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君が好きなのは僕であって僕でない

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新城先輩ってかっこいいよね!」

「顔はイケメン、スポーツ万能、勉強も1年生の頃から
学年1位をキープしてるんだって!」

「完璧超人じゃん」

「神に愛された男って感じだよね~」

「え、なんかそれはダサくない?」

「ジャスティスじゃん」

「あー!あんな王子様みたいな人と付き合えたらなぁ~」

「でも、新城先輩って彼女いるんだよねぇ、彼女が柊先輩
ってところがもう向かう所敵なしって感じだけどね」

「まああの2人見たらあれ以上にお似合いなカップル
ないじゃん?もう、同じ空間にいてくれるだけ感謝って感じだよ、私は」


横を通り過ぎるだけで賛美の声を聞かせてくれる
後輩たち。

最初に言っておくと、この後輩たちから完璧超人、神に
愛された男、王子様と言われているのは俺こと
新城奏多のことである。

自分でいうのはなんだが俺は高校の中でも陽キャである。

顔はイケメンだと持て囃され、スポーツをさせればどの部活の助っ人として活躍できる。

勉強も入学式では入試1位で合格したことで生徒代表で挨拶をした。そこから高3の夏までずっと学年1位をキープして
いる。

さらに、でいえばこれは自分の力ではないかもしれないが
俺には彼女がいる。

彼女の名前は柊冬華、1年生の頃は氷の女王なんて呼ばれるほどのクールビューティぶりを発揮していた。

色素の薄く、手入れの行き届いた黒髪に切長の二重の瞳に、整った鼻筋、一度見たら忘れることができないその顔をしている彼女は2年生の時にクラスが同じことになり、学年が
切り替わる前に告白し、晴れて付き合うこととなった。

氷の女王と呼ばれていたのが嘘だと思えるくらい、彼女の
笑顔は眩しく、いつも俺のことを第一に考えてくれている
その姿に、天は二物を与えずなんて言葉は嘘なのだなと
考えさせられる。

そう、俺は幸せものなのだ。







はぁ...嘘です。


いや、嘘?ではないんだけども。

誰に弁明しているか分かんないけど、これは俺、
いや僕の偽りの姿なのです。

確かに中学の頃までは気づかなかったけど親には人より少しかっこよく産んでもらったと思う。

身長だって180センチとむしろ高い部類、それに周りが
かっこいいといってくれるレベルには顔は整っていると思います。

では何が偽りの姿だって?



話は5年前に遡ります。



中学2年生だった僕は、特に特徴のない目立たない
クラスに1人いるモブでした。

顔がイケメンならって思われるかもしれませんがその頃は
肌荒れが酷かったですし、メガネにもっさり前髪でした。
身長も170センチはありましたが猫背なのであまり身長高いねって言われることもありませんでした。

そんな目立たない僕でしたが、思春期真っ最中であり、
人並みに初めての恋をします。

それが柊冬華さん、僕の今の彼女です。

彼女は気付いていませんが、僕はその頃一度振られています。

なぜ告白しようかと思ったかというと、当時、僕のいた
クラスで一番モテていた野球部のエースが我が中が誇る
マドンナこと柊冬華に告白するという情報を耳にして、彼女
が付き合ってしまったら僕の気持ちを吐き出すことが
できないと焦った故、気付いた時には、

「ひ、柊さんのことが好きです」

「私、あなたみたいに自分に自信を持ててないような人の
彼氏になるのは嫌だわ。それにまずあなたは誰?」

という言葉で彼女に振られ、初めから振られるという結果は
分かっていたものの、振られた自分への悔しさと恥ずかしさ
が重なり、名乗ることなく逃げ出してしまった。

とこんな黒歴史を抱えているのです。

ただ、彼女は僕の容姿を馬鹿にするわけでもなく、自分に
自信がないような人が彼氏になるのは嫌だと口にしたのが心に引っかかりを覚えた。

こんな自分でも自信が持てるようになったらその時彼女は
僕のことを見てくれるのだろうか?

クラスが1組と8組とかなり離れていたこともあり、また僕は
告白の途中で逃げ出してしまったこともあり、彼女は僕の
ことを中学卒業するまで知らなかっただろうと思う。

毎日告白されていたわけだしね。

せめて、自分の名前を名乗れるくらいには自分に
自信を持とう。

その日から僕は学校から帰ると朝方まで勉強に取り組むようになった。

一度やると決めたらとことんやってしまう僕はやったら
やった分だけ成績は伸びていった。

気づけば中3の期末考査では学年3位まで上がり、
誰も知らないモブから勉強ができるモブにまでレベルアップしていた。 

その勢いのまま高校入試ではトップ合格を果たした。

しかし、容姿は生まれ持ったものだということもあり、
容姿は何をどうすれば良いのか、自信を持てるようになるのか分からない。

あまり頼りたくはなかったがそんな悩みを姉である絵梨花に相談したところ、メガネをやめてコンタクトにだの、肌荒れケアにはこれが良い、そして終いには姿勢矯正までやられるなど色々遊ばれ今の僕のベースが出来上がった。

磨けば光ると思ってたのよねーと姉は上機嫌だった。

また、体を動かすことは嫌いではない程度だったが、
姉から今から一つのスポーツを絞ってたらずっとやっている人たちには勝てないからオールラウンダーを目指せと
アドバイスをもらい、身長は中学を卒業する頃には今くらい
の身長があり、スポーツをする上で身長は大きなアドバン
テージとなった。

姉のツテを辿り、春休みの期間を使って色々なスポーツ
クラブにお邪魔した。
学業を疎かにするわけにはいかなかったので春休み中は
睡眠時間を削って日中はスポーツ、夜から朝にかけて勉強を
続けた。

今思えばもう一度やりたいとは思えないが、不思議と嫌では
なく充実感を感じていた。

そうして迎えた高校生活。僕が通っていた学校からは離れた高校へと進学したことから中学校からの
同級生は誰もいないはずだった。

朝、まだ少しぎこちない動きで髪の毛をセットし、
踏み出したその日から僕のみる景色は一変した。

「え、あの新入生かっこよくない?」

「待って、入試の時にあんな人いたっけ?」

「やばいイケメンが現れた」

この頃はまだ自分がやってきた成果が現れたのだと正直
嬉しかったし調子にも乗った。

新入生代表で壇上に立った際の僕を見る女子たちの顔は
忘れることができないなんて思ったものだ。

入試1位は伊達ではなく中学の延長であった最初の試験では
1位を取ることができた。

早くも勉強もできるイケメンという称号をもらい、
さらには体力テストでも好成績を残し、新城奏多は何でも
できる、怖いもの無しなんて言われることになった。

そんなまいにちがつづくようになり、彼ならできて当たり前
という目で見られるようになってから徐々に息苦しさを感じるようになってきた。

これはもしかするとやり過ぎたのではないかと気付いた時にはもう遅かった。

周りからの期待の目がどんどん自分のプレッシャーへと
変わっていき、それに応えるためにさらに頑張りを続ける。

その繰り返しで本当の自分とはかけ離れた新城奏多は
作られてきた。

新城奏多という中学の頃とは違う完璧を求められる存在と
いう仮面を被ってしまった僕は1年の頃は必死に毎日を
生きるあまり、柊冬華という初恋相手が同じ高校にいると
いうことに気づかなかった。

それは彼女が中学の時とは違い、氷の女王と呼ばれるようになっていたことも大いに関係あるのだが...

高校2年になり、彼女は突然また僕の近くに現れた。

まあさっきも言ったけれど気づいていないだけだったんだ
けど、当然僕は驚いた。

でも不思議と彼女を見返してやりたいとは思わなかった。
むしろ変わるきっかけをくれた彼女には感謝しかない。

その気持ちとともに彼女を見るたびに好きだなという気持ちは強くなっていった。

中学の時よりあまり笑わなくなったし、
友達とワイワイと話す様子も少なくなったけれど、もう一度
目にした彼女の凛とした様子は僕の脳裏から離れることは
なかった。

僕は自分に自信を持てているだろうか?

見た目は変わることができた。

でも心はどうだろうか?

きっとそう考えている時点で僕は中学の頃から心を変える
ことはできていないのだろう。

だから僕は中学の頃に告白をした新城奏多ではなく、高2で
初めて出会った陽キャな新城奏多で彼女に告白をした。

もちろん高2の1年間は一緒にいる機会を作るため、
一緒に委員会をしたりと接点を作りまくった。


「俺さ、柊さんのことが好きなんだ」

「うん」

「俺と付き合ってください」

「私もずっと新城君のこと、気になってた。
こちらこそよろしくお願いします」

告白の返事は素っ気なかったけど、こうして僕は我が校の
氷の女王であり、中学からの初恋を偽りの仮面の姿で
実らせることができたのだ。


最初の頃は良かった。

柊さんのことは中2から好きだったのだ。
好きな人と一緒にいれるという喜びが自分自身の
罪悪感を上回り、とにかく楽しかった。


そして現在。

もちろん柊冬華、冬華のことは大好きです。

自意識過剰なのかもしれないけど、彼女と付き合うように
なってさらに加熱する僕へ求められているものの高さ、また先輩から聞いたという1年生たちはさらに事実以上の噂が
流れることを感じるようになった。

彼女とのデートも決して一度も彼女は口にしたことはない
けれど、僕は完璧なデートプランが必要だと考え、1週間前に下見に行き、入念なデートプランを立てるようになった。

本当の僕は好きな人と一緒にいれるだけでいい。

わざわざデートプランなんて細かく考えないと思う。

でも彼女の喜んでいる姿を見ると、気づいたらどこに行こう
と考え、いいなと思った場所に足が向かっているのだ。

彼女、冬華は僕が自分に自信を持つために偽った姿をみて
好きになってくれたのだ。

これを外してしまえば中2の振られた頃から変わらない自分
に自信が持てない新城奏多のままだ。

もちろん彼女は何一つとして悪くない。

僕が望んでそうなったのだ。

今更本当の自分を好きになってくれなんて烏滸がましい。

でも、高校に入り仮面を被った自分はどんどん大きくなって
いき、仮面の中身である本当の僕を押しつぶしてしまいそう
だった。

「ねえ、奏多!今度はさ、最近できたカフェにデートに
行こうよ!」

彼女は普段はクールだけど、彼氏である僕の前だけは
こうして明るく話してくれる。

「冬華、ナイスアイディア!そこのカフェは夏季限定で
かき氷フェアしてるからぴったしだよ。それにさ、夏休みはたくさん会えるね」

「うん、一緒に夏休み課題もやっちゃおうよ」


うん、これでいい。あらかじめ彼女が好きそうなカフェを
リサーチしていて良かった。

冬華と行くまでに一度カフェに行っておすすめのかき氷を
絞り込んでおこう。

僕は完璧でないといけない。

自分に自信を持ち、周りからは完璧超人だと持て囃される。

自分はそれを求められているんだ。

そうでなくなれば誰も僕を見向きもしなくなる。

冬華も、僕の前からいなくなってしまうだろう。


なぜならば...


君が好きなのは僕であって僕でないから。




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