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上司と部下の出した結末
1 エスコートは突然に
しおりを挟む帰ろ、帰ろ。さっさと帰って、今日は酒でも飲むんだ。今日は金曜だ。明日に残っても問題ない。がぶ飲みだ。何買って帰ろうかな。あてに食いもん買って、それで、明日用の水と、軽食と、それから……。
会社を出て駐車場までの道のりをぼんやりと進む。
話がどうなるか分からないから金曜まで置いたオレ、ほんと天才。泣きながら酒飲んで、二日酔いにでもなって、頭がんがんさせながら篠塚のことを考えない休日を過ごすんだ。
オレが辞めると引きつぎがちょっとめんどいかもだけど、そろそろ部署内にも引き上げたいヤツもいるし、オレ一人いなくなってもちょっとばたばたするだけさ。
幸い金はある。老後一人の予定だからそれなりに蓄えていた。十年程度なら余裕で引きこもれる。
辞めた後は投資でもしながら稼げるか試してみるか。それとも仕事探すか。
まあ、それは追々考えるさ。とりあえずは引き継ぎ期間の数ヶ月、篠塚と顔をつきあわせるのがきついってくらいで。
篠塚はオレの性癖をばらすような真似はまずしないだろう。仮にしたくてもお互い弱み握り合ってるわけだし。
……ただ、オレのことを気持ち悪いって目で見られるのは、きっついなー。出来ればそのプレイは、がんがんに突き上げられながらお願いしたい。
だらだらと、これからのことを考えながら、会社から少し離れた駐車場へとぼとぼと向かう。
「……課長!」
突然後ろから腕を掴まれた。
「……どうした」
びびりすぎて、思いっきり低い声が出たわ! べ、別にオレ、怒ってなんかないんだからな!
「は……っ、話し、がっ」
オレはない!! もうない!! ないったらない!
でも走ってきたのだろう、肩で息をしながら息継ぎの合間の咳き込むようなしゃべり方になっているせいで悲壮感が半端なく、腕を振り払うのも躊躇われる。
なんでお前が悲壮感たっぷりなんだ。秘密の性癖暴露して、泣きたいのはむしろオレの方!
「……今日話したことをゆっくり考えろ。話しは週明けにした方が整理が付くだろう。今日は帰れ」
無理だから! ほんっとオレ、無理だから! 今は無理ー!
「……分かりました。じゃあ、俺の部屋に帰りましょう」
「ああ?」
なんでそうなる。オレの話聞いてた? ねえ、篠塚君、その出来すぎる頭をもうちょっと働かせて?
ホントなんで腕掴まれてんの。ちょっと情報整理させろ。
篠塚に腕を掴まれたまま、てくてくと惰性で進む。
え? お前は家に帰るんだよな。そう言ったよな。え? オレ連れて?
……意味わからんわ!
なんと声を掛けたらいいか分からず、溜息が出る。かといってオレに篠塚の腕を振り払えるはずもなく、無言で誘導されるままに付いていく。
正直なところ、もう疲れた。
さっきの会社でのやりとりで、オレの持ちうる全気力を使い果たした。オレのライフはゼロだ。これ以上、思ったことを口に出して言えるほどの気力はない。またろくでもないことを口走ったとしても、フォローする言葉さえ出せないだろう。
やばいな……でも言うべき事はもう言ったしなぁ……たぶん。後はお互い気持ちの整理をして、基本はオレが辞める方向で話を進める。もし可能なら二人また一緒に働ける方向で……それはさすがに無理か。
オレが辞めても篠塚が耐えられない可能性もあるし、そう考えると結果的に二人ともやめる可能性もあるのか。それはちょっと会社は大変になりそうだな。
だが……最終的にはこの三択の内のどれかだ。オレがやめるか、二人ともやめるか、二人とも残るか。篠塚を追い払うようなことだけはさせない。
それが全てで、これ以上話したいといわれても。
あれ以上オレに言えることは、ないんだもんなぁ。言えといわれても、もう無理だ。篠塚の気持ち次第だ。
腕を掴まれたまま歩き続けて、何度目かの溜息をつく。
「……篠塚。離せ。逃げたりしないから」
なんでそこで不安そうな顔をするんだよ。オレはゲイだっつってんだろうが。お前に惚れてるって言っただろうが。オレに触ってて気持ち悪くないのかよ。縋るような情けない顔をするな、バカ。
「……じゃあ、手を、繋いでもいいですか」
「アホか」
思わず素で突っ込んだ。
ほんとバカ言うな、繋ぎたいに決まってるだろう。でもな、オレは自覚して二十年性癖隠してたんだよ。オレとズコバコやったお前にカミングアウトしても、世間様にカミングアウトする勇気までは持ってないわ。
なんなんだ、お前、そんなキャラじゃないだろう。子供みたいに途方に暮れたみたいな顔して。いつものふてぶてしいぐらいの堂々とした態度はどうした。なんでオレなんかに……ああ、もう!
もう一度深く息を吐いて、篠塚を真っ正面から見る。
「お前の家に行きゃいいんだろ。逃げねぇよ」
オレの腕を掴んだ手が離れる。寂しいと思ってしまうオレは、バカなのだろう。
くっそう、かくなる上は全世界に向けてカミングアウトか……いや、無理。小市民の自分が悔しい。
篠塚までもが寂しそうに見えるんだが……さすがにそれはオレの願望が見せる気のせいだ。期待しちゃ駄目だ。
「こっちです」
駐車場に着くなりスッとさりげなく腰に手を当ててエスコートされたんだが。
……やだ、篠塚かっこよすぎ!
その動作があまりにもスマートでかっこよくて、困っていたのも忘れて思わずへらりと顔面が緩みそうになる。それを必死に我慢して、うつむき加減にエスコートされる。
それにしても意味が分からない。並んで歩いているのに、未だ腰に手は当てられたままなんだけど。
篠塚の車までたどり着くと、助手席のドアを開けて乗るように促される。
え、なに、この女性をエスコートするかのような紳士っぷり! さすが篠塚、洗練されてる……! 上司のオッサンにもここまでやるのか! 腰を抱いた状態で。かっこよすぎか……!!
が、エスコートがうれしくてうっかりここまで付いてきた物の、乗るわけにもいかず。
「自分の車で行くから」
そもそも、オレにはオレの車がある。
「……後で、ここまで送ってきますから」
引く様子のない篠塚に溜息をつく。
これだからイケメンは……!! 惚れてるっつってんのに、なんで更に煽るかな! ゲイと二人きり、分かってる? オッケー?!
けれど、ドアと篠塚の身体に逃げ道をふさがれ、無理に暴れるほどでもなく、諦めて助手席へと滑り込む。
何だかなー。と思いながら、諦めてシートベルトでもつけてみる。惚れた男に拉致られるのなら、喜んで付いていきますよーっと。
やったね! 篠塚と二人っきりのドライブ!
がんがんにテンションを上げてみようとがんばってみるが、わずかに強ばった様子で無言の篠塚の姿を隣にして、やはり疲弊したオレの神経が、これ以上テンションを上げるのは無理と訴えてくる。
運転を始めた篠塚をちらりと見て、再び諦めて溜息をついた。
ほんと、話って、なによ。
逃げないように、って事なんだろうけど、それにしたってこれはどうなの? え、オレ、惚れてるって言ったよな。そのオレになんでこんな事すんの? え? 遊ばれてる?
……まあ、それでもいいか。篠塚に嘲笑われるのも、嫌われるのも、今更だ。くれる物はありがたく全部受け取るさ。
素の部分を遊ばれて笑われて弄られるのは、きついけどな……。
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