敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

１章

３ 1－3

　長期の潜伏も想定している身だ。目立ちたくないというのに、最悪だった。町に来て早々これとは。自分の目立つ容姿をもっと気にかけておくべきだったと悔やむが、言っても詮無いことだ。

　か弱い抵抗をしつつ、ついに裏道へと連れ込まれかけたとき、突然今までの野次馬とは違う、厳しい声がこの場の空気を変えた。

「何をしている」

　ゲッと、すぐ側で呻く声がした。

「……やべぇ、一条じゃねぇか……」

　明らかに軍人崩れたちがひるんでいる。

「あのっ、助けて下さい……！！」

　声変わりしてもなお柔らかいルカの声質は、女性のような悲鳴を演出できた。

　我ながら完璧だ。

　内心悦に入りながら、ルカは助けを求めた男を素早く観察する。そこにいたのは妙に風格のある男だった。
　ひとまずの味方になるか、一難去ってまた一難となるのか。
　助けに入ってきたのもまた、軍人であったのだ。しかし、明らかに格が違う。
　やってきたこの男が善意である事を祈るが、軍人崩れとは全く違い威圧感がある。少々体術を学んだ程度のルカでは敵わない気がした。

　これは、助かったのか……？　

　もしこの男に捕まったとすれば、たとえ女と油断させたとしてもうまく逃げられないかもしれない、そうルカに思わせた。

「無理矢理とは感心しないなあ？　軍人ってのは国を、ひいては住民を守るもんだろ？　ん？　違ったか？」

　落ち着いた声だが、確実に軍人崩れどもを威圧している。ゆったりとした立ち姿が、返って迫力があった。見ればきっちり着こなした軍服は礼装だろう。略綬も多く、階級章を見て、ルカはぎょっとした。

　……佐官……大佐……！？

　なぜそんな人間が、こんな小競り合いに顔を出すのだ。
　同じ軍人でも、寄せ集めで徴兵されたような男どもと彼とでは、格が違いすぎる。

「無理矢理だなんてとんでもないっすよ！　ほら、異国の女ですぜ、俺達がちょっと町の案内を買って出ようと……」

　あからさまに嘘くさい言い訳をする軍人崩れと、それに高速で頷くその仲間を、ルカは冷めた目で見そうになるのを堪えて、強ばった顔を作り首を横に振ってみせる。そして縋るように、やってきた軍人を見た。
　困っている演技がバレるわけにはいかないので、ルカも必死であった。