転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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650.転売屋は蟻の巣を駆除する

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「こっちです、魔物はいません。」

「トトリがいれば魔物に出会うことはありえないし。出会ってもミケと私で撃退するし!」

「ダンジョンで魔物と遭遇しないとこんなにも快適なんだなぁ。」

「休憩所までは結構人が出入りしていますから、その気配を感じて近づいてこないのかもしれません。」

「なるほどなぁ。」

ダンジョンの上層と中層、その間ぐらいにあるのがダンジョン内に設置された休憩所だ。

前に魔物があふれたときに急ごしらえした砦の跡地に冒険者の休憩所を作ろうとなってはや一年近く。

今ではなくてはならない場所になっている。

これまでなら魔物に襲われても逃げる所が無く、結果力尽きる新米冒険者も多かったものだが、ここまで逃げれば熟練冒険者がいるので怪我はすれど命は助かる。

おかげで冒険者の生存率は飛躍的に向上し、さらには冒険者が長くダンジョンにもぐれるようになった。

その結果、素材を効率的に集められるようになったというわけだ。

俺にしてみても客が生きて実力を付けてくれればそれだけいいものが売れる。

素材も安く買い取れるし、向こうも金を手に入れることが出来る。

まさにwin-winというわけだ。

「このまま行けば休憩所です。でも、今はちょっとうるさいかもしれませんよ。」

「知ってる、蟻の巣を攻撃するように依頼したのは俺だからな。」

「あ、シロウさんだったんですね。」

「紫大蟻の雫を手に入れる為には蟻の数を減らさないといけない。その一番楽な方法が巣への攻撃だ。向こうからしてみれば迷惑だろうが、こっちも事情があるからな。」

「それは仕方ないし。やるかやられるかの世界だし。」

「お、言うようになったなぁ。」

「当然だし!伊達に死んでないし!」

それは褒めていいんだろうか。

二人と一匹に護衛されながら俺はダンジョン内部の休憩所へと到着することが出来たのだが、そこはトトリがいうようにいつもとは明らかに違っていた。

「おい!城壁に張り付いてきてるぞ!」

「分かってる!油もってこい!燃やすぞ!」

「いや、燃やす前に数を減らせ、死骸に乗って超えられるほうがめんどくさい。」

「ったく、どこのバカだよ。巣は順番に壊せって言っただろ!」

いつもは比較的穏やかな空気が流れる休憩所だが、今日はかなり殺伐としていた。

あわただしく冒険者が走り回り、城壁の上から叫んでいる。

どうやら魔物に襲われているようだ。

「あ、シロウさん!」

「ニア、何があったんだ?」

「見ての通り蟻が襲ってきてるのよ。」

「いや、襲ってきてるって結構距離あるよな。」

「どこかのバカが巣に火を放って、それに怒った蟻が大挙して押し寄せてるのよ。まったく、迷惑な話だわ。」

「火攻めは常套手段だと聞いていたんだが。」

「一個ずつの場合はね。でも今回は同時多発的にやっちゃったみたい。」

やっちゃったみたいって何を軽く言ってるんだ。

結構やばい状況じゃないのか、これ。

ニアの指揮の元で今の所は何とかなっているようだが、ここを超えられるとかなり面倒なことになる。

休憩所は今や冒険者の生命線、なんとしてでも守り抜かなければ。

婦人会の奥様方に何かあったら依頼している俺の責任だからな。

「何か手伝うことは?」

「鑑定。」

「は?」

「そこに積みあがってる素材で使える奴は全部買い取って。そのお金で油とか仕入れるから。」

「ギルドが出すんじゃないのか。」

「決裁している時間があると思う?」

それもそうだな。

城壁から少し離れた所に積みあがった素材の山。

その前に机を運んで貰い、急ぎ鑑定を始める。

『赤大蟻の足。大蟻の中でもひと際大きな足は非常に鋭く、歩いた後には穴が開いている。その鋭さと強靭さから工業用に使用されている。最近の平均取引価格は銅貨34枚。最安値銅貨29枚最高値銅貨40枚。最終取引日は10日前と記録されています。』

『青大蟻の頭。非常に鋭い顎をもっており、その顎は丸太をも軽々と切断してしまう。最近の平均取引価格は銅貨15枚、最安値銅貨12枚最高値銅貨20枚。最終取引日は五日前と記録されています。』

足に頭に腕、山のように積みあがった素材をちぎっては投げちぎっては投げ。

投げたやつをミケやベッキーが華麗にキャッチして仕分けしてくれているのでありがたい。

特に足は本数が多いので山が大きくなっているようだ。

っと、これはなんだ?

『大蟻の蜜玉。大蟻のメスが稀に残す蜜の玉。大蟻にしかわからない雄を誘い出す匂いが出ていると言われている。その匂いは地平線の彼方からでも雄を引き付けると言われており、匂いを遮断するためには酒につける必要がある。また、蜜玉を溶かした酒は非常に美味で美肌効果があるとも言われている。最近の平均取引価格は銀貨45枚。最安値銀貨40枚最高値銀貨80枚。最終取引日は90日前と記録されています。』

琥珀のような色をしたソフトボール大の玉が大量の足の下から出てきた。

その数二つ。

どうやらそれなりに価値のあるものらしいが、気になるのは鑑定結果に書かれていた雄を引き寄せる匂いだ。

もしかして蟻が襲ってくるのはこれのせいじゃないだろうか。

急ぎ休憩所内の食堂へと駆け込み、厨房に転がっていた酒を壺に流し込む。

ちょうど隠れるぐらいの量を入れた所で蜜玉をその中に落とした。

「おい、蟻が動かなくなったぞ。」

「どうしたんだ?」

「わからんが今のうちに追い返すぞ、門を開けろ!」

「槍と魔法でけん制しつつ数が減ったところで切り込むからな、用意しとけよ!」

何やら外が騒がしい。

壺に手を突っ込み、今度は蜜玉を取り出してみる。

「うわ!また動き出した!」

「開けるな!押し込まれるぞ!」

「全く何なんだよ、急に止まったり動いたりめんどくせぇ!」

どうやら効果は間違いないようだ。

迷惑を掛けない為にすぐに壺の中に戻し、そのままニアの元へと向かう。

「あ、鑑定終わった?」

「大体な。それと、これを見つけた。」

「壺?」

「中身だ中身。大蟻の蜜玉ってのが足の下に埋もれていたから急ぎ壺に入れてみたんだが、間違いないみたいだな。」

「ちょっと、誰よ蜜玉をそのままにしたバカは!」

「え、蜜玉ぁ?」

「マジかよ、襲ってきたのはそれのせいか。」

蜜玉を酒に浸したことで蟻の攻撃はぴたりと止まった。

その後は残党を冒険者が処理したことで休憩所への襲撃は終了。

外壁に多少の破損はみられるが修繕できる程度なので問題はないだろう。

とりあえず素材は全部俺が買取り、防衛に参加した冒険者に報奨金として分配することになった。

彼らからしたらいい小銭稼ぎになったかもしれないが、あまりいい気分ではなかっただろうな。

巨大な蟻が襲ってくるわけだし。

ほんと、冒険者ってのはよくもまぁこんなやばい連中と戦えるもんだ。

「はぁ、シロウさんが見つけてくれなかったら大変なことになってたわ。」

「さすがシロウさんだし。でも蜜玉のおかげで巣が空っぽになって雫を探しやすくなったし!」

「そうか、そういう効果もあったのか。」

「一気に間引いたから交雑が進むかもね、雫が手に入るのも近いかもよ。」

「そうなることを期待する。」

本来であれば数の少なくなった巣に火を放ち一網打尽にする計画だったが、蜜玉のおかげで巣を破壊することなく蟻のみを駆除することに成功した。

破壊せずに中に入れるという事は、それだけ雫が手に入る可能性が上がるという事。

また、巣を再構築する時間が無くなるので新しく生まれた蟻がすぐに活動を開始できる。

大蟻は仲間が少ないと同種族と行動を共にすることが多くなるので、結果として交雑が進み紫大蟻が産まれる可能性が高くなるというわけだ。

それに、この蜜玉は色々と使えそうだな。

「ニア、もしまた蜜玉が見つかったら俺が買うから保管しておいてくれ。それと、この方法は巣を空っぽにするには有効そうだから防衛の準備をしておびき寄せたらどうだ?足は俺が買うし、終われば蜜玉も買わせてもらう。」

「うーん、確かに巣が残るこのやり方は面白いかも。わかった、また見つかったら連絡するわね。」

足は色々と使い道があるし、蜜玉は美肌効果があるとの事なのでカーラに渡すと喜ばれそうだ。

酒だけを売るという手もある。

蜜玉酒、調べてみる価値もありそうだな。

「とりあえず状況は確認できた、引き続きよろしく頼む。何とかあと一か月で決着をつけたい。」

「大丈夫、何とかなるわよ。」

「それを期待する。そんじゃま、俺は帰るな。」

「エリザによろしくね。」

状況は確認できたし襲撃も無事に防衛できた。

後は当たりが出るまで引き続き冒険者に頑張ってもらうだけ。

金はかかるが、思った以上に当たりも多いので悪くてトントン、もしかすると利益が出るかもしれない。

加えてホリアからも報酬が貰えるわけで。

あれ、もしかすると良い感じの儲けになるんじゃないか?

大損を覚悟していただけに蜜玉の発見は大きなプラスになった

世の中何が起きるかわからないものだ。

「よし、帰って飯にするか。」

「お肉だし!」

「みゃぅ!」

「え、私も一緒にいいんですか?」

「帰りも無事に運んでくれたらな。」

「まかせてください!」

家に帰るまでは気を抜くわけにはいかない。

臨時収入もあったし、たまには美味い肉を食わせてやろう。

大騒ぎする二人と一匹と共にゆっくりと出口へ向かうのだった。
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