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758.転売屋は植物の実を加工する
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「それじゃあ全部で銀貨3枚と銅貨55枚だ、確認してくれ。」
「ありがとうございます!」
「あまり無茶するなよ、怪我したら意味ないからな。」
「わかってますって。それじゃあ失礼します。」
礼儀正しく頭を下げて新米冒険者が店を出ていく。
麦が不作のせいで今年は夏ごろから新米冒険者が増えてきた。
いつもなら今時分の農閑期に増えるものなんだが、それが少し早まった感じだな。
それだけでなく、さっきの新米のように街で働いていたような一定以上の学がある人がそれなりにいる。
農業だけでなく他の部分にも不作の影響が出ているんだろう。
原材料の高騰なんかで商売が立ち行かなくなったとか、食費が上がって年長者が家から追い出されたとか。
まぁ色々だ。
そんな感じで街にはいつも以上に冒険者が多く集まっている。
その多くが安宿に共同で部屋を借りてくらしているんだとか。
だがそれだけでも足りず城壁付近で野宿をする奴らも増えてきたそうで、流石の冒険者ギルドも野宿させるわけにはいかないので魔物のほぼ出ないダンジョンの最上層を臨時のキャンプにして天幕を設置、そこで野宿させているらしい。
急に増えた冒険者のせいで寝られないってベッキーがぼやいていた気がする。
っていうか幽霊に睡眠は必要なのか?
因みに例の日課をこなすのも難しいので今は休止中だ。
「今ので終わりか?」
「はい、お昼休憩の札を出しておきますね。」
「よろしく頼む。しかし、安い素材が多いなぁ。」
「仕方ないですよ、初心者ばかりですから。」
「ギルドに持ち込めって言ってあるのに、まったくエリザに再教育してもらった方がいいんじゃないか?」
朝から来た客のほとんどがさっきのような新米ばかり。
冒険者登録後はギルドの研修を受けるように義務付けられているはずだが、どうやらその内容が上手く伝わっていないようだ。
確かにうちに持ち込んだ方が高い素材もあるが、こうも何でもかんでも持ち込まれると結構大変なんだよなぁ。
初心者冒険者でも比較的簡単に狩る事の出来るラピッドラビットやワイルドボア、ロングカールシープなどの毛皮や毛糸はこれからのシーズン重宝するのだが、数がかさむとすぐに倉庫を圧迫する。
かといってブレラの所にまとめて持ち込むとすごい顔されるんだよなぁ。
毛皮はともかく毛糸は自分で何とかしろという無言の圧力を感じる。
金になるのは間違いないんだけども。
「一応再告知してもらうように伝えておきますね。」
「あぁ、よろしく頼む。っと、さっき買い取った奴裏に置くぞ。」
「あ、お願いします。」
メルディと一緒の時は倉庫に片づけてくれるので買い取るだけでいい分楽だ。
買い取った素材は足元の木箱にぶち込んであるので、それを裏に運べば朝の仕事は終わり・・・くそ、一個落ちた。
木箱を勢いよく持ち上げると箱の上に積んでいた透明なボール状の素材がコロコロと転がり落ちてしまった。
足元に転がってきたそれをメルディが拾い上げる。
「わ、これなんですか?」
「えーっと、何だったかな。そうだ、バルーンアップルだったか。」
「食べ物ですか?」
「鑑定した感じではどっちかっていうと飲み物だな。」
「え、じゃあこの中の液体飲めるんですか!?」
「そうらしいぞ、飲んだことはないけどな。」
『バルーンアップル。ピッチングアップルが投げて来る実が熟成したもの。未熟な果実は中身が詰まっており非常に硬くて危険だが、投げられることなく熟したものは中身が液体となり透明な外側だけが残る。果汁はサッパリとして甘く、加工用に栽培されている種類もいる。最近の平均取引価格は銅貨14枚。最安値銅貨8枚最高値銅貨20枚最終取引日は昨日と記録されています。』
俺も今日初めて見たんだが、加工用に栽培されているぐらいなんだから毒じゃないんだろう。
ここにきて結構なるがまだまだ未知の素材は多い。
っていうか未熟な硬いリンゴ投げてくる樹とか、猿カニ合戦かよ。
「綺麗ですね。」
「飲みたいのか?」
「え、いいんですか?」
「どう飲むかは知らないんだが、置いておいても腐るだけだし。」
買い取っておいてなんだが使い道を全く考えていなかった。
嬉しそうな顔をするメルディの手元で黄緑色の液体が波打っている。
不思議なのはその液体を保持している外側だ。
透明なビーチボールの様な見た目だがもちろん空気を入れる栓はない。
どこかに切れ目を入れて中身を出すんだろうけど、刃物を入れた瞬間に全部割れたりしないだろうか。
バルーンというぐらいだし風船のように始めてしまわないか不安になってしまう。
「それでしたら上からストローを差し込むだけで飲めますよ。」
「キキ、戻ったのか。」
「講義が終わったので。でも、バルーンアップルが出回るなんて珍しいですね。いつもは誰かに発見されてここまで熟すことはないんですけど。」
「珍しい物なんですか?」
「実が美味しいのでここまで熟す前に刈られてしまうんです。おそらくそこまで人がいかなかったんですね、ジュースもサッパリとした甘さで私は好きなんです。」
「刃物を入れるとダメそうだな。」
「はい、割れてしまうので上からストローを刺して中身を出すかそのまま吸うのが一般的です。」
そのままストローを刺すなんてまるでココナッツのようだな。
ストローと言ってもこの世界の奴はタピオカを吸うように太いので上からさすのが不安になるが、恐る恐る刺してみるとかすかな抵抗と共にスッと中に入り込んだ。
割れる気配もない。
「んー、美味しい!」
「そりゃ何よりだ。」
「見た目以上にサッパリです、酸味もあるんですけどごくごく飲めちゃいますね!夏に冷やしたら美味しそうです。」
「でも実がなるのが秋から冬にかけてなんです、残念ですけど。」
「そっかぁ・・・。」
夏に出せば売れるとメルディは思ったらしいが、生憎と今は秋。
というかもうすぐ冬。
余程気に入ったのか、メルディが中身を一気に飲み干してしまった。
残ったのは空っぽのビーチボール、ではなく空気が抜けてしなしなになった方だ。
「そんな風になるのか。」
「ストローから水を入れるとまた膨らみますよ、それで子供がよく遊ぶんです。」
「ん?穴は開かないのか?」
「しばらくすると穴が自然にふさがるんですよね。」
「遊べるってことは耐久度もそれなりにあるんだよな?」
「刃物でついたりしなければそれなりに。」
ふむ。
それなり位に強度もあり、さらには中身を抜けばかなりコンパクト。
これ、使えるんじゃないか?
「キキ、バルーンアップルって熟せば全部こうなるのか?」
「はい。この時期ですと熟すのに二日ほどかかりますが、一切刈り取らなければ全てこうなります。」
「全部か、ぶっちゃけ中身に興味はないがメルディの反応を見る限り美味そうだな。」
「はい!毎日飲みたいぐらいです!」
「となると、有効利用しないともったいない。ドルチェに持ちかけるか、いやそれよりも自前で・・・。」
「とりあえずバルーンアップルになるまで狩らない様にギルドにお願いしますね。」
「あぁ、よろしく頼む。」
とりあえずキキにお願いしている間に容量の確認をしておこう。
それと強度だな。
ってことで急遽バルーンアップルの回収依頼を出し、冒険者に無理を言ってピッチングアップルに近づかないように指示を出してもらった。
バルーンアップル一個につき銅貨20枚での買取金額は普通で考えるとかなり高価だが、そこから生まれる副産物を考えると決して高値というわけではない。
「うーん、触感癖になるわね。」
「プルプルなんですけど、歯ごたえもあって美味しいです。」
「ほのかな甘みと酸味、子供たちが喜びます。」
試作品を食べた反応はなかなかよろしい。
モニカの学校におやつとして提供するのも悪くなさそうだ。
まず作ったのはバルーンアップルの中身を使ったゼリー。
回収したバルーンアップルはストローを使って中身を取り出し、流水でしっかり洗浄。
肝心の中身はゼラチナムフィッシュというダンジョン内を浮遊するクラゲの粉末を混ぜることでプルプルのゼリーとなり、大型の冷蔵用魔導具で冷やされて販売されることになった。
金額は一個銅貨5枚。
バルーンアップル一つにつき5個作れるので、これだけで元が取れる計算だ。
今回買い付けたのはひとまず100個。
とはいえ俺が買い付けたことにより新たな使い方が確立されたので、バルーンアップルそのものの取引は実がならなくなる春先まで継続されるだろう。
いつでも手軽にバルーンアップルゼリーが食べられる。
仕上がってから俺も食べてみたのだが、かなりサッパリして食後のデザートにもってこいな感じだ。
残念ながら日持ちしないので輸出することはできないが、手軽に食べられるおやつとして全量消化されることだろう。
飲むだけでも美味しいしな。
「で、肝心のこっちはどうだ?」
「これ一つでおおよそ5リットル入ります。ギリギリまで入れても破裂する様子はなさそうです。」
「試しに割ってみましたが、ナイフをかなり強い力で押し付けないとダメだったので余程のことがなければ割れることはないと思います。これ、すごい発見じゃないですか?」
アネットの手には液体で満たされたバルーンアップル。
しかし大きさは通常の三倍にふくらみ中の液体も無色透明になっている。
五リットル入るということは結構の重さだろう。
それを片手で軽々と持つ当たり、アネットも隠れマッチョだよな。
「飲料水を持ち運ぶには便利かもしれないが、正直邪魔だろう。」
「いえ、液体なら何でもいいわけですから魔力水なんかを入れておけば色々とはかどるなと。」
「なるほど、その手があったか。」
「最後に少し押し出すような感じであふれさせると完全に密封できそうです。これで蒸留水の量産も目途が立ちましたね!」
そう、俺がこれを買い付けたのは別にゼリーを作るためじゃない。
あっちはあくまでも副産物、メインはパックに使う蒸留水の保管だ。
密封できる容器でさらに言えば安価である必要があったわけだが、ゼリーのおかげで原価はゼロだし密封も容易に可能。
さらに言えば強度もそれなりにあるので屋敷の地下や空き部屋に押し込んでも問題ない。
臭いもないし仮に漏れてもただの蒸留水、部屋が濡れる程度で済む。
それにキキの言うように液体なら保存可能なので、魔力水などの希少な液体を大量に保存できるというのは大きいだろう。
前みたいに渇きの壺を使って大量に確保しても、上手に保存できず無駄にしていた感はある。
どうしても密封できないので少しずつ魔力が抜けていくんだよな。
その点こいつだと密封できるので魔力抜けを防げる事から魔力水も長持ちさせることができる。
薬師や錬金術師には必須の素材だけにそれを保存できるのは非常にメリットだ。
さらに言えば、それにより魔力水の値段が下落するという可能性もあるので長期的に見てもプラスが出るだろう
もっとも、魔力水で稼いでいた冒険者からすれば文句も出るかもしれないが。
「目途は立ったがまだ入れ物や材料の確保が出来ていない、とはいえ今のうちに量産できるのはありがたいな。機材が到着次第量産するが、ひとまず現行の機材をフル稼働しておいてくれ。」
「わかりました。」
「箱かぁ、何かいいのがあればいいんですけど。」
「ま、今回みたいに何かいい素材が見つかるかもしれないし焦らず行こう。」
焦ったところで妙案が浮かぶわけでもない。
今できることからコツコツとってね。
「ありがとうございます!」
「あまり無茶するなよ、怪我したら意味ないからな。」
「わかってますって。それじゃあ失礼します。」
礼儀正しく頭を下げて新米冒険者が店を出ていく。
麦が不作のせいで今年は夏ごろから新米冒険者が増えてきた。
いつもなら今時分の農閑期に増えるものなんだが、それが少し早まった感じだな。
それだけでなく、さっきの新米のように街で働いていたような一定以上の学がある人がそれなりにいる。
農業だけでなく他の部分にも不作の影響が出ているんだろう。
原材料の高騰なんかで商売が立ち行かなくなったとか、食費が上がって年長者が家から追い出されたとか。
まぁ色々だ。
そんな感じで街にはいつも以上に冒険者が多く集まっている。
その多くが安宿に共同で部屋を借りてくらしているんだとか。
だがそれだけでも足りず城壁付近で野宿をする奴らも増えてきたそうで、流石の冒険者ギルドも野宿させるわけにはいかないので魔物のほぼ出ないダンジョンの最上層を臨時のキャンプにして天幕を設置、そこで野宿させているらしい。
急に増えた冒険者のせいで寝られないってベッキーがぼやいていた気がする。
っていうか幽霊に睡眠は必要なのか?
因みに例の日課をこなすのも難しいので今は休止中だ。
「今ので終わりか?」
「はい、お昼休憩の札を出しておきますね。」
「よろしく頼む。しかし、安い素材が多いなぁ。」
「仕方ないですよ、初心者ばかりですから。」
「ギルドに持ち込めって言ってあるのに、まったくエリザに再教育してもらった方がいいんじゃないか?」
朝から来た客のほとんどがさっきのような新米ばかり。
冒険者登録後はギルドの研修を受けるように義務付けられているはずだが、どうやらその内容が上手く伝わっていないようだ。
確かにうちに持ち込んだ方が高い素材もあるが、こうも何でもかんでも持ち込まれると結構大変なんだよなぁ。
初心者冒険者でも比較的簡単に狩る事の出来るラピッドラビットやワイルドボア、ロングカールシープなどの毛皮や毛糸はこれからのシーズン重宝するのだが、数がかさむとすぐに倉庫を圧迫する。
かといってブレラの所にまとめて持ち込むとすごい顔されるんだよなぁ。
毛皮はともかく毛糸は自分で何とかしろという無言の圧力を感じる。
金になるのは間違いないんだけども。
「一応再告知してもらうように伝えておきますね。」
「あぁ、よろしく頼む。っと、さっき買い取った奴裏に置くぞ。」
「あ、お願いします。」
メルディと一緒の時は倉庫に片づけてくれるので買い取るだけでいい分楽だ。
買い取った素材は足元の木箱にぶち込んであるので、それを裏に運べば朝の仕事は終わり・・・くそ、一個落ちた。
木箱を勢いよく持ち上げると箱の上に積んでいた透明なボール状の素材がコロコロと転がり落ちてしまった。
足元に転がってきたそれをメルディが拾い上げる。
「わ、これなんですか?」
「えーっと、何だったかな。そうだ、バルーンアップルだったか。」
「食べ物ですか?」
「鑑定した感じではどっちかっていうと飲み物だな。」
「え、じゃあこの中の液体飲めるんですか!?」
「そうらしいぞ、飲んだことはないけどな。」
『バルーンアップル。ピッチングアップルが投げて来る実が熟成したもの。未熟な果実は中身が詰まっており非常に硬くて危険だが、投げられることなく熟したものは中身が液体となり透明な外側だけが残る。果汁はサッパリとして甘く、加工用に栽培されている種類もいる。最近の平均取引価格は銅貨14枚。最安値銅貨8枚最高値銅貨20枚最終取引日は昨日と記録されています。』
俺も今日初めて見たんだが、加工用に栽培されているぐらいなんだから毒じゃないんだろう。
ここにきて結構なるがまだまだ未知の素材は多い。
っていうか未熟な硬いリンゴ投げてくる樹とか、猿カニ合戦かよ。
「綺麗ですね。」
「飲みたいのか?」
「え、いいんですか?」
「どう飲むかは知らないんだが、置いておいても腐るだけだし。」
買い取っておいてなんだが使い道を全く考えていなかった。
嬉しそうな顔をするメルディの手元で黄緑色の液体が波打っている。
不思議なのはその液体を保持している外側だ。
透明なビーチボールの様な見た目だがもちろん空気を入れる栓はない。
どこかに切れ目を入れて中身を出すんだろうけど、刃物を入れた瞬間に全部割れたりしないだろうか。
バルーンというぐらいだし風船のように始めてしまわないか不安になってしまう。
「それでしたら上からストローを差し込むだけで飲めますよ。」
「キキ、戻ったのか。」
「講義が終わったので。でも、バルーンアップルが出回るなんて珍しいですね。いつもは誰かに発見されてここまで熟すことはないんですけど。」
「珍しい物なんですか?」
「実が美味しいのでここまで熟す前に刈られてしまうんです。おそらくそこまで人がいかなかったんですね、ジュースもサッパリとした甘さで私は好きなんです。」
「刃物を入れるとダメそうだな。」
「はい、割れてしまうので上からストローを刺して中身を出すかそのまま吸うのが一般的です。」
そのままストローを刺すなんてまるでココナッツのようだな。
ストローと言ってもこの世界の奴はタピオカを吸うように太いので上からさすのが不安になるが、恐る恐る刺してみるとかすかな抵抗と共にスッと中に入り込んだ。
割れる気配もない。
「んー、美味しい!」
「そりゃ何よりだ。」
「見た目以上にサッパリです、酸味もあるんですけどごくごく飲めちゃいますね!夏に冷やしたら美味しそうです。」
「でも実がなるのが秋から冬にかけてなんです、残念ですけど。」
「そっかぁ・・・。」
夏に出せば売れるとメルディは思ったらしいが、生憎と今は秋。
というかもうすぐ冬。
余程気に入ったのか、メルディが中身を一気に飲み干してしまった。
残ったのは空っぽのビーチボール、ではなく空気が抜けてしなしなになった方だ。
「そんな風になるのか。」
「ストローから水を入れるとまた膨らみますよ、それで子供がよく遊ぶんです。」
「ん?穴は開かないのか?」
「しばらくすると穴が自然にふさがるんですよね。」
「遊べるってことは耐久度もそれなりにあるんだよな?」
「刃物でついたりしなければそれなりに。」
ふむ。
それなり位に強度もあり、さらには中身を抜けばかなりコンパクト。
これ、使えるんじゃないか?
「キキ、バルーンアップルって熟せば全部こうなるのか?」
「はい。この時期ですと熟すのに二日ほどかかりますが、一切刈り取らなければ全てこうなります。」
「全部か、ぶっちゃけ中身に興味はないがメルディの反応を見る限り美味そうだな。」
「はい!毎日飲みたいぐらいです!」
「となると、有効利用しないともったいない。ドルチェに持ちかけるか、いやそれよりも自前で・・・。」
「とりあえずバルーンアップルになるまで狩らない様にギルドにお願いしますね。」
「あぁ、よろしく頼む。」
とりあえずキキにお願いしている間に容量の確認をしておこう。
それと強度だな。
ってことで急遽バルーンアップルの回収依頼を出し、冒険者に無理を言ってピッチングアップルに近づかないように指示を出してもらった。
バルーンアップル一個につき銅貨20枚での買取金額は普通で考えるとかなり高価だが、そこから生まれる副産物を考えると決して高値というわけではない。
「うーん、触感癖になるわね。」
「プルプルなんですけど、歯ごたえもあって美味しいです。」
「ほのかな甘みと酸味、子供たちが喜びます。」
試作品を食べた反応はなかなかよろしい。
モニカの学校におやつとして提供するのも悪くなさそうだ。
まず作ったのはバルーンアップルの中身を使ったゼリー。
回収したバルーンアップルはストローを使って中身を取り出し、流水でしっかり洗浄。
肝心の中身はゼラチナムフィッシュというダンジョン内を浮遊するクラゲの粉末を混ぜることでプルプルのゼリーとなり、大型の冷蔵用魔導具で冷やされて販売されることになった。
金額は一個銅貨5枚。
バルーンアップル一つにつき5個作れるので、これだけで元が取れる計算だ。
今回買い付けたのはひとまず100個。
とはいえ俺が買い付けたことにより新たな使い方が確立されたので、バルーンアップルそのものの取引は実がならなくなる春先まで継続されるだろう。
いつでも手軽にバルーンアップルゼリーが食べられる。
仕上がってから俺も食べてみたのだが、かなりサッパリして食後のデザートにもってこいな感じだ。
残念ながら日持ちしないので輸出することはできないが、手軽に食べられるおやつとして全量消化されることだろう。
飲むだけでも美味しいしな。
「で、肝心のこっちはどうだ?」
「これ一つでおおよそ5リットル入ります。ギリギリまで入れても破裂する様子はなさそうです。」
「試しに割ってみましたが、ナイフをかなり強い力で押し付けないとダメだったので余程のことがなければ割れることはないと思います。これ、すごい発見じゃないですか?」
アネットの手には液体で満たされたバルーンアップル。
しかし大きさは通常の三倍にふくらみ中の液体も無色透明になっている。
五リットル入るということは結構の重さだろう。
それを片手で軽々と持つ当たり、アネットも隠れマッチョだよな。
「飲料水を持ち運ぶには便利かもしれないが、正直邪魔だろう。」
「いえ、液体なら何でもいいわけですから魔力水なんかを入れておけば色々とはかどるなと。」
「なるほど、その手があったか。」
「最後に少し押し出すような感じであふれさせると完全に密封できそうです。これで蒸留水の量産も目途が立ちましたね!」
そう、俺がこれを買い付けたのは別にゼリーを作るためじゃない。
あっちはあくまでも副産物、メインはパックに使う蒸留水の保管だ。
密封できる容器でさらに言えば安価である必要があったわけだが、ゼリーのおかげで原価はゼロだし密封も容易に可能。
さらに言えば強度もそれなりにあるので屋敷の地下や空き部屋に押し込んでも問題ない。
臭いもないし仮に漏れてもただの蒸留水、部屋が濡れる程度で済む。
それにキキの言うように液体なら保存可能なので、魔力水などの希少な液体を大量に保存できるというのは大きいだろう。
前みたいに渇きの壺を使って大量に確保しても、上手に保存できず無駄にしていた感はある。
どうしても密封できないので少しずつ魔力が抜けていくんだよな。
その点こいつだと密封できるので魔力抜けを防げる事から魔力水も長持ちさせることができる。
薬師や錬金術師には必須の素材だけにそれを保存できるのは非常にメリットだ。
さらに言えば、それにより魔力水の値段が下落するという可能性もあるので長期的に見てもプラスが出るだろう
もっとも、魔力水で稼いでいた冒険者からすれば文句も出るかもしれないが。
「目途は立ったがまだ入れ物や材料の確保が出来ていない、とはいえ今のうちに量産できるのはありがたいな。機材が到着次第量産するが、ひとまず現行の機材をフル稼働しておいてくれ。」
「わかりました。」
「箱かぁ、何かいいのがあればいいんですけど。」
「ま、今回みたいに何かいい素材が見つかるかもしれないし焦らず行こう。」
焦ったところで妙案が浮かぶわけでもない。
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【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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