現実でぼっちなぼくは、異世界で勇者になれるのか?

シュウ

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七章 森をさまよい

ぼくにとって大切な

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 目を開くと山の斜面が目に入った。
 土がずいぶんとえぐれているので、ここを転げ落ちたらしい。
 とてもではないが登ることはできそうにない。よくかすり傷ですんだものだ。
 背中には、落ち葉と柔らかい土がある。
 地面が柔らかかったおかげで助かったのかなと思った。

「そうだ。一緒に落ちたサギは?」

 彼女の姿を探すと、すぐに見つかった。
 自分を包み込んでいた暖かいものに気づく。サギが抱きついていたのだ。

「サギ!」

 呼びかけるが返事はない。完全に意識を失っていた。
 身体が相当熱を持っている。それにすごい汗で頬の化粧が流れおちていた。
 ごめん、と謝って帯をほどいて上着を脱がせて見る。
 下着の至る所に血がしみこみ、腕や肩には真っ青なあざができていた。

「こんなに怪我を……。ぼくを無事なのに。まさかぼくを庇ってくれて」

 だからつばさは軽傷で、サギはこんなにひどい怪我を。

「お願い、誰か! サギが大変なんだ」

  立ち上がって大きな声で叫んだ。
 サギは自分のせいでこんな怪我をしてしまったんだ。絶対に助けないといけない。
 のどが痛くなるほど声をはりあげても、誰も応えてくれなかった。
 ゼーゼーと苦しくて呼吸をする。
 森は決して静かではない。
 葉が風ですれる音。虫の声。
 そして、遠くから聞こえる遠吠え。
 つばさははっと緊張で身をすくめる。
 今のは獣の声だ。もしかしたら猛獣かもしれない。
 猛獣が相手なら単なる子供に過ぎないのだ。
 それに異形だとしても、レント族からもらった杖を失った今では追い払えるかどうかもわからない。
 自分が特別な人間だという、さきほどまでの自信はすっかりなくなっていた。
 無力な子供にしか過ぎないのが、つばさの現実なのだ。

「だけど――彼女だけは助けないと」

 自分は特別な人間ではなかった。
 だけど今、彼女を助けられるのはつばさしかいないのだ。
 そのためにはまず、どこか安全な場所にサギを運ぶ必要がある。
 だけど自分と同じぐらいの体格の人を、映画のスターみたいにお姫様だっこする腕力なんてつばさにはない。
 何かないか周囲を探す。
 するとつばさはサギの上着に、ナイフが入っているのを見つけた。

「これなら」

 一人言をつぶやくと、つばさは女王から貰った上着を脱いで、ナイフで切り裂いた。
 服を断裁して、風呂敷のようなものへと変える。
 切った服をサギの背中に回し、先端の紐を自分の胸元で強く結んだ。
 これならなんとかかついでいけそうだ。
 歩き出すと、人一人の重さは大変なものだ。
 木々の間を通り、足下が不確かな土や木の幹を上を歩く。
 何度もバランスを崩して倒れそうになった。
 手頃な長さと太さの枝をみつけたので、それを杖代わりにする。レントから譲り受けた枝はもうないのだ。
 周囲が暗くなり、つばさは片手で杖を、片手で懐中電灯で前を照らしながら進んだ。
 全身が汗まみれになり、足腰が痛んでもつばさは歩き続けた。
 サギの胸元にかかる首飾りの音と、つばさの息づかいがつばさに認識できる唯一の音だ。
 森からどうすれば出られるのか。
 どうすれば仲間たちの元に戻れるのか。
 つばさにはそれを実行できるすべがない。
 でもつばさは闇雲に、ただ森を歩いているわけではなかった。

「ほら、あれをみてごらん。きちんと実だけをわけてとっているだろ? 動物ならかじるだけだけど、ちゃんと森を知った障りなら次が生えてくるように。そして一番おいしいところはどれか考えてとるんだよ」

 一緒に旅をして、森のことを教えてくれたサギの無数の言葉がつばさの頭の中でよみがえる。
 自然の野草でも、誰かが収穫しているかどうかで実のなり方が違うこと。
 小型の獣がどれだけこのあたりにいるか。
 それをえさにする大型の獣が通っているかどうかも、樹の傷や雑草の生え方でわかること。
 障りがよく通る道かどうか。
 集落が近くにあるかどうかなども、草や樹の伐採具合でわかること。
 言葉が次々と浮かんでいく。
 それはまさしく森の声だった。
 つばさの足は無意識に、障りの生活跡に向かっていた。
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