転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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884.転売屋は仕上がりを見に行く

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「さーて、準備はいいか?」

「はい!準備完了しました!」

「悪いな、昨日も夜遅かったってのに。」

「いえいえ、大丈夫です。それに、ビアンカにも会えますから。」

屋敷前の馬車には大量の物資が積みこまれていた。

そのほとんどがビアンカへの納入品だが、ぶっちゃけこんなに持ち込んで過労死しないだろうか。

春になりダンジョン街には多くの労働者、そして冒険者が流入。

加えて冒険者の実力が向上したことにより死亡率が低下、結果実力のある冒険者がより良いポーションを求めている。

もちろんこの街にも錬金術師は在籍しているが、ビアンカの実力はそれ以上。

金になる以上売らない理由は無い。

ってことで、大量にポーションを製造してもらうべくこうして材料を運ぶことになったわけだ。

アネットには体力の指輪があるが彼女には無い。

用意しておいてなんだが本当に大丈夫なんだろうか。

「ウ、我が主。」

「ウーラさんも準備できたみたいだな。向こうの報告じゃこの前のサルは対処できたらしいが、念のため今回も巡回をよろしく頼む。ソラもしっかりな。」

「はい!」

「しっかし、あるじってのはまだ慣れないなぁ。」

昨日の事だ。

突然ウーラさんが執務室にやってきたと思ったら、俺の事を『あるじ』と呼びたいといいだした。

話を聞くとどうやらアニエスさんの発案らしい。

そういえば本人もそんな風に呼んでいた事があった気がするが、どうやら狼一同は俺をそう呼ぶことで決まったんだろう。

早速ソラもお館様からあるじ様に変更している。

別にどう呼ぼうがかまわないんだが、くすぐったいというかなんと言うか。

「気をつけてくださいね、アナタ。」

「あぁ留守を頼む。」

「いってらっしゃいませシロウ様。」

「お土産楽しみにしてるからね。」

妻と子供達の見送りを受け一路隣町へと馬車を走らせる。

もちろん飛んだほうが早いのだが、このためだけにバーンを呼ぶのもあれなので今回は馬車移動だ。

空は快晴。

ポカポカ陽気を満喫しつつ馬車はスムーズに街道を進む。

たまにはこういう移動もいいものだ。

飛ぶと本当にあっという間だし、中々景色を楽しむことができない。

なにより・・・。

「あ!綺麗な花が咲いています。」

「これだけ咲いてると春って感じだなぁ。」

「またお花見したいですね。」

「だな。」

草原のいたるところで咲く花々の美しさは上空からは楽しめない。

こういう贅沢な時間の使い方もたまにはいいもんだ。

久方ぶりの馬車のたびを楽しみながらあっという間に隣町へと到着するのだった。

「ようこそお越しくださいました。」

「アイルさん、わざわざ出迎えすまないな。」

「それが仕事ですので。ビアンカも心待ちにしておりますよ。」

「これを見たらげんなりしそうだけどな。」

「仕事があるのはいいことです。荷物を降ろされましたらどうぞ馬車はそのままで、残りはこちらで確認させていただきます。」

「宜しく頼む。」

いつものようにアイルさんの出迎えを受け、まずはメインの用事を済ませる。

挨拶も早々にアネットがうれしそうに運び込む薬草を見て、最初は笑顔だったビアンカも口角が引きつっていたように感じたのは見間違いじゃないだろう。

『親友が自分を殺しに来ている』そう感じたに違いない。

俺ならそう感じる。

荷物の搬出もそこそこに、ウーラさんとソラには森の探索をお願いした。

この間の猿は大方討伐されたって話だが、春にかけて繁殖し数を増やすことがあるらしい。

同じような被害が出る前にその芽は費やしておくべきだろう。

そんじゃま向こうは二人に任せて、俺は最後の用事を済ませるとするか。

ここに来たもうひとつの理由。

そう、ジョウジさんから生酒が仕上がったとの手紙が届いたんだ。

いよいよ清酒が飲める。

あの素晴らしい味が俺の目の前に・・・。

「ジョウジさんいるか、シロウだ。」

「シロウ様!すぐに行きますのでちょっとお待ちを!」

中からどたばたと音がする。

そんなに急がなくてもいいんだが、すぐに扉が開き涙目のジョウジさんが姿を現す。

どうやら足をぶつけたんだろう、弱弱しく足をさすっていた。

「大丈夫か?」

「お恥ずかしい、ですが大丈夫です。」

「例のブツが仕上がったらしいじゃないか、飲めるんだよな?」

「はい。ささ、どうぞ中へ。」

さぁ、ご対面といこうじゃないか。

リビングを抜け、そのまま酒蔵の中へ。

前と違いどこか甘い香りが鞍全体を包み込んでいた。

香りの発生源は、もちろん中央に鎮座するあの巨大タンクだ。

「飲む前に聞くのも無粋だが、できはどうなんだ?」

「それはシロウ様自身にご判断いただければ。ですが、あえて言わせていただくのであれば悪くないとだけ。」

「其れは期待できるな。」

慣れない土地でたった一人出始めた酒造り。

その第一号を悪くないと言ってのけるその出来栄えやいかに。

タンクの株に取り付けられた蛇口をひねると、透明な液体がジョウジさんのもつグラスを静かに満たした。

「どうぞ。」

「それじゃあ遠慮なく。」

静かに手渡されたグラスを両手でしっかりと受け取る。

『清酒。西方でのみ製造される米を用いて作られた酒。その西方は門外不出で国外にもちだされることさえも稀な為、幻の酒とも呼ばれている。生酒。最近の平均取引価格は銀貨35枚。最安値銀貨18枚最高値銀貨48枚、最終取引日は17日前と記録されています。』

香りは以前飲んだものよりも強い。

まるで果実酒を思わせるような甘い米の香りがする。

いざ、実飲。

香りを楽しんだ後はわずかに口に含み、香りと一緒に味を楽しむ。

うーむ、美味い。

香りは甘いがアルコールはしっかりとあり、飲むと胃が熱くなる。

なかなかのアルコール濃度。

あぁ、間違いない清酒だ。

「いかがでしょう。」

「正直に言うと、前に飲ませてもらったほうが美味い。」

「もちろんです。」

「が、これでも十分に美味い。まさか本当に一冬で仕上げてしまうとは思わなかった。」

「シロウ様が私を信じてくれたおかげです。水と、空気と、そしてここに宿る酵母が力を貸してくださいました。」

味は国から持ってきたものに負けている。

だが、わずか一年も経たずにこの味だ。

次の春にはどれだけ素晴らしいものが出来上がっているのだろうか。

この世界に来てはじめての投資案件。

結果はすぐでない上に失敗すれば大損、そんなプレッシャーの中この人は見事に仕事を果たしたわけだ。

「この後は火入れだったか?」

「はい。秋ごろには少量ではございますが出荷できるかと。」

「引き続き宜しく頼む。それと、量産に向けた具体的な要望書を夏までに提出してくれ。できるんだよな?」

「できます。作ってご覧に入れます。」

「期待している。」

今期はまだ投資段階。

ここから次の仕込みに向けてしっかり準備を始め、新米が入荷した後いよいよ本格始動となる。

それが出来上がるのが次の春、いや秋か。

先は長い。

が、十分に期待できる仕上がりだった。

コップの残りを一気に流し込み、アルコールと共に大きく息を吐く。

まずはこの秋。

それを楽しみに俺も仕事に励むとしよう。

「さて、酒は確認したとして他に気になることは無いか?本当に一人でやるのか?」

「今の所はまだ一人で大丈夫です。」

「そうか。魔物はどうだ?サルは討伐されたようだが、他に襲撃はなさそうか?」

「この前のようなことは起きていません。しかし、この間来ていた冒険者が気になることを言っていまして。」

「気になること?」

「森の奥にある温泉が出なくなったとか。」

え、温泉が?

それ初耳なんですけど。

出産が続いたのでこの冬は諦めていたのだが、落ち着いたらもう一度入りたいと思っていた。

にも関わらず温泉が出ない?

それに、そんなことアイルさんはひと言も言っていなかったと思うんだが・・・。

何があったんだろうか。
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