マッチョサキュバス♂はご飯が食べたい

水瀬かずか

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13 ……わかった。お前にやるよ

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 眠っている彼を見つめていた。
 正体がバレているというのに、随分とのんきなことだ。
 さすがにもう熱は治まって、くすぶりは残っている物の、よほど刺激しない限りはもう今日はいいというぐらいに疲れ果てている。
 すっかりと頭は冷えていた。

 淫魔だと、彼は言った。落ちこぼれの淫魔だと。
 一年以上精気を得られずに、人との触れ合いだけでなんとか生き延びてきた淫魔。それだけ聞けば、確かに落ちこぼれなのだろう。
 そんな小さな精気で何年も生きられるのなら、その淫魔は相当弱いのだとも、考えられる。
 だが、そうなると矛盾が生まれる。
 情を交わす合間に話した会話で分かる、1年保ったのは、触れ合いと食事だけでは無理なのは間違いないだろう。だとすればそれまで溜め込んでいた力で食いつないでいたと考えるべきだ。
 ……となると、こいつの力の容量が大きすぎる。
 
 食い過ぎれば食べられなくなる。人間も魔性も同じだ。
 魔性も、取り入れられる力を、だんだんと増やして力をつけてゆく。
 つまり、取り入れられる力と使える力は比例する。
 散々抱き合って、これで数年生きられるとうれしそうに笑った彼の様子があまりにも無邪気で、見過ごしそうになるが、その時点でおかしいのだ。
 相手の命を奪うわけでもなく、性交だけで数年分の精気に変換できるというのは、異常としかいいようがない。もっとも、数年というのは生きるだけならという前提で、人間に化けて生きていくというのなら、人間の食事やスキンシップを取りつつ、せいぜい数ヶ月がいいところだとも言っていたが。そうだとしても、効率がよすぎる。
 更には、ほんのわずかな力で人間に化けて生きていけることも異常であるし、更には数年分の糧を身体に溜め、まだ満腹にはほど遠いというのも、恐ろしい。

 満腹になったことがないという彼に、「だから副団長、これからも下さい」とねだられて、答えに窮した。
 力のない魔性が、必要な精気を無駄なく効率よく使って小さな糧で生きて、いくらでも力を溜められるのか。
 否だ。
 力がありすぎるから、少量の糧で生きていけるのだ。もしかしたらそれは仮死状態のようなひっそりと命を繋いでいるだけの生き方なのかもしれない。それでも、その手段を持っているということだ。

 似たような存在を、私は知っていた。
 ……魔王だ。
 文献でしか見たことがないが、そろそろ発現してもおかしくないと言われている、魔性の王。溢れる人の悪意を糧とし、ひたすら己の力を溜め込んでゆき、最後は強大な魔性の王となるのだという。

 こいつは、好意を糧にしていると言ったが、魔王は悪意や人の苦悶を糧とする。そういう意味では真逆とも言えよう。
 だが、彼はいくらでも食いだめができる。僅かな生気ですら生きていける、僅かな力を何倍もの力に変えて発揮できる、そんな膨大な力を持つことができる。
 好むものの方向性こそ真逆だが、その性質はまさしく魔王のものに思えた。

 ぞわりとした恐れがこみ上げる。
 見つめる先で、彼は目を覚ますと嬉しそうに私を見て、甘えるようにぐりぐりと頭をこすりつけて抱きついてきた。

「力をだいぶ貯めれました!」

 ニコニコとしながら嬉しそうに彼が報告してくる。

「たくさんためたら、色々できるだろう? ……お前は、これからどうしたい?」
「これからも副団長といたいです! 俺が副団長守れるようになります! だって、俺の力の源は副団長ですから、全部還元しちゃいますよ!」

 だから褒めてくださいと言わんばかりのキラキラした眼差しに、こらえきれず声を上げて笑う。

「……そうか。私を守るか」
「はい!」

 ワシャワシャと頭を撫でる私に、嬉しそうに彼がうなずく。

「……じゃあ、私が死んだら、お前はどうする?」
「え、そんなことさせません!」

 させませんって……ふっと笑うと、本当ですよ! と、言い募ってくる。

「副団長から精気もらえたんで、今の俺、滅茶苦茶凄くなってますよ!」
「老衰や病死ならお前も無理だろう?」

 彼ははっとして、それから口を噤んだまま考え込んだ。

「……その時は……副団長の体、俺がもらって、いいですか……?」
「もらう……?」
「俺の中に取り込んで、一緒になりたいです……それで……副団長からもらった精気が尽きて、俺が死ぬまで、旅します。うーん……。山奥で副団長のこと考えながら、一人でいるのもいいなぁ……」
「……そうか」
「考えたくないですけどね。……山奥と旅と、どっちがいいですか?」

 泣き笑いでそう言う彼の頭をぐしゃぐしゃとかきまわす。

「……わかった。お前にやるよ。好きにしろ」

 薄く笑いながらそう呟くと、彼がぱっと表情を明るくする。

「私だけなんだろう?」
「はい!」
「私がお前にくれてやってもいいと思える生き方を、これからもしてくれ。私にお前を討伐させるようなことをするな」
「もちろんです! 絶対、悲しませることしません! ……だから、ずっと一緒にいてくださいね」

 捨てたらその限りではない……、深い闇の瞳が、私にそれを悟らせる。
 懇願するようでいて、その実私を絡め取ろうとしているのだと、今はそう感じる。
 それが意識的だとは思わない。彼はもっと単純だ。思う通り、望むがままに動いているに過ぎない。
 ただ、その単純さこそが、この魔性を、無害な存在にするのも、人間の世界を滅ぼす魔王の種にするのも、私次第なのだと、突きつけてくる。

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