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亀山瑠色3
亀山瑠色という男その3*2
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「…こん…?」
なんだって?
彼女を紹介される心構えはしていたけど、なんだって、婚約者?
すーっと一気に喉が渇く。耳鳴りはキーンとしていたのがガンガンと耳の中で半鐘が鳴っている。
ボクの中に起こっている事なんて何のお構いもなしに、二人はお互いに目配せしてはにかんだりしている。
ボクの目の前でイチャつくんじゃねえ! って叫んでやりたいのに、喉にフタがされているみたいに声が出ない。
ポン、と肩を叩かれた。それにハッとなる。隣に座っていた修也だ。ボクが修也の方を見ると、痛ましい視線が向けられている。
ボクの片思いを知っているのは、修也だけだ。だからかもしれない。
言葉の出せないボクは、とりあえず残っていたビールを飲み干した。
飲まないとやってられない。
「お代わり頼みますか?」
汐里さんがボクにメニューを差し出す。
「あ、うん。ありがと」
やっと声が出た。それで僕は焼酎のロックを頼む。
「瑠色には直接紹介したくてさ」
なんて、嬉しそうに言う文也が、いっそ憎たらしい。そんなの要らないのに。
「そっか…、え、でも彼女いるなんて、知らなかった」
「うん。知らせてなかったから」
「まあ、彼女出来たくらいじゃ、友達に教えたりしないよね」
焼酎のロックと、一緒に頼んだつまみが届く。一気飲みしてやりたい気持ちがしたけど、勿体ないからやめておく。
ひと舐めだけして、グラスを置く。
「文也は友達がたくさんいるんだから、紹介するって連れまわしたらダメだよぉ?」
他意しかない言葉を、文也は素直に受け取って頷く。
「お前以外には、直接紹介はしないよ。ほかのやつらが汐里と会うのは、結婚式の時だ」
リンゴーン! と脳内でチャペルの鐘が鳴る。
「け、こん、しき…」
「そう。結婚式。来年、結婚式と入籍をしようと思ってるんだ」
現実とは、こんなにも残酷なものなのか。
「へえ! そうなんだ、おめでとう!」
視界の端にいる修也の顔が、辛そうだ。ボクの心中を察してくれているのだろう。
「ねえ、修也、文也結婚するんだって、すごいね!」
ボクがそういって修也の方を見る。修也は悲しそうな顔のまま笑った。
「そうだよ」
「めでたいねえ。そっかあ、文也ももう結婚かあ。23で旦那様かあ。すごいなあ」
泣きそうだった。グラスを持ち、
「じゃあ乾杯やりなおそう! 二人の婚約を祝そうよ! ね!」
二人は顔を見合わせる。そしてグラスを取った。修也もグラスを手に持つ。
そしてボクは、立ち上がって、周りに迷惑にならない程度の声で、
「前途洋々、順風満々な二人の、幸せな未来にカンパーイ!」
と、グラスを持ち上げた。
ボクはバカだ。そう思う。自分でも、そう思った。
グラスをカチンと合わせてから、ボクは中の焼酎をあおってやろうと思った。でも、修也がボクの手を掴んで椅子に引き戻した。
飲むなってことだ。わかってる。
文也が、神妙な面持ちで、ボクに向き直る。
「…瑠色に、頼みがあるんだ」
「へ?」
「…友人代表のスピーチ、やってくれないか」
もう、これ以上突き落とされることはないと思ったのに、地獄には底が無かった。
「ボクが? いやいやいやいや、無理だよ、無理無理!」
冗談じゃない。どうしてこのボクが、10年思い続けている相手の結婚式に祝福のスピーチなんかしてやらなきゃならないんだ!
そう叫んでしまいたいけれど、それを言える範囲の言葉で精いっぱい否定した。
「無理じゃないよ。瑠色にしか頼めないんだ」
「いやいや、だって、友達、いっぱいいるでしょ!? なんでボクなの!? もっと適任の人がいるよ! ほら、部活の子とか、いるじゃん!?」
「…瑠色じゃなきゃ、ダメなんだ」
「は…ッ…」
そんな、まじめな顔で、そんな言葉を、この、ボクに、言うなんて、なんて卑怯…。
「頼むよ、瑠色。お前に、友人代表、やってほしい。頼む」
胃が、急激に痛み出した。
「だ、…だめだよ…なんでボクなの…? 文也の友達、もっと華やかでかっこよくて、向いてる人、たくさんいるじゃん。何でボクなんかに、そんな大事な役、頼むんだよ…」
文也は相変わらずまじめな顔だ。この、まじめな顔に弱い。見つめられたら、胸が熱くなる。でもこの視線は、この真剣な表情は、ボクに世にも残酷な役回りをやらせようとしてしている顔なのに。
カッコイイよ…、そんな顔されたら…、無理だよ…。
「オレは、瑠色の事、親友だと思ってるから。だから、友達じゃなくて、親友のお前に、やってほしい」
「ウソ! ボクらが仲良くなったの、12歳だよ? もっと前からの友達だっているじゃん! 親友なんて、ボクだけじゃないでしょ…? そういう人に頼めばいいじゃん…」
泣きそうだ。なんでそんなに食い下がるの。
「なんでそんなに、自分の事否定するんだよ。オレは、瑠色を親友だと思ってて、お前に祝福してほしいって思ったんだ。だから、頼んでるんだよ」
目頭が熱くなる。このままじゃ、泣いてしまう。困る。
「瑠色、お願いだ。瑠色がいいんだ。瑠色じゃなきゃ、ダメなんだよ」
ぶわっと涙がせり上がって来る。
「ごめん、待って、ちょ、ちょっとトイレ!」
ボクはたまらず席から飛び出した。決壊した涙腺は、大量の涙を押し出してくる。
慌ててトイレの個室に駆け込んだら、後ろから店員さんがついて来た。
「お客さん、大丈夫ですか!?」
扉をノックされてしまったので、涙でぐしゃぐしゃのボクは、
「へいきです、なんでもないです、だいじょうぶですから」
と涙声で返した。
「あとは自分が様子みるので、大丈夫ですよ」
と、修也の声がした。
助かった。いや、逃げて来ちゃったけど、何も状況は変わってない。
「ルイ…、大丈夫か?」
「だべ…だいじょーぶだだい…」
もう鼻も詰まっててうまくしゃべれない。
「るい…、ごめんな…」
修也が謝る事じゃないのに。なんで。でももう、声が出ない。
「ドア開けて、るい」
修也と文也は、双子なだけあってすごく声が似ている。
そんな優しい声で呼ばれたら、涙が余計に止まらないじゃないか。
「るい、ドア開けて」
ボクは観念してドアを開ける。すると、修也が勢いよく押し入ってきた
なんだって?
彼女を紹介される心構えはしていたけど、なんだって、婚約者?
すーっと一気に喉が渇く。耳鳴りはキーンとしていたのがガンガンと耳の中で半鐘が鳴っている。
ボクの中に起こっている事なんて何のお構いもなしに、二人はお互いに目配せしてはにかんだりしている。
ボクの目の前でイチャつくんじゃねえ! って叫んでやりたいのに、喉にフタがされているみたいに声が出ない。
ポン、と肩を叩かれた。それにハッとなる。隣に座っていた修也だ。ボクが修也の方を見ると、痛ましい視線が向けられている。
ボクの片思いを知っているのは、修也だけだ。だからかもしれない。
言葉の出せないボクは、とりあえず残っていたビールを飲み干した。
飲まないとやってられない。
「お代わり頼みますか?」
汐里さんがボクにメニューを差し出す。
「あ、うん。ありがと」
やっと声が出た。それで僕は焼酎のロックを頼む。
「瑠色には直接紹介したくてさ」
なんて、嬉しそうに言う文也が、いっそ憎たらしい。そんなの要らないのに。
「そっか…、え、でも彼女いるなんて、知らなかった」
「うん。知らせてなかったから」
「まあ、彼女出来たくらいじゃ、友達に教えたりしないよね」
焼酎のロックと、一緒に頼んだつまみが届く。一気飲みしてやりたい気持ちがしたけど、勿体ないからやめておく。
ひと舐めだけして、グラスを置く。
「文也は友達がたくさんいるんだから、紹介するって連れまわしたらダメだよぉ?」
他意しかない言葉を、文也は素直に受け取って頷く。
「お前以外には、直接紹介はしないよ。ほかのやつらが汐里と会うのは、結婚式の時だ」
リンゴーン! と脳内でチャペルの鐘が鳴る。
「け、こん、しき…」
「そう。結婚式。来年、結婚式と入籍をしようと思ってるんだ」
現実とは、こんなにも残酷なものなのか。
「へえ! そうなんだ、おめでとう!」
視界の端にいる修也の顔が、辛そうだ。ボクの心中を察してくれているのだろう。
「ねえ、修也、文也結婚するんだって、すごいね!」
ボクがそういって修也の方を見る。修也は悲しそうな顔のまま笑った。
「そうだよ」
「めでたいねえ。そっかあ、文也ももう結婚かあ。23で旦那様かあ。すごいなあ」
泣きそうだった。グラスを持ち、
「じゃあ乾杯やりなおそう! 二人の婚約を祝そうよ! ね!」
二人は顔を見合わせる。そしてグラスを取った。修也もグラスを手に持つ。
そしてボクは、立ち上がって、周りに迷惑にならない程度の声で、
「前途洋々、順風満々な二人の、幸せな未来にカンパーイ!」
と、グラスを持ち上げた。
ボクはバカだ。そう思う。自分でも、そう思った。
グラスをカチンと合わせてから、ボクは中の焼酎をあおってやろうと思った。でも、修也がボクの手を掴んで椅子に引き戻した。
飲むなってことだ。わかってる。
文也が、神妙な面持ちで、ボクに向き直る。
「…瑠色に、頼みがあるんだ」
「へ?」
「…友人代表のスピーチ、やってくれないか」
もう、これ以上突き落とされることはないと思ったのに、地獄には底が無かった。
「ボクが? いやいやいやいや、無理だよ、無理無理!」
冗談じゃない。どうしてこのボクが、10年思い続けている相手の結婚式に祝福のスピーチなんかしてやらなきゃならないんだ!
そう叫んでしまいたいけれど、それを言える範囲の言葉で精いっぱい否定した。
「無理じゃないよ。瑠色にしか頼めないんだ」
「いやいや、だって、友達、いっぱいいるでしょ!? なんでボクなの!? もっと適任の人がいるよ! ほら、部活の子とか、いるじゃん!?」
「…瑠色じゃなきゃ、ダメなんだ」
「は…ッ…」
そんな、まじめな顔で、そんな言葉を、この、ボクに、言うなんて、なんて卑怯…。
「頼むよ、瑠色。お前に、友人代表、やってほしい。頼む」
胃が、急激に痛み出した。
「だ、…だめだよ…なんでボクなの…? 文也の友達、もっと華やかでかっこよくて、向いてる人、たくさんいるじゃん。何でボクなんかに、そんな大事な役、頼むんだよ…」
文也は相変わらずまじめな顔だ。この、まじめな顔に弱い。見つめられたら、胸が熱くなる。でもこの視線は、この真剣な表情は、ボクに世にも残酷な役回りをやらせようとしてしている顔なのに。
カッコイイよ…、そんな顔されたら…、無理だよ…。
「オレは、瑠色の事、親友だと思ってるから。だから、友達じゃなくて、親友のお前に、やってほしい」
「ウソ! ボクらが仲良くなったの、12歳だよ? もっと前からの友達だっているじゃん! 親友なんて、ボクだけじゃないでしょ…? そういう人に頼めばいいじゃん…」
泣きそうだ。なんでそんなに食い下がるの。
「なんでそんなに、自分の事否定するんだよ。オレは、瑠色を親友だと思ってて、お前に祝福してほしいって思ったんだ。だから、頼んでるんだよ」
目頭が熱くなる。このままじゃ、泣いてしまう。困る。
「瑠色、お願いだ。瑠色がいいんだ。瑠色じゃなきゃ、ダメなんだよ」
ぶわっと涙がせり上がって来る。
「ごめん、待って、ちょ、ちょっとトイレ!」
ボクはたまらず席から飛び出した。決壊した涙腺は、大量の涙を押し出してくる。
慌ててトイレの個室に駆け込んだら、後ろから店員さんがついて来た。
「お客さん、大丈夫ですか!?」
扉をノックされてしまったので、涙でぐしゃぐしゃのボクは、
「へいきです、なんでもないです、だいじょうぶですから」
と涙声で返した。
「あとは自分が様子みるので、大丈夫ですよ」
と、修也の声がした。
助かった。いや、逃げて来ちゃったけど、何も状況は変わってない。
「ルイ…、大丈夫か?」
「だべ…だいじょーぶだだい…」
もう鼻も詰まっててうまくしゃべれない。
「るい…、ごめんな…」
修也が謝る事じゃないのに。なんで。でももう、声が出ない。
「ドア開けて、るい」
修也と文也は、双子なだけあってすごく声が似ている。
そんな優しい声で呼ばれたら、涙が余計に止まらないじゃないか。
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