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3章
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しおりを挟むそうして様子を見続けて更に五年。東国からの強い拒絶は、とうとうなくなった。
ルカの父が、亡くなったという知らせが届いたあとのことだった。
東国のフォンタナ商会を継いだのは、東国の人間だ。ルカがいた当時から東国商会にいた男だ。西国商会に、東国商会が組み込まれる懸念が薄まったために、規制が緩んだのだろう。
父の訃報を受けて、乳母のマリカから東国に渡ると連絡を受けた。マリカはもう七十近い高齢。渡航は厳しいのではと心配したが、奥様を一人に出来ないと、決意は固かった。もう、西国に帰らない覚悟をしているのだろう。
ルカは彼女に「母を頼むと」見送った。
「母さんの方が奥様のお世話になるような気がするけどね」
アンナはそう言って笑った。
確かに母の方がいくらか若いしパワフルだ。だが、それでも心を寄せられる相手がいるというのは心強いだろう。
「送り出して良かったの?」
「奥様を支えるのが、母さんの生きがいだもの。やっと覚悟を決めたんだから、余生ぐらい思い通りに生きたら良いと思うの」
「……そうだね」
アンナ達は、もう商業都市で生活基盤が根付いてしまった。今生の別れと覚悟して送り出したのがわかった。
「レンは? 東国に帰りたがっていたじゃない」
ルカもせめて母には会いたいと思ったが、けれど、今度はルカの方の身体が空かなくなっていた。
「ああ。帰るつもりだ。でも、今じゃない。今だと一時的にしかとどまれない」
「あなたも、あの国が帰る国なのね」
「ああ、そうだね」
現状で東国に戻ったとしても、そう長くは滞在できない。正臣を探す時間があるかどうかさえ危うい。
東国に向かうとなれば、そこでの仕事を背負うことになる。往復の道のりだけで二ヶ月は見なければならない場所だ。東国での仕事を背負った上で、彼に会いにいく時間をとらなければならない。となると、ルカの身を年単位で空ける必要があった。けれど、そこまで自由がきく体ではなくなっていた。
ルカの立場上、仕事を置いていくことができないのだ。今抱えている仕事は、ルカが主軸とならねば、思うように進まなくなることは間違いない。それを捨て置いて……というのは無理だった。
東国へゆくための足場固めにも、その仕事をやり遂げることが必要だったのだ。西国商会と東国商会との関わりを今後も確実に繋いでおくためにやらなければならないことだ。
西国商会にとって東国の市場自体はさほど大きくない。鎖国状態の国との交易を嫌がる者が担当すれば、やめることにもなりかねない。ルカがこの立場から離れても、次の責任者が変わらぬ貿易が続けられるように整えておきたい。
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