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第百十六話 死んでたんですね
しおりを挟むルタとおやっさんが知り合ったのは数ヶ月前のことだ。件のパーティーを抜けたルタが日々のクエストで日銭を稼ぎ、腹をすかせながら路地にうずくまっているときにおやっさんが声を掛けたのが最初だった。
そのときにツケ払いでいいということで牛丼を奢ってもらい、以来、ルタは店の常連となったのだった。
そしてわずか数ヶ月という間ではあるが、互いに相手はこういう人間だと理解し、気の置けない言葉を交わすようになっていった。
だからこそルタは、いまのおやっさんの態度に疑念を覚えたのだ。予想していた態度とは異なっており、それはつまり、この問答でおやっさんはなにか重大な秘密を隠しているのではないかと。
それがなにかまでは、はっきりとは分からないが。
「遠回りな聞き方は苦手なんでな、単刀直入に聞くぜ。あんたはメディ=イールと知り合いだったのか?」
「…………」
沈黙。
「いつ、どこで、どんな理由で知り合った?」
「…………」
沈黙。
「まさか恋人同士だったなんて言うなよ。もしくは親子とか親戚とかもな」
「…………」
再三の沈黙、かと思われたが、やや遅れて返答が来る。
「……まさか。んなわけあるか。変な誤解はすんじゃねえ」
「だよな。奴からもそんなことは一度も聞いたことはないし、匂わせてもいなかったからな」
「…………!」
ルタの口振りに、おやっさんは直感したようだった。
「おまえ……まさか知り合いだったのか……っ⁉」
「まあな。知らなかったのか。メディから聞いてなかったのか?」
「……聞けるわけがねえ。俺が見つけた時には、もう……。…………」
なにかを言おうとして、だがおやっさんは押し黙ってしまう。それ以上に口を開かせるには、事情を説明させるには、なにかが足りないらしい。
と、そこで、おやっさんの口走った言葉を聞いて、ロウがなにかを察した。その考えを証明できるようなピースは少ない。だがおやっさんの言葉はヒントになった。
それを確かめるために、ロウがおやっさんに言う。あるいはそれは確認のための質問かもしれない。
「……死んでたんですね。メディ=イールさんは。あなたが見つけたときには、もう」
「…………っ」
おやっさんが鋭い視線をロウに向ける。ロウはそれをまっすぐに受け止めて、まっすぐに見つめ返す。
明確な返答はなかった。けれども、おやっさんのその反応がすべてを物語っていた。
メディ=イールはすでに死んでいると。
二人の様子におおよそは察したものの、ルタは現出した疑問をおやっさんにぶつけた。
「おい、待て。メディがもう死んでいて、おやっさんがそれを発見したのなら、なんで失踪届けを出したんだ。普通に殺人として官憲に言えよ」
「…………」
「黙ってねえで、なんか言ったらどうなんだ? まさか本当にあんたが通り魔なのか?」
怒鳴っているわけではない。大声を上げているわけでもない。声の大きさはいつものような普通程度の大きさで、感情を抑えた冷静な口調。だがその奥には確かに真実を追求する真剣さが込められていた。
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