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亀山瑠色4
亀山瑠色という男4*1
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「ボクの初体験はこんな感じ」
ボクの話が終わると、修也は絶望的な落ち込みようだった。
「そんな顔するなら、聞かなきゃ良いのに」
「いや、まぁ、…それもそうだよな、はは…」
口許に手をやって、目をそらす修也。
「で?」
ボクがそう聞いてビールで喉を潤しているのを、修也は不思議そうに眺めていた。
意図が伝わっていない。
「聞きたいこと、他にある? 今まで寝た人のこと、全部話そうか?」
「いや、いい。これ以上聞くと、今夜帰れなくなるし、眠れなくなる」
帰るつもりはあるのか、と、少し意外に思ってしまった。
「その人とは半年続いたんだろ? 付き合ってみようとか思わなかったのか?」
「うん、まぁ、バーで呑む以外は肉体関係だけだったし…、ボクはどうしても文也が頭から離れないし…」
苦笑いしか出ない僕に、修也は続けて聞いた。
「…るいはさ、…文也と恋人になりたいんだろ?」
「まあ、無理だけどね」
「…他の男と寝るの、躊躇わなかったのか?」
修也がごくりとビールを飲み込む音が、妙に大きく響いたような気がした。
「抱かれるのは無理だなって思ったけど、抱くのなら、好奇心が勝ったよ」
口が渇いていく。舌が、口の中でざらざらと不快だった。
「だってさ、文也が好きでも、ボクが一人で高ぶってく気持ちを、受け止めてもらえないわけじゃん? わいてくる欲望を、一人で吐き出していくのが、とんでもなく、無駄で悲しい行為に思えてさ」
修也がなにも言わないので、ボクは缶に残っているビールをぐいぐい煽る。
「…そっか…」
修也も、ビールを煽った。
「初めての時は、知的好奇心に負けた部分もあったからそんな深刻じゃなかったけど…。バーで探した相手には、ある意味期待しないでいられたから、楽だった」
ボクの手元で、ぱき、とビールの缶が鳴った。
「相手にもボクにも、都合の良い性欲処理ってやつね」
「前に…るいに関する噂は聞いてたんだ」
「噂になってるんだね」
修也は、缶ビールを飲み干して、ボクにじりじりと近づいてきた。
「相手が男だけだとは、聞いたことない。彼女を取っ替え引っ替えしてるとか、そんな噂」
「そう…」
ボクはじりじり近づかれても距離を離すことが出来ず、とうとう、修也に抱きつかれた。
「ごめん」
「謝るくらいなら、しなければ良いのに」
「そうだな。でも…、堪えきれなかった…」
さらにぐうっと抱き込まれて、少し苦しかった。
「実を言うと…大学の帰りに、るいが男とホテルへ入るところを見た事があるんだ」
苦々しい声だ。ボクの肩口で、修也が深く呼吸をするのを感じた。
「1度だけじゃない。何回か見た。毎回違う男だった。見るたびに苦しかった」
震える声でそういう修也だったけれど、ボクは、何も言えなかった。
何か言っては、いけないような気がした。
「初めて見た時は、彼氏かなって思った。そう思うと同時に、文也の事好きなのに何で他の男に抱かれてるんだろうって疑問だった。でも、二人目を見た時に彼氏じゃないかもしれないって。三人目が違う男だったから、これは不特定多数の相手なんじゃないかって。…そんな風に他の男と寝るくらいなら…、オレにしたらいいのに…って」
修也は、泣きそうな声で言った。
「そんなに見られてたんだ…」
数えたらもっと居るけど、それは修也にとっては酷な話だろうとおもって黙っておく。
「…ほかの男と寝るくらいなら、オレにしてよ、るい」
相変わらず抱きしめられたままでそう言われた。
「どうしてそんなに、ボクにこだわるの…?」
素朴な疑問のつもりだった。修也はボクを抱き締めていた腕を解き、真っ直ぐにボクを見つめて、こう聞いてきた。
「るいは、どうして文也にこだわるんだ?」
答えに困る質問だ。なるほど、ボクと同じってことか。
「…理由なんてない…」
「理屈じゃないんだよ、こういうのって」
「そうだね…」
修也のまっすぐな目は、ボクをとても居心地の悪い気持ちにさせた。
「バーで相手を探すくらいなのに、オレじゃダメな理由は何なんだよ…。顔はほとんど文也と同じなんだから、顔が好みじゃないって事じゃないだろう?」
修也の表情は変わらない。ひどく居心地の悪いまま、質問攻めなのも心地が悪い。でも、はぐらかしても無駄かもしれない。
「…友達、だからだよ」
この答えでは納得がいかないらしい修也の、眉間のシワが深くなる。
「ボクの、たった一人の、大切な友達だから」
たった一人、と強調すると、修也はぐっと言葉を詰まらせたようだった。
「文也はボクにとって『好きな人』であって友達じゃない。修也はボクにとって『親友』と言っていい。でも、修也にとってボクは友達じゃない。ボク達の関係って、複雑だよね…」
はは…と渇いた笑いが込み上げた。
「そうだな…、確かに、好きな人っていうカテゴリーだから友達とは違うよな…」
「でも、表面上ボクと文也、ボクと修也は友達してるんだよ。おかしいね。でも、ボクは修也しか友達が居ないから…失くしたくないんだ」
ボクはどんどん気持ちが暗くなっていく。
だって、修也ともし、関係を持ってしまったら、それが壊れた時に、『友達』には戻れない。
そんな都合の良い事、ある訳がない。
ボクが、文也を『友達』に出来たとして、修也という『友達』を失う事には変わりない訳で。
「…戻れない、ものか?」
「セフレなり恋人なり、二人の関係が変わって、それがダメになった時に、『それじゃあ友達に』って戻れると思う?」
修也は言葉を探しているようだった。
「修也みたいに、ボクは友達がたくさんいるわけじゃないから…嫌なんだ、友達が居なくなっちゃう
」
本当は解っている。ボクがこうやって、修也の気持ちから逃げようとしているのは。
「ずっと…、ずっと恋人でいられるようにしたらいいんじゃん。別れなければ、いなくなることなんて、考えなくていいだろ…!?」
至って真面目に言っただろう修也の言葉は、ボクには到底、現実味のない言葉だった。
ボクの話が終わると、修也は絶望的な落ち込みようだった。
「そんな顔するなら、聞かなきゃ良いのに」
「いや、まぁ、…それもそうだよな、はは…」
口許に手をやって、目をそらす修也。
「で?」
ボクがそう聞いてビールで喉を潤しているのを、修也は不思議そうに眺めていた。
意図が伝わっていない。
「聞きたいこと、他にある? 今まで寝た人のこと、全部話そうか?」
「いや、いい。これ以上聞くと、今夜帰れなくなるし、眠れなくなる」
帰るつもりはあるのか、と、少し意外に思ってしまった。
「その人とは半年続いたんだろ? 付き合ってみようとか思わなかったのか?」
「うん、まぁ、バーで呑む以外は肉体関係だけだったし…、ボクはどうしても文也が頭から離れないし…」
苦笑いしか出ない僕に、修也は続けて聞いた。
「…るいはさ、…文也と恋人になりたいんだろ?」
「まあ、無理だけどね」
「…他の男と寝るの、躊躇わなかったのか?」
修也がごくりとビールを飲み込む音が、妙に大きく響いたような気がした。
「抱かれるのは無理だなって思ったけど、抱くのなら、好奇心が勝ったよ」
口が渇いていく。舌が、口の中でざらざらと不快だった。
「だってさ、文也が好きでも、ボクが一人で高ぶってく気持ちを、受け止めてもらえないわけじゃん? わいてくる欲望を、一人で吐き出していくのが、とんでもなく、無駄で悲しい行為に思えてさ」
修也がなにも言わないので、ボクは缶に残っているビールをぐいぐい煽る。
「…そっか…」
修也も、ビールを煽った。
「初めての時は、知的好奇心に負けた部分もあったからそんな深刻じゃなかったけど…。バーで探した相手には、ある意味期待しないでいられたから、楽だった」
ボクの手元で、ぱき、とビールの缶が鳴った。
「相手にもボクにも、都合の良い性欲処理ってやつね」
「前に…るいに関する噂は聞いてたんだ」
「噂になってるんだね」
修也は、缶ビールを飲み干して、ボクにじりじりと近づいてきた。
「相手が男だけだとは、聞いたことない。彼女を取っ替え引っ替えしてるとか、そんな噂」
「そう…」
ボクはじりじり近づかれても距離を離すことが出来ず、とうとう、修也に抱きつかれた。
「ごめん」
「謝るくらいなら、しなければ良いのに」
「そうだな。でも…、堪えきれなかった…」
さらにぐうっと抱き込まれて、少し苦しかった。
「実を言うと…大学の帰りに、るいが男とホテルへ入るところを見た事があるんだ」
苦々しい声だ。ボクの肩口で、修也が深く呼吸をするのを感じた。
「1度だけじゃない。何回か見た。毎回違う男だった。見るたびに苦しかった」
震える声でそういう修也だったけれど、ボクは、何も言えなかった。
何か言っては、いけないような気がした。
「初めて見た時は、彼氏かなって思った。そう思うと同時に、文也の事好きなのに何で他の男に抱かれてるんだろうって疑問だった。でも、二人目を見た時に彼氏じゃないかもしれないって。三人目が違う男だったから、これは不特定多数の相手なんじゃないかって。…そんな風に他の男と寝るくらいなら…、オレにしたらいいのに…って」
修也は、泣きそうな声で言った。
「そんなに見られてたんだ…」
数えたらもっと居るけど、それは修也にとっては酷な話だろうとおもって黙っておく。
「…ほかの男と寝るくらいなら、オレにしてよ、るい」
相変わらず抱きしめられたままでそう言われた。
「どうしてそんなに、ボクにこだわるの…?」
素朴な疑問のつもりだった。修也はボクを抱き締めていた腕を解き、真っ直ぐにボクを見つめて、こう聞いてきた。
「るいは、どうして文也にこだわるんだ?」
答えに困る質問だ。なるほど、ボクと同じってことか。
「…理由なんてない…」
「理屈じゃないんだよ、こういうのって」
「そうだね…」
修也のまっすぐな目は、ボクをとても居心地の悪い気持ちにさせた。
「バーで相手を探すくらいなのに、オレじゃダメな理由は何なんだよ…。顔はほとんど文也と同じなんだから、顔が好みじゃないって事じゃないだろう?」
修也の表情は変わらない。ひどく居心地の悪いまま、質問攻めなのも心地が悪い。でも、はぐらかしても無駄かもしれない。
「…友達、だからだよ」
この答えでは納得がいかないらしい修也の、眉間のシワが深くなる。
「ボクの、たった一人の、大切な友達だから」
たった一人、と強調すると、修也はぐっと言葉を詰まらせたようだった。
「文也はボクにとって『好きな人』であって友達じゃない。修也はボクにとって『親友』と言っていい。でも、修也にとってボクは友達じゃない。ボク達の関係って、複雑だよね…」
はは…と渇いた笑いが込み上げた。
「そうだな…、確かに、好きな人っていうカテゴリーだから友達とは違うよな…」
「でも、表面上ボクと文也、ボクと修也は友達してるんだよ。おかしいね。でも、ボクは修也しか友達が居ないから…失くしたくないんだ」
ボクはどんどん気持ちが暗くなっていく。
だって、修也ともし、関係を持ってしまったら、それが壊れた時に、『友達』には戻れない。
そんな都合の良い事、ある訳がない。
ボクが、文也を『友達』に出来たとして、修也という『友達』を失う事には変わりない訳で。
「…戻れない、ものか?」
「セフレなり恋人なり、二人の関係が変わって、それがダメになった時に、『それじゃあ友達に』って戻れると思う?」
修也は言葉を探しているようだった。
「修也みたいに、ボクは友達がたくさんいるわけじゃないから…嫌なんだ、友達が居なくなっちゃう
」
本当は解っている。ボクがこうやって、修也の気持ちから逃げようとしているのは。
「ずっと…、ずっと恋人でいられるようにしたらいいんじゃん。別れなければ、いなくなることなんて、考えなくていいだろ…!?」
至って真面目に言っただろう修也の言葉は、ボクには到底、現実味のない言葉だった。
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■執筆過程の一部にchatGPT、Claude、Grok BateなどのAIを使用しています。
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