58 / 163
2章
58 1-9
しおりを挟む訪ねてきた正臣を招き入れると、ルカはすぐさま自室へと案内した。
予定通り、偽姉と乳母は近所のお茶会で家にはいない。
「母君と姉君は?」
「今日はお茶会でいません」
にっこりと笑ったルカに、正臣は眉を顰めた。
「……仮にも若い娘で通しているお前が男と二人っきりなど、駄目だろう」
どうやら乳母親子もいると思われていたらしい。どうりで、簡単に頷いてくれたわけだ。
今もルカのことを気にかけてくれていることにささやかな喜びを覚えつつ、ルカはにこりと笑った。
「私は気にしないから大丈夫」
「俺が気にするし、姉君と母君は……」
「知り合いも少ないし、大丈夫じゃないかな」
軽く流していくルカに、正臣が呆れたように溜息をつく。
「お前の評判に傷が付くんだぞ。少しは考えろ。で、お前の家族がいると思って手土産を持ってきたんだが……」
その包み紙には、店のロゴが押してある。ルカはそれに見覚えがあった。
「もしかして、おいしいと噂の上生菓子? 食べてみたかったんだ。ありがとう!」
ルカはどちらかというと甘味が好きな方だ。わざわざ買いに行くほどではないが、あれば食べるし、近くに行けば買うこともある。
いろんな覚悟もあって気がそぞろなせいか、いつも以上に浮かれた様子になっていた。
「正臣さんは顔が広いから、いろんなおいしいところ知っているんだろうね。今食べる?」
「いや、いい。出されれば食べるが、それほど好きというわけでもない」
ルカの気持ちも知らず、正臣は相変わらず落ち着いた物だ。
それが少し腹立たしい。
ルカがこんなにも落ち着かないのに、正臣はルカのことなど全く意識してないのだ。家の中に二人きりだというのに。
「正臣さんっ」
こっちを意識してもらいたくて思わず声を上げた。「何だ?」と振り返った正臣と目が合った瞬間、衝動的に言ってしまった。
「好きです」
いつ言うかタイミングを見計らって……と思っていたのに、意識されない悔しさから、思わずの失言だ。
しかもすねた口調で、自分を見てと言わんばかりの、子供じみた様子で。
しかし、正臣は少し首をかしげてから、にこりと笑った。
「ああ、以前お前が好きだと言っていたから、それにした」
それは嬉しい、だが、そうじゃない。
言葉の足りない告白に返ってきたのは、当たり障りのない言葉だった。
失言が取り返せたと思えたら良かったのかもしれない。けれどルカには、正臣が取り違えて当然だったその返事を、「はぐらかされた」と感じてしまった。
それがひどく腹が立って、感情にまかせて訴えた。
「私が好きと言ったのは、正臣さんのことだよ!」
言ってからしまったと思ったが、今更だ。このまま突き進むしかない。ルカは正臣の元に歩み寄り、その手を取った。
意を決して正臣の答えを待つルカに、彼は静かに微笑んで頷いた。
「ああ、俺もお前が好きだぞ」
そこにあったのは、明らかに子供に向けた微笑みであり、言葉だった。最近の正臣の態度は、基本的にこの状態であった。
30
あなたにおすすめの小説
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
男前受け
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
「推しは目の前の先輩です」◆完結◆
星井 悠里
BL
陽キャの妹に特訓され、大学デビューしたオレには、憧れの先輩がいる。その先輩のサークルに入っているのだが、陽キャに擬態してるため日々疲れる。
それを癒してくれるのは、高校で手芸部だったオレが、愛情こめて作った、先輩のぬいぐるみ(=ぬい)「先輩くん」。学校の人気のないところで、可愛い先輩くんを眺めて、癒されていると、後ろから声を掛けられて。
まさかの先輩当人に、先輩くんを拾われてしまった。
……から始まるぬい活🐻&恋🩷のお話。
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる