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3章
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しおりを挟む忙しくて彼女の元に通えない日が続くと、時折、激しい揺さぶりがやってくる。
彼の声が耳の奥でよみがえるのだ。
『ルカ』
それは優しい、懐かしい声だった。記憶のままの、愛してやまない正臣の声だ。
けれど、ルカは耳を塞いだ。
『ルカ』
繰り返される呼び声に、ルカは「うるさい」と心の中で叫んだ。
ひどく感情が落ち込んでいるときによみがえる正臣の声は、ルカを底のない絶望に引きずりおろしてしまう。押しつぶされそうな苦しさを堪えながら、必死に耳を押さえつけた。
なのに、耳を塞ぐ手はなんの役にも立たない。
『バカなやつだ』
またひとつ、耳の奥で彼の声がよみがえる。
少し困ったような笑みを浮かべる正臣の姿までもが浮かぶ。
目を閉じても、彼の姿が消えない。
うるさい。消えろ。
湧き上がる彼の声を掻き消すように、心の中で怒鳴り続ける。
『ルカ』
うるさい。
『ルカ』
うるさい。……うるさいうるさいうるさい!!
待ってないくせに……!! 私を、待ってないくせに……!!
『ルカ』
私を呼ぶな!! 消えろ!! あなたが捨てたくせに!! あなたが私を切り捨てたくせに!! 私を信用してくれなかったくせに!! あなたが……!! あなたが……!!
消えろ。消えろ!! 消えろ!! 消えろ!!
消そうとしても消えない声が耳の奥で響く。ルカを呼ぶ正臣の声が。目を閉じればルカを見つめる優しいまなざしが。次から次へとよみがえる。
どれもが煩わしくて、なのに、ルカの心をつかんで離さない。
感情が落ち着いているときはいい。苦しいながらも、愛しさを噛みしめることが出来る。
けれど、ただ絶望感に囚われるときがある。そのときは、幸せな記憶さえ絶望の糧となる。何もかもがルカを否定しているような、全てが絶望的な世界に見えてしまう。
彼女の元に通うようになって、記憶の中の正臣は元の優しい正臣の姿に戻った。ルカの恐怖が作り出した、嘲笑う正臣はいなくなった。
けれど、それもまた、ルカにとっては苦しみだった。
正臣の声が、優しくルカを呼ぶのが辛かった。会えないのに。会いに行くことさえ出来ないのに、ルカを惑わすのだ。
未だ愛しさが薄らぐことがなく、ただ会えない絶望が増した。信じてくれなかった癖にと怒りが込み上げた。私を捨てた癖にと、正臣への憎しみすらわいた。
私を待たないといった癖に、記憶の中の正臣が、優しくルカを呼ぶ。
会えないのに、そんな記憶はいらないのに。辛いだけなのに。
思い出さなければ、こんなに苦しまなくてすむのに。
ルカは、優しかった正臣のことさえも忘れたいと願うようになっていた。
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