マッチョサキュバス♂はご飯が食べたい

水瀬かずか

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後日談

Ever After

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 そろそろ力が尽きる。魔性の姿で、じわじわと消えるのを待つだけの日々。
 自分とあの人の思い出だけで構成された、閉じられた世界で、愛しい記憶をたどりながら己の消滅を待つ。
 ここは、誰にも邪魔されることのない小さな箱庭だった。
 そのはずだった。
 
 コトリと扉を開ける音がした。それは、閉じられた世界がひび割れたように、聞こえた。

「……間に合ったか?」

 聞き覚えのない声がした。若い男のものだ。
 ぶわりと総毛立つ。
 何者だ。
 俺とあの人の家に、他人が踏み込むなど許せない。
 力が残っていればこの突然の客人の訪問を楽しめただろう。それか、ここでない場所であれば問題はなかった。
 けれど、今はだめだ、ここはだめだ。力のない自分では、あの人が残したこの場所を守れない。
 あの人と二人きりで過ごしたこの場所を誰にも触れさせたくない。

 あと一年分あるかどうかの精気。ここで使い切るのも運命か。
 侵入者を排除するために、力を振り絞った。

 昔作った小さな結界は、土地の魔力を使ったもので、俺の力なくしても動き続けるものだ。
 それを抜け、ここにたどり着く時点で、並の者ではない。
 何が目的だ。俺の力か、存在か。
 他者にこの場を触られるなど許しがたい。
 守る力すらなくなっている自身が憎い。
 己が殺されるだけならいい。だがここを汚すのは許せない。
 どうしようもない怒りがこみ上げていた。
 誰も来るはずのないこの森の奥の小屋に、どうして踏み込んだ。
 だが、起こってしまったのなら、それを問うたところで意味がない。
 このまま息絶えるもさだめなのか。

 なけなしの力で侵入者を排除しようと動きかけて、息を呑んだ。

 一人の男がいた。見知らぬ男だ。
 会ったことも、見たこともない男だ。

 けれど、目にした瞬間、自分の中の殺意が霧散した。
 何もかもが、どうでも良くなるほどの衝撃が、そこにはあった。
 俺は、その気配を、よく知っていた。

「・・・・?」

 震える声であの人の名前を呼んだ。

「ああ、遅くなった」

 その見知らぬ男は困ったような笑みを浮かべた。ゆっくりと歩み寄ってくるその姿は、どれだけ見ても、やはり見知らぬ人間だ。
 けれど、その声の抑揚を知っていた。その笑みを知っていた。
 その立ち姿だけで伝わってくるのだ。
 俺は、この人を知っている。
 誰よりも親しんだ空気がそこにある。

「・・・・!!」

 何よりも求め続けていた人だ。
 まともに動けなくなっていた体が、動いた。
 あの人の名を叫んだ。
 まだこんな力が残っていたのか。
 駆け寄って抱きついた俺を笑いながら抱きとめた彼が「待たせて悪かった」と、強く抱きしめた。

 触れ合う場所から流れ込んでくる精気が体の隅々に満ち渡る。
 何よりも親しんだ、この体に馴染んだ、優しい優しい、この世で一番大好きな精気だ。

「ずいぶん、痩せ細ってるじゃないか。自慢の筋肉はどうした」
「……仕方ないよ。だって、二十年食べてないから……」

 抱きついたままグリグリと顔を首になすり付ける。
 彼だ、彼だ、彼だ……!!

「……記憶の通り、きれいな顔だな」

 俺の顔を包み込んで、顔を上げさせられると、知らない顔が、あの人そっくりの笑顔を浮かべている。
 へニャリと笑うと、久しぶりに取り入れた精気に反応して、お腹がぐぅとなった。

「・・・・、おなかが、すいた」

 大好きな大好きなあの人が、ここにいる。うれしくてうれしくて、体がポカポカする。これからも、ずっとそばにいたい。だから、

「ごはんください」

 哀れったらしくねだると、彼が破顔した。

「もちろんだ」

 ぎゅうっと彼が俺を抱きしめる。
 愛おしい、可愛い、良かった、間に合った。
 彼の感情が、精気となって次から次へと流れてくる。
 おいしくておいしくて、けれど、腹の足しには全然ならなくて、久しぶりの食事にぐうぐうと腹はなり続ける。
 俺を抱きしめる彼がおかしそうに笑う。

「なら、淫魔らしく誘ってもらおうか」
「じゃあ、ベッドに行こう!」

 コツンと額を寄せ合って、二人笑いあうと、もう一度俺は彼を強く抱きしめた。







 They lived happily ever after.
(彼らはいつまでも幸せに暮らしました。)







 * * *

 ここに、魔王に関する文献がある。
 それを紐解くと、千年より昔、この世界には魔王がいた事が綴られてある。
 魔王とは、討伐をしても百年前後で復活すると言われていた魔性の王の存在だ。
 しかしある時を最後に魔王が現れなくなった。
 今となっては実在していたかも疑う者もおり、おとぎ話の中の存在として扱われることもある。
 魔王が滅びたという原因は諸説あった。
 最後の討伐で魔王の核のような物が破壊されたのでは、力が分散したのでは、ただの伝説だったのでは。
 消えた原因も実在もわからない魔王という存在は、今もまだ人々の好奇心を掻き立てる。
 しかし実在したことを示す有力な情報は多数あるものの、詳しいことは今もなお、わかっていない。
 確かなことは、千年前の文献を最後に、魔王は、一度たりともこの歴史に名を刻んだことはない、という事実のみである。



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感想 7

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みんなの感想(7件)

鈴
2023.10.05

淫魔くんが可愛くて、副団長さんが意地悪かっこよくて、ふたりの幸せな姿にたまらず泣いてしまいました。副団長さんの可愛いで埋め尽くされた気持ちが温かくて、淫魔くん幸せだろうなぁと思うと胸が温かくなりました。
とても素敵な物語をありがとうございました✨

2023.10.06 水瀬かずか

ありがとうございます。
この話は読み終えた後に、しあわせになったんだな、よかったなって思ってもらえるといいなと思っていたので、このように言っていただけて、とてもうれしいです!

解除
シノア
2023.07.16 シノア

最高です
ハッピーエンド、尊い!
この淫魔可愛すぎるし

2023.07.16 水瀬かずか

ありがとうございます。
とても嬉しいです!

解除
ホープ
2023.06.17 ホープ
ネタバレ含む
2023.06.17 水瀬かずか

まさしくそんな感じで……!!
サブタイトルのEver After……それからいつまでもってことです。
色々想像していただけたら嬉しいなぁ……という含みを持たせたかったので、こんな風に、読者さんの想像を聞かせていただけて、とてもうれしいです!
何度も繰り返す中、色々あるのだろうけど、でも、まだ一緒に……っていうの、とても好きなので、同じようにそこをいいと思っていただけて、本望です。
ありがとうございます!

解除

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