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瑠色と寝た男4
修也・22歳*10
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洋服を着て、リビングへ出る。
「…なんかさ、やっぱり昨日までと違うな」
修也がソファにゆったりと座りながらそう言った。
「どういうこと?」
「月並みな言い方だけど、世界が違って見える、ってやつ。なんか…なんだろ…開けてるっていうか、視界がクリアになったっていうかさ」
「そうなの…?」
「うん。そんな感じがする」
親友が一つ、階段を上がってしまったような気がした。
ボクが彼を抱いたことによって、彼の中で何かが変わったのだろう。
一人、置いて行かれたような、身勝手な気持ちを味わう。
「…そっか、良かった。スッキリしたのなら…、…甲斐があったよ」
「スッキリした! 身体はすんごい重たいけどな」
明るい調子でハハハ!と笑う修也に、ボクはつられて笑った。
気を使わせているのが申し訳無い反面、修也のこういうところに救われているのも事実だ。
「修也…ありがとね」
「え?」
修也は、ボクの言葉の真意がよく解らないという顔をした。
「…なんか…、色々さ。ボクがいっぱいいっぱいになってるとこ、助けてくれた意味合いもあるわけだから、今回の事は」
「そう? オレは…自分の欲望に忠実になっただけだよ」
修也が笑ってそう言ってくれたから、ほんのりと申し訳なさが和らいだ。
キッチンへ向かいながら、ボクは必死に話題を探した。
「朝ご飯には少し遅いけど…」
と冷蔵庫を開けると、
「オレも手伝うよ」
と、修也が後ろから手を伸ばしてきた。
とはいえ、ボクは料理ができない。
「あ、別に、ごはん作るわけじゃないよ?」
「るいの料理スキル皆無は知ってる」
と、修也は朗らかに笑った。笑われたけれど、事実だから何も言えなかった。
コンビニで買ってきたサンドイッチやおにぎりが並ぶ食卓は、少し味気ないような気がした。
「なぁ、今日暇だったら遊び行かないか?」
サンドイッチを食べながら、修也がそう言う。
「えっ、暇だけど…」
ボクが言い淀むと、修也は首をかしげる。
「ダメなら良いぞ? 洋服見に行くの付き合ってもらおうと思っただけだから」
「いや…、身体大丈夫なのかなと思って…」
ボクがそう言うと、修也の顔が、ばっと赤くなった。
その反応に、ボクもつられて赤くなる。
「さっきもそんな話したのに、何でそんな赤くなってるの?!」
「なってない! ってか、そう言うこと改めて言われると、生々しいな!」
「しょーがないじゃん! こっちは修也のこと、心配してんだからね?!」
修也は落ち着こうとするように、ペットボトルのお茶をガブガブ飲んでいる。
ボクはその様子を見ながら、おにぎりをもそもそと食べた。
「…ぷはっ!」
と、お茶を飲み終わった修也は、
「大丈夫じゃねーよ。股関節はギシギシするし、尻は違和感あるし、腰も痛い。でも、このまま帰るのは、なんかヤダから…」
と言った。
「わかった。…じゃあ…、ボクも洋服見に行かなきゃと思ってたから付き合ってもらおうかな」
「見に行かなきゃ…って?」
「ん? …文也の、結婚式の、ね」
修也はギクッとなる。ボクからその言葉が出てくる事が意外だったんだろう。
「いいのか…?」
「貸衣装でも良いんだろうけど…、一応、友人代表のスピーチする約束しちゃったからさあ、それなりの格好しないと、おじさんたちにも申し訳ないしね」
どうしても苦笑いを浮かべてしまうボクに、修也も苦さを含んだ笑みをこぼして、
「じゃあ、一緒に行こうよ。レンタルにしても買うにしても、一回見に行かないといけないだろうし…」
「うん。…修也が一緒に来てくれると心強いよ」
「そうか?」
「うん。…ボクの心情を一番理解してくれているのは、他ならぬ修也だからさ」
これは卑怯だけど、ボクの本心だ。修也は複雑そうな表情をしているけれど。
「洋服買いに行くだけじゃん」
「まあ…そうなんだけど…」
ボクは、ペットボトルを手に取って、ふたを捻って開けたり閉めたりしながら、言葉を探す。
その様子を、修也は興味深げに眺めていた。
「…出たくない所へ着てくものを、一人で選べる自信が無いんだよね…」
苦笑いが浮かんでくる。正直すぎるボクの言葉に、修也はふふっと笑って、ボクの頭を撫でた。
「よしよし、そうだよな。じゃあ一緒に行こう。オレの買い物も付き合ってもらうけどな?」
「もちろんだよ。…ごめんね?」
「ごめん、じゃなくて、ありがとうって言ってよ。その方がオレも嬉しいから」
「うん、ありがとう」
修也の言葉をまるでオウム返しにするようにそう言うと、修也は少し、嬉しそうに笑った。
「じゃあ決まりな? どこ行くかね…」
食事の続きをしながら、ボク達は買い物に行く場所の相談をつづける。
結局、どこへ行っていいやらわからずに、ボクと修也は近隣の駅前で一番開けているところへ行くことにした。
普段スーツなんか気ない生活をしているボクなので、どこへ行って良いやらわからず、紳士服の専門店なんかを何件か回って、店員さんに聞きまくりながら、ボクは文也の結婚式に着ていく礼服を手に入れた。
そのまま、文也の服を買いに行ったり、ボクも普段着を見たりして、そのあと普通に、ごはんに行ったりした。
あんなことがあったのに、それまでと変わらず接してくれていることが、すごく嬉しいとボクは思う。
でもそれは、すごく自分勝手なような気もして、修也に少し申し訳ないとも思った。
ここ数時間で、ボクは修也に対して申し訳なく思ったり感謝したり、いろんな感情を抱いた。
それと同じだけ、修也も僕に色々な感情を抱いているはずなのに、それを表に出さず『友達』として接してくれている彼に、本当に敬意を表さないといけないと改めて思う。
これからの半年、ボクはどうやって文也の結婚式を、いろいろな意味でやり過ごすかという事を、考えて暮らしていくことになるのだ。
「…なんかさ、やっぱり昨日までと違うな」
修也がソファにゆったりと座りながらそう言った。
「どういうこと?」
「月並みな言い方だけど、世界が違って見える、ってやつ。なんか…なんだろ…開けてるっていうか、視界がクリアになったっていうかさ」
「そうなの…?」
「うん。そんな感じがする」
親友が一つ、階段を上がってしまったような気がした。
ボクが彼を抱いたことによって、彼の中で何かが変わったのだろう。
一人、置いて行かれたような、身勝手な気持ちを味わう。
「…そっか、良かった。スッキリしたのなら…、…甲斐があったよ」
「スッキリした! 身体はすんごい重たいけどな」
明るい調子でハハハ!と笑う修也に、ボクはつられて笑った。
気を使わせているのが申し訳無い反面、修也のこういうところに救われているのも事実だ。
「修也…ありがとね」
「え?」
修也は、ボクの言葉の真意がよく解らないという顔をした。
「…なんか…、色々さ。ボクがいっぱいいっぱいになってるとこ、助けてくれた意味合いもあるわけだから、今回の事は」
「そう? オレは…自分の欲望に忠実になっただけだよ」
修也が笑ってそう言ってくれたから、ほんのりと申し訳なさが和らいだ。
キッチンへ向かいながら、ボクは必死に話題を探した。
「朝ご飯には少し遅いけど…」
と冷蔵庫を開けると、
「オレも手伝うよ」
と、修也が後ろから手を伸ばしてきた。
とはいえ、ボクは料理ができない。
「あ、別に、ごはん作るわけじゃないよ?」
「るいの料理スキル皆無は知ってる」
と、修也は朗らかに笑った。笑われたけれど、事実だから何も言えなかった。
コンビニで買ってきたサンドイッチやおにぎりが並ぶ食卓は、少し味気ないような気がした。
「なぁ、今日暇だったら遊び行かないか?」
サンドイッチを食べながら、修也がそう言う。
「えっ、暇だけど…」
ボクが言い淀むと、修也は首をかしげる。
「ダメなら良いぞ? 洋服見に行くの付き合ってもらおうと思っただけだから」
「いや…、身体大丈夫なのかなと思って…」
ボクがそう言うと、修也の顔が、ばっと赤くなった。
その反応に、ボクもつられて赤くなる。
「さっきもそんな話したのに、何でそんな赤くなってるの?!」
「なってない! ってか、そう言うこと改めて言われると、生々しいな!」
「しょーがないじゃん! こっちは修也のこと、心配してんだからね?!」
修也は落ち着こうとするように、ペットボトルのお茶をガブガブ飲んでいる。
ボクはその様子を見ながら、おにぎりをもそもそと食べた。
「…ぷはっ!」
と、お茶を飲み終わった修也は、
「大丈夫じゃねーよ。股関節はギシギシするし、尻は違和感あるし、腰も痛い。でも、このまま帰るのは、なんかヤダから…」
と言った。
「わかった。…じゃあ…、ボクも洋服見に行かなきゃと思ってたから付き合ってもらおうかな」
「見に行かなきゃ…って?」
「ん? …文也の、結婚式の、ね」
修也はギクッとなる。ボクからその言葉が出てくる事が意外だったんだろう。
「いいのか…?」
「貸衣装でも良いんだろうけど…、一応、友人代表のスピーチする約束しちゃったからさあ、それなりの格好しないと、おじさんたちにも申し訳ないしね」
どうしても苦笑いを浮かべてしまうボクに、修也も苦さを含んだ笑みをこぼして、
「じゃあ、一緒に行こうよ。レンタルにしても買うにしても、一回見に行かないといけないだろうし…」
「うん。…修也が一緒に来てくれると心強いよ」
「そうか?」
「うん。…ボクの心情を一番理解してくれているのは、他ならぬ修也だからさ」
これは卑怯だけど、ボクの本心だ。修也は複雑そうな表情をしているけれど。
「洋服買いに行くだけじゃん」
「まあ…そうなんだけど…」
ボクは、ペットボトルを手に取って、ふたを捻って開けたり閉めたりしながら、言葉を探す。
その様子を、修也は興味深げに眺めていた。
「…出たくない所へ着てくものを、一人で選べる自信が無いんだよね…」
苦笑いが浮かんでくる。正直すぎるボクの言葉に、修也はふふっと笑って、ボクの頭を撫でた。
「よしよし、そうだよな。じゃあ一緒に行こう。オレの買い物も付き合ってもらうけどな?」
「もちろんだよ。…ごめんね?」
「ごめん、じゃなくて、ありがとうって言ってよ。その方がオレも嬉しいから」
「うん、ありがとう」
修也の言葉をまるでオウム返しにするようにそう言うと、修也は少し、嬉しそうに笑った。
「じゃあ決まりな? どこ行くかね…」
食事の続きをしながら、ボク達は買い物に行く場所の相談をつづける。
結局、どこへ行っていいやらわからずに、ボクと修也は近隣の駅前で一番開けているところへ行くことにした。
普段スーツなんか気ない生活をしているボクなので、どこへ行って良いやらわからず、紳士服の専門店なんかを何件か回って、店員さんに聞きまくりながら、ボクは文也の結婚式に着ていく礼服を手に入れた。
そのまま、文也の服を買いに行ったり、ボクも普段着を見たりして、そのあと普通に、ごはんに行ったりした。
あんなことがあったのに、それまでと変わらず接してくれていることが、すごく嬉しいとボクは思う。
でもそれは、すごく自分勝手なような気もして、修也に少し申し訳ないとも思った。
ここ数時間で、ボクは修也に対して申し訳なく思ったり感謝したり、いろんな感情を抱いた。
それと同じだけ、修也も僕に色々な感情を抱いているはずなのに、それを表に出さず『友達』として接してくれている彼に、本当に敬意を表さないといけないと改めて思う。
これからの半年、ボクはどうやって文也の結婚式を、いろいろな意味でやり過ごすかという事を、考えて暮らしていくことになるのだ。
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