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892.転売屋は種を飛ばす
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春になり気温が高くなるとルフとレイを連れた散歩も捗る。
寒いとつい億劫になり遠くまで行くのをためらってしまうのだが、これだけ暖かくなると遠出するのも気にならない。
で、ついつい遠くまで行ってしまい戻るのが遅くなるっていうね。
もちろん大事な商談とかがある時はちゃんと戻るが、今日みたいに書類整理しかない時はサボりついでについ長居してしまうんだよなぁ。
風は冷たく太陽は暖かく。
絶妙なこの感じが溜まらない。
とはいえ腹は減るし喉は乾く。
今度は弁当と水筒を手に子供達と一緒にピクニックとしゃれこむのもいいかもしれない。
「ん?」
畑に戻り換毛期の二匹の毛をブラッシングしていると、毛に何かついているのに気が付いた。
あれだ、田舎でよく見たやつ。
トゲトゲしてて服とかにくっついて離れない邪魔者。
オナモミだっけ?
それが腹部の毛にびっちりこびりついていた。
『スパイクシード。種に無数に生えるトゲを魔物や動物の体に絡ませて生息範囲を広げる植物。種はトゲを取ると食べる事も出来、また中身に油分が多い為古くは明かり油として利用されていた。最近の平均取引価格は銅貨3枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨5枚。最終取引日は二日前と記録されています。』
大きさは小粒のどんぐりぐらい。
トゲ自体はそこまで鋭利ではなく、先っぽがくるんと返しのようになっているのでフサフサの毛に良く絡む。
恐らく散歩中にその上を通ってしまったんだろう。
ルフはそうでもなかったが、レイは中々に悲惨な状況だった。
悪戦苦闘しているとアグリがそれに気付き二人で必死になってタネを取る。
「あー、疲れた。次からは気を付けろよ、レイ。」
「わふぅ。」
申し訳なさそうにしゅんと俯くのがまた可愛らしい。
頭をなでてやるとすぐに頭を上げブンブンと尻尾を振った。
足元には回収したくっつき虫もといスパイクシードが大量に転がっている。
ちょうど仕事を終えたガキ共が近くを通ったので、一つ手に取り放り投げる。
放物線を描いたそれが気づかれることなく背中にピタリとくっついた。
ふむ、中々の接着力。
もう一つ手に取り、自分のズボンに落とすと一発でくっついてしまう。
コレは面白い。
「あ、シロウが遊んでる!」
「遊んでないっての。」
「でもイガイガいっぱい集めてる。」
「投げるんでしょ?悪いんだ~。」
「悪いのか?」
「だってくっついたらすぐ取れないし、洗濯する前にモニカすごい怒るんだよ。」
そりゃこんなの大量につけて帰ったら怒るだろう。
洗濯するほうの身にもなってみろって感じだ。
ガキ共は足元のやつを拾い集め、キャーキャー言いながら投げ合って遊んでいる。
何がそんなに面白いのか。
ほんと、子供ってのはなんにでも玩具にできる生き物だなぁ。
「程ほどにしとけよ、またモニカに怒られるぞ。」
「は~い。」
「ねぇ、また今度取りに行こうぜ。」
「いいね!取りに行こう!」
「ん?そんな近くに落ちてるのか?」
「うん、街道の横にいっぱい落ちてるよ!」
話によると、東門から街道を少し進んだ茂みに大量に落ちているんだとか。
あそこは人の流れも多いしどこからかくっついてきた奴が繁殖してしまったんだろう。
駆除するようなものでもないし通行の邪魔にならないのならスルーしても問題なさそうだ。
いい加減仕事に戻らないとやばそうなので、その足でギルド協会へと向かう。
朝一番で羊男に呼ばれていたので、そこで仕事をしていたってことにしておけば多少遅くなっても問題ない、はずだ。
「あ、シロウ様ようこそお越しくださいました。」
「シープさんは?」
「先ほど拡張工事の詰め所に向かわれました。」
「入れ違いだったか。」
「明日の休養日についての打ち合わせだとか。」
「お、あれをやる気になったのか。」
「たまには休まないと皆さん倒れてしまいますから、やらない理由はありませんよね。」
工事が始まってそろそろ一ヶ月弱。
その間一度も休みらしい休みはなく、自由に働けるとはいえ労働者の中にはここまで休日を取らずにきた人もいるはずだ。
もちろん本人の希望ではあるんだけども、働きすぎは作業効率の低下や怪我にも繋がるので全休日を設けるよう進言したんだ。
どうやらそれが通ったみたいだな。
せっかくの休みなんだし、稼いだ金で美味しい物を食べたり買い物したりしてくれれば街も潤うってもの。
他に娯楽になるようなものがあればよかったんだが、その辺は今後検討していく必要がある。
「あ、シロウ様ちょっと失礼します。」
「ん?」
職員さんがカウンターから体を乗り出し、俺の腹部に手を伸ばす。
何か引っ張られる感覚の後、彼女は何かを手に楽しそうに笑った。
「イガイガ、久々に見ました。」
「さっきレイの腹についていたのを取ってたんだ、そのせいだろう。」
「子供の頃はコレを投げてよく遊びました。私は足が速かったので逃げれましたけど、遅い子はいっぱい投げられて髪の毛について大変だったんです。二手に分かれてどっちがたくさんくっつけるか競い合ったり、楽しかったなぁ。」
「中々やんちゃ遊びをしてたんだな。」
「子供の頃ですよ?」
「わかってるって。だが、そういうのは案外大人になっても楽しめるかもしれないぞ。」
どういうこと?と不思議そうに首をかしげる彼女からスパイクシードを返してもらい、急ぎ冒険者ギルドへ走る。
明日はせっかくの休み。
たまには気晴らしも兼ねて童心に帰るのも面白いかもしれない。
「スパイクシードを集める?そりゃあお金を出してくれるなら依頼は出すけど、どこでも手に入る奴よ?」
「その代わり100個単位でしか受け付けないでくれ。100個持ってきてくれたら銀貨1枚出す、希望総数は1万個だ。」
「そんなに!?この春はイガイガに困ることはなさそうね。」
「それと、明日の全休日にあわせてちょっとした遊びをするつもりだ。後で参加条件を提示するから告知宜しくな。」
まずは遊びに必要な道具を確保。
もちろんそれがこのスパイクシードというわけだ。
総数一万個、値段にして金貨1枚。
こんなどこにでも転がっている厄介者に金貨1枚も出す奴は世界広しといえども俺ぐらいな物だろう。
だが決して酔狂で集めるわけじゃない。
これが金になるからやるだけだ。
一度屋敷に戻り、待ち構えていたセラフィムさんを引っ張って執務室へ。
書類整理そっちのけで思いついた遊びについて説明した。
「なるほど、其れは面白いですね。」
「だろ?誰でも参加できて更には金になる。」
「参加者次第ではありますが、一万個で足りますでしょうか。」
「足り・・・ないか?」
「三人一組で参加するとして、この数では100組が限界です。また、トーナメント方式で複数回競うとなるとその二倍は必要かと。」
考えていたのはこうだ。
三人一組になり参加費として銀貨3枚でスパイクシードを購入。
それを対戦相手と投げ合って、くっついた総数が多いほうが勝ちというなんとも簡単な遊び。
ルールは三つ。
1、落ちたやつは拾わない
2、直接相手に触れない
3、指定した範囲から外に出てはいけない
制限時間は5分。
もちろん公平性を高める為に魔法や魔道具などによる基礎能力の向上は禁止だ。
審判もつけて不正が起きないようにする事も忘れない。
簡単だからこそ誰でも参加でき、さらに勝負事となると盛り上がるのは間違いない。
優勝賞金はずばり銀貨50枚。
金貨1枚で仕入れた1万個のスパイクシードを参加費金貨3枚に変換、優勝賞金と手伝ってくれる人への日当を支払っても金貨1枚は儲かる計算だ。
だがそれも1万個で終わったらの話であって、その数が増えればその分儲けがなくなってしまう。
倍用意するとなると儲けはゼロ。
お祭り騒ぎができたと思えばいいのかもしれないが、やるからには儲けたいところだ。
「二倍となると儲けはゼロ。とはいえ参加しやすさを考えると参加費はこれ以上上げられないわけで。」
「それならば他の部分で儲けを出せばいいじゃありませんか。」
「他?」
「そのあたりはお任せを、とりあえず資金として別途金貨1枚ご準備願えますでしょうか。」
「・・・やりすぎるなよ?」
「「ご心配には及びません。ギルドへの告知、並びに手配は私達がしますのでシロウ様はどうぞ書類作業をお願いします。」」
いつの間にか分裂した二人がスカートの裾を両手で持って優雅にお辞儀をする。
ここに来てそれなりになるけど、自主的に金儲けをしようとするのって実は初めてじゃないだろうか。
俺はちょっとした小遣い稼ぎができればいいんだが・・・。
翌日。
そんな不安は見事的中し、とんでもない騒ぎになった会場で俺は盛大な溜息をついた。
どこを見ても人人人。
参加者と思われる三人組は同じ色のゼッケンをつけているので分かりやすい。
皆目をぎらぎらさせて自分の番を待っている。
早々に参加者100組は締め切られたらしく、冒険者や労働者だけでなく一般市民も多数参加しているそうだ。
「みんなお祭り騒ぎが好きよね。」
「それには賛同するが、まさか参加しない人まで巻き込むとは思わなかった。これ、ギルド協会は何も言わなかったのか?」
ルカを抱いたエリザが楽しそうに周りを見回している。
ルカもいつもと違う雰囲気に興奮気味だ。
そんな俺達の横にこれまた楽しそうな顔で羊男が姿を現した。
「もちろん言いましたよ?でもぐうの音も出ないぐらいに公平であると証明されたら何も言えないじゃないですか。まぁ、うちにもお金は入りますし何より私もお祭り騒ぎは好きですし。」
「それでいいのかギルド協会。」
「あはは、たまにはいいじゃないですか。還年祭以降こんな大騒ぎしてなかったんですから。ローランド様の許可も貰っています。」
「まぁ上がそれでいいなら俺は何も言うまい。しかし、トトカルチョとはなぁ。」
「一口銅貨10枚で、優勝チームを当てたら金貨1枚を的中者で均等分け。そりゃみんな投票するわよねぇ。」
そう、セラフィムさんが手配したもう一つの金儲けとはずばり賭け事。
参加しない人でも運がよければ少ない掛け金で大金を手に入れるチャンスがあるとなると、そりゃあ盛り上がるよなぁ。
「投票上限は無いんだったか?」
「一応一人五口までって制限してるみたい。」
「それでも200人が投票すれば元が取れるのか。まぁ、余裕で越えてるよな。」
「さっき3000口を越えたって聞こえたわよ。」
「マジか。」
って事はこの時点で儲けは金貨2枚。
スパイクシードの儲けは二万個に増やしたことでなくなったが、こっちで十分すぎるだけの儲けを出していることになる。
しかもそれはまだまだ増えそうだ。
「ちなみにうちは出店全般を仕切らせてもらってるので、そちらの儲けについては関知しません。」
「なるほど、そりゃ公平だ。」
「全休日を作ることで会場となる場所を確保。加えて労働者には気晴らしを、冒険者にはお金儲けの機会を、そして住民にはお祭り騒ぎを。さすがシロウさんですね!」
そういうつもりじゃなかったんだが・・・。
ま、俺は儲かって皆が楽しいならそれでいいけどな。
「それでは、第一回戦をはじめます!これから呼びます番号の方は各会場にお集まりください!第一会場、5番対27番!第二会場・・・。」
穏やかな春の日差しの下、大人子供も巻き込んだお祭り騒ぎが始まった。
その中心にあるのはスパイクシード。
通称イガイガ。
嫌われ者のこいつがこんなにも人々に求められる日が来るなんて。
流石の神様も考えなかっただろうなぁ。
寒いとつい億劫になり遠くまで行くのをためらってしまうのだが、これだけ暖かくなると遠出するのも気にならない。
で、ついつい遠くまで行ってしまい戻るのが遅くなるっていうね。
もちろん大事な商談とかがある時はちゃんと戻るが、今日みたいに書類整理しかない時はサボりついでについ長居してしまうんだよなぁ。
風は冷たく太陽は暖かく。
絶妙なこの感じが溜まらない。
とはいえ腹は減るし喉は乾く。
今度は弁当と水筒を手に子供達と一緒にピクニックとしゃれこむのもいいかもしれない。
「ん?」
畑に戻り換毛期の二匹の毛をブラッシングしていると、毛に何かついているのに気が付いた。
あれだ、田舎でよく見たやつ。
トゲトゲしてて服とかにくっついて離れない邪魔者。
オナモミだっけ?
それが腹部の毛にびっちりこびりついていた。
『スパイクシード。種に無数に生えるトゲを魔物や動物の体に絡ませて生息範囲を広げる植物。種はトゲを取ると食べる事も出来、また中身に油分が多い為古くは明かり油として利用されていた。最近の平均取引価格は銅貨3枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨5枚。最終取引日は二日前と記録されています。』
大きさは小粒のどんぐりぐらい。
トゲ自体はそこまで鋭利ではなく、先っぽがくるんと返しのようになっているのでフサフサの毛に良く絡む。
恐らく散歩中にその上を通ってしまったんだろう。
ルフはそうでもなかったが、レイは中々に悲惨な状況だった。
悪戦苦闘しているとアグリがそれに気付き二人で必死になってタネを取る。
「あー、疲れた。次からは気を付けろよ、レイ。」
「わふぅ。」
申し訳なさそうにしゅんと俯くのがまた可愛らしい。
頭をなでてやるとすぐに頭を上げブンブンと尻尾を振った。
足元には回収したくっつき虫もといスパイクシードが大量に転がっている。
ちょうど仕事を終えたガキ共が近くを通ったので、一つ手に取り放り投げる。
放物線を描いたそれが気づかれることなく背中にピタリとくっついた。
ふむ、中々の接着力。
もう一つ手に取り、自分のズボンに落とすと一発でくっついてしまう。
コレは面白い。
「あ、シロウが遊んでる!」
「遊んでないっての。」
「でもイガイガいっぱい集めてる。」
「投げるんでしょ?悪いんだ~。」
「悪いのか?」
「だってくっついたらすぐ取れないし、洗濯する前にモニカすごい怒るんだよ。」
そりゃこんなの大量につけて帰ったら怒るだろう。
洗濯するほうの身にもなってみろって感じだ。
ガキ共は足元のやつを拾い集め、キャーキャー言いながら投げ合って遊んでいる。
何がそんなに面白いのか。
ほんと、子供ってのはなんにでも玩具にできる生き物だなぁ。
「程ほどにしとけよ、またモニカに怒られるぞ。」
「は~い。」
「ねぇ、また今度取りに行こうぜ。」
「いいね!取りに行こう!」
「ん?そんな近くに落ちてるのか?」
「うん、街道の横にいっぱい落ちてるよ!」
話によると、東門から街道を少し進んだ茂みに大量に落ちているんだとか。
あそこは人の流れも多いしどこからかくっついてきた奴が繁殖してしまったんだろう。
駆除するようなものでもないし通行の邪魔にならないのならスルーしても問題なさそうだ。
いい加減仕事に戻らないとやばそうなので、その足でギルド協会へと向かう。
朝一番で羊男に呼ばれていたので、そこで仕事をしていたってことにしておけば多少遅くなっても問題ない、はずだ。
「あ、シロウ様ようこそお越しくださいました。」
「シープさんは?」
「先ほど拡張工事の詰め所に向かわれました。」
「入れ違いだったか。」
「明日の休養日についての打ち合わせだとか。」
「お、あれをやる気になったのか。」
「たまには休まないと皆さん倒れてしまいますから、やらない理由はありませんよね。」
工事が始まってそろそろ一ヶ月弱。
その間一度も休みらしい休みはなく、自由に働けるとはいえ労働者の中にはここまで休日を取らずにきた人もいるはずだ。
もちろん本人の希望ではあるんだけども、働きすぎは作業効率の低下や怪我にも繋がるので全休日を設けるよう進言したんだ。
どうやらそれが通ったみたいだな。
せっかくの休みなんだし、稼いだ金で美味しい物を食べたり買い物したりしてくれれば街も潤うってもの。
他に娯楽になるようなものがあればよかったんだが、その辺は今後検討していく必要がある。
「あ、シロウ様ちょっと失礼します。」
「ん?」
職員さんがカウンターから体を乗り出し、俺の腹部に手を伸ばす。
何か引っ張られる感覚の後、彼女は何かを手に楽しそうに笑った。
「イガイガ、久々に見ました。」
「さっきレイの腹についていたのを取ってたんだ、そのせいだろう。」
「子供の頃はコレを投げてよく遊びました。私は足が速かったので逃げれましたけど、遅い子はいっぱい投げられて髪の毛について大変だったんです。二手に分かれてどっちがたくさんくっつけるか競い合ったり、楽しかったなぁ。」
「中々やんちゃ遊びをしてたんだな。」
「子供の頃ですよ?」
「わかってるって。だが、そういうのは案外大人になっても楽しめるかもしれないぞ。」
どういうこと?と不思議そうに首をかしげる彼女からスパイクシードを返してもらい、急ぎ冒険者ギルドへ走る。
明日はせっかくの休み。
たまには気晴らしも兼ねて童心に帰るのも面白いかもしれない。
「スパイクシードを集める?そりゃあお金を出してくれるなら依頼は出すけど、どこでも手に入る奴よ?」
「その代わり100個単位でしか受け付けないでくれ。100個持ってきてくれたら銀貨1枚出す、希望総数は1万個だ。」
「そんなに!?この春はイガイガに困ることはなさそうね。」
「それと、明日の全休日にあわせてちょっとした遊びをするつもりだ。後で参加条件を提示するから告知宜しくな。」
まずは遊びに必要な道具を確保。
もちろんそれがこのスパイクシードというわけだ。
総数一万個、値段にして金貨1枚。
こんなどこにでも転がっている厄介者に金貨1枚も出す奴は世界広しといえども俺ぐらいな物だろう。
だが決して酔狂で集めるわけじゃない。
これが金になるからやるだけだ。
一度屋敷に戻り、待ち構えていたセラフィムさんを引っ張って執務室へ。
書類整理そっちのけで思いついた遊びについて説明した。
「なるほど、其れは面白いですね。」
「だろ?誰でも参加できて更には金になる。」
「参加者次第ではありますが、一万個で足りますでしょうか。」
「足り・・・ないか?」
「三人一組で参加するとして、この数では100組が限界です。また、トーナメント方式で複数回競うとなるとその二倍は必要かと。」
考えていたのはこうだ。
三人一組になり参加費として銀貨3枚でスパイクシードを購入。
それを対戦相手と投げ合って、くっついた総数が多いほうが勝ちというなんとも簡単な遊び。
ルールは三つ。
1、落ちたやつは拾わない
2、直接相手に触れない
3、指定した範囲から外に出てはいけない
制限時間は5分。
もちろん公平性を高める為に魔法や魔道具などによる基礎能力の向上は禁止だ。
審判もつけて不正が起きないようにする事も忘れない。
簡単だからこそ誰でも参加でき、さらに勝負事となると盛り上がるのは間違いない。
優勝賞金はずばり銀貨50枚。
金貨1枚で仕入れた1万個のスパイクシードを参加費金貨3枚に変換、優勝賞金と手伝ってくれる人への日当を支払っても金貨1枚は儲かる計算だ。
だがそれも1万個で終わったらの話であって、その数が増えればその分儲けがなくなってしまう。
倍用意するとなると儲けはゼロ。
お祭り騒ぎができたと思えばいいのかもしれないが、やるからには儲けたいところだ。
「二倍となると儲けはゼロ。とはいえ参加しやすさを考えると参加費はこれ以上上げられないわけで。」
「それならば他の部分で儲けを出せばいいじゃありませんか。」
「他?」
「そのあたりはお任せを、とりあえず資金として別途金貨1枚ご準備願えますでしょうか。」
「・・・やりすぎるなよ?」
「「ご心配には及びません。ギルドへの告知、並びに手配は私達がしますのでシロウ様はどうぞ書類作業をお願いします。」」
いつの間にか分裂した二人がスカートの裾を両手で持って優雅にお辞儀をする。
ここに来てそれなりになるけど、自主的に金儲けをしようとするのって実は初めてじゃないだろうか。
俺はちょっとした小遣い稼ぎができればいいんだが・・・。
翌日。
そんな不安は見事的中し、とんでもない騒ぎになった会場で俺は盛大な溜息をついた。
どこを見ても人人人。
参加者と思われる三人組は同じ色のゼッケンをつけているので分かりやすい。
皆目をぎらぎらさせて自分の番を待っている。
早々に参加者100組は締め切られたらしく、冒険者や労働者だけでなく一般市民も多数参加しているそうだ。
「みんなお祭り騒ぎが好きよね。」
「それには賛同するが、まさか参加しない人まで巻き込むとは思わなかった。これ、ギルド協会は何も言わなかったのか?」
ルカを抱いたエリザが楽しそうに周りを見回している。
ルカもいつもと違う雰囲気に興奮気味だ。
そんな俺達の横にこれまた楽しそうな顔で羊男が姿を現した。
「もちろん言いましたよ?でもぐうの音も出ないぐらいに公平であると証明されたら何も言えないじゃないですか。まぁ、うちにもお金は入りますし何より私もお祭り騒ぎは好きですし。」
「それでいいのかギルド協会。」
「あはは、たまにはいいじゃないですか。還年祭以降こんな大騒ぎしてなかったんですから。ローランド様の許可も貰っています。」
「まぁ上がそれでいいなら俺は何も言うまい。しかし、トトカルチョとはなぁ。」
「一口銅貨10枚で、優勝チームを当てたら金貨1枚を的中者で均等分け。そりゃみんな投票するわよねぇ。」
そう、セラフィムさんが手配したもう一つの金儲けとはずばり賭け事。
参加しない人でも運がよければ少ない掛け金で大金を手に入れるチャンスがあるとなると、そりゃあ盛り上がるよなぁ。
「投票上限は無いんだったか?」
「一応一人五口までって制限してるみたい。」
「それでも200人が投票すれば元が取れるのか。まぁ、余裕で越えてるよな。」
「さっき3000口を越えたって聞こえたわよ。」
「マジか。」
って事はこの時点で儲けは金貨2枚。
スパイクシードの儲けは二万個に増やしたことでなくなったが、こっちで十分すぎるだけの儲けを出していることになる。
しかもそれはまだまだ増えそうだ。
「ちなみにうちは出店全般を仕切らせてもらってるので、そちらの儲けについては関知しません。」
「なるほど、そりゃ公平だ。」
「全休日を作ることで会場となる場所を確保。加えて労働者には気晴らしを、冒険者にはお金儲けの機会を、そして住民にはお祭り騒ぎを。さすがシロウさんですね!」
そういうつもりじゃなかったんだが・・・。
ま、俺は儲かって皆が楽しいならそれでいいけどな。
「それでは、第一回戦をはじめます!これから呼びます番号の方は各会場にお集まりください!第一会場、5番対27番!第二会場・・・。」
穏やかな春の日差しの下、大人子供も巻き込んだお祭り騒ぎが始まった。
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