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後日談
番外編5 ある老人の話3
しおりを挟むある日、一条のおじいちゃんを見かけた。急に老け込んだな…なんて思わず考えて、もう八十ぐらいだろうと気づいて、当然だと思い至る。このあたりで一番の長寿じゃないだろうか。未だ背筋が伸びて歩いているのがすごい。
一人でいるのは珍しいなと思う。いつもはあの西国紳士と一緒なのに。彼と一緒のときはもっと若々しく見えていた。
……そんな先日のことを思い出したのは、おじいちゃんが亡くなったと噂で聞いたせいだ。
同居していたという西国紳士が亡くなって、追うようにみるみる身体を弱らせて、半年を過ぎたあたりであっけなく……と。
ああ、あの日見たおじいちゃんが力なく見えたのは、西国紳士を亡くしてたせいなんだ。
また、ひとりになってたのか…そう思うと切なくて、けれど、今度はあまり永く待たなくてすんだのかなどと、不謹慎なことを考える。
きっとまた、あの西国紳士がおじいちゃんを迎えに来たのだ。それできっと二人で旅立ったのだ。
わざわざ参るほど親しくはない。そんなに大好きだったというわけでもなく、少し世話になっただけのおじさんでしかない。家も知らない。
ただ、なんとなく心に残っているという程度だ。
だから、なんとなく。ほんとうに用事のついでになんとなく、ある日の寺からの帰り道、脇道にそれて桜の木の元へ行った。青々とした葉のしげる桜を見上げる。
一人で待っていたおじいちゃんの姿を思い浮かべれば、当然のように隣に並ぶ西国紳士の姿も思い浮かぶ。そんなの、見たことないけれど。だって西国紳士が来て以来、桜の元でおじいちゃんを見かけなくなったから。この十年ほどは、おじいちゃんを見かけたのは、西国紳士と二人で楽しげに散歩している姿だ。同居していたからかいつも一緒にいて、そのせいで、一条のおじいちゃんというと、西国紳士とも一緒に思い浮かんでしまう。ほんとうに仲の良い二人だった。
ふふっと思わず笑いがこぼれる。
そうだ。もう、おじいちゃんは、ひとりじゃないんだ。
亡くなったのに、良かったというのは、変かもしれない。
けれど、最期まで仲の良かったふたりが今も一緒にいるのだと思うと、きっと、悪くない旅立ちだったんじゃないかなと思うことにした。
瞼の奥に、満開の桜を見上げて穏やかに笑い合っている二人の老人が浮かぶ。
きっと、今も二人は、そうしている。
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とても幸せで暖かなお話に涙が止まりませんでした。2人が最期に12年の時を共に過ごせてよかった。
細かくリアルな心情描写が素晴らしかったです。30年を無為に過ごすのではなく、30年があったからこそ見えてくる相手の想いに感動しました。
素敵なお話をありがとうございました。
ありがとうございます。そのように感じていただけて、とても嬉しいです。
心情描写は、描き込みすぎと言われることもあるのですが、どうしても好きで書き込んでしまいます💦
なので、こんなふうに好意的に受け止めていただけると、とても嬉しいです。
離れていた時間が決して無為なものではなかったと、二人なりの幸せを感じ取ってくださり、ありがとうございます。
感想失礼します。
すんごい感動しました。
もう涙ボロッボロで目が充血しちゃってます😭
今までで読んだノベルで1番泣いて感動したと思います。まさかBLでこの感動を読むとは思いませんでした。レンさんと正臣さんのロマンティックだけどシリアスで、予想した展開より全然いい意味でズレて、ノベルとでしたが本当に居たんじゃないかと思うほどでした。描写や心情がとても細かく書かれていて、人間関係も分かりやすかったです。最後まで読み終わりこれ以上ないほどの満足感に満たされています。2人の純愛というのか、紆余曲折のある恋にとても心が動かされました。これから何度も読み返しもっと理解を深めてまた浸りたいと思います。お2人の永遠の幸せを信じて。
作者様も体調にはお気をつけください。
とても良い作品をありがとうございました。
感想失礼いたしました。
ありがとうございます。
こんな素敵な感想をいただけて、とても嬉しいです。
いい意味とおっしゃってくださいましたが、良くも悪くも、読みはじめの印象から、後半の展開の印象は大きく変わります。
だからこそ、後半の展開は合わないと思われる方も、多くらっしゃることでしょう。それもまた、仕方のないことです。
ですが、それをよかったと言っていただける、面白かったと言っていただける。そんな読者様との出会いは本当に得難いものです。
こうして感想をいただけると、私の書きたかったものを受け取ってくれる人がいるんだと感じられて、とても幸せな気持ちです。
レンの心に寄り添って読んでいただけたんだなと、とてもとても、うれしいです。
こんな嬉しい感想を、ありがとうございます。
とてもしあわせなお話でした。めぐり逢えたことに感謝します。あまりにも年月が経つので途中色々と想像して慄いたものですが本当に、本当に良かったです。番外編でさらに涙腺にきましたが、その後などが拝見できてとても嬉しかったです。またゆっくり読み返そうと思います。
番外編が、蛇足でなかったのでしたら、うれしいです。
3章の展開と言いますか、経過は、恐らく期待される展開とは大幅に違っていたのではないかと思います。意図して書いた物とはいえ、そこで読むのをやめられる方も多いのではと思っているので、最後まで読んでいただけて、そして、よかったと感想を頂けて、とてもうれしいです。
ありがとうございました。