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【第三部 悪魔の末裔】
27 『魔術』
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周りには店や民家が建ち並び、道には人が行き交っている。いまここで魔力や魔法を使えば、戦闘をおこなえば、確実に死傷者が出るだろう。
「く……っ!」
とっさにルナは足元に転移の魔法陣を展開し、それを男の足元まで瞬時に伸ばしていく。
「む⁉」
男が陣から逃れようと後方に跳ぶが……一瞬速く、陣は男の身体を捉えることに成功した。ルナが叫ぶ。
「飛べ!」
瞬く間に彼女と男の姿が光に包まれて、その場から消えていく。周囲にいた人々はいきなりのことに驚き、困惑したように二人がいた場所を見つめていた。
ルナと男は街から離れた草原に転移していた。周囲には街道もなく、人もいなく、静かな風がそよいでいた。
「く……⁉」
転移した瞬間、ルナは地面に片膝をつけ、左腕を右手で押さえる。転移する直前に男の放った攻撃が左腕をかすめていたのだ。
その攻撃をした塊もまた転移に巻き込まれており、ルナの後方の地面へと突き刺さる。先端が鋭く尖った氷の塊だった。
「……アイスニードル……氷魔法の使い手か……!」
ルナがにらむように男を見やる。男は屈むように地面に着地していたが、再び立ち上がって彼女を見据えた。
「違う。俺のは魔存在とやらにへりくだった魔法とは違う。俺のは、『魔術』だ」
「魔術……⁉」
耳慣れない言葉に、ルナは思わず目を見開いてしまう。いや、聞いたこと自体はある、学生時代、魔法の歴史などの教科書のなかに出てきた単語だった。
「まさか、いまだに魔術を使っている者がいるのか……?」
「魔術を馬鹿にするな。お前達人間が使う魔力操作も、大別すれば魔術ではないか」
「…………」
魔術とは、魔力を扱うこと……『魔力を扱う技術』、すなわち『魔術』である。男の言う通り、魔力をまとって身体を強化することもまた、大別した魔術の一種であることに違いはなかった。
「だがしかし、お前はお前が見くびる魔術によって敗北するのだ」
男が両手のひらを上向きにしながら、自分の腰の辺りへと持っていく。まるでジャグリングをするような構えだが、男が周囲に浮遊させたのは野球ボールの大きさほどの、いくつもの球形の魔力の塊だった。
「俺は気高きヴァルト様の専属コックを務めている。お前は俺が手ずから料理してやろう」
男の周囲に漂っていた魔力球の表面が水気を帯びていく。それまで無属性だった魔力球に、水の属性が追加された証だった。
「……っ! それは、水魔様の魔法か⁉」
「だから違うと言っている。これは俺の魔術。水魔などといった魔存在ごときの力など借りるものか!」
少し苛ついたように男は言った。自分が扱う魔術に自負があり、魔法と間違われたことに嫌悪感を抱いたのだ。
「料理に水は必要不可欠。魔術に詳しくないお前には分かるまい、この水魔術の原理を」
「…………」
魔術とは魔力を扱う技術全般を指す。男の作り出した水球は、男の球形の魔力が空気中の水分を取り込んで水の属性を得たのだった。
ルナはあえて反論をしなかったが、その原理について、とっさに学生時代に習った魔術の概要を思い出して理解していた。反論しないのは、『自分は魔術について詳しくない』と相手に誤認させたほうが有利に働く可能性があると判断したからだ。
「行け! 奴を窒息死させろ!」
「……っ!」
男が水球を猛スピードで撃ち出し、ルナがそれを地面を次々と跳んで回避していく。たとえ少量の水であっても、鼻や喉を塞がれるだけで呼吸困難に陥り、男の言う通り窒息死してしまうだろう。
男の水魔術にはそれが出来る。元々が男自身の魔力であるが故に、そのコントロール性能はずば抜けていて、素早く正確無比にルナの動きを追跡して迫ってきていた。
「く……。は……っ!」
回避が間に合わず、すぐ目前にまで迫る水球を、ルナは手元に魔力の剣を作り出して迎え斬る。次々と両断していく水球は、しかし形を崩すことなく地面へと落ちていき……。
「無駄だ。それは魔法の産物ではなく、あくまで俺の魔力なのだ。その程度の斬撃で消滅するわけはない」
その言葉の通り、水球は消滅することもバラバラに弾けることもなく、半球状の形を保っていた。のみならず、地面に着地する直前に再び浮力を取り戻して、再度ルナへと迫ってきた。
「……っ⁉」
「驚いたのか? 魔法はこんな簡単なことも出来ないのか?」
男は半ば見下したように言う。言葉としては問うているようだが、ルナの返答を期待しているわけではなかった。またいまのルナには返答する余裕もない。
ルナが再び斬撃を振るうよりも速く、二つに分かれたいくつもの水球が彼女の顔や手足へとくっついていく。命中したことによるダメージはほとんどない。いや、衝撃が起こらないように男が威力を調節したのだ。衝撃の反発力によってルナがのけぞったり吹き飛んだりして、水球が上手く彼女の身体に付着しないことを防ぐためだった。
男は直接的なダメージよりも、呼吸困難による窒息死を目的としていたからである。
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