S系攻め様は不憫属性

水瀬かずか

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【番外編4】父の思うところでは

後編

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 そっから先は早かった。
 問題があったとすれば、引き抜きの話が息子に伝わってから、誠悟が家に怒鳴り込んできたぐらいの物だ。
 別に、引き離すわけじゃないから良いだろう。逃げないように引き留めてやると言えば、息子は引きつったように顔を顰めた。どうやら、松永の逃げ癖は今に始まったわけではないらしい。これは息子が執着するはずだと納得した。逃げられたら追いたくなるのは男の性だ。

 松永と一緒に仕事をし始めて、思った以上に掘り出し物だったと言うことを知った。
 あまりにもの使い勝手の良さに連れ回していると、悪友どもに「将来の社長候補か」と笑われた。そういうわけじゃないと躱したが、私が社長だというのに、思い通に動かない悪友どもは、面白がって松永を同じように使いまくった。
 相当な重労働と心労だったのではないかと思うのだが、松永はひょうひょうとしたもので、挙げ句「ありがとうございます、勉強になりました」などとすまして言うものだから、その度胸に、悪友どもが揃いも揃って松永を気に入っていくのを眺めることになった。
 なぜ引き抜きまでしてあんなに連れ回したのかと聞かれ、事実を言うわけにも行かず、誠悟を社長にして、その腹心にしたいと嘯けば、全員が乗っかってきた。
 口は災いの元と言うが、その通りだと思った。
 ここまで使えるのなら、今更切り捨てることなどできない。悪友どもは本気で会社の将来を託すために鍛えにかかっている。そして、それが最も適した存在だと、私自身分かっている。
 松永は、なんとしてでも引き留めておきたい人材となっていた。

 そのうち別れるだろうという安易な考えも、その頃にはなくなっていた。それができない状況になっていたのだから、仕方がないとも言う。
 恐らく息子がこの男を手放すことはない。
 ではどう別れさせるのかと考えて、うんざりした。有用な手がなかったのだ。いくつか案があったが、どれかを行えば、どれかが上手くいかない。
 息子か松永、下手すると両方とも会社に引き入れることができなくなる。そして息子は、松永と引き離すようなまねをすれば、家を捨てかねない。
 詰んだ。
 私個人としては、それでもいいから試してみたい手段もあった。息子なら家を捨てても好きに生きていくだろうから心配はしてない。しかしそれは妻が心配するし、悲しむ。
 にっちもさっちもいかなくなって……諦めた。
 もう、私に都合の良い布陣を敷きつつ別れさせようにも、そのために打つ手がない。

 これは二人の仲を推し進めた方が、万事上手く収まるのではないかと思ったところで、それが最善の策だと気付いた虚しさに、溜息しか出なかった。

 私は、息子の同性愛を後押ししただけか、そうか……。
 遠くを眺めた。
 青空が綺麗だった。

 どちらにしろ別れなかっただろう事を思えば、協力した方がずっと上手く回るだろうと、慰めにならない慰めを自分自身にする羽目となった。

 諦めてしまえば、環境はそろっていた。誠悟をこの会社に引き込む口実ができ、会社と誠悟をつなぐ松永が存在する。
 松永がいれば、息子も必死に働くだろうし、好き勝手やって変な方向に突き進むこともないだろう。この上ない常識人の松永が誠悟を上手く操縦してくれるはずだ。あいつの小うるささは、向こう見ずで自分勝手な誠悟には、ちょうど良い。松永は最近、私のストッパー役に抜擢されているらしく、悪友どもがこれ幸いと私のお守り役に押しつけてくる様子なのが癪に障っていたが、他人事(特に息子相手)となると、大変に都合が良い。息子も松永の正論にやり込められるが良い。

 後は、息子が言い張っている養子縁組だ。
 息子が彼の籍に入るのを許容することは、さすがにできなかった。
 松永の話を聞く限り、今まで関わってくることのなかった松永の親が、今更ちょっかいをかけてくることは、まずないだろう。育った家を離れてから今まで、話をしたのは祖母の葬儀一度きりだという。けれど「絶対」はない。老後に独り身であったなら、その介護の話が回ってこないとも限らない。それに関する金銭を要求されることもあり得る。松永が心配しているのはそこだ。ほぼ大丈夫でも、万が一誠悟に迷惑をかけることがあればと、全力で拒絶している。
 けれど、それでも誠悟は諦めないだろう。

 なら、私の養子になれば良い、と、すぐに思いついた。
 それならば、いつか誠悟が松永と別れ、その後ともに歩む女性と出会ったとしても、松永の存在が誠悟に対して何の枷にもなることもない、と。そして松永を、ギリギリまで会社に引き留めることもできる、とも。
 私は、息子の戸籍に不要な履歴を入れたくなかった。

 私は、睦月君のことを気に入っていた。
 今では下手な女性と結婚するよりかは、松永といる方が息子にとって有益だと思っている。息子が思いがけず人並みの幸せを感じていることも好ましく思っている。相手は世間一般で言う人並みではなかったが。それでも、息子の幸せは、松永と共にあるのだとは認識している。
 二人で幸せになるのもまた悪くないと、今では思っているのも真実だ。少々困難な道を選んだ息子達に、少しではあるが手を貸したいと思っているのも。

 ただ、親心とは、そう簡単に割り切れる物でもないのだ。
 そういった本心は、表には欠片ほども出しはしなかったが、恐らく、誠悟に対して私以上に心を砕いている松永は、私の本音に思い至っていることだろう。
 けれど、彼は私を責めることはない。彼自身が、誠悟に対して身を引いている部分があるのだから。
 彼は、私のために誠悟から身を引くことはない。けれど誠悟のためならば、簡単に身を引くだろう。これまでの彼とのやりとりで、それは確信をしている。
 あれだけ松永に心酔している息子を思うと、少し憐れに思えるほどだ。
 が、それも、それだけ息子のことを思っているが故だ。そんな松永に感謝もある。
 そして息子だけではなく、そんな松永にもまた幸せになって欲しいとも思っている。あのふてぶてしい風体の割に優しすぎる面のある松永を、もう一人の息子のように思う程度には、気にかけているつもりだ。いつか同性結婚が認められたあかつきには、それを受け入れ、心から二人を祝う心づもりがある程度には。この養子縁組はそれまでの心の準備期間だと、自分自身に嘯いた。

 都合の良さを、最善という言葉で隠して、息子にならないかと、提案をした。
 すんなり運ぶとは思っていなかったが、案の定だ。松永の説得には二年を要した。むしろ妻への説得があまりにも簡単だったことに驚いた。
 彼女は少し懐が広すぎやしないかと、戦いた。
 伝えた後、数日後に彼女は、こう言って笑ったのだから。

「あら、だって、あの子の人生ですもの。あの子が幸せになって、真っ当に生きていけるのなら、どういう生き方でも良いじゃない。信頼し合えるパートナーができただけ、上出来よ」
 自分たちより一回りほど下の男を私たちの養子に迎えて、誠悟と家族にしてやりたいと言った私への回答が、これだ。
 妻は、たった数日で、笑ってこの結論を出したのだ。
 彼女は、自分が結婚して幸せだったから、結婚は自ら望んですべき、と思っているらしい。
 見合い結婚も悪くないだろうというと、イヤよと、つんと顔を背けられた。人に言われて結婚して、好きでもない相手のために苦労して我慢するの? ぞっとするわ、などという。望んだ結果の苦労だから我慢もできるし後悔もないのだと。だから、息子が苦楽をともにしたい相手と結婚するのなら、応援するわ、と。

 息子の性格上、早い段階で誠悟が一生独り身であることを覚悟していたらしく、それよりずっと良いわと、軽く言ってのけた。望んで苦労を背負いたいと言うほど、好きな相手となら支え合えるでしょ、と。どこまで本気か分からない理屈をコロコロと笑って言っていた。
 我が妻ながら、おおらかが過ぎる。
「私はその方のことをそんなに知ってるわけでもないし、諸手を挙げてとはさすがに言わないけど、あなたも誠悟も望んでいるのなら、私が口出しをするまでもないわ。何もかも、私なんかよりずっと考えた上で、あなたも誠悟も選んだのでしょう? なら、私が考えるべき大事なことは、誠悟自身の気持ちよ」
 理屈ではそうだが、普通、感情が伴わないだろう……。
「あなたにとって都合が良いのなら、それで納得してれば良いのよ。あなたと私では大事な物が違うのに結論が一緒で良かったわ」
 などと、ニコニコと微笑まれ、「……そうだな」としか言えなかった。
 もし私が誠悟の恋路を全力で邪魔して、妻が誠悟の味方に回っていたらと思うと、ぞっとした。負ける気しかしない。
 ……と、私の心に少々さざ波が立ったぐらいで、私と妻が松永を養子に迎える体制は整った。

 長いような、短いような数年だった。
 なんとか説得して、睦月君が私の息子に収まる頃には、睦月君を説得する自分の言葉で、自分自身が洗脳されてしまっていた。
 つまり、悪くない結末だと思っている自分がいる。それはそれで気持ちが良いと思っているのだから、自己暗示とは、かくも強い物である。
 あれだけ仲が良い姿を見せられたら、本当に今更であるが。誠悟があんなにかいがいしいとは、思いもしなかった。恐らく本人も、自分がそうなるとは予想だにしないことだったろう。
 二人となった私の息子は、今、私の作り上げた会社で働いている。あの二人なら、きっと私よりずっと上手く会社をもりたてていくだろう。それ以上を望むことは、今となっては、特にない。
 まだ彼らの関係は、世間一般では特殊な形の家族である。それ故に襲ってくる苦難はいくつもあるだろう。その苦しみも辛さも、少しでも少なければと願う。二人がこの先を、互いに支え合いながら乗り越えていくことだけを、望んでいる。

 私の愛しい息子達に、幸あれ。 



(おわり)
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