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ちこくですよ、ぱぱ

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ほんのりと香ばしい香りが漂ってきた。俺は目を覚まし起き上がる。

俺の顔には窓から差し込んで来る、眩い太陽の光が当たっている。温かい。

眩しさに目を擦りながらカーテンを開くと、天に登っている陽の光が体全身を優しく包み込んだ。

心地の良い温もり…よし、これで今日も良いスタートが切れそうだ。

「今日も1日頑張れ、俺」と、自分に喝を入れる。

俺は寝室を後にすると、香ばしい香りのもとへとまだ重たい足を進めた。

「おはようございます、あなた」と、俺の麗しい妻が朝食の支度をしながら微笑む。今日も一段と美しい。

「ぱぱぁ~、おっはよ~!」
「ああ、おはよう」
「あのね、きょうのぱぱの朝ごはんはね、あたしがつくったんだよ!!」と、我が1人娘はえっへんと胸を張りながら俺に告げる。

何て優しい娘だろう。めっちゃ可愛い。可愛いは正義とか言うけど、やはりそうなのだろうか。

俺は妻の麗しさと娘の愛らしさにムフムフと浸りながら、トーストをほおばっていく。

ああ、幸せだ、最高だ、生きててよかった、これぞ人生勝ち組の生き方!と思えるような素晴らしい質の生活だ。

トーストを食べ終わり、自分の部屋でスーツに着替えて、いざ出勤だ。
支度を終えた俺は玄関へ向かう。

「ちょっと、あなた」
「ん?」

妻に引き止められてくるりと振り返る。
俺の首元のネクタイをキュッと締めて、まっすぐに整えてくれた。

「さんきゅーな」
「あなた、あとね…」

妻は赤面しながら顔を近づけてきた。
ンッフゥーーー↑↑↑↑
妻が赤面してるゥーーー!!!めっちゃかわうぃーねーー!!!
…流石、俺の妻だ。

チュッ、と音をたてて俺の唇に妻の唇が重なって離れた。
っべぇ、めっちゃ柔らかかった…。

「…い、いってらっしゃい」
「お、おう」

テンションMAX!行ってきます!

いやぁー今日も朝から幸せだなぁー!
嫌なこと、苦しいこと、何一つ無い!!
なんにも苦しくなんかないぞー!!

…あれ?なんかいきなり胸部が圧迫されてるような違和感がするぞ…?あれれ?
ヤバイヤバイ…すごく、苦しい…ッッ…

「苦しい!助けて!!!俺はまだ死ねないんだああああああ!麗しい妻とイチャイチャキャッキャウフフし足りないんだよおおおおおおお!!!!!ぐぅえっ!」

胸部に再び激しい痛みが走った。
と、同時に目覚めた。

「もぉ~、ぱぱ ちこくしちゃうよ~?」
「てかさ、イチャイチャキャッキャウフフってなぁに?あんた、きもいんだけど」

目覚めた俺の胸部に居たのは、俺の現実の娘2人である。

「ぱぁぱ、おきてよ~!もう7時半なんだよ~?みんなちこくだよ~!」

えっ、今なんて…?


成田 楓人 28歳、小学校教職員、今日も俺は朝から家事と仕事に追われて大変です……。


はぁ、この世から仕事とか無くなんねぇかなぁ………。



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