【完結】片想いを拗らせすぎたボクは君以外なら誰とでも寝るけど絶対に抱かれない

鈴茅ヨウ

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亀山瑠色3

亀山瑠色という男その3*4

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 心のそこからやりたくない。

 でも、他の人に頼んでみて、それでもボクに来たというのならもうあきらめるしかないと思って決めたのに。

「…あの、瑠色さん」

 汐里さんが、ボクに、控えめに話しかけてきた。

「なんですか?」

 声が硬くならないように気を付けながら返事をする。

「文也さんの気持ちを、汲んで頂く訳にはいきませんか?」

 汐里さんはボクにそう言った。

「…文也の気持ち?」

 文也の気持ちと言うのは、ボクにスピーチして欲しいってことだろ? わかるけど、じゃあ、ボクの気持ちはどうなるのだ。

 そりゃ、勝手にこっちが好きになっちゃって?

 男同士だからって、一人悩んで葛藤して苦しんでるのはボクの勝手かもしれないけど。

 10年だ。ボクの、片思いの年月は10年。それを、たった半年で昇華して、幸せになる好きな人におめでとうのスピーチをしなきゃいけない、ボクの気持ちはどうなるの?

 やりたくない、っていうボクの気持ちは?

 これから結婚するという幸せな二人の気持ちは汲むべきなのに、現実を突きつけられて哀しみに暮れているボクのこのつらい気持ちは、汲んで貰えないの?

 押し黙るボクに、汐里さんは畳みかける。

「文也さん、ずっとあなたに友人代表のスピーチをやってほしいって、私に話していたんですよ。長いこと一緒に過ごしてきた親友に、自分たちを祝福してほしいって、結婚式の事を相談し始めた時から、ずっと」

 胸が痛い。

 ボクは彼と一緒に祝福される立場じゃない。

 そうだ。

 ボクのは勝手な片想いだけど、汐里さんと文也の結婚は違う。

 ボクはただの【親友】で、この人は【婚約者】だ。

 立場は月とスッポンじゃないか。

「……わかったよ」

 ボクがそういうと、二人はすごくうれしそうな顔をした。

 納得はいかないけれど、このまま何度もボクを説得するみたいな事になったら、またこの気持ちを何度も味あわなくてはいけないから。

 もう、これは承諾せざるを得ない状況だ。

「最初からほかの人に頼むつもりはなかったんでしょ? だったら、ボクがウンって言うしかないじゃん。あのね、ボクがこれだけ断ったんだから、もし、ボクがスピーチする事で何か不利益をこうむっても、ボクの所為にしないでね」

 我ながら嫌な言い方だけど、ボクの気持ちを汲んでくれようという気持ちはないということが分かった。

 これくらい言っても、許されるだろう。

「瑠色なら、そんなヘマはしないって。大丈夫だよ」

 人にとんでもない責任と、苦痛を与えておいて、この言いぐさだもん。

「ボク感動ものとか全然だめだから、泣いちゃって喋れなくなるよ」

「司会の人がフォローしてくれるよ」

「じゃあ、予備の原稿渡しておいて、司会者の人に読んでもらうかな」

 ボクの心の中は嵐の様に荒れ狂っているのに、和やかに話が終わってしまった。

 腹が立つ。腹が立って、仕方がない。

 婚約者を紹介するのなんて口実で、実際はボクに結婚式のスピーチを頼むためだけのものだったんだと思うと、涙が出そうだった。

「じゃあ…これでお開きかな」

 ボクが言うと、文也と汐里さんはは「え?」と聞き返してきた。

 ボクの気持ちを知っている修也は当然だな、という顔をしている。

「だって、ボク『友人代表のスピーチやるよ』って承諾したんだから」

 目的はそれでしょ? と聞いたら、文也は久しぶりに飲みたかったからなんて白々しい事を言う。

 飲み会が終わるまで、目の前で好きな人と婚約者がイチャイチャイチャイチャしているのを見ながら、結婚式はこうだとか、二人での生活はどうするとか、果てはボクの彼女はどうだこうだって話になるに決まっている。

 だから、解散したかった。

「久しぶりなんだから、もう少し良いだろ? この後なんかあるのか?」

「いや…別に…」

 あるとしたら、斜陽に飲みに行くくらいか。

 届いたサラダを汐里さんが取り分けているのを見て、半眼になりかかる。

 ちょうどいいタイミングで、スマホが鳴った。

「あ、ちょっとゴメン」

 確認すると、甥っ子からのメールだった。

『彼女の所へ泊ります』

 簡潔すぎるメールだったが、ボクは思わず口元がほころぶ。

『了解。ももちゃんにへんな事するなよ』

 文也と修也の妹は、桃花ちゃんという名前で、ボーイッシュでちょっと口が悪いけど、可愛い子だ。

 ボクが蒼太にそう返事をすると、すぐさま、

『るいさんと一緒にしないでください』

 という返事が返ってきた。言ってくれるじゃないか。まあ、月に二回外泊してる叔父なんだから、そんな事言われても仕方がないか。

「どうした?」

 ニコニコしながらメールをしているボクに、文也が声をかけてきた。

「ン? ああ、今日ね、うちの蒼太が、文也達のお家にお泊りになったんだって」

 文也が、飲んでいたビールを噴出した。

「大丈夫?!」

 汐里さんが甲斐甲斐しく文也の噴出したビールを拭いてあげたりしているのを笑いながら見る。

「へんな事するなよってメールしておいたよ」

「変な事ってなんだ!!」

「ボクに怒らないでよ。蒼太はボクと違ってちゃんとしてる子だから、結婚するまでは手は出さないんじゃないのかな」

「蒼ちゃんのそういうしっかりしたところ、父さんお気に入りだもんな。きっと今日も、父さんに泊まってけって言われたんでしょ」

 修也の方はケロッとしていたが、文也は怒り心頭な感じだった。

「文也、自分が結婚するっていうのに、自分の妹の恋愛には厳しいんだね」

 ボクが言うと、文也は一瞬ものすごい怒った顔でこちらを見る。

「彼女にご兄弟がいるとしたら、同じ立場だってこと解ってる?」

 そう聞き返すと、文也は鬼の形相で残ったビールを飲み干した。

「蒼太と桃ちゃんが高校生だからとか、そんな言い訳はダメだよ。自分が高校生の頃に、彼女いたこと忘れたの?」

「オレの話は今良いだろ!?」
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