転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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58.転売屋は情報を整理する

街のゴシップ誌的な奴が隊長の更迭について特集記事を組んでいたが、それもすぐに別の話題で聞かなくなった。

表向きは体調不良による引退。

でも実際は、職務怠慢と賄賂による更迭だ。

それをばらしたのが俺。

というか、マスターかな。

俺が詰め所に行くと聞き、何かやらかすだろうと踏んですぐにシープ氏に連絡したそうだ。

元々警備費の請求は上でも問題になっていたようで、どうにか尻尾を掴もうとしていた矢先だったらしい。

何とも都合のいい話だが、結果として隊長は居なくなり不正は正された。

俺は要らぬ金を払う必要がなくなり、無事に店に戻ることが出来た。

え、洗濯洗剤はどうしたのかって?

翌日も飛ぶように売れたよ。

お陰様で予定よりも早く完売し、奥様方からはブーブー言われたがね。

シープ氏にお礼を言いに行ったら逆に感謝されたよ。

今回の件で昇進するんだってさ、うらやましいねぇ。

でも俺は誰かに使われるなんてまっぴらだ。

自由自適に自分の好きなように生きるのさ。

「で、この間の件だけど。」

「何の件だ?」

「ちょっと!ダンの件よ。」

「ダンの剣の件な。」

「ややこしいけどそうよ。」

ダンの剣の件。

そうだ、思い出した。

ダンジョンで見つけたっていう若干怪しい剣の話だな。

素性がわからないのでとりあえず保留にして探ってもらったんだった。

この間の件ですっかり忘れてたよ。

「で、どうだったんだ?」

「確かにダン達がダンジョンの奥で見つけたので間違いないみたい。でも変なのよね。」

「何が変なんだよ。」

「潜ったのは彼を含めて三人、でも戻ってきたのは二人。話じゃ魔物にやられたって話だけど実力から考えてあまり考えられないのよ。」

「ふーん。」

「もう一人も大きな怪我をして冒険者を引退。」

「で、残ったのがダンだけってわけか。」

確かに妙な話だ。

実力以上の魔物にあたったのならともかく、実力以下の魔物に一人は殺され、もう一人は大怪我をした。

「しかも普通ダンジョンから戻って来たら山分けするはずなのに、それすらせずに引退って変な話よ。」

「そうだよな。せめて治療費にって思うのが普通だよな。」

「そうそう。それすらしないなんて、まるで逃げたみたい。」

「でもまぁ格下に負けるなんて、ない話じゃないしそれを証明するのは難しいだろう。でも噂になったばっかりに生きづらくて街を出よう、だから金が要る。そんな所か?」

「さっすがシロウね、まさにその通り。」

となるともう一人が気になるな。

彼がいなくなると困る人物。

この間マスターと話した時はそんな話出てなかったけどなぁ・・・。

ダンはまだ隠しているのか?

まさか何も言わずに出ていくとか?

流石にそれはまずいだろう。

「リンカはどうしてる?」

「いつもと変わらないけど・・・。そっか、リンカちゃんダンの事。」

「噂は噂だから絶対じゃないが、これは真剣に調べた方がいいかもしれないなぁ。」

「そうね、あの二人の為だもんね。」

リンカとダンが恋仲なのは周知の話だ。

マスター公認だしダンもそれがわかっていてがんばっていた。

にもかかわらずこの間はそんな気配が全く感じられなかった。

上に上がれるのは実力のあるやつだけ。

そんな事を言っていた気がする。

「とりあえずもう少し話を聞いて回ってくれ。」

「わかった。」

冒険者に聞いて回るのはエリザに任せて、俺は俺で調べるとしよう。

エリザが駆け足で出ていくのと同時に、ミラが店に戻ってきた。

「ただいま戻りました。」

「おかえり、どうだった?」

「取引板では急に需要の増えたような品はありませんでした。」

「そうか、残念だな。次の仕込みをしたかったんだが・・・。」

「予定通りグリーンスライムの核を仕入れるのがよろしいかと思います。」

「あれは売れるのがだいぶ先になるからなぁ。並行して売れるものがあればいいんだが・・・。」

洗濯洗剤が終わり次の仕込みを探しにミラには連日取引所に行ってもらっている。

中の職員ともだいぶ仲良くなったようで、色々と新鮮な情報を仕入れてくれるのはさすがだ。

俺も仲良くはなったが、調べもの好きの兄ちゃんぐらいにしか思われてなかったしなぁ。

「先ほどエリザ様が来ていたようですが・・・。」

「この間探ってもらってたダマスカスの剣について情報を持ってきてくれたんだ。きな臭いからまた調べてもらっている。」

「そういえばそんなものもありましたね。」

「ミラは何か掴んだか?」

「申し訳ありませんが何も。」

「まぁそうだよな。」

買取に出そうかという品を取引所に出すことは無いだろう。

何か怪しい匂いのする品であれば特にだ。

盗品で、探しています的な情報が出てるかな?とか思ったんだが、そんな甘くは無かったようだ。

「ですが、関係御有りそうな依頼はございました。」

「なんだって?」

「ダン様が金貨2枚にこだわっておられましたので、その金額で売りに出されている品を探してみたんです。」

さっすが、出来る女は違うねぇ。

その探し方は想像できなかったわ。

そうだよな、金が要るのは何か理由があるからだ。

その理由を逆算すればおのずと答えが見つかる・・・かもしれない。

「で、何があった?」

「祈りの指輪と願いの指輪、それと忠犬の首輪の三点です。」

「お、おぅ。」

「どれも十分可能性が有ると思われます。」

最後の首輪まで可能性が有ると判断したのか。

確かにそっちの趣味の人からしたら欲しい品かもしれないが・・・。

現物が無いから鑑定も相場スキルも発動出来ないが、忠犬が無茶苦茶気になるぞ。

「ちなみに忠犬の首輪はどういう装備なんだ?」

「詳しくは存じませんが、装備者に一定の行動制限を設ける品だと記憶しています。」

「行動制限。」

「もしくは指示ですね。私の首輪のように、装備させたものを認識しその人の命令を聞けるようにする品かと思われます。」

なんとまぁわかりやすい事。

どう考えてもそっちの筋の人御用達って感じじゃないですか。

俺にその趣味は無いから何とも言えないが・・・。

ダンがこれを?

まさかリンカに着けさせるのか?

いや、それはない。

そんなことはマスターが絶対に許さない。

という事は逆だ。

着けてもらうんだ。

リンカの忠犬として一生ついていきますと誓いを立てる。

誓いの指輪ならぬ誓いの首輪。

・・・ないな。

よし、次。

「祈りの指輪と願いの指輪、どちらも同じものじゃないのか?」

「こちらは調べるとすぐにわかりましたが、効果が全然違うそうです。」

「効果が?」

「この指輪は元々一対になっており、祈りの指輪を女性が願いの指輪を男性がつけるそうです。ごくまれに逆の場合もありますけど、大抵は前者ですね。」

「続けて。」

「祈りの指輪は女性が男性の無事を祈り、願いの指輪は男性がお互いの幸せを願ってお互いに身に着けるものです。求婚する時に贈ることが多いそうですが、最近では恋人同士でこれを身に着けることも有るそうですよ。」

「なるほど、結婚指輪もしくは婚約指輪か。合点がいった。」

つまりこっちが本命だ。

流石に首輪を渡すってことは考えられないから、元の世界宜しく気持ちの証を示したいんだろう。

だから金貨2枚にこだわった。

貸付だと金を返す必要が出てくるが、買取だと問題ない。

そうなると一番現実的なのはしばらくあの剣を使って残りの金を稼ぐことだな。

売ってしまってもいいが、使える物は使うべきだ。

金をなくすリスクだってある。

「その依頼は何時から出ているんだ?」

「年明けからです。」

「つまりその頃から考えていたと。」

「ですが少し変なのです。」

「変って?」

「普通であれば購入したいと依頼を出すものですが、今回のこれは買取の依頼になります。」

「つまり今持っている物を売りたいと?」

「そうなりますね。」

中古かよ!

いや、この世界ではむしろ中古が普通だし新品がどこから手に入るかなんてのも実はよくわかっていない。

中古品でも気持ちが伝わればいいのかもしれないが・・・。

でも年明けから売れてないんだよね、これ。

「という事は、ダンが出した依頼じゃないわけか。」

「そうなるかと。」

「うーむ、謎が解決したと思ったんだがなぁ。」

まだまだ情報不足のようだ。

エリザに頼んでいる分もあるしひとまずこの件は保留、調査進行って感じで行くしかないな。

「直接聞かれてはいかがですか?」

「ダンにか?」

「いえ、リンカ様です。そういう話が出ているのであれば何か情報がつかめるかもしれません。」

「なるほど、確かにそうだ。」

今度結婚するんです~とか、指輪のサイズを聞かれて~とか。

リンカのことだからそういう話が出ているのであれば喜んで聞かせてくれることだろう。

もしくはダンがサプライズにしたくて黙っているか。

俺は後者の可能性が高いと思うけど、ぶっちゃけ他人の話だしな。

「ま、急ぐ内容でもないし。有難う助かった。」

「とんでもありません。また何かわかりましたらお知らせします。」

「少し休むか?」

「いえ、シロウ様の隣のほうが休めますので。」

「器用な奴だな。」

わざわざ俺の真横に椅子を持ってきて満足そうに座るミラ。

そのまま二人でのんびりと道行く人を眺め続けるのだった。
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