転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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967.転売屋は最後の確認をする

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「いよいよですね・・・。」

「何硬くなってるんだ?」

「硬くもなりますよ!国王陛下が来訪されるんですよ?そりゃあ今回はお忍びって体ですけど、それでも何か粗相があったらと思うと。」

「ごめんなさい、知ってると思うけどこの人肝が小さいから。」

嫁にまでディスられているというのに、羊男は挙動不審なまま。

そう、気付けばもう18月も半ばを過ぎいよいよこの日がやって来た。

エドワード陛下がこの街にやってくる。

正確に言えば義父が孫娘を見に来るだけなのだが、相手が相手だけにどうしても大騒動になってしまうんだよなぁ。

まぁ、それを利用してお祭り騒ぎを仕掛けたのは俺なんだけども。

その準備も佳境を迎え、会場の設営は昨日のうちに完了したと報告を受けている。

出店も今日から解放され、店主達も準備に余念がない。

備蓄は大量にあるので早々に無くなることはないだろうが、もしもに備えて大会に参加しない冒険者もスタンバイしている。

まさに臨戦態勢というやつだ。

ここまでしたんだからそんなにビビらなくてもとは思うのだが、そういうわけにもいかないんだろう。

「ニアはあまり気にしてなさそうだな。」

「んー、それよりも明日の準備とか冒険者への指示とかでそっちの方が気になってる感じかしら。忙しい方が余計なこと考えなくて済むし、この人も明日になればいつもの感じに戻ってると思うわ。」

「むしろそうじゃないと困るんだが。」

「何もなければ大丈夫よ。」

「怖いこと言うなよ。」

まるで何か起こりますと言っているみたいじゃないか。

ここまで入念に準備したんだから余程の事がない限りいくらでも対処ができるはず。

羊男も今はこんな感じだがやるときはやる男だ。

今回はローランド様から一任されていることもあり、少々気負っているだけで普段であれば軽い感じで俺に無茶ぶりしているはずだ。

あれがないこれがない、今日までどれだけこき使われたか。

もちろんそれで俺も儲けを出しているので文句は言えないのだが。

「シロウ、ここにおったか。」

「ディーネ、どうしたんだ?」

「ガルの気配を感じたんでな、様子を見に来たんじゃ。」

羊男達と話し込んでいると、ふと横にディーネが現れた。

いつもは地下にいるのに出てくるのは珍しい。

ガルといえば元旦那の青竜ガルグリンダムの事で間違いないだろう。

王都を守護するはずの龍まで出て来るとは、ちょっとそれは想定していなかった。

「ってことは陛下と一緒に来たのか。」

「恐らくな。まったく、王家の血筋だからとか何とか適当な口実をつけて外に出たかっただけじゃろう。シャルへの加護は私が授けた、あ奴が出てくる義理はない。」

「とはいえ二重で加護を授ける事は出来るのか?」

「それはもちろんじゃ。とはいえ、魔王のいる時代でもなしあまり加護を与えすぎても使い道がない。」

「そうなのか。病気にならないとかなら喜んで授けてもらおうと思ったんだが。」

「その程度であれば私の加護だけで十分じゃ。そこにあ奴の分が加わると少々のケガなどしなくなってしまうからの、加減を知るためにも程々が一番じゃよ。」

なるほどなぁ。

漫画やゲームの世界ならどんどんと危険な場所に向かっていくだけにそういった加護も必要だったかもしれないが、平和になったこの世の中でそこまでの過剰な加護はその子の成長を阻害してしまう可能性があるわけだ。

下手に強くなるとダンジョンに潜るとか言い出すかもしれないし、それが悪いとは言わないが父親としては不安になってしまう。

「あの、ディーネ様。そのガルというお方はまさかガルグリンダム様でしょうか。」

「あ奴に様付けなど不要じゃぞ。」

「そういうわけにはいきません!あぁ、陛下だけでなく青龍様までくるなんて。シロウさんどうしてくれるんですか!」

「なんで俺のせいなんだよ、文句があるなら本人に言え!」

「言えるわけないじゃないですか!」

ま、そりゃそうだ。

再び慌てだした羊男をニアに任せて、良い香りのする出店をディーネと共にゆっくり見て回る。

バーンは別件で廃鉱山へと飛んでもらっている、そろそろ戻ってくると思うんだが。

「シロウ、次はあの店に行くぞ。」

「まだ食べるのか。」

「当たり前じゃ、せっかく地上に出て来たんじゃからたまには美味いもんを食わんと。いつもバーンばかり美味い物を食べて、ずるいじゃろ?」

「それなら一緒に出てきたらいいんじゃないか?」

「それはそれで面倒なんじゃ。」

まったく我儘なやつめ。

小学生のような見た目に騙されてはいけない、中身は先程名前のあがったガルグリンダム同様古龍種と呼ばれるそれこそ魔王のいる時代から生きているドラゴンだ。

人型で産まれて来たバーンの育ての親でもあるが、如何せん感覚がやはり古くさらに言えばめんどくさがり。

食べるのが好きな所は母子ともに同じだけどな。

試作している店に片っ端から声をかけて大量の料理を食べて回る。

この小さい体の一体どこにそれだけの食い物がおさまるのだろうか。

「それで?」

「なんじゃ?」

「他に何か気になる事があって出て来たんじゃないか?」

「私はただガルが来たから仕方なくで迎える為に出て来ただけじゃ、それ以外には何もないぞ。」

「それを聞いて安心した。」

「トト、ハハ!」

「お、戻って来たな。ご苦労さん。」

さっきニアから不安になるようなことを聞いたのでもしやと思ったのだが、どうやら俺の考えすぎだったようだ。

ちょうどいいタイミングでバーンが戻って来たので、今来た道を戻るように再び出店を買い物、もとい荒らして回る。

あまり食べ過ぎて明日の分が無くなっても困るので、残りは家で食べるように説得するのが大変だった。

「いよいよですね。」

夕食後、皆でのんびりと食後のパパパインアップルを食べていると緊張した感じでハーシェさんが声を漏らす。

よく見ると微かに震えているような気もする。

寒い、わけじゃないよなぁ。

「そんなに緊張するか?」

「国王陛下が来るのよ、普通は緊張するものだと思うけど。」

「それはわかるが、今回は孫娘の顔を見に来ただけだろ?」

「そうだとしてもよ。なんて言うか、シロウはそう言う所鈍いわよね。」

「これだけの面々が周りにいるんだぞ?マヒするのも仕方ないだろ。」

確かに最初は緊張したものだが、比較的気さくな人だし今は義父でもある。

加えて俺の目の前に元王子、現王女、西国の元王女がいるんだぞ?

偉い人ばかりでそういう感覚が薄れているんだよなぁ。

さらに言えばエリザとキキだって元貴族、ハーシェさんもそれなりの家だったりする。

後はなんだ、古龍に飛竜?それと銀狐人か。

真っ当なって言い方は失礼だが、ごく普通の出なのはミラぐらいなものだろう。

「ちなみにグレイスたちもそうなのか?」

「それはもう、国王陛下をお出迎えすると思うと震えあがりそうです。」

「緊張します。」

「でも、頑張ります!」

「俺なんて食事を作るんですよ?お口に合わなかったらあれですか?斬首ですか?」

「バカ言え、そんなことするような人じゃないっての。」

グレイスをはじめ他の面々はハーシェさん同様に緊張しているようだ。

そうか、これが普通の感覚なのか。

そういう意味ではエリザの言うように俺の感覚が鈍い、もしくはマヒしていると考えてもいいだろう。

とはいえ考えたところで何かが変わるわけもなく、俺は今まで通りで行くだけだ。

「余程の粗相をしなけりゃ問題ないさ、何をしてもシャルの顔を見れば一発だって。」

「お父様がどんな顔するか楽しみです。」

「デレッデレじゃないか?」

「えぇぇぇ、想像できないですよ。」

「でも、ご主人様も似たような感じですよね。」

「あ、わかる~。ルカの顔を見るときなんてなんていうか目尻も口角もさがりっぱなしよね。」

そりゃそんな風にもなるだろう、うちの子がこの国で一番可愛いのは間違いない事実だ。

ふと視線を感じて振り向くと、大量の肉を食べていたバーンが口元を汚したまま俺をジッとみてくる。

どうしたんだ?

「トト、デレデレ?」

「あぁ。」

「ハハと一緒!」

「こりゃバーン!余計な事を言うでないわ!」

バーンの口元を拭いてやっていたディーネが慌てた様子で口元を塞ぐ。

古龍が顔を真っ赤にして慌てている方が国王陛下が来るよりもレアだとおもうけどなぁ。

そんなこんなで夜は更けていき、それぞれ自分の部屋に戻っていった。

俺も一度は自室に戻ったのだが、どうも寝付けず食堂へと足が伸びる。

扉を開けると、厨房にだけ明かりがついていて誰かの影が天井にまで伸びていた。

「ハワード、まだ起きていたのか。」

「うぉ、って誰かと思ったらお館様じゃないですか。」

「仕込みか?」

「それはまぁ終わってるんですが、なんていうか落ち着かなくて。」

「心配するなって、王宮の料理を食ってきた俺が保障する。あっちよりもお前の方が何倍も美味い。」

「それは言いすぎですよ。」

「いやいや、オリンピアとマリーさんがそれを証明している。幼い頃から向こうの味に慣れている二人が美味い美味いって毎日おかわりしてるんだぞ?」

ハワードの不安もわかるが、コレは紛れも無い事実だ。

王宮の料理も確かに美味しかったのだが、やはりハワードの味付けにはかなわないんだよなぁ。

食べたことのない料理でも、一度食べればそれよりも数段上の味付けで再現してみせるし、マンネリ化しないように同じ料理でもしっかり工夫を凝らしている。

その努力は並大抵のものじゃなかっただろうが、それが結果として現れているんだ。

何も臆することはない。

むしろ緊張して本来の味付けを再現できないほうが残念だ。

「そうですかねぇ。」

「あぁ、俺が保障する。お前の料理は最高だ。」

「まぁ、なるようになりますよね!お館様、ありがとうございます。」

「偉そうなこと言って、俺もこんな時間に出てきた口だ。付き合ってくれるだろ。」

「え、いいんですか?」

「ツマミは任せた。」

眠れないので一杯引っ掛けてから寝ようと思って持ってきた清酒を見て、ハワードがうれしそうに台所へと向かう。

なんだかんだ言っていたが一応俺も緊張していたんだろう。

いよいよ明日、国王陛下がやってくる。

何もないといいんだが、なーーーんとなく嫌な予感がするんだよなぁ。
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