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10.転売屋は目標を定める

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何をするにも目標は大切だ。

異世界に飛ばされてどうなる事かと思ったが、案外暮らしやすく、むしろこちらの方が生き生きしている。

恐らく、元の世界に戻れても歩道橋から落ちたところからやり直す事になるだろうから、このまま食うに困らない生活を続けていく方がいい。

なにより楽しい。

転売屋だと蔑まれることも無く、自分の好きなように生きれるのなら戻らなくてもいいかなとも思いだしている。

そもそもどうやって戻るかもわからないけどな。

ともかく目標は大切だって話だ。

このままダラダラやっていくよりも、キチっと期間を目標を決めて働く方が張り合いが出る。

とりあえずは一年分の税金らしい金貨200枚。

それを半年で貯めようと思う。

そうすれば残りの半年で利益を出せるだろ?

支払いに怯えるくらいなら悠々達成してウハウハの生活を送りたいのが本音だ。

「とりあえずこの十日で稼げたのは金貨5.5枚。と、売れ残り多数か。」

売れ残りを全部売って金貨10枚。

だが、いつ売れるかわからないので買い取りの価格で考えると半値の金貨5枚って所だろう。

十日で金貨10枚、約一千万の売上か。

目標の金貨200枚に達するには後190日かかる計算だな。

完全な皮算用だが当たらずとも遠からずという感じかな。

半年で達成するにはちょい足りないがその間に効率を上げる方法ぐらいは思いつくと信じている。

まぁ限界を感じたら人を雇うという手もある。

販売と買取を同時進行できれば今の倍稼ぐことが出来るはずだ。

最悪俺の胸元にあるネックレスを売れば金貨100枚、買い取りでも金貨50枚ぐらいにはなるだろう。

よくわからないが勇者が買っていたらしいから、それを販売トークにする方法も無くはない。

しっかし勇者なんて本当にいるんだな。

ということは対極にある魔王もいるんだろうか。

ダンジョンがあって魔物がいるんだから魔王ぐらいいてもおかしくないか。

「ともかく金貨200枚を目標に出来ることをやるだけだな。」

理想を言えば販売効率のいいもの、需要がありかつ高く売れるものをメインで販売出来れば在庫の不安を感じなくて済む。

目下の問題はこの在庫だ。

部屋が汚いのはリンカに文句を言われるだけで済むからいいが、このまま行けば間違いなく隣部屋を借りることになる。

必要経費と考えることも出来るが無駄なお金は払いたくないからな。

「マジで人を雇うべきか・・・。」

ベッドに横になり見慣れてきた天井をぼーっと見ていると、いつの間にか眠りの淵に落ちて行った。


「なぁリンカ、今日が何年何月か知ってるか?」

「失礼ねそれぐらい知ってるわよ。今日は聖王歴720年18月31日でしょ?」

腰に手を当て自信満々に答える少女リンカ

だがそれを見ていたマスターがやれやれと言った感じで首を横に振っている。

「いや、19月1日になったな。」

「え!そうだっけ!?」

「聞いたやつを間違えたか。」

「一日ぐらい誤差、誤差みたいなものよ。」

慌てた様子で訂正しているが、月が替わる誤差はアウトだと思うぞ。

とりあえず今の話から察するに30日で月が巡り31日目は翌月になる。

それは元の世界でも同じことだったが、時々31日とかまじるよな。

「マスター、31日はあるのか?」

「ない。31日はつまり翌月の1日だ。」

「じゃあ年度は何時変わるんだ?」

「そりゃ24月が終わったらだろ。なんだ、お前の田舎じゃそんなことも教えてもらわないのか?」

ってことは一年は12か月じゃなくて24か月ってことになるのか?

今が19月という事は残り6か月で年が変わるのか。

丁度いい、年度が替わるまでに金貨200枚貯めるとしよう。

「それを知らなくても生きていけるからな。」

「まぁ、確かにそうだが・・・。商売するならそれぐらい気にしておけよ。」

確かにマスターの言う通りだ。

年度もわからず日々を過ごすのはもったいない。

この世界に四季のようなものがあるかは分からないが、収益を集計する必要もあるしひとまず月末を区切りとしておこう。

もしかすると元の世界のように年末は繁忙期かもしれないしな。

その辺の知識も全然ないから目標を達成する為にも勉強しておく方がいいだろう。

「そういうのはどこで習うんだ?」

「普通は親から学ぶもんだが、他となると教会かギルドか・・・。」

「どっちも近寄りたくないな。」

「そういうな店を持ちたいならせめて協会には顔を出しておけよ、万が一の可能性だってある。」

「協会?」

「ギルド協会だ。一度お世話になっただろ?」

あそこか・・・。

出来れば一番近づきたくない場所なんだが、万が一の可能性でも出てくるのなら行くしかないか。

「今日は休みだが明日は開いている、早めに顔を出しておけ。」

「休みなんてあるのか。」

「当たり前だろ。働き過ぎで死ぬつもりか?」

「俺の田舎じゃ良くある話だな。」

「けっ、働いて死ぬなんざまっぴらごめんだ。今時奴隷でも死ぬことは無いぞ。」

奴隷以下の元の世界。

まさに畜生以下の社畜ってな。

それがいやで転売に手を出したんだが、忙しさで考えればどちらも同じだった気がする。

「あれ?今日が1日って事は私もお休み・・・?」

「お、そういえばそうだな。」

「ちょっとマスター!どうして言ってくれなかったのよ!」

「聞かれなかったからな。」

おいおい、それで休日出勤を強いるとかどんなブラックだよ。

「今日はもうおしまい!早く行かなきゃ!」

「どこ行くんだ?」

「商店街に決まってるでしょ!1日は大安売りの日なんだから、お目当ての品が売り切れてたらマスターのせいなんだからね!」

慌ててエプロンを外しリンカが外に飛び出していく。

どこの世界も女は安売りに弱いみたいだ。

「大安売りの日、ねぇ。月初めは特別な日なのか?」

「新しい月に感謝と祈りをささげる日、信心深い奴は教会にでもいってるんじゃないか?」

「興味ねぇなぁ。」

「安いのは商店だけじゃないぞ、露店も今日は賑わっているはずだ。」

「それを先に言えよ!」

仕入れの大チャンスじゃねぇか!

俺もこうしちゃいられない。

食事を切り上げ一旦部屋に戻って、例の場所から仕入れ費用を取り出して再び下に戻った。

「ほら、これでも持ってけ!」

「助かる!」

鍵を返す代わりに昼飯代わりの何かを手渡された。

見た感じパンに肉を挟んだような簡単な奴だが、食事の手間を考えると有難い。

とりあえず鞄代わりの袋に突っ込んで俺は市場へと走った。


「いやー、大量大量。」

「お、随分買い込んできたな。」

「まあな。」

「部屋には・・・ギリギリ入るか。」

「さすがにそれは考えているつもり・・・だったんだけどさ。」

「なんだよ、歯切れが悪いな。」

話の通りいつも以上に市場はにぎわっており、普段見ないようなものが沢山出品されていた。

一種のガレージセール的な奴なんだろうか普通の主婦が露店に品を並べてそれを別の主婦が買って行く。

そんな光景があちこちで繰り広げられていた。

普段はアマチュアかプロしか出てこない露店が素人の空間に変わる。

それはつまり鑑定スキルも持っていないがネギを売っているようなものだ。

一般人には不要な物でも、俺みたいな人間には必要な物だってある。

ガラクタだと思っていたものがレアものだったなんてのは元の世界でもよくある話だしな。

そんな大量のガラクタ達も俺の鑑定スキルと相場スキルにかかればあら不思議、あっという間に選別されてしまうわけだよ。

あっちの店こっちの店と片っ端から冷やかしていき、目ぼしい物を見つけたら即購入。

そんな事を繰り返していたら気づけばとんでもない量の買い物をしてしまったわけだ。

「実は外にこれと同じだけある。」

「嘘だろ?」

「いや、年甲斐もなくつい夢中になっちまってさ。」

「年甲斐ってまだそんな年じゃないだろうが。まるでリンカと同じだな。」

「あれと一緒にされるのかよ。」

流石にそれは心外だなぁと思いつつも、今日の自分を振り返ると何も言い返せない。

だってさ、カモがネギしょってるんだぜ?

そりゃ買うだろ。

「後先考えずに買い物しているようじゃ同じだよ。で、どうするんだ?」

「・・・横の部屋貸してもらえるか?」

「一月銀貨20枚なら貸してやる。」

「助かる。」

前払いで横の部屋を借り、三往復程して荷物を全部運び込んだ。

途中リンカが信じられないといった顔をしていたが見ないでおこう。

俺だって昨日の今日でまさかこんなことになるとは思ってもいなかったんだ。

買い物に使ったのは部屋代も含めて金貨三枚ほど

今ある在庫を考えても今月は売りに専念するしかないだろうなぁ。

あぁ、また掘り出し物が転がっていたら・・・。

「おい、面白い顔になっているぞ。」

夕食を終えいつものように一息入れながら考え事をしていたらマスターにからかわれてしまった。

「なぁマスター、自分がもう一人欲しいって思った事はないか?」

「そりゃあるさ。俺がもう一人いれば半分仕事をさぼれるしな。」

「それって向こうも同じこと考えてるんだろ?結局一人分しか働いてないんじゃないか?」

「いいんだよ、今までの仕事が半分の労力で出来れば。」

「そんなもんかねぇ。」

「お前はちょっと働き過ぎじゃないのか?ここに来てからずっと働き通しだろ、たまには休めよ。」

休むって言ってもなぁ。

映画館もなければネットもゲーセンもないこの世界でいったいどうやって時間を潰せば・・・。

そんなことを考えているとふとマスターと目が合った。

そう言えば一か所あったわ。

お互いにニヤリと笑って俺は席を立つ。

マスターは何も言わずに鍵を受け取り、俺は陽の暮れた街に繰り出すのだった。
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