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1章
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オリヴィアのことは気に入っている。
美しく、聡明な女で、私が生誕のときに詠まれたのだという『異世界の娘を妻にするように』という言葉さえなければ、おそらくオリヴィアを妻にしていただろう。
しかし、と思う。
オリヴィアが侍女の今の言葉の通りの行動をしたのかと考えると、一気に気持ちが冷めた。
オリヴィアは決してそのようなことをする女ではないなどと、そのように信じられるほどオリヴィアのことを想ってはいない。
オリヴィアもやはり他の女と同じかと、僅かな落胆を込めて溜息を一つ落とす。
そうしてから、ふいとリツへの部屋の方へと視線を向け、次いでオリヴィアが居るであろう後宮に視線を移した。
そういえば最近は後宮に通うのが面倒で、昼間の僅かに空いた時間はリツと茶を飲み、夜はリツの自慢気な表情を眺めつつ新しく覚えた言葉を聞いてやっていたおかげで、オリヴィアの顔をしばらく見ていないことに気がついた。
何度か手紙が来ていたが、それにも軽く目を通し、適当に何か贈っておけと誰かに命じるだけで、オリヴィアの望むように会いに行くことをしていない。
夜にでも会いに行ってやればいいのだろうかと考え、面倒だなと一蹴する。
そもそも今は忙しい。冬に備えて、様々な案件が上がり、それを捌くだけで精一杯だった。
オリヴィアの機嫌を取る前に睡眠を取りたい。
今望むのは、女の肌ではなく、柔らかなベッドだ。
しかし、面倒は面倒だが、今回のことについて何も口出しをしないのも憚られる。
何しろ、無礼な真似をされたという妻は、あのリツだ。
もしオリヴィアが私の妻だったとして、オリヴィアが他の女に今回と同様な無礼な振る舞いをされたとしても、オリヴィアは既に成人して社交にも優れた女なのだから、そもそも自分で解決するだろうし、今回のように私にそれを告げられても「そのくらいのことは自分でどうにかしろ」と一蹴する。
だが、リツは未だ酒を吐き出すような子供で、言葉も分からず、メイドくらいしか会話の相手がいない、世間知らずの雛鳥だ。
オリヴィアなら陰険な嫌がらせにも微笑ってみせることができるだろうが、リツは本気で怒るか泣くかしそうである。
それでは駄目だ、いいからつべこべ言わずに慣れろ、と言いたいところだが、まだ言葉も話せないというのに、そこまでを望むのはさすがに酷だろう。
女同士の争いに口を出すのは面倒だし、必要無いと思うが、今回のように女(オリヴィア)と子供(リツ)の争いならば一言くらいは出してやってもいいだろう。
仕方ない、夜、部屋に戻る前にオリヴィアにくだらない真似をするなとだけ言ってくるか、と溜息を落とした。
そうして結局、本日こなすべき量の案件を捌いたときには日はすでにとっぷりと暮れ、空の中央に月がぽっかりと浮かぶ頃だった。
望みを言うなら、このまま部屋に戻ってすぐにベッドに潜り込みたいところだが、昼間の件がある。
とにかく早く終わらせるに限る、と後宮の奥にあるオリヴィアの部屋へと足を速めた。
そうして部屋の前まで来たとき、ちょうどオリヴィアの侍女が扉を開けたところだった。
「オリヴィアはいるか?」
その侍女は私の姿を見て目を見開き、けれどすぐに甘く微笑み、膝を折る。
「はい、いらっしゃいます。ですが先程湯浴みを終えたばかりで、準備に少しお時間がかかります故、少々お待ちくださいませ。こちらのお部屋へどうぞ。すぐにお飲み物をお持ちします」
「いい、少し話をするだけだ。呼べ」
「で、ですが、」
一言告げるだけなのに、オリヴィアの身支度が整うまで待つのはあまりにも面倒だ。
疲労のせいもあり、「いいから呼べ」と少し強い口調で告げると、侍女は逡巡してから、「分かりました」と部屋に戻る。
そうしてすぐに、たしかに湯上りらしいオリヴィアが頬を薔薇色に染めてドアを開けた。
「シュヴェルツ様!」
歓喜の声で名を呼ばれ、抱き締められる。
しっとりと濡れた髪や甘い香り、薄い夜着に包まれた柔らかい体に少しも心が動かなかったといえば嘘になるが、自分も甘く名前を呼んでやって抱き締める気にはなれなかった。
それでも突き放すこともないだろうと思い、オリヴィアがなかなか会えずにどれだけ寂しかったか、今日会えてどれだけ嬉しいかを、赤い唇に乗せるのを眺める。
リツなら言葉を覚えても思いつきもしないだろう言葉だな、などと考えた。
そうしてオリヴィアがそれを紡ぎ終わったとき、「ああ、そうだな」と適当な相槌を返してやる。
オリヴィアは熱を惜しむようにゆっくりと体を離し、そうして甘く微笑んだ。
「こんなところで申し訳ございません。嬉しくて、つい。中へどうぞ。すぐにお飲み物を持って来させますわ」
美味だというリディの地方のお酒がありますの。是非それを召し上がっていただきたいのです、と赤い唇が言葉を紡ぎ、部屋へいざなうようにふわりとこちらに背を向ける。
それと同時に私は「オリヴィア」とその名を呼んだ。
すいとこちらを振り向いたオリヴィアは、しっとりと濡れた髪をかきあげ、はい、と応える。
―――柔らかく甘い体、鈴のような声、よく気の回る、面倒でない女。
リツが喚ばれなかったら、おそらく妻にと選んだだろう女を見つめつつ、ゆっくりと息を吐いた。
この女もやはり他と同じだったか、という落胆を僅かに滲ませたその息に、オリヴィアはぴくりと背を震わせた。
シュヴェルツ様、縋るようなその声が耳に届く前に、「しばらくここへは来ない」と言葉を口にする。
「オリヴィア、今日はどこで何をしていた?」
「わたくしですか?そうですわね、少し散歩に―――」
「リツの部屋へ?」
私の言葉に、オリヴィアは一度表情を消して、それでも最後には小さく笑う。
「まあ、奥方様にお聞きになりました?」
「リツに付けている侍女にな」
あら、そうですの、と微笑むオリヴィアは、普段と何ら変わりない。
この女はこういうときも微笑むのだな、と少し感心する。
オリヴィアは「ですが」と眉を顰める。赤い唇がつんと拗ねたようにすぼめられた。
「ですが、シュヴェルツ様が悪いのですわ。なかなかこちらにいらしてくれないから」
少女のようなことを言って、オリヴィアはふいと顔を背ける。
そうしてから、そろそろと顔をこちらに向け、叱られた子供が親に向けるような表情を浮かべた。
「申し訳ございませんでした。奥方様はお怒りでしょうか?明日にでもお部屋へお伺いして謝罪させていただきたいのですが」
わたくし、シュヴェルツ様にお会いできないからといって奥方様に失礼な真似を、と反省した様子のオリヴィアを眺めつつ、そっと息を落とす。
「いや、その必要は無い。リツのことだ。その場で怒り出さなかったのなら、おそらく気にしていないだろう」
というかそもそも、何を言われたのか、何をされたのか、全く分かっていないのではないだろうか。
そう思いつつ、ほっと安堵の表情を浮かべたオリヴィアに「だが」と言葉を押し付ける。
「だが、二度目は無いと思え。いくらリツが―――私の妻が許しても、私は自分の妻への侮辱を許すつもりは無い」
はっきりとそう言って、驚いたように目を見開くオリヴィアに背を向ける。
ああ、これでようやくベッドに入れる。
そんなことを考えた私に、オリヴィアは縋るように「シュヴェルツ様!」と声を投げかけてきた。
面倒に思いながらも振り返り、何だと尋ねる。オリヴィアは私が振り向いたことに安堵したように微笑んで、甘く、切なげな瞳をこちらに向けた。
「今度はいついらしてくださいますか?」
そういうオリヴィアの瞳は潤み、そっと胸の辺りで組まれた指は、思わず握り締めたくなるほど白く細い。
頼りなげな肩、甘く縋る言葉。普段ならそれを愛しいと思ったかもしれないが、それでも、今日は日が悪かったというべきか、ほんの僅かも心が動かない。
それどころか、腹の底から溜息が零れた。
「お前は人の話を聞いていないのか?しばらくは来ない、そう言ったはずだ。今の時期は忙しいと、お前なら理解しているものだと思ったが―――オリヴィア。とにかく今後は馬鹿な真似を控えろ。私をこれ以上失望させるな」
冷ややかに言って、自室に向けて歩き出す。
縋るようなオリヴィアの声が聞こえたが、今度はもう振り返る気にはなれなかった。
オリヴィアのことは気に入っていたのだが、と思いつつ、人の足の上でくうくうと寝息を立てるリツを見下ろす。
寒くないのだろうかと思い、侍女に言って掛布を持ってこさせ、リツに掛けてやると、リツは何やらむにゃむにゃ言いながら掛布をきゅっと掴む。
その手は小さく、オリヴィアの白く細い指とは異なった。
黒い髪、黒い瞳、豊満だとは言いがたい体に、言葉も分からないくせに騒がしいリツは、オリヴィアとは全く違う。
柔らかい頬を突付きつつ、それでも、と思う。
それでも、まあ、リツはリツで面白いと言えないこともない。
ある意味で後宮のどの女よりも扱いが難しく、面倒だが、何の気も使わないでいいのは楽だ。
抱き締めればぎゃーぎゃー騒がれるし、口付ければ噛み付かれるし、甘く囁けば首を傾げられるが、いつか、もう一年もすれば。
言葉を理解すれば。
自分の今の立場を理解すれば。
―――リツは、どうするのだろうか。
美しく、聡明な女で、私が生誕のときに詠まれたのだという『異世界の娘を妻にするように』という言葉さえなければ、おそらくオリヴィアを妻にしていただろう。
しかし、と思う。
オリヴィアが侍女の今の言葉の通りの行動をしたのかと考えると、一気に気持ちが冷めた。
オリヴィアは決してそのようなことをする女ではないなどと、そのように信じられるほどオリヴィアのことを想ってはいない。
オリヴィアもやはり他の女と同じかと、僅かな落胆を込めて溜息を一つ落とす。
そうしてから、ふいとリツへの部屋の方へと視線を向け、次いでオリヴィアが居るであろう後宮に視線を移した。
そういえば最近は後宮に通うのが面倒で、昼間の僅かに空いた時間はリツと茶を飲み、夜はリツの自慢気な表情を眺めつつ新しく覚えた言葉を聞いてやっていたおかげで、オリヴィアの顔をしばらく見ていないことに気がついた。
何度か手紙が来ていたが、それにも軽く目を通し、適当に何か贈っておけと誰かに命じるだけで、オリヴィアの望むように会いに行くことをしていない。
夜にでも会いに行ってやればいいのだろうかと考え、面倒だなと一蹴する。
そもそも今は忙しい。冬に備えて、様々な案件が上がり、それを捌くだけで精一杯だった。
オリヴィアの機嫌を取る前に睡眠を取りたい。
今望むのは、女の肌ではなく、柔らかなベッドだ。
しかし、面倒は面倒だが、今回のことについて何も口出しをしないのも憚られる。
何しろ、無礼な真似をされたという妻は、あのリツだ。
もしオリヴィアが私の妻だったとして、オリヴィアが他の女に今回と同様な無礼な振る舞いをされたとしても、オリヴィアは既に成人して社交にも優れた女なのだから、そもそも自分で解決するだろうし、今回のように私にそれを告げられても「そのくらいのことは自分でどうにかしろ」と一蹴する。
だが、リツは未だ酒を吐き出すような子供で、言葉も分からず、メイドくらいしか会話の相手がいない、世間知らずの雛鳥だ。
オリヴィアなら陰険な嫌がらせにも微笑ってみせることができるだろうが、リツは本気で怒るか泣くかしそうである。
それでは駄目だ、いいからつべこべ言わずに慣れろ、と言いたいところだが、まだ言葉も話せないというのに、そこまでを望むのはさすがに酷だろう。
女同士の争いに口を出すのは面倒だし、必要無いと思うが、今回のように女(オリヴィア)と子供(リツ)の争いならば一言くらいは出してやってもいいだろう。
仕方ない、夜、部屋に戻る前にオリヴィアにくだらない真似をするなとだけ言ってくるか、と溜息を落とした。
そうして結局、本日こなすべき量の案件を捌いたときには日はすでにとっぷりと暮れ、空の中央に月がぽっかりと浮かぶ頃だった。
望みを言うなら、このまま部屋に戻ってすぐにベッドに潜り込みたいところだが、昼間の件がある。
とにかく早く終わらせるに限る、と後宮の奥にあるオリヴィアの部屋へと足を速めた。
そうして部屋の前まで来たとき、ちょうどオリヴィアの侍女が扉を開けたところだった。
「オリヴィアはいるか?」
その侍女は私の姿を見て目を見開き、けれどすぐに甘く微笑み、膝を折る。
「はい、いらっしゃいます。ですが先程湯浴みを終えたばかりで、準備に少しお時間がかかります故、少々お待ちくださいませ。こちらのお部屋へどうぞ。すぐにお飲み物をお持ちします」
「いい、少し話をするだけだ。呼べ」
「で、ですが、」
一言告げるだけなのに、オリヴィアの身支度が整うまで待つのはあまりにも面倒だ。
疲労のせいもあり、「いいから呼べ」と少し強い口調で告げると、侍女は逡巡してから、「分かりました」と部屋に戻る。
そうしてすぐに、たしかに湯上りらしいオリヴィアが頬を薔薇色に染めてドアを開けた。
「シュヴェルツ様!」
歓喜の声で名を呼ばれ、抱き締められる。
しっとりと濡れた髪や甘い香り、薄い夜着に包まれた柔らかい体に少しも心が動かなかったといえば嘘になるが、自分も甘く名前を呼んでやって抱き締める気にはなれなかった。
それでも突き放すこともないだろうと思い、オリヴィアがなかなか会えずにどれだけ寂しかったか、今日会えてどれだけ嬉しいかを、赤い唇に乗せるのを眺める。
リツなら言葉を覚えても思いつきもしないだろう言葉だな、などと考えた。
そうしてオリヴィアがそれを紡ぎ終わったとき、「ああ、そうだな」と適当な相槌を返してやる。
オリヴィアは熱を惜しむようにゆっくりと体を離し、そうして甘く微笑んだ。
「こんなところで申し訳ございません。嬉しくて、つい。中へどうぞ。すぐにお飲み物を持って来させますわ」
美味だというリディの地方のお酒がありますの。是非それを召し上がっていただきたいのです、と赤い唇が言葉を紡ぎ、部屋へいざなうようにふわりとこちらに背を向ける。
それと同時に私は「オリヴィア」とその名を呼んだ。
すいとこちらを振り向いたオリヴィアは、しっとりと濡れた髪をかきあげ、はい、と応える。
―――柔らかく甘い体、鈴のような声、よく気の回る、面倒でない女。
リツが喚ばれなかったら、おそらく妻にと選んだだろう女を見つめつつ、ゆっくりと息を吐いた。
この女もやはり他と同じだったか、という落胆を僅かに滲ませたその息に、オリヴィアはぴくりと背を震わせた。
シュヴェルツ様、縋るようなその声が耳に届く前に、「しばらくここへは来ない」と言葉を口にする。
「オリヴィア、今日はどこで何をしていた?」
「わたくしですか?そうですわね、少し散歩に―――」
「リツの部屋へ?」
私の言葉に、オリヴィアは一度表情を消して、それでも最後には小さく笑う。
「まあ、奥方様にお聞きになりました?」
「リツに付けている侍女にな」
あら、そうですの、と微笑むオリヴィアは、普段と何ら変わりない。
この女はこういうときも微笑むのだな、と少し感心する。
オリヴィアは「ですが」と眉を顰める。赤い唇がつんと拗ねたようにすぼめられた。
「ですが、シュヴェルツ様が悪いのですわ。なかなかこちらにいらしてくれないから」
少女のようなことを言って、オリヴィアはふいと顔を背ける。
そうしてから、そろそろと顔をこちらに向け、叱られた子供が親に向けるような表情を浮かべた。
「申し訳ございませんでした。奥方様はお怒りでしょうか?明日にでもお部屋へお伺いして謝罪させていただきたいのですが」
わたくし、シュヴェルツ様にお会いできないからといって奥方様に失礼な真似を、と反省した様子のオリヴィアを眺めつつ、そっと息を落とす。
「いや、その必要は無い。リツのことだ。その場で怒り出さなかったのなら、おそらく気にしていないだろう」
というかそもそも、何を言われたのか、何をされたのか、全く分かっていないのではないだろうか。
そう思いつつ、ほっと安堵の表情を浮かべたオリヴィアに「だが」と言葉を押し付ける。
「だが、二度目は無いと思え。いくらリツが―――私の妻が許しても、私は自分の妻への侮辱を許すつもりは無い」
はっきりとそう言って、驚いたように目を見開くオリヴィアに背を向ける。
ああ、これでようやくベッドに入れる。
そんなことを考えた私に、オリヴィアは縋るように「シュヴェルツ様!」と声を投げかけてきた。
面倒に思いながらも振り返り、何だと尋ねる。オリヴィアは私が振り向いたことに安堵したように微笑んで、甘く、切なげな瞳をこちらに向けた。
「今度はいついらしてくださいますか?」
そういうオリヴィアの瞳は潤み、そっと胸の辺りで組まれた指は、思わず握り締めたくなるほど白く細い。
頼りなげな肩、甘く縋る言葉。普段ならそれを愛しいと思ったかもしれないが、それでも、今日は日が悪かったというべきか、ほんの僅かも心が動かない。
それどころか、腹の底から溜息が零れた。
「お前は人の話を聞いていないのか?しばらくは来ない、そう言ったはずだ。今の時期は忙しいと、お前なら理解しているものだと思ったが―――オリヴィア。とにかく今後は馬鹿な真似を控えろ。私をこれ以上失望させるな」
冷ややかに言って、自室に向けて歩き出す。
縋るようなオリヴィアの声が聞こえたが、今度はもう振り返る気にはなれなかった。
オリヴィアのことは気に入っていたのだが、と思いつつ、人の足の上でくうくうと寝息を立てるリツを見下ろす。
寒くないのだろうかと思い、侍女に言って掛布を持ってこさせ、リツに掛けてやると、リツは何やらむにゃむにゃ言いながら掛布をきゅっと掴む。
その手は小さく、オリヴィアの白く細い指とは異なった。
黒い髪、黒い瞳、豊満だとは言いがたい体に、言葉も分からないくせに騒がしいリツは、オリヴィアとは全く違う。
柔らかい頬を突付きつつ、それでも、と思う。
それでも、まあ、リツはリツで面白いと言えないこともない。
ある意味で後宮のどの女よりも扱いが難しく、面倒だが、何の気も使わないでいいのは楽だ。
抱き締めればぎゃーぎゃー騒がれるし、口付ければ噛み付かれるし、甘く囁けば首を傾げられるが、いつか、もう一年もすれば。
言葉を理解すれば。
自分の今の立場を理解すれば。
―――リツは、どうするのだろうか。
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