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179.転売屋は大物を見つける

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あれからときどきルフと一緒に散歩に出ているが、獲物を狩って帰ることはまだない。

そもそもメスのディヒーアが一頭でウロウロしていることが珍しいんだ。

よっぽどの巡り合わせだったんだろう。

またあの美味い肉を食いたいものだが・・・、まぁタイミングが合えばだな。

「じゃあ行って来る。」

「行ってらっしゃいませ、昼には戻られますか?」

「売れ行き次第で一度戻るつもりだ。好調なら向こうで何か食べるさ。」

「畏まりました。」

店番を任せていつものようにリアカーを引いて市場へと向かう。

卸し先の決まっている買取品と違い、装備品などは基本自分で売りさばかなければならない。

この前の様に勝手に売れる場合もあるが、ほとんどは露店での販売だ。

「おはよオッチャン、オバチャン。」

「おはようさん、今日は早いな。」

「ミラに追い出されたのかい?」

「12月に備えて売るもん売っとこうと思ってな。」

「いい心がけだね、アンタの所はまぁ大丈夫だろうけど還年祭の時にお金がないんじゃなにも楽しめないからね。」

「楽しむも何も俺は出す側だから関係ないけどな。」

還年祭とは12月30日から13月1日にかけて行われる年越しの祭りみたいなものだ。

24ヶ月で暦が変わるこの世界ではその中間にあたる12月~13月に暦が折り返しを迎えると考えられているらしい。

だから年が還るで還年と呼ぶ。

ようは長い冬の折り返しで感謝祭みたいな祭りをしたかったんだろう。

みんな祭り好きだからなぁ。

んでもって、その日に向けてしっかりと稼いでおこうというわけですよ。

リアカーから荷物を下して店頭に並べる。

大きな武具系は持ってくるのが大変なので装飾品や小刀、大きくても長剣ぐらいだ。

闘技大会も終わったのでやっとまともに武器が売れるようになってきた。

「これでよしっと。」

「今回も大量に持って来たな。」

「商売繁盛なのは良いが、その分数を捌かないとな。」

「しっかり稼ぐんだよ、ミラにひもじい思いをさせたら承知しないからね。」

「それは無いって、これでも一番の稼ぎ頭だからな。」

自慢じゃないが稼ぎには自信がある。

ひもじい思いなんてさせるつもりはないさ。

「話の途中で悪いがそれを見ていいか?」

「あぁ、こいつか?」

「その横の斧だ。」

「こっちか、実際持って確かめてくれ。」

手渡すときに鑑定スキルが発動する。

『隕鉄の手斧。鋼よりも固く重い一撃は岩をも砕くと言われている。破砕の効果が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨88枚、最安値銀貨70枚、最高値金貨1枚。最終取引日は112日前と記録されています。』

「思ったよりも軽いな。」

「だが硬さは折り紙付きだ、加えて破砕の効果がついてるから硬い魔物でも戦えるぞ。」

「破砕付きか、この重さならしっかりと振り回せそうだ。」

「片手が浮く分盾を持てば安定感も増すし、柄が長いから両手でも行けなくはない。オススメは盾だけどな。」

さりげなく横に置いて丸い盾を前に出してみる。

両方売れれば万々歳だ。

「盾はもう手持ちにある、うぅむ良い品だ。いくらだ?」

「金貨1枚と銀貨10枚と言いたい所だが金貨1枚ぽっきりでどうだ?」

「やはりそれぐらいするか。」

「効果付きでこの価格はむしろ破格だよ。闘技大会のせいで武器が売れなかったから早めに売ってしまいたいんだ。」

「気持ちはわかるがこっちにも予算がある。銀貨80枚ではどうだ?」

「いくらなんでも安すぎだ、90枚より下げられないぞ。」

「仕方ない、90枚で売ってくれ。」

「毎度あり。」

値下げしつつ金貨を1枚出してくるのがアレだよな。

いやいや金あるし!とか思ってしまう。

おつりを渡しつつ用意してあった紙を一緒に手渡す。

「なんだこれは。」

「一角亭の食事券だよ、持って行けばエールを一杯サービスしてくれる。」

「それはいい物を貰った、ありがとよ。」

「珍しい品を見つけたら買取屋の方にも持って来てくれよ。」

しっかり宣伝して次を待つ。

「相変わらず強気な商売してんなぁ。」

「そうか?」

「気前よくタダ券まで渡してさすがだねぇ。」

「酒しか飲まないやつはいないからな、あれをきっかけに食って飲んですれば十分元は取れる。」

「うちのチーズもつけるか?」

「それよりもうちのお玉とかどうだい?」

いや、どっちをつけても売れないから。

その後も両サイドの二人に茶化されながらも今日はとんとん拍子に装備が売れてくれた。

昼過ぎには持って来た半分がなくなるぐらいだ。

大儲けってやつだな。

「すみません、ここってあの買取屋さんのお店ですよね?」

「ん?そうだが?」

上機嫌で次の客を待っている時だった。

一人の女がふらっと現れた。

どう見ても冒険者じゃない。

でも街の住民にも見えない。

どっちかっていうとお貴族様?

そんな雰囲気のする女性だった。

「よかった。あちらは怖い男の方が多くて入りにくかったんです。」

「冒険者が多いからな、だが根は良い奴らだしあの店で狼藉は許さないから安心してくれてもいいぞ。」

「でも、ここならだれもいませんし安心してお話しできます。」

「ってことは買取か?」

「はい。どうしても今日中にお金が必要でして・・・。」

なんだ、訳ありか。

それならベルナの店に行けばいいのにと喉元まで言葉が出かかったが、ぐっと我慢する。

両隣にオッチャンおばちゃんがいるからなぁ。

あまり適当な事すると怒られてしまう。

「普段は向こうでしか買取しないんだが・・・。とりあえず物を見せてくれ。」

「はい、こちらになります。」

身なりは普通。

別段着飾っているわけでもないし、手もものすごく綺麗って感じじゃない。

自分で水仕事をしているような手だ。

かといって、家政婦のようにも見えない。

家の物を勝手に盗んで来てってのは良くある話だ。

そんな女が手渡してきたの鶏の卵ほどの大きさをした黒色の石がついたブローチだった。

即座に鑑定スキルと相場スキルが発動する。

『ノワールエッグ。闇をも吸い込む漆黒のオニキスは例え厄災であろうとも吸い込み封じ込めてしまう。最近の平均取引価格は金貨185枚、最安値金貨80枚、最高値金貨230枚。最終取引日は5年と622日前と記録されています。』

「は?」

思わず変な声が出た。

何だこれ、値段もそうだがこんな品見た事が無い。

5年以上取引されていないってことはかなり珍しい品なんじゃないだろうか。

それに厄災までも封じ込めるって、マジの話なんだろうか。

ほら、ここって剣と魔法もアリの世界じゃない?

だからそんな不吉な事も十分にあり得るんじゃないかと心配してしまうわけですよ。

「こりゃ凄い。」

「こんなもの初めて見たよ。」

両サイドの二人まで身を乗り出してのぞき込んでくる。

こらこらお客さんの品を覗き込まない。

「どうでしょうか。」

「これの価値が分かって持ってきてるのか?」

「亡くなった旦那が何かあったら売れと渡してくれた物なんです。少しでも足しになれば助かります。」

「足しに・・・ねぇ。」

「あの、買い取れますか?」

随分と必死なご様子。

どう考えても訳アリだよなぁ。

いざとなったらこれを売れって言ってこんな品を渡せるような旦那がいる家。

どう考えても庶民じゃない。

貴族がらみか・・・。

うわー、ここに来たばかりの頃を思い出す。

リング氏は元気だろうか。

そろそろ子どもが生まれてもおかしく無い頃なんだがなぁ。

っと余計なこと考えてしまった。

「買い取れるがここには金が無い、今日中に欲しいんなら店に来てくれ。」

「買い取っていただけるなら・・・わかりました。」

「ってことでちょっと店まで戻る、客が来たら後で来るように言ってくれ。」

「はいよ、行っといで。」

「こっちは任せとけ。」

この二人だから商品を置いたままでも安心して離れられるんだよな。

訳アリ女を連れて店へと向かう。

聞いちゃいけないこともあるんだろうが、面倒に巻き込まれない為にも色々と聞いておきたい。

「一つ質問なんだが、いいか?」

「はい。」

「今日中にいくら必要なんだ?」

「金貨100枚・・・いえ、200枚あれば全てが片付くんですけど。」

「かなりの額だな。借金っていうレベルじゃない。」

「色々とツケが回ってきまして、私が支払う事になったんです。」

「ってことはあんたの借金じゃないのか。」

「えぇ、まぁ・・・。」

特大の面倒事だ、関わらない方がいい。

俺の第六感がそう囁いている。

それ以上は何も言わなかった。

お互いに無言のまま店へと入る。

幸い客は帰った後で店には誰もいなかった。

「おかえりなさいませ、お客様ですか?」

「あぁ、色々と訳アリでな、金額が金額だけに店に来てもらった。外に休憩中の札を出しといてもらえるか?」

「わかりました。」

人払いをする手間が省けたな。

一先ず女をカウンターに誘導して売上金を置きに中へと入る。

ついでに買い取り資金も確認した。

帳簿を確認すると今自由に出来るのは金貨150枚。

200枚も出せなくはないがそれを出すと還年祭に使うお金に余力がなくなる。

最後のグリーンスライムの核を売ればそれなりの金になるし、ホワイトベリーの金も入って来る。

だが入って来るまでキャッシュが無いのは些か不安だが・・・。

「まぁ何とかなるか。」

買取金額に関してはこれからの交渉次第だ。

俺は店に戻り、不安そうに俯く女の前に座った。
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