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十一章 ながいながい旅路
ヤマのクニを越えて
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つばさとカイムの長い旅が始まった。
つばさは女王アゲハから祝福をうけ、一人と一匹はヤマのクニをひそかに旅立った。
女王の祝福は、病気やけがなどをなるべく避けるものらしい。
すでにやらなくなって久しいが、ゲームの幸運バフみたいなものだと解釈する。
サギにもらった魔よけのネックレスもあるのだ。
ちょっとやそっとじゃつばさには病気やケガに見舞われない自信があった。
「異形の主は広大な夢幻の世界へと逃げだした。まずはヤマのクニの外を目指すのじゃ」
カムイに従って、つばさは西へ、西へと向かっていく。
しかしヤマのクニの森は、果てしなく広かった。
つばさの持ち物はサギから贈られた服と首飾り。
そしてカイムが用意してくれた袋と毛布、それに小刀とマッチぐらいだ。
でも森は食料が豊富で、知識と知恵があれば何でも手に入る。
サギから教えてもらった森での暮らし方は、つばさの中で根付いている。
それに空を飛ぶことが出来るカイムがいれば食べ物などにこまることはなかった。
女王さまと、サギの祝福が効いているのもあるかもしれない。
幾度もの昼と夜を過ごした。
夜、時折寂しくて、せつなくてたまらないことがあった。
そんなときは首飾りをにぎりしめた。あたたかくて心が落ち着いた。
長い間歩き続け、ようやくつばさは森の端っこにやってきた。
ある朝のことだ。
広大な森を越えた先に、遙か水平線が広がっているが見えた。
「海だ」
「いや、あれは川じゃな」
「こんな……広い川があるの?」
でも確かに、潮の匂いがまるでしない。
「これを渡った向こうに主は逃げたはずじゃ」
まずは川を越えないといけない。
でも船がないととても渡りきれそうになかった。
「この辺に住んでいる障りがいたら、どうやったら渡れるか聞いてみよう。もしかしたら船があるかもしれない」
川を目指して二人は歩く。
川辺にたどり着いたとき、すっかり夕方になっていた。
カイムに空を飛んで、周辺に障りがいないか探してもらう。
その間につばさは、汗ばんだ身体を水で洗った。
すっかり夏になっていた。
ヤマのクニは日本よりだいぶ涼しい
でもやはり夏は暑い。
学校では夏休みになっているだろうか。
きゅうにつばさは現実世界のことを思いだした。
カイムが戻って来たころ、日は暮れ始めていた。
近くに住んでいる、けむくじゃらの障りがいたが、船を作る術は知らないという。
つばさは今日の所は早めに休むことに決めた。
フクロウは夜行性だが、つばさはそういうわけにはいかない。
川から少し離れた林まで戻ると、大きな樹の根元で横になった。
その夜、なかなかつばさは寝付けなかった。
本当に自分は主を見つけることができるのだろうか。
見つけられないのならいっそ、最後の時までサギやみんなと楽しく過ごすべきではないだろうか。
そんな考えが頭によぎっていた。
そんな弱気な自分を抑えようと、首飾りをぎゅっと握りしめた。
「サギ、ぼくを力づけてくれ……」
毛布の中でつばさは一人つぶやく。
彼女の手の感触が恋しかった。
「つばさ、わたしはずっとつばさを応援しているよ」
思わずテントの中を見回す。
もちろん誰もおらず、そばの木の枝で休んでいるカイムがいるのみだった。
サギがそばではげましてくれた、そんな気がしたのだ。
もちろん空耳だったのだろう。
だけどつばさは、なんだか安心して眠りにつくことができた。
つばさは女王アゲハから祝福をうけ、一人と一匹はヤマのクニをひそかに旅立った。
女王の祝福は、病気やけがなどをなるべく避けるものらしい。
すでにやらなくなって久しいが、ゲームの幸運バフみたいなものだと解釈する。
サギにもらった魔よけのネックレスもあるのだ。
ちょっとやそっとじゃつばさには病気やケガに見舞われない自信があった。
「異形の主は広大な夢幻の世界へと逃げだした。まずはヤマのクニの外を目指すのじゃ」
カムイに従って、つばさは西へ、西へと向かっていく。
しかしヤマのクニの森は、果てしなく広かった。
つばさの持ち物はサギから贈られた服と首飾り。
そしてカイムが用意してくれた袋と毛布、それに小刀とマッチぐらいだ。
でも森は食料が豊富で、知識と知恵があれば何でも手に入る。
サギから教えてもらった森での暮らし方は、つばさの中で根付いている。
それに空を飛ぶことが出来るカイムがいれば食べ物などにこまることはなかった。
女王さまと、サギの祝福が効いているのもあるかもしれない。
幾度もの昼と夜を過ごした。
夜、時折寂しくて、せつなくてたまらないことがあった。
そんなときは首飾りをにぎりしめた。あたたかくて心が落ち着いた。
長い間歩き続け、ようやくつばさは森の端っこにやってきた。
ある朝のことだ。
広大な森を越えた先に、遙か水平線が広がっているが見えた。
「海だ」
「いや、あれは川じゃな」
「こんな……広い川があるの?」
でも確かに、潮の匂いがまるでしない。
「これを渡った向こうに主は逃げたはずじゃ」
まずは川を越えないといけない。
でも船がないととても渡りきれそうになかった。
「この辺に住んでいる障りがいたら、どうやったら渡れるか聞いてみよう。もしかしたら船があるかもしれない」
川を目指して二人は歩く。
川辺にたどり着いたとき、すっかり夕方になっていた。
カイムに空を飛んで、周辺に障りがいないか探してもらう。
その間につばさは、汗ばんだ身体を水で洗った。
すっかり夏になっていた。
ヤマのクニは日本よりだいぶ涼しい
でもやはり夏は暑い。
学校では夏休みになっているだろうか。
きゅうにつばさは現実世界のことを思いだした。
カイムが戻って来たころ、日は暮れ始めていた。
近くに住んでいる、けむくじゃらの障りがいたが、船を作る術は知らないという。
つばさは今日の所は早めに休むことに決めた。
フクロウは夜行性だが、つばさはそういうわけにはいかない。
川から少し離れた林まで戻ると、大きな樹の根元で横になった。
その夜、なかなかつばさは寝付けなかった。
本当に自分は主を見つけることができるのだろうか。
見つけられないのならいっそ、最後の時までサギやみんなと楽しく過ごすべきではないだろうか。
そんな考えが頭によぎっていた。
そんな弱気な自分を抑えようと、首飾りをぎゅっと握りしめた。
「サギ、ぼくを力づけてくれ……」
毛布の中でつばさは一人つぶやく。
彼女の手の感触が恋しかった。
「つばさ、わたしはずっとつばさを応援しているよ」
思わずテントの中を見回す。
もちろん誰もおらず、そばの木の枝で休んでいるカイムがいるのみだった。
サギがそばではげましてくれた、そんな気がしたのだ。
もちろん空耳だったのだろう。
だけどつばさは、なんだか安心して眠りにつくことができた。
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