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初めて家に行った日8
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触れた唇は、本当にただ触れただけで、同じくらいのそっけなさで離れていった。
副島から愛しさの溢れる顔で見つめられて、日和は胸がキュンとした。
流されて、目を閉じそうになって、慌てて副島の身体をそっと押し返す。
「ダメって…言いましたよ…、俺」
「うん、言われた」
悪びれる様子もなく、副島はにこっと笑った。その笑顔は少年のようなそれで、日和もつられて微笑んだ。
「…仕方ない人ですね」
「うん。じゃあ…もっとしていい?」
「ダメですよ」
「うーん、厳しいなあ、日和は」
副島はそう言いながら、日和を抱き込むようにすり寄って、
「さ、…寝ようっかな」
と言った。
「…あの、隆弘さん、こんなにくっついたら、眠れないです」
「残念。じゃあ…手をつなぐのは?」
思わぬ可愛い提案に、日和はふっと噴出した。
「いいですよ、それなら」
副島は嬉しそうに笑って、日和を離してから手を繋いだ。
「おやすみ、日和。泊まるの承諾してくれてありがとう」
「そんなに喜んでもらえたら…俺もうれしいです。おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
しばらくして、副島から穏やかな寝息が聞こえ始める。
副島の横顔を盗み見て、日和はしみじみと副島の事を好きだな、と思った。
今月いっぱいで、副島との『期間限定の恋人』は終わってしまう。
きっと、副島は日和の事をそのまま振ったりはしないだろうという、確信めいたものはある。
ただ、偏見かもしれなけれど、副島は元ホストだから、『期間限定の恋人』の約束を守って楽しませてくれているだけだ、という思いも無いことはなかった。
それでも、今度は自分から、自分の気持ちを伝えなくてはいけないと思った。
副島と知り合ってからの時間は、日和にとって人生で一番大切な時間になったことを、ちゃんと伝えて、これからその時間を増やしていきたいと思っていることも、自分の言葉で伝えなくては。
副島の横顔を盗み見ながら、日和はそんなふうに考えた。
かすかに、副島とつないだ手を握る。
ほんの少しの力で、握り返してもらったような気が来て、胸が暖かくなった。
暖かさが睡魔を連れて来て、日和はそのまま眠りに落ちた。
幸せな気持ちで眠りについたのになぜか、また夢に元彼女が出てきた。
『また同じことを繰り返すのよ』
声が響いた。
日和は、夢の中の元彼女に、手を差し伸べる。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。俺、ちゃんと、隆弘さんの事、愛してるって思うから」
元彼女の姿が揺らぐ。
「大丈夫。隆弘さんとなら、きっと大丈夫」
確信するように言葉を重ねると、ゆらゆらと心地よい揺れが、日和を包んだ。
そこでふと、意識が引きずり戻されるような感覚を覚えた。
副島から愛しさの溢れる顔で見つめられて、日和は胸がキュンとした。
流されて、目を閉じそうになって、慌てて副島の身体をそっと押し返す。
「ダメって…言いましたよ…、俺」
「うん、言われた」
悪びれる様子もなく、副島はにこっと笑った。その笑顔は少年のようなそれで、日和もつられて微笑んだ。
「…仕方ない人ですね」
「うん。じゃあ…もっとしていい?」
「ダメですよ」
「うーん、厳しいなあ、日和は」
副島はそう言いながら、日和を抱き込むようにすり寄って、
「さ、…寝ようっかな」
と言った。
「…あの、隆弘さん、こんなにくっついたら、眠れないです」
「残念。じゃあ…手をつなぐのは?」
思わぬ可愛い提案に、日和はふっと噴出した。
「いいですよ、それなら」
副島は嬉しそうに笑って、日和を離してから手を繋いだ。
「おやすみ、日和。泊まるの承諾してくれてありがとう」
「そんなに喜んでもらえたら…俺もうれしいです。おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
しばらくして、副島から穏やかな寝息が聞こえ始める。
副島の横顔を盗み見て、日和はしみじみと副島の事を好きだな、と思った。
今月いっぱいで、副島との『期間限定の恋人』は終わってしまう。
きっと、副島は日和の事をそのまま振ったりはしないだろうという、確信めいたものはある。
ただ、偏見かもしれなけれど、副島は元ホストだから、『期間限定の恋人』の約束を守って楽しませてくれているだけだ、という思いも無いことはなかった。
それでも、今度は自分から、自分の気持ちを伝えなくてはいけないと思った。
副島と知り合ってからの時間は、日和にとって人生で一番大切な時間になったことを、ちゃんと伝えて、これからその時間を増やしていきたいと思っていることも、自分の言葉で伝えなくては。
副島の横顔を盗み見ながら、日和はそんなふうに考えた。
かすかに、副島とつないだ手を握る。
ほんの少しの力で、握り返してもらったような気が来て、胸が暖かくなった。
暖かさが睡魔を連れて来て、日和はそのまま眠りに落ちた。
幸せな気持ちで眠りについたのになぜか、また夢に元彼女が出てきた。
『また同じことを繰り返すのよ』
声が響いた。
日和は、夢の中の元彼女に、手を差し伸べる。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。俺、ちゃんと、隆弘さんの事、愛してるって思うから」
元彼女の姿が揺らぐ。
「大丈夫。隆弘さんとなら、きっと大丈夫」
確信するように言葉を重ねると、ゆらゆらと心地よい揺れが、日和を包んだ。
そこでふと、意識が引きずり戻されるような感覚を覚えた。
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