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132.転売屋は女豹の餌食になりかける
しおりを挟む「どうしたんだ?」
停車させると前を兵士が塞ぎ、小太りの男が横にやって来た。
「入場証を出せ。」
「はいよ。」
俺は入る時に渡された入場証を手渡す。
来た時はただ渡されただけなので気にしてなかったが、成程これで街に入った日付などを管理していたのか。
「行商に来たのか?」
「そうだ。」
「その様子じゃここは初めてみたいだな、利益に対する納税証が無いと外に出られない決まりになっている。税率についての説明は・・・これも聞いてないのか。」
「あぁ、街に来てすぐここの住人に捕まって連れて行かれたんでな。」
「どこへだ?」
「ダマスカス鋼を使って武器を作ってる工房だ。あそこの奥さんに無理やり連れて行かれたんだよ。」
「あ~、そりゃ災難だったな。」
小太りの男が同情した目で俺を見て来る。
この様子じゃ常習犯みたいだな。
俺以外にも被害者が結構いそうな感じだ。
「オホン、ともかく納税してもらわない事には街からは出られんぞ。」
「いくらなんだ?」
「儲けに対して2割、だがこの街で金貨1枚以上買い物をしているのなら1割五分に減額している。」
「なら後者だな、後ろに乗せてるダマスカス鋼をその工房で仕入れたんだ。」
「工房で?」
「親方が腰を悪くして当分ハンマーを持てなくなったんだよ。仕入れの代金もあるし俺が半分引き取ったんだ。」
「あー、この間派手に暴れていたからな。それでだろう。」
「常習犯なのか?」
「酒が入るとちょっとな。」
おっちゃんの方も常習犯だったらしい。
なんだよ、心配して損した。
「儲けは金貨12枚だ。」
「結構儲けたな・・・。っと、金貨1枚と銀貨80枚収めてくれ。」
「高すぎないか?」
「ここで儲けたいならそれを覚悟するんだな。ほら、さっさと払え。」
予想では二割だったわけだし、減額されただけマシだろう。
あそこでダマスカス鋼を仕入れてなかったら税金は金貨2.4枚分。
これだけで銀貨60枚浮いた計算になる。
これからもここに来るのならその辺も考えて仕入れしないといけないな。
「シロウ様おねがいします。」
「ほらよ、確認してくれ。」
ミラが財布から硬貨を取り出しそれを右から左に渡す。
「・・・ちょうどだな、助かる。」
「釣りを準備するのも面倒だしな。」
「そうなんだよ。この暑い中立ちっぱなしで嫌になるぜ。」
「他の商人には文句を言われるのにってか?」
「それが仕事だから仕方ないさ。これが納税証だ、確認してくれ。」
「確かに受け取った。」
よしよしこれで全部終了だ。
兵士が前を開け、エリザに合図をしようとしたその時だった。
「その馬車待て!」
小太りのおっちゃんの後ろから誰かが小走りで走って来る。
三人組か。
そのうちの一人が先に馬車へと駆け寄って来た。
「失礼、商業ギルドの者だがこの街でアラクネの糸を売ったか?」
「そうだったらどうするんだ?」
「あれはギルド専売の商品だ、勝手な事をしてもらっては困る。」
「それは知らなかった。それならそれで町の入り口にでも書いといてほしいね。」
「誰に売ったのか白状しろ。」
「なんだ、偉そうに俺が誰と商売しようが勝手だろ?」
あまりに横暴な言い方についムッとしてしまった。
向こうも同じようでお互いににらみ合いが続く。
小太りのおっちゃんが横でオロオロしているのがちょっと面白い。
「捕まえましたか?」
「確保しましたが口を割りません。」
「貴方の言い方もあるのではなくて?もう少し穏便な言い方でやりなさい。」
「申し訳ありません。」
頭を下げる男の後ろから飛び切りの美人が現れた。
某怪盗に出てきそうなスタイルで、その目つきはまさに女豹って感じだ。
捕まると絶対にめんどくさいやつだ。
「初めまして旅の商人さん、私は街のギルドを統括するナミルっていうの。お名前をお伺いしても?」
「シロウだ。」
「要件はさっき聞いた通りよ、アラクネの糸はこの街の専売品。勝手にお商売されては困るの。」
「それに関してはさっき言ったとおりだ、専売品なら入り口に掲げるなりして告知してもらわないと確認のしようがない。特に俺みたいに初めてのやつはな。」
「街に来たらまずギルドに挨拶をするってことを知らないの?」
「それはこの街の勝手なやり方だろ?そうしてほしければさっき同様告知してくれ。」
とりあえず知らぬ存ぜぬで通すしかないだろう。
ってか、本当にそうだしな。
ギルドに来てほしいなら入り口で入場証を渡した時に言えばいい話だ。
それをしなかったのはそっちの落ち度で俺には何の問題もない。
「・・・確かにそうね。次回以降はそうするわ。」
「よろしく頼む。で、要件は終わりか?さっさと帰らないと日暮れになっちまうんだが。」
「ダメよ、売った先を白状してもらわないと。」
「守秘義務があるんでね、それは言えない。」
「牢にぶち込むわよ?」
「じゃあその為の法を教えてくれ。何も知らない商人を勝手に牢屋にぶち込んでもいいという法律がこの街にはあるのか?それなら大変だな、すぐにいっぱいになっちまうぞ。」
牢屋が怖くて・・・なんて言うつもりはないが、明らかなブラフだ。
そんな事に引っかかる程馬鹿正直に生きてないんでね、こっちは。
それが例えギルドの偉い人間でもだ。
「面白い人ね、次からこの街で商売できなくなるわよ。」
「別にここで商売をしたくて来たわけじゃない、偶然立ち寄っただけだ。」
「その割にはうちにない物ばかり積んできたみたいね。ブラウンマッシュルームに聖布に糸、グリーンスライムの核なんて常に枯渇して困ってるのよ。儲かったでしょ?」
「まぁそれなりにな。」
「その儲けが無くなってもいいのね?」
「別に構わないさ。だが、取引履歴を見る限り随分と数が足りないみたいじゃないか。自分たちの儲けを考えるならまた持ってきてほしいのが本音だろ?ぶっちゃけこの時期に核を手に入れるのはかなりラッキーなはず、うちにはまだたくさん在庫があるからここで売るつもりだったんだが、そうか次はもうないみたいだし他所で売るとしよう。そう記録しておいてくれ。」
「畏まりました。」
ワザとらしくミラに言うとすぐにそれに反応してメモに何かをかき出した。
さすがミラだな、突然のフリにも即座に対応してくれる。
エリザじゃこうはいかないだろう。
「意地悪な人ね。」
観念したように女豹が両手を上げる。
急に態度が軟化したが、絶対に何か企んでいるだろう。
「そうでもないさ。」
「どうしても教えてくれないの?」
「そんなに胸を寄せてもダメだぞ。なかなかの光景だがうちの女達も負けてないんでね。」
「ちょっと急に揉まないでよ!」
「大きさでは少々負けていますが、形では負けていません。」
女豹が前かがみで乳を寄せ谷間を作るが残念ながら俺は乳派じゃなくてね。
二人の乳を揉んで余裕を見せる。
前の兵士が何やら悔しそうな顔をしたような気がするが、まぁ気のせいだろう。
「つれない人。」
「俺は教えるつもりはないし、そっちが来るなというのならもう二度来ない。そっちは税金と素材を得る機会を失うだけで俺は何も困りはしないさ。」
「じゃあ逆に聞くけど、聞かなければまた来てくれるのかしら?」
「そうだな、税金をもう少し負けてくれるなら考えてもいい。」
「それはできない相談ね。でも、そっち次第なら考えてあげてもいいかな。」
真っ赤な舌が上唇をぺろりと舐める。
その妖艶な雰囲気に思わず引き寄せられそうになったが、両サイドの女たちが同時に俺の脇を小突いてきた。
分かってるって。
その様子を見て女豹が苦笑いをする。
「行商して回ってるならいろんな街に行ってるのよね、噂では隣町に珍しいお店があるらしいじゃない。なんでも買い取ってくれるお店らしいんだけど、知ってる?」
っと、どうやら俺の正体はバレてるようだ。
知ってると答えるとどうなるか気になるが、それで答えるやつはいないだろ。
「いいや、知らないな。」
「そう。もし行くことがあったらよろしく伝えといて頂戴。」
「見ての通り売る物がなくてね、機会があれば行ってみるよ。」
「ふふ、そうして頂戴。」
どうやらこれ以上やりあう気はない様だ。
興味を失ったように女豹が馬車から離れていく。
突然いなくなったものだから横にいた別のギルド職員が慌てていた。
それがおかしくて思わず笑ってしまう。
「何がおかしい!」
「別に何でもないよ、急いでるんでまたな。」
それだけ言うと急ぎ馬車を走らせる。
「おい、マテ!」
待てと言われて待つ奴があるか。
後味は悪いが今は逃げることが先決だ。
「大丈夫なの?」
「わからん、だが止まるな。」
エリザにそう言って馬車を走らせる。
途中何度も振り返り追手がないか確認をしたが、特に問題はなさそうだ。
初の行商だったが儲けは出たものの何とも言えない終わりになった。
これからはもっと下調べをしてから行こう。
そう誓うのだった。
応援ありがとうございます!
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