【完結】片想いを拗らせすぎたボクは君以外なら誰とでも寝るけど絶対に抱かれない

鈴茅ヨウ

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瑠色と寝た男5

今までの男たち・1

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 二次会は最悪な気分のままで終わった。

 貰ったコサージュは、悲しいかな、捨てる事も出来ずにボクの傍らに置かれている。

 三次会に誘われたのだが、もうこれ以上惨めな思いをしたくなくて、断った。

 そして、最悪な気分のままのボクは、斜陽に飲みに来ていた。

 こうなったら、飲むしかないじゃないか。

 あんな仕打ちを受けたのだから、酒で誤魔化したって許されるだろう…?

 そうだ、許される。むしろ、許されないわけがない。

「胡蝶蘭とスズランのコサージュだよ!? ふつーーに、今の今まで自分の胸に刺さってたそれを、ボクに寄越す!?」

 ややキレ気味でママに絡む。

 普段はカクテルを飲むけど、今日はウィスキー。味なんてどうでも良いから、安いヤツをロックでという、乱暴なアレだ。

 ママから返事はないけど、そのまま絡むボク。

「花言葉、花言葉なんて、今まで言った事無い人がだよ? 幸運が飛んでくる、幸福の再来、だからお前も幸せになって欲しい…だって! バッカにしてるうううう!」

 ロックのウィスキーをガッと煽ってやると、強いアルコールが胸を焼く。

「今まさに、悲しみのどん底に居るボクに向かって、良くもそんなこと言いやがったな!? って思って!」

 ママが無言でボクに水を差し出した。

 言わんとすることがわかるので、大人しくそれも飲み干す。

「…ボクがさ…、勝手に一人で好きになって…勝手に傷ついてるんだから…逆恨みなのは解ってるんだよ…ちゃんと…」

 急にべそべそと泣き始めたボクに、ママはあきれ顔だった。

「…ごめんね…うっとおしい絡み方して…」

 ボクがそういえば、ママは肩をぽんぽんとしてくれた。

「めんどくさくない絡み方なんて無いわよ」

 慰めにもなってない一言に、ボクは噴き出した。

「…そうだね」

「そうよ。でも、あんたがそんな絡み方してくるなんて、珍しいわね」

「だってさ…、ホント我慢できなかったんだよ。悲しくて腹立って、ムカついて…」

 ボクはもう一杯水をオーダーした。

「…クソむかついたから、もう連絡取るのとかやめようと思ったんだけど…でも、連絡先消すのとか、友達だから不自然じゃん?」

 カウンターテーブルにぐったり突っ伏して愚痴るボクの隣に、突然誰かが座った。

 え? と思ってみると、そこに座っていたのは志信さんだった。

「志信さん!?」

「ルイくん、久しぶり」

 男性スタイルで、にっこりと笑った顔はあの頃と変わらない、綺麗な微笑みだった。

「だいぶ管巻いてるわね」

「うん…ちょっと嫌なことあって…」

「みたいね。結婚式って、例の片想いの人?」

「あ…うん、聞こえちゃった?」

「結構大きな声だったから」

 全部筒抜けの大声で管を巻いていたのかと思うと恥ずかしい。

「…そっか…煩くしちゃって申し訳ない…」

 二杯目の水も空にして、ボクは盛大にため息を吐く。

「こんなさ、あからさまに結婚式帰りでーすみたいな恰好で管巻いてバカみたいだなって思うんだけどさ」

 志信さんはマティーニを傾けながら、ボクの言葉に相づちを打ってくれた。。

「ショックだったんだよ…。『いつか結婚したいと思うほど好きになる人が現れたら』とか、言われて…、さ…」

 空のグラスを手持ち無沙汰にもてあそんで、ボクは立ち直れないほど泣いた言葉を繰り返す。

「この人と一緒になれたら、って思ってる人に『いつか現れた人との幸せ』を願われるって…すごくつらい…」

 収まったと思ってた涙が、またあふれてくる。

「…ボクが勝手に好きになったのが悪いって…解ってるのに…」

 今日一日で、ボクはどれだけ涙を流すのだろうと、頭の隅で冷静なボクが考える。

「私も…、あの時、今のルイくんと同じだったわ」

 涙が止まらないボクの背を撫でてくれながら、志信さんがそう言った。

「三年付き合った男に結婚を理由に捨てられて、この世は絶望しかないのだと思って、一人になると泣いて暮らした」

 ボクは顔を上げられなくて、志信さんの話を頷いて聞いた。

「好きになるのなんて、全部勝手よ。自分が誰かを好きになるのも、誰かが自分を好きになるのも、好きにならないのだって、全部、人の勝手、自分の勝手なの」

 涙でグシャグシャのボクを見かねて、ママが箱ティッシュを置いてくれたので、それで顔を拭う。

「でも…」

「私は女の子を好きになる人生を送ってきてないから、男女の事はわからないけど…。一緒だと思うのよね。男が男を好きになるのも、男が女を好きになるのも、女が女を好きになるのも、全部一緒、全部がそれぞれの勝手じゃないかしら」

 志信さんが、ボクにハンカチを差し出してくれた。

 受け取れないでいると、志信さんはそれでボクの顔をぐいぐい拭う。

「いたい…」

「うん。でも、ぐしゃぐしゃだから」

「ひどい…」

「ふふ。私もね、誰かにこうやって、涙を拭ってほしかったなって思ったの」

 志信さんは、ボクの顔をぬぐいながら、少し寂しそうに微笑んだ。

「それでここへきて、あなたと会って、…そのままホテル行ったわけよ」

 おしまい、とハンカチを引っ込めた志信さんは、いつもの笑顔だった。

「ハンカチ洗って返す…」

「いいわよ、これくらい。ルイくんは人の心を気遣って甘やかすことはできても、自分を甘やかすのは苦手なのかしら」

 志信さんがなぜそんなことを言ったのか、ボクにはよく、解らなかった。

「連絡先変えてないから、もし辛かったり悲しい気持ちになったら連絡してね?」

「うん…。でも…」

「悪いとか、そんな風に考えなくていいからね? ルイくんに助けてもらったっておもってるから、お返ししたいの。それだけだから」

「ありがとう、志信さんが今日ここにきてくれて、優しい言葉をかけてくれて、良かった」

 うまく笑えないままだけど、志信さんは頷いてくれた。

「一杯奢ってあげる」

「えっ、悪いよ」

「いいから! 奢ってあげるから、胸の中に詰まってる気持ち、全部吐き出しちゃいなさいよ」

 志信さんがオーダーしたのは、甘いカクテルだった。

 もう飲むなよ、ってくぎを刺してくれたんだと思う。

 優しい人だな、と思いながら、ボクは志信さんオーダーのカクテルに口を付けた。
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