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2話
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また酒場を出禁になった。これで何軒目か、もう覚えていない。
「悪いんだけどね勇者様。もう来ないでくれるかい?」
ここの店主はまだ優しいほうだ。前の街の酒場で出禁を食らったときは、それはもう鬼のような剣幕で怒られたものだ。一般市民は勇者を手放しで称えるものだと思っていたので、悪さをした子供を叱る親のように、ガミガミと言われた時はちょっと信じられなかった。
「最後にもう一杯だけ!ダメ…?」
酒のためなら女を出す。出来るだけ色っぽく、しなを作って店主に頼んでみたが、反応はにべもなかった。
「ダメだよ。帰ってくれ」
「ケチ。オヤジは商売が下手だね。この店潰れるよ?」
金なら持っている。道中の魔物から奪った銀貨で、巾着袋は膨らんでいた。そのお金も、もとは魔物が人間から奪ったものなので、取り返したというべきだ。それで経済を回すのも、勇者の務めではないか。
パンパンの巾着袋を見せても、店主は首を縦に振らなかった。
「また昨日みたいに暴れられたらたまったもんじゃない。勇者様だからってなんでもかんでも歓迎しちゃダメだな。いい勉強になったよ」
地区によっては、勇者というだけで飲み食いが無料になる店もある。ステラもこれまで、ありがたくその恩恵を受けてきたものだ。
「これから優待するのは、確かな実績のある勇者様だけにしようかな。だいたい女勇者なんて時点で怪しい。女に魔物が倒せるのか?」
「さ、差別だ!」
「酔っぱらって店を破壊するような人は信用ならないなあ」
「もういい、二度と来るか!」
視線で殺せるくらい鋭い目つきで、数秒店主を睨みつけてから、ステラは踵を返した。
狭い街では噂が広がるのが早い。酒癖の悪い勇者がいる、という話はもう街中に広がっていることだろう。それを裏付けるように、ステラが防具店や魔法店の前を通ると、みんなすぐに店の扉を閉めてしまった。これじゃまるで、魔物のような扱いじゃないか。これだから田舎の小さい街は嫌いだ。集団で寄ってたかって、よそ者を邪険にしてくる。思い返せば、酒の味も悪かった気がしてきた。こんなところ、とっとと出て行ってしまおう。こっちから願い下げだ。
特にお見送りもなく、一人寂しく街を出ようとしたステラ。もうこんな光景も慣れっこだ。アルコールが抜けてきた頭でそう考えていた時だった。
柔らかい手が、ステラの肩に触れた。
「待ってください。あ、あの、勇者様、ですよね?」
振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。少女といっても、年のころはおそらく15くらい。大きな瞳を不安そうに、右へ左へときょろきょろ動かしている。花。そう、例えるならまるで、花のように可憐な少女だ。
「いかにも私が勇者ステラ。数多の魔物を討伐してきた女勇者だけども。君は?」
「ミアといいます。えっと、見習いの僧侶をやっています」
ミアがぺこりと頭を下げると、栗色の髪がふわりと膨らんだ。
「それでミア。私になにか用かい?」
もしかしてさっきの酒場の手先か。そういえば店の修理代を払っていない。あのオヤジめ。こんなかわいい子を差し向けて、修理代と称して銀貨をふんだくるつもりか。その手には乗るものか。
ステラは警戒心を露にして、ミアから一歩離れた。
「お金なら持ってないよ」
下手に動くと、銀貨たっぷりの巾着袋がジャラジャラと音を立てて、ウソがばれてしまう。店主にはすでに金を見せているので、ミアが店の手先なら意味のないウソなのだが。
「お金?いえ、違います。勇者様にお願いがあるんです」
「その勇者様っていうのはやめてくれ。ステラでいい」
「では、ステラ様。私も連れていって下さいませんか?」
「え?」
思いもよらぬミアの発言に、ステラは目を丸くした。連れていってというのは、魔王討伐の旅に、ということか?確かに仲間が欲しいとは常々思っていた。まるで渡りに船のような話ではあるが、世の中そんな甘くない。きっとなにか裏があるに違いない。
「どうして私と一緒に行きたいんだい?」
「実は、見てたんです。この街へ来る途中、ステラ様が狂暴なドラゴンを相手に、おひとりで立ち向かわれていたところを」
ミアが言っているのは、3日前のことだ。近道をしようと選んだ山道が、まさかのドラゴンの巣窟だった。今更引き返すのも面倒くさかったので、ステラは迷いなく剣を抜いた。ちょうどドラゴンが寝ていたので、寝首を切り落とせられれば一番手っ取り早かったのだが、慎重にドラゴンへ近づいている最中に誰かが小さな悲鳴を上げた。そのせいで耳のいいドラゴンは目を覚ましてしまったのだ。結果的に、ステラとドラゴンは辺り一帯が焼け野原になる規模の戦いを繰り広げた。なかなかの強敵だったが、ステラは勝利を収め、そして今いる街へたどり着いたわけだ。
「あの戦い、ほんとうに凄かったです。かっこよかったです!まさかおひとりでドラゴンを倒してしまうだなんて!」
ミアの目がキラキラと輝く。褒められて悪い気はしない。これだよ、これ。勇者が向けられる視線とは、本来こうあるべきだ。
「ん、ずっと見てたということは、あの時ドラゴンを起こした悲鳴って…」
「あぅ…」
いたずらがバレた子供みたいに、ミアが視線を逸らした。
「ミア、君だったのか」
「ごめんなさい。ステラ様の後ろをつけていれば、無事に山道を超えられそうな気がして、ずっとこっそり後をつけていたんです」
知らぬ間に僧侶からストーキングされていたようだ。まあ、こんなかわいい子ならまんざらでもない。
「それで私、決めたんです。ステラ様の冒険にご一緒させて頂こうって」
「ふむ、なるほどなるほど。つまり私に惚れ込んだと。そういうわけか」
パーティーを組むなら、自分の立場が圧倒的に上なほうがいい。対等な立場だと道中での衝突も多そうだし、なにより勇者としてでかい顔をしにくい。それならば、ミアのように自分を慕ってくれている子を仲間に引き入れたほうが、なにかと好都合だ。
「よし、おいでミア。今日から君は私の仲間だ」
「ほ、ほんとですか⁉」
「ああ、よろしく頼むよ。ちょうど僧侶が欲しかったんだ」
かくしてミアは、ステラの初めての仲間になった。ミアからすれば、尊敬する勇者との旅の始まり。ステラからすれば、便利で目の保養になる僧侶を手に入れたというわけだ。
「悪いんだけどね勇者様。もう来ないでくれるかい?」
ここの店主はまだ優しいほうだ。前の街の酒場で出禁を食らったときは、それはもう鬼のような剣幕で怒られたものだ。一般市民は勇者を手放しで称えるものだと思っていたので、悪さをした子供を叱る親のように、ガミガミと言われた時はちょっと信じられなかった。
「最後にもう一杯だけ!ダメ…?」
酒のためなら女を出す。出来るだけ色っぽく、しなを作って店主に頼んでみたが、反応はにべもなかった。
「ダメだよ。帰ってくれ」
「ケチ。オヤジは商売が下手だね。この店潰れるよ?」
金なら持っている。道中の魔物から奪った銀貨で、巾着袋は膨らんでいた。そのお金も、もとは魔物が人間から奪ったものなので、取り返したというべきだ。それで経済を回すのも、勇者の務めではないか。
パンパンの巾着袋を見せても、店主は首を縦に振らなかった。
「また昨日みたいに暴れられたらたまったもんじゃない。勇者様だからってなんでもかんでも歓迎しちゃダメだな。いい勉強になったよ」
地区によっては、勇者というだけで飲み食いが無料になる店もある。ステラもこれまで、ありがたくその恩恵を受けてきたものだ。
「これから優待するのは、確かな実績のある勇者様だけにしようかな。だいたい女勇者なんて時点で怪しい。女に魔物が倒せるのか?」
「さ、差別だ!」
「酔っぱらって店を破壊するような人は信用ならないなあ」
「もういい、二度と来るか!」
視線で殺せるくらい鋭い目つきで、数秒店主を睨みつけてから、ステラは踵を返した。
狭い街では噂が広がるのが早い。酒癖の悪い勇者がいる、という話はもう街中に広がっていることだろう。それを裏付けるように、ステラが防具店や魔法店の前を通ると、みんなすぐに店の扉を閉めてしまった。これじゃまるで、魔物のような扱いじゃないか。これだから田舎の小さい街は嫌いだ。集団で寄ってたかって、よそ者を邪険にしてくる。思い返せば、酒の味も悪かった気がしてきた。こんなところ、とっとと出て行ってしまおう。こっちから願い下げだ。
特にお見送りもなく、一人寂しく街を出ようとしたステラ。もうこんな光景も慣れっこだ。アルコールが抜けてきた頭でそう考えていた時だった。
柔らかい手が、ステラの肩に触れた。
「待ってください。あ、あの、勇者様、ですよね?」
振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。少女といっても、年のころはおそらく15くらい。大きな瞳を不安そうに、右へ左へときょろきょろ動かしている。花。そう、例えるならまるで、花のように可憐な少女だ。
「いかにも私が勇者ステラ。数多の魔物を討伐してきた女勇者だけども。君は?」
「ミアといいます。えっと、見習いの僧侶をやっています」
ミアがぺこりと頭を下げると、栗色の髪がふわりと膨らんだ。
「それでミア。私になにか用かい?」
もしかしてさっきの酒場の手先か。そういえば店の修理代を払っていない。あのオヤジめ。こんなかわいい子を差し向けて、修理代と称して銀貨をふんだくるつもりか。その手には乗るものか。
ステラは警戒心を露にして、ミアから一歩離れた。
「お金なら持ってないよ」
下手に動くと、銀貨たっぷりの巾着袋がジャラジャラと音を立てて、ウソがばれてしまう。店主にはすでに金を見せているので、ミアが店の手先なら意味のないウソなのだが。
「お金?いえ、違います。勇者様にお願いがあるんです」
「その勇者様っていうのはやめてくれ。ステラでいい」
「では、ステラ様。私も連れていって下さいませんか?」
「え?」
思いもよらぬミアの発言に、ステラは目を丸くした。連れていってというのは、魔王討伐の旅に、ということか?確かに仲間が欲しいとは常々思っていた。まるで渡りに船のような話ではあるが、世の中そんな甘くない。きっとなにか裏があるに違いない。
「どうして私と一緒に行きたいんだい?」
「実は、見てたんです。この街へ来る途中、ステラ様が狂暴なドラゴンを相手に、おひとりで立ち向かわれていたところを」
ミアが言っているのは、3日前のことだ。近道をしようと選んだ山道が、まさかのドラゴンの巣窟だった。今更引き返すのも面倒くさかったので、ステラは迷いなく剣を抜いた。ちょうどドラゴンが寝ていたので、寝首を切り落とせられれば一番手っ取り早かったのだが、慎重にドラゴンへ近づいている最中に誰かが小さな悲鳴を上げた。そのせいで耳のいいドラゴンは目を覚ましてしまったのだ。結果的に、ステラとドラゴンは辺り一帯が焼け野原になる規模の戦いを繰り広げた。なかなかの強敵だったが、ステラは勝利を収め、そして今いる街へたどり着いたわけだ。
「あの戦い、ほんとうに凄かったです。かっこよかったです!まさかおひとりでドラゴンを倒してしまうだなんて!」
ミアの目がキラキラと輝く。褒められて悪い気はしない。これだよ、これ。勇者が向けられる視線とは、本来こうあるべきだ。
「ん、ずっと見てたということは、あの時ドラゴンを起こした悲鳴って…」
「あぅ…」
いたずらがバレた子供みたいに、ミアが視線を逸らした。
「ミア、君だったのか」
「ごめんなさい。ステラ様の後ろをつけていれば、無事に山道を超えられそうな気がして、ずっとこっそり後をつけていたんです」
知らぬ間に僧侶からストーキングされていたようだ。まあ、こんなかわいい子ならまんざらでもない。
「それで私、決めたんです。ステラ様の冒険にご一緒させて頂こうって」
「ふむ、なるほどなるほど。つまり私に惚れ込んだと。そういうわけか」
パーティーを組むなら、自分の立場が圧倒的に上なほうがいい。対等な立場だと道中での衝突も多そうだし、なにより勇者としてでかい顔をしにくい。それならば、ミアのように自分を慕ってくれている子を仲間に引き入れたほうが、なにかと好都合だ。
「よし、おいでミア。今日から君は私の仲間だ」
「ほ、ほんとですか⁉」
「ああ、よろしく頼むよ。ちょうど僧侶が欲しかったんだ」
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