこの場で崩れるわけにはいかない。私が倒れたら誰もネロを止めれなくなる。
「っ……まだ、終わって……ない」
無理矢理体に治癒術をかけ、私はまた立ち上がった。
ネロ「……やれやれ。あなたがいると他が殺せないんですよ。そんなにボロボロなら、もう諦めたらどうですか?」
「はは……バカね。諦めろって言われても……諦められない性なのよ……」
ネロ「そうですか。なら、美しくないからやりたくなかったんですけど、こうするしかありませんね」
何をするつもりかと思った次の瞬間、幹部4人が辺りに散らばって、白装束の集団と戦っていたクロムさん達を急襲した。
ネロ「さて、私があと1回合図を送ればあなたの大切な人が1人ずつ死んでいきます。あなたの目の前で」
そう言うと、ネロはいつの間にかセリカを抱えており、その首筋にナイフの切っ先を当てて私に見せつけてきた。
ネロ「目の前でお仲間が1人ずつ死んでゆくこの絶望。きっとあなたのような人は耐えられないでしょう」
「……何を……言いたい」
ネロ「最後のチャンスです。いつまでたってもやって来ない神をここに呼びなさい。そうすれば、あなた達を殺すことだけは勘弁しといてあげますよ」
「……」
ネロ「いいですか?これは最後の慈悲です。ここまで抗ったあなた達を生かしてあげるという慈悲なのです」
……正直、呼べと言われて呼ぶことの出来ない相手を求められて、私はどうすればいいのかが分からなくなってる。確かに、ネイを呼べば私達は生かしておいてくれるだろう。あの男は信用ならないけど、それだけは確かだと思う。心に嘘がないからね。
でも、だからといってネイを売るわけにはいかないし、そもそもネイは死んでるからどうすることも出来ない。それが分かってて言ってるのか、それとも分かってないのか。どちらにせよ選択肢の無い選択問題だ。
ネロ「あと10秒以内に答えてもらいまーー」
ーー瞬間、炎が巻き上がる。
ネロがいた位置に、幹部4人がいた位置に、白装束の集団が固まってる位置に、この王都という広い街の至る所で炎が巻き上がる。
「ちょっと派手にやりすぎじゃないですか?」
「仕方ねぇだろ病み上がりなんだから。つか、その為にお前が補正してくれてんだろ」
天から、太陽の光に導かれるようにして2人の人物が隕石のような衝撃を与えて地面に落ちる。
赤毛の少年がお姫様抱っこでこれまた赤毛の少女をゆっくりと降ろす。その後ろ姿を見ただけで、私は気を失いそうになるくらいに安堵してしまった。
「悪ぃな待たせちまって!」
「女神と英雄、完全復活です!」
ネイ「……」
1人の少女、否、この物語の主人公とでも言うべき人物が今立つ場所は、世界の中心と呼ばれる場所。全ての始まりであり、全てが終わる場所。辿り着く為の方法は存在しないが、それでも特別強い想いを持った者ならば辿り着けるかもしれない場所。
彼女の想いは世界の創造主の予想すらも超えていた。否、超えるだろうと予想はしていたが、その過程は創造主には考えられなかった。
1人の少女がただ恋をしただけの話。それ以上に深い設定を持たせて生んだ作品ではない。私はただ人の強い想いを描いてみたかっただけなのだ。
ネイ「で、あなたは結局何なんですか?私、ヴァルを取り戻したいだけであそこに現れた墓石に手を触れたんですけど、どこなんですかここ?」
世界の中心。そう言っただろう。
ネイ「いや、それは聞こえてるんですよ。耳からじゃなく脳に響く感じで」
なら、他に何を疑問に思うことがある?
ネイ「この際だから言うんですけど、この作品細かい説明が色々と不足してるんですよ。いくらそういうの書くの嫌だからって、せめて技の演出とか効果とかもっと細かく書いた方がいいんじゃないですか?」
そんなことすれば1話で進める時間が減ってしまうだろう。私は1話を大体5000字前後に収まるようにしてるんだ。そんな技の設定とか一々やってたらキリが無いし、何より考えるのがめんどくさい。もっとそこはフワッと読み込んでくれ。
ネイ「えぇ……」
それに、私が書く物語は設定と流れがあるだけだ。その他君達の行動は私が管理してるものじゃない。君達が思うように動き、そして私が定めた目標に自然と辿り着くように進んでゆく。そうして君達は物語を完成に導く。
ネイ「じゃあ、あなたが最後に定めた目標が、例えば全員が死ぬエンディングとかだったら、私達にはどうしようもないって言うんですか?」
そうなるだろう。私が全員が死ぬと目標を定めれば、物語に登場する人物は全員その方向に向かって進んでゆく。それ以外の道は有り得ない。そう、有り得ないはずだ。
ネイ「……?はず?」
そう。本来そうなるはずである。
ネイ「……まさか、本当に全員が死ぬということが確定事項だったって言うんじゃ……」
流石に全員ではない。だが、ほとんどの登場人物は死ぬ予定だった。この物語は設定上何度も繰り返している。
ネイ「ええ知っています。それを突破するために私達が奮闘する話ですよね」
そう。それが全体の流れだ。そして、終わり方は誰も報われない終わり方であり、その後たった1人の主人公だけが報われる終わり方だったんだ。
ネイ「美談にしたいのか何なのか知りませんけど、そんなどうすることだって出来るあなたに全員死ねって言われたら一溜りもないじゃないですか」
そうだろう。実際、私が思い描いた通りに進んだ物語は確かにある。あれこそ、私が求めていた終わり方だった。でも、この世界は違う。この物語は違うんだ。
ネイ「……あの時、もう1人の私が言ってた終わり方。あれがあなたが思い描いた本当の終わり方……」
……そうか。出会ったのか、私の世界を変えんとする存在に。
ネイ「あれは、あの私は何なんですか?あなたが作り出したにしては、今あなたが話していることに反するようなことばかりしてるような気がします。それこそ、もう一度何度も繰り返して自分の思い通りになる世界を作ろうとしてるように見えますけど……」
……あれは、最早私にはどうすることも出来ない。
ネイ「どうすることも出来ない?」
私の支配から外れた者。否、彼女が暗躍する物語は、彼女自身が創造主となる世界だ。恐らく、この物語に来たということはまだその力に気付いていない。だが、その力に気付いた時、彼女の住む世界は新たなエンディングを迎える。
ネイ「……自分で書きたいとは思わないんですか?」
もちろん、そういう話もあるだろうと気にはなる。だが、最初に言ったように私は目標を定めるだけ。それ以外のことはその物語に住む人物が好きなように進めるんだ。つまり、私がその物語に介入すれば、それはまた同じことを繰り返させるだけだ。
ネイ「あなたの美談がまたエンディングになってしまうと」
そうだ。なら、私はその物語を見てるだけでいい。私が思い描く物語は既に完結してるんだ。なら、他の誰かが描くもう1つの物語は、その誰かが最後まで書き切るべきだ。
ネイ「……意外とプライドはそこまで高くないんですね」
まあ、書き途中のものに手を加えられたら流石に怒るが、そうではないからな。もう既に終わった物語を他の誰かが別の方向に書き換えてるだけ。元の物語はちゃんと存在しているんだから何も文句はない。
ネイ「なら、この物語は何なんですか?この物語はまた別の世界なんですよね?もう既にあなたが思い描く物語を書き終えたのなら、なぜまた別の物語が存在するんですか?」
それは、君がそうしたんだろう?いや、君達と言った方が正しいか。
ネイ「……?」
君とヴァル。この2人の主人公が私の予想を遥かに上回った。私が定めた目標を堂々と無視したのだ。
ネイ「え、でも私特にそれらしい葛藤なんてしてませんけど」
そりゃそうだ。進めるのは登場人物の自由と言っただろう。だから特に道から逸れても縛るものなんて何も無い。ラストなんかがいい例ではないか。彼は本来死ぬ予定で書いた人物だというのに、物語の主要人物として組み込まれている。まあ、これはただ単に道から逸れただけであるし、目標には直接関係がなかったからそのままにされたんだ。でも、君達は違う。君達は1番大事な終わりの部分を変えてしまった。
ネイ「……」
アヌを倒し、その先に構えていたループ地点の要となるステラも倒してしまった。そして、私の支配から外れたヴァルが勝手に世界の再生をし、これまた支配から外れた君がここまで辿り着いた。
ネイ「つまり、私達はあなたを出し抜けたと」
そういうことになるな。ある意味、君達の勝ちとでも言うべきかもしれない。本来変わるはずのない物語を変え、そして私の前にまで来た。正直、何かしらの褒美でも与えてやりたいところだ。
ネイ「じゃあ丁度お願いしたいことがあるんですけどいいですか?」
……いいだろう。君が望むもの、その全てを君に与えよう。
ネイ「私が望むもの。それは、ヴァル以外の他には何も無い。彼だけがいたら他はいらない。あなたの力で、彼をまたこの世界で私の隣に置いてください」
分かった。私がまた、この世界に筆を加え、そして君の望みを物語の一端としよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
世界の中心で、私は神と話をした。
正直、メタいにも程があるってもんだけど、でも私の望みは叶えられた。
「ったく、無茶しすぎだぜ」
「それは私に言ってるんですか?それとも鏡の中の自分に対してですか?」
「どっちもだな」
後ろから聞こえてきた声に、私は思わず涙を流しそうになる。でも、その涙をグッと堪え、後ろを振り向き彼の後ろ姿を確認する。
「まあでも、信じてたぜ」
「何をですか?」
「分かってるくせに聞くってのかよ」
「口から言ってもらわないと何も分かりませーん」
少し悪戯っぽくそう言い、私は彼の背中に抱きついた。
「あー、まあ、お前ならなんかすげぇ感じにどうにかしてくれるんじゃねぇかって思ってた」
「……」
「お前だけを信じてた」
「……」
「お前が俺をどうしようもねぇくらいに好きだって分かってたから、辛い思いをさせるのは承知で出来る限りの小細工しかけといた。柄じゃねぇけどな」
「……本当、ちゃんと私の話を聞いてから消えてくださいよ。本当に、本当にバカなんですから」
「そうだな。俺はバカだ。大バカ者だ。好きな子に悲しい思いはさせたくねぇって決めてたはずなのに、それが何度目だってんだよ」
「本当ですよ。何度私を悲しませたら気が済むんですか」
「悪かったって。だからよ、まあ、だからってわけじゃねぇけど、今度こそ命張ってでもお前を幸せにする。それだけは絶対に約束してやる」
本当、人を惚れさせる言葉ばかり思いつくんですから。
私は立ち上がり、彼の背中に手のひらを向けてこう言った。
「お帰りなさい。私の大好きな人」
「ああ、ただいま」
彼が私の手を取り、立ち上がるや否、すぐさま私は彼の唇に自分の唇を合わせた。
ヴァル「好きだぜ。ネイ」
「……」
色んな想いが込み上げてくる。
ここに来るまでに、色んな辛いことがあった。
彼のことを思い出したくても思い出せなかったこのもどかしさ。そして、彼が目の前で消えてしまった焦燥感。
彼と初めて出会った日のことから、彼を好きになった日のこと。彼と喧嘩した日のこと。彼と共に戦った日々のこと。彼の助けを何度も借りた日のこと。
全部、全部私にはなくちゃならない記憶。1つでも欠けちゃならない記憶。
やっと思い出せた。やっと知ることが出来た。私の本当の想い。私の本当の記憶。
「ヴァル。好きです。大好きです。この世界で1番、あなたのことを愛しています」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「だァっ!!」
ネロの攻撃を、1度ならず2度も防いだ。防げた。ある意味奇跡だ。女神の力を行使した反動でもうとっくに死んでたっておかしくないくらいにボロボロなのに、我ながらよく持ち堪えてる方だと思う。でも、それだけ頑張ったとしても私1人がやってるんじゃ意味が無い。
ネロ「諦めが悪いですね。あなたが1番ボロボロだというのに、なぜそうまで抗うのですか?1度は諦めたんでしょう?なのに、なぜ抗うのです?」
「バカね。私は大バカ者なのよ。無駄だって分かってるものにほど全力尽くしちゃうのよ……!」
女神の力で銃火器を大量に配置し、ゼラの魔法と組み合わせてネロを追い詰める。だが、攻撃は全て当たることなく拡散し、街の惨状をより酷くさせていってるだけ。
今まともに戦えてるのは私とゼラくらいのもの。幹部とネロ合わせて5人の相手を私達だけが引き受け、まだ戦えるはずのシンゲンやアルフレア、クロムさん達は戦えなくなったみんなを守るために白装束の集団と戦っている。
これは戦ってる最中に気づいたことだが、恐らく敵は全員屍メモリを使っていると思われる。でなきゃ、なんの権限もない人間がここまでの戦力を誇るはずがないのだから。全く、我ながら何とも厄介なものを作ってしまった。使う人間がこうも賢いと、そのメモリが例え量産可能な代物だったとしてもこうまで力を発揮するとは……。
「ちっ……」
口から血の塊を吐き出し、また私は銃火器を後ろに並べる。だけど、並べてる最中に目の前が一瞬だけ暗くなり、私は崩れるようにして地面に倒れてしまった。
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私の体が尽きようとしている。ただでさえ悪かった視力がこの戦いの間にどんどん酷くなっていってるのだ。体の方が限界を迎えるのももう時間の問題だろう。
ーーでも、だからといって私がこの場で崩れるわけにはいかない。私が倒れたら誰もネロを止めれなくなる。
「っ……まだ、終わって……ない」
無理矢理体に治癒術をかけ、私はまた立ち上がった。
ネロ「……やれやれ。あなたがいると他が殺せないんですよ。そんなにボロボロなら、もう諦めたらどうですか?」
「はは……バカね。諦めろって言われても……諦められない性なのよ……」
ネロ「そうですか。なら、美しくないからやりたくなかったんですけど、こうするしかありませんね」
何をするつもりかと思った次の瞬間、幹部4人が辺りに散らばって、白装束の集団と戦っていたクロムさん達を急襲した。
ネロ「さて、私があと1回合図を送ればあなたの大切な人が1人ずつ死んでいきます。あなたの目の前で」
そう言うと、ネロはいつの間にかセリカを抱えており、その首筋にナイフの切っ先を当てて私に見せつけてきた。
ネロ「目の前でお仲間が1人ずつ死んでゆくこの絶望。きっとあなたのような人は耐えられないでしょう」
「……何を……言いたい」
ネロ「最後のチャンスです。いつまでたってもやって来ない神をここに呼びなさい。そうすれば、あなた達を殺すことだけは勘弁しといてあげますよ」
「……」
ネロ「いいですか?これは最後の慈悲です。ここまで抗ったあなた達を生かしてあげるという慈悲なのです」
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でも、だからといってネイを売るわけにはいかないし、そもそもネイは死んでるからどうすることも出来ない。それが分かってて言ってるのか、それとも分かってないのか。どちらにせよ選択肢の無い選択問題だ。
ネロ「あと10秒以内に答えてもらいまーー」
ーー瞬間、炎が巻き上がる。
ネロがいた位置に、幹部4人がいた位置に、白装束の集団が固まってる位置に、この王都という広い街の至る所で炎が巻き上がる。
「ちょっと派手にやりすぎじゃないですか?」
「仕方ねぇだろ病み上がりなんだから。つか、その為にお前が補正してくれてんだろ」
天から、太陽の光に導かれるようにして2人の人物が隕石のような衝撃を与えて地面に落ちる。
赤毛の少年がお姫様抱っこでこれまた赤毛の少女をゆっくりと降ろす。その後ろ姿を見ただけで、私は気を失いそうになるくらいに安堵してしまった。
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いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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