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第百二十話 こんなことだって
しおりを挟む(ここに来るまでの間に、ついてきている影はなかった。いったいどういうことだ?)
まさか姿や気配を消すスキルやアイテムを使っているのか? とルタが思考を巡らせたとき。
「もう、わたしはルタさんのためだったらなんだってしてあげるのに。あんなことやそんなことや」
唐突にニーサの姿が消えた。いや目にも止まらないような高速で移動したのだ。
「っ⁉」
「こんなことだって」
ガキインと金属同士がぶつかる音が荒野に響く。ルタの背後に回ったニーサがナイフを振り下ろし、彼がそれをとっさに自分のナイフで受け止めたのだ。
「きゃっ、言っちゃった。あ、でも、えっちなことはまだダメですからね」
「……っ⁉」
語尾にハートを付けるような口調で、赤く染めた頬にもう片方の手を当てながら、しかし言葉とは裏腹にナイフで斬りつけてくる。ルタもそれをナイフで受け止めながらニーサから距離を取ろうと移動するが、彼女は彼を追いかけて斬りつけるのをやめない。
キンキンキン、キンキンキンと荒野にいくつもの金属音が鳴り渡り、二人の高速移動によって砂煙が巻き上がる。彼女のその剣戟は、その動きはまさしくルタが数日前に対峙した通り魔のそれに違いなかった。
「やっぱり、おまえが通り魔ってことかよ……くそっ」
「でも、えっちなこと以外なら大丈夫ですよ。なにします? デートとか、一緒に食事とか、それで夜には綺麗な夜景を見ながら寄り添ったりとか……キスくらいならいいですよ……きゃっ」
照れたようにニーサが赤らめた顔を背ける。だがナイフを持った腕はルタを捉え続け、なおも斬りつけ続けている。
相手を見ずに正確に斬りつけられるのはまさにプロの腕に違いないが……同時にルタは再度確信した。
「やっぱりこの近くにいやがるんだな。おめえを操っている奴は……っ!」
問題はそいつがどこにいるかだ。それが分からない限り、この剣戟の嵐を止めることはできない。
最悪、どちらかが死ぬことになるだろう。
「いったいどこに……っ⁉」
ルタは再度周囲の気配を探るが、やはり黒幕とおぼしき者の気配は探知できない。ここには、この荒野には彼と彼女と野生動物しか存在していない。
「くそ……っ!」
何度目か、あるいは何十度目かになるか分からない剣戟を受け止めたとき、空の彼方からなにかが飛来してくるのが見えた。土ぼこりを上げながらそれが着地し、同時に二人がいるほうへと駆け出してくる。
「ロウ⁉」
それはロウだった。彼女は手になにかを握っているらしく、それを二人のほうへと投げ込もうと腕を振りかぶる。
「おやっさんは⁉」
「大丈夫です! 伏せてください!」
ロウが言うと同時に、周囲に光が満ちた。
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