敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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2章

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 訪ねてきた正臣を招き入れると、ルカはすぐさま自室へと案内した。
 予定通り、偽姉と乳母は近所のお茶会で家にはいない。

「母君と姉君は?」

「今日はお茶会でいません」

 にっこりと笑ったルカに、正臣は眉を顰めた。

「……仮にも若い娘で通しているお前が男と二人っきりなど、駄目だろう」

 どうやら乳母親子もいると思われていたらしい。どうりで、簡単に頷いてくれたわけだ。
 今もルカのことを気にかけてくれていることにささやかな喜びを覚えつつ、ルカはにこりと笑った。

「私は気にしないから大丈夫」

「俺が気にするし、姉君と母君は……」

「知り合いも少ないし、大丈夫じゃないかな」

 軽く流していくルカに、正臣が呆れたように溜息をつく。

「お前の評判に傷が付くんだぞ。少しは考えろ。で、お前の家族がいると思って手土産を持ってきたんだが……」

 その包み紙には、店のロゴが押してある。ルカはそれに見覚えがあった。

「もしかして、おいしいと噂の上生菓子? 食べてみたかったんだ。ありがとう!」

 ルカはどちらかというと甘味が好きな方だ。わざわざ買いに行くほどではないが、あれば食べるし、近くに行けば買うこともある。
 いろんな覚悟もあって気がそぞろなせいか、いつも以上に浮かれた様子になっていた。

「正臣さんは顔が広いから、いろんなおいしいところ知っているんだろうね。今食べる?」

「いや、いい。出されれば食べるが、それほど好きというわけでもない」

 ルカの気持ちも知らず、正臣は相変わらず落ち着いた物だ。
 それが少し腹立たしい。
 ルカがこんなにも落ち着かないのに、正臣はルカのことなど全く意識してないのだ。家の中に二人きりだというのに。

「正臣さんっ」

 こっちを意識してもらいたくて思わず声を上げた。「何だ?」と振り返った正臣と目が合った瞬間、衝動的に言ってしまった。

「好きです」

 いつ言うかタイミングを見計らって……と思っていたのに、意識されない悔しさから、思わずの失言だ。
 しかもすねた口調で、自分を見てと言わんばかりの、子供じみた様子で。
 しかし、正臣は少し首をかしげてから、にこりと笑った。

「ああ、以前お前が好きだと言っていたから、それにした」

 それは嬉しい、だが、そうじゃない。
 言葉の足りない告白に返ってきたのは、当たり障りのない言葉だった。
 失言が取り返せたと思えたら良かったのかもしれない。けれどルカには、正臣が取り違えて当然だったその返事を、「はぐらかされた」と感じてしまった。
 それがひどく腹が立って、感情にまかせて訴えた。

「私が好きと言ったのは、正臣さんのことだよ!」

 言ってからしまったと思ったが、今更だ。このまま突き進むしかない。ルカは正臣の元に歩み寄り、その手を取った。
 意を決して正臣の答えを待つルカに、彼は静かに微笑んで頷いた。

「ああ、俺もお前が好きだぞ」

 そこにあったのは、明らかに子供に向けた微笑みであり、言葉だった。最近の正臣の態度は、基本的にこの状態であった。

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