182 / 444
182.転売屋は女に悩む
しおりを挟む
楽しい食事の時間はあっという間に過ぎ、酒の力でポカポカしながらそれぞれの家路についた。
え、抱かなかったのかって?
いやいや、さっきも言ったようにそこまで困ってないから。
未亡人だろうが流石にヤバすぎる相手なので手を出すことはしなかった。
随分と目線は合ったが、それは偶然だし目が潤んでいたのはお酒のせいだろう。
もちろん、そんな話を三人にしたら呆れたように首を振られるのは分かっている。
なので何も言わず家に帰った。
「ハーシェ様は無事に戻られたそうです。」
「すまんな、家まで送らせて。」
「あの様子では仕方ありません。でも気持ちはわかります。」
「自由になったって感じか?」
「私は母の為に身を売りましたが、ハーシェ様はご家族の借金を返すために何年も苦労されたとか。その苦労が報われたとなると、はしゃぐのも仕方ないでしょう。」
「少々はしゃぎ方に難ありだったけどな。」
「お酒を飲めば暑くなります、脱ぐのは仕方ありません。」
いや、仕方なくないだろというツッコミはしちゃいけないんだろう。
酒を飲むと人が変わる。
いや、人の本性がよく出るというが、ハーシェさんは絡み酒の上に脱ぎ癖があった。
全身緑の装いながらそれなりの美貌をしているだけあって、脱ごうとするたびに周りから歓声が上がっていた。
それなりに出る所は出ているし、引っ込む所は引っ込んでいる。
男が放っておかないタイプではあると思う。
エリザに送らせたのも送り狼を心配してのことだ。
これからうちの行商を預けるんだ、なにかあったら困るからな。
「さて、今日は先に休む。エリザが戻ってきたらねぎらってやってくれ。」
「お疲れ様でした、おやすみなさいませ。」
エリザが戻ってくるまで待ってもよかったのだが、俺もそれなりに酒を飲んだので眠気がすごい。
大きな商いをして気が大きくなっていたのかもしれないなぁ。
あーねむ。
寝間着に着替え、早々にベッドへもぐりこむ。
意識を失うように眠りにつき、気づけば朝になっていた。
「で、なんでお前が俺のベッドにいるんだ?」
「だって寒かったんだもん。」
「変なことしてないだろうな。」
「してないわよ、人聞きの悪い。」
翌朝、毛布をめくるとエリザが丸くなって寝ていた。
お互いに着衣の乱れはない。
どうやらそのまま潜り込んで寝てしまったようだ。
「昨日はあの後どうだった?」
「気になるの?」
「今後の商売がな。」
「もぉ、気持ちに気付いているなら答えてあげたらいいのに。」
「いやいやいくら何でも勢いで抱くつもりはないぞ。」
「未亡人だから?」
「そういうわけじゃないが、どう見てもやばそうだろ。」
思わず本音が漏れてしまった。
関わってはいけないタイプ、だから関わらなかった。
それだけの話だ。
「確かに見た目はあれだけど、苦労人だし綺麗だし、悪くないと思うけど。」
「お前は俺が別の女を抱いてもかまわないのか?」
「別に、もう慣れちゃった。だって私が知ってるだけであと三人は抱いてるわよね?」
「ん・・・まぁそうだな。」
「気にならないって言ったらうそになるけど、そもそもミラとアネットと一緒にいる時点でアレだし。」
「ま、それもそうか。」
「シロウが見境いなく抱いてないのも知ってるし、好きにしたらいいわ。でも私たちの事をおろそかにしたらただじゃ置かないわよ。」
「俺だってそのつもりだ。」
「ふふ、ありがと。」
そう言って嬉しそうに頬に口づけするエリザ。
急に女っぽくなりやがって・・・って女だけど。
「でね、私魚が食べたいの。」
「は?」
「だから、魚が食べたいの。」
「今の流れからどうしてそうなるんだ?」
「おろそかにしないんでしょ?だから構って。」
なるほどそういう事か。
気にならないわけじゃないってことは気になるってことだ。
だから自分をもっと甘やかしてほしいと。
この間魚を買ってきて捌いているのを見て驚いていたっけか。
基本焼き魚しかしないらしく、醤油が手に入ったので煮魚を作ったら喜んでいた。
でも魚、魚なぁ。
この草原のど真ん中で魚を手に入れる方法は一つしかない。
そう、ダンジョンだ。
「市場に行けばあるか?」
「んー、どうだろう。この間は急に沸いたから手に入ったようなもので、普段は下層に行かないと手に入らないのよね。」
「で、その下層に行くのがお前しかいないと。」
「そういうわけじゃないけど、あそこまで行って実入りが無かったら辛いのよね。」
魚は深いところにいるらしく、それ専門に潜る冒険者もいるそうなのだが、冬場は上がってきた後が寒いので好んで潜らないらしい。
「お前が取りに行くか?」
「嫌よ、寒いもん。」
「じゃあどうするよ。」
魚が食いたいか・・・。
別に煮物にするなら川魚でもいいんだが・・・。
そういや隣町には川が流れてたよな。
魚、いるよな、普通に考えて。
「ちょっとハーシェさんの所に行ってくるわ。」
「え、嘘!?」
「バカそんなじゃねぇ、仕事の事だよ。」
「なんだびっくりした。」
「ミラ、あの人に引き継ぎ用の資料できてたよな。」
善は急げだ、今日手に入らなくても近々に手にはいれば問題ない。
珍しいエリザのおねだりだ、かなえてやりたいじゃないか。
「おはようございますシロウ様、準備は出来ておりますが・・・。」
「ちょっと説明しに行ってくるわ、昼までには戻るからアインさんに話を通しといてくれ。魚の為だ。」
「よくわかりませんがそのように致します。ちなみに私はシロウ様が作って下さった煮豚が食べたいです。」
「聞こえていたのかよ。」
「はいはい!私はアングリーチキンの唐揚げがいいです!」
「種類まで指定かよ。」
「作ってくれるでしょ?」
まったく、俺の女たちときたら・・・。
まぁそこがいいんだけどな。
「作ってほしいなら材料の用意ぐらいしとけよ。ワイルドボアのバラ肉にアングリーチキンのもも肉だ、胸でもいいがジューシーなの、好きだろ?」
「お任せを。」
「買ってきま~す!」
「ってことで行ってくる。もう一度言うがその気はない、今の所はな。」
「今後は?」
「それはそれだ。」
それ以上は言わずに店を出た。
商店街を進み大通りへ出てそのまま北上。
貴族たちが家を構える一角、その一番奥に目的の家はあった。
ドアノッカーを三回たたく。
返事はない。
もう三回たたく。
「どちら様ですか?」
「シロウだ、朝早くから悪いが仕事の話がしたい。」
「すぐに用意しますので、少し、少しだけお待ちください。」
昨日の今日だ、こっちもさっきまで寝ていたんだろう。
俺よりも飲んでたんだし当然だよな。
それから30分ほど待ってやっと扉が開いた。
「すみません、お待たせしてしまって。」
「アポなしできた俺が悪い。それで、晴れて自由の身になった朝はどんな感じだ?」
「もう何も気にしないでいいと思うと、晴れやかな気分です。」
「二日酔い・・・じゃなさそうだな。」
「おかげさまでお酒には強くて。」
「その割には脱ごうとしていたじゃないか。」
「あれは、つい飲みすぎてしまっただけです。」
今日も緑、とおもったら紺色のドレスで登場したハーシェさん。
顔を赤くして反論するのが可愛らしい。
ん?可愛らしい?
落ち着け俺、それは気の迷いだ。
「そうか、なら問題ないな。これから仕事の話をして実際に業者にも紹介したいんだが構わないか?」
「はい。用事はありませんし大丈夫です。」
「話がつき次第、早々に仕事をしてもらうことになる。やり取りしなきゃいけない品が待ってるんだ。」
「あの、私で本当に大丈夫でしょうか。」
急に不安そうな顔をするハーシェさん。
昨日は借金返済の喜びもあり勢いで話をしていた感じがあったかもしれないが、一夜明けて不安になって来たんだろう。
「今まで旦那に代わって5年もやって来れたんだ、たかだか半年かそこらしかやってない俺に比べたら十分にベテランさ。それに昨日も言ったが失敗する要素はほとんどない。気を付けるべきは人選と、商売相手だけだな。」
俺みたいに面倒な依頼を受ける可能性だってある。
それにさえ気を付ければ必ず利益が出る商売だ。
「わかりました、やってみます。」
「詳しい話は向こうに着いてからでいいだろう。いくぞ。」
「はい、お供します!」
いや、お供しますって犬じゃないんだから・・・。
昨日と打って変わって随分と雰囲気が違うな。
エリザが野犬ならこっちは家犬って感じだ。
もちろん噛む時は噛むんだろうけど、なんていうか何をしても怒らないような感じ。
こっちが素のハーシェさんなんだろうか。
わからん。
嬉しそうな顔をしながら俺の横をピッタリと歩くハーシェさんに年甲斐もなくドキドキさせられながら大通りを進むのだった。
え、抱かなかったのかって?
いやいや、さっきも言ったようにそこまで困ってないから。
未亡人だろうが流石にヤバすぎる相手なので手を出すことはしなかった。
随分と目線は合ったが、それは偶然だし目が潤んでいたのはお酒のせいだろう。
もちろん、そんな話を三人にしたら呆れたように首を振られるのは分かっている。
なので何も言わず家に帰った。
「ハーシェ様は無事に戻られたそうです。」
「すまんな、家まで送らせて。」
「あの様子では仕方ありません。でも気持ちはわかります。」
「自由になったって感じか?」
「私は母の為に身を売りましたが、ハーシェ様はご家族の借金を返すために何年も苦労されたとか。その苦労が報われたとなると、はしゃぐのも仕方ないでしょう。」
「少々はしゃぎ方に難ありだったけどな。」
「お酒を飲めば暑くなります、脱ぐのは仕方ありません。」
いや、仕方なくないだろというツッコミはしちゃいけないんだろう。
酒を飲むと人が変わる。
いや、人の本性がよく出るというが、ハーシェさんは絡み酒の上に脱ぎ癖があった。
全身緑の装いながらそれなりの美貌をしているだけあって、脱ごうとするたびに周りから歓声が上がっていた。
それなりに出る所は出ているし、引っ込む所は引っ込んでいる。
男が放っておかないタイプではあると思う。
エリザに送らせたのも送り狼を心配してのことだ。
これからうちの行商を預けるんだ、なにかあったら困るからな。
「さて、今日は先に休む。エリザが戻ってきたらねぎらってやってくれ。」
「お疲れ様でした、おやすみなさいませ。」
エリザが戻ってくるまで待ってもよかったのだが、俺もそれなりに酒を飲んだので眠気がすごい。
大きな商いをして気が大きくなっていたのかもしれないなぁ。
あーねむ。
寝間着に着替え、早々にベッドへもぐりこむ。
意識を失うように眠りにつき、気づけば朝になっていた。
「で、なんでお前が俺のベッドにいるんだ?」
「だって寒かったんだもん。」
「変なことしてないだろうな。」
「してないわよ、人聞きの悪い。」
翌朝、毛布をめくるとエリザが丸くなって寝ていた。
お互いに着衣の乱れはない。
どうやらそのまま潜り込んで寝てしまったようだ。
「昨日はあの後どうだった?」
「気になるの?」
「今後の商売がな。」
「もぉ、気持ちに気付いているなら答えてあげたらいいのに。」
「いやいやいくら何でも勢いで抱くつもりはないぞ。」
「未亡人だから?」
「そういうわけじゃないが、どう見てもやばそうだろ。」
思わず本音が漏れてしまった。
関わってはいけないタイプ、だから関わらなかった。
それだけの話だ。
「確かに見た目はあれだけど、苦労人だし綺麗だし、悪くないと思うけど。」
「お前は俺が別の女を抱いてもかまわないのか?」
「別に、もう慣れちゃった。だって私が知ってるだけであと三人は抱いてるわよね?」
「ん・・・まぁそうだな。」
「気にならないって言ったらうそになるけど、そもそもミラとアネットと一緒にいる時点でアレだし。」
「ま、それもそうか。」
「シロウが見境いなく抱いてないのも知ってるし、好きにしたらいいわ。でも私たちの事をおろそかにしたらただじゃ置かないわよ。」
「俺だってそのつもりだ。」
「ふふ、ありがと。」
そう言って嬉しそうに頬に口づけするエリザ。
急に女っぽくなりやがって・・・って女だけど。
「でね、私魚が食べたいの。」
「は?」
「だから、魚が食べたいの。」
「今の流れからどうしてそうなるんだ?」
「おろそかにしないんでしょ?だから構って。」
なるほどそういう事か。
気にならないわけじゃないってことは気になるってことだ。
だから自分をもっと甘やかしてほしいと。
この間魚を買ってきて捌いているのを見て驚いていたっけか。
基本焼き魚しかしないらしく、醤油が手に入ったので煮魚を作ったら喜んでいた。
でも魚、魚なぁ。
この草原のど真ん中で魚を手に入れる方法は一つしかない。
そう、ダンジョンだ。
「市場に行けばあるか?」
「んー、どうだろう。この間は急に沸いたから手に入ったようなもので、普段は下層に行かないと手に入らないのよね。」
「で、その下層に行くのがお前しかいないと。」
「そういうわけじゃないけど、あそこまで行って実入りが無かったら辛いのよね。」
魚は深いところにいるらしく、それ専門に潜る冒険者もいるそうなのだが、冬場は上がってきた後が寒いので好んで潜らないらしい。
「お前が取りに行くか?」
「嫌よ、寒いもん。」
「じゃあどうするよ。」
魚が食いたいか・・・。
別に煮物にするなら川魚でもいいんだが・・・。
そういや隣町には川が流れてたよな。
魚、いるよな、普通に考えて。
「ちょっとハーシェさんの所に行ってくるわ。」
「え、嘘!?」
「バカそんなじゃねぇ、仕事の事だよ。」
「なんだびっくりした。」
「ミラ、あの人に引き継ぎ用の資料できてたよな。」
善は急げだ、今日手に入らなくても近々に手にはいれば問題ない。
珍しいエリザのおねだりだ、かなえてやりたいじゃないか。
「おはようございますシロウ様、準備は出来ておりますが・・・。」
「ちょっと説明しに行ってくるわ、昼までには戻るからアインさんに話を通しといてくれ。魚の為だ。」
「よくわかりませんがそのように致します。ちなみに私はシロウ様が作って下さった煮豚が食べたいです。」
「聞こえていたのかよ。」
「はいはい!私はアングリーチキンの唐揚げがいいです!」
「種類まで指定かよ。」
「作ってくれるでしょ?」
まったく、俺の女たちときたら・・・。
まぁそこがいいんだけどな。
「作ってほしいなら材料の用意ぐらいしとけよ。ワイルドボアのバラ肉にアングリーチキンのもも肉だ、胸でもいいがジューシーなの、好きだろ?」
「お任せを。」
「買ってきま~す!」
「ってことで行ってくる。もう一度言うがその気はない、今の所はな。」
「今後は?」
「それはそれだ。」
それ以上は言わずに店を出た。
商店街を進み大通りへ出てそのまま北上。
貴族たちが家を構える一角、その一番奥に目的の家はあった。
ドアノッカーを三回たたく。
返事はない。
もう三回たたく。
「どちら様ですか?」
「シロウだ、朝早くから悪いが仕事の話がしたい。」
「すぐに用意しますので、少し、少しだけお待ちください。」
昨日の今日だ、こっちもさっきまで寝ていたんだろう。
俺よりも飲んでたんだし当然だよな。
それから30分ほど待ってやっと扉が開いた。
「すみません、お待たせしてしまって。」
「アポなしできた俺が悪い。それで、晴れて自由の身になった朝はどんな感じだ?」
「もう何も気にしないでいいと思うと、晴れやかな気分です。」
「二日酔い・・・じゃなさそうだな。」
「おかげさまでお酒には強くて。」
「その割には脱ごうとしていたじゃないか。」
「あれは、つい飲みすぎてしまっただけです。」
今日も緑、とおもったら紺色のドレスで登場したハーシェさん。
顔を赤くして反論するのが可愛らしい。
ん?可愛らしい?
落ち着け俺、それは気の迷いだ。
「そうか、なら問題ないな。これから仕事の話をして実際に業者にも紹介したいんだが構わないか?」
「はい。用事はありませんし大丈夫です。」
「話がつき次第、早々に仕事をしてもらうことになる。やり取りしなきゃいけない品が待ってるんだ。」
「あの、私で本当に大丈夫でしょうか。」
急に不安そうな顔をするハーシェさん。
昨日は借金返済の喜びもあり勢いで話をしていた感じがあったかもしれないが、一夜明けて不安になって来たんだろう。
「今まで旦那に代わって5年もやって来れたんだ、たかだか半年かそこらしかやってない俺に比べたら十分にベテランさ。それに昨日も言ったが失敗する要素はほとんどない。気を付けるべきは人選と、商売相手だけだな。」
俺みたいに面倒な依頼を受ける可能性だってある。
それにさえ気を付ければ必ず利益が出る商売だ。
「わかりました、やってみます。」
「詳しい話は向こうに着いてからでいいだろう。いくぞ。」
「はい、お供します!」
いや、お供しますって犬じゃないんだから・・・。
昨日と打って変わって随分と雰囲気が違うな。
エリザが野犬ならこっちは家犬って感じだ。
もちろん噛む時は噛むんだろうけど、なんていうか何をしても怒らないような感じ。
こっちが素のハーシェさんなんだろうか。
わからん。
嬉しそうな顔をしながら俺の横をピッタリと歩くハーシェさんに年甲斐もなくドキドキさせられながら大通りを進むのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
269
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる