転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1582.転売屋は恋の薬を作る

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春。

春といえば恋の季節。

冬の間冬眠していた奴らは別として、厳しい冬を乗り越えた動物や魔物たちはいっせいに繁殖期を迎える。

ちなみにダンジョン産の魔物にも一応繁殖期はあるようだが、こいつらの場合は魔素の影響を強く受けるとかで季節感は多少関係あるものの外の連中のようにスイッチが入ったようにというわけではないらしい。

なんとも下世話な話ではあるが、花が咲くのだって目的はそっちなんだから差別するのはよくないよな、うん。

ってなわけで老いも若きも動物も魔物も、世間は色恋で盛り上がっている。

まぁうちの場合は結婚して子供までいるのでいつもと変わらない感じではあるのだけど、冒険者や住民はそうでゃないらしい。

「シロウさん、媚薬ってないですかね。」

「あるぞ。」

「え、有るんですか!」

「一滴摂取すると勃起が止まらなくて枯れても終わらないっていう強力なやつだけど、いるか?」

「いや、それ媚薬じゃなくて毒薬じゃないですかね。」

買い取り待ちの冒険者が何気ない感じで尋ねてくるには中々にディープな話題だが、実際あるのだから嘘を教える必要はない。

男なら夢見るバキバキ状態、だが出しても出しても収まることを知らず欲望だけが丸2日残り続けるという中々にどきつい効果だったりする。

そういう意味では彼の言葉は間違っていないだろう。

「ちなみに女性に使うと発情する。」

「ください!」

「ただし、相手にその気がなかったら全く効果はない。ただ、もしその気があった場合はオーグルの雌みたいに襲い掛かられて枯れてもやめてくれないからそれはそれで覚悟しろよ。」

「・・・やめときます。」

「そうしとけ。」

まぁ、今出したのはかなりドきついやつであって本当はもっとソフトな感じのやつがいくつもある。

昔、ダンジョン街にいる時に横のダンディさんが女達にそんな感じの商品を売ってたっけか。

ちなみに使った後のことは覚えていない、おそらく記憶に残したくなかったんだろう。

「ほい、全部で銀貨4枚と銅貨30枚まぁまぁ、がんばったじゃないか。それで花でも買っていってやった方が効果あるんじゃないか?」

「そんなもんですかね。」

「花をもらって喜ばないやつはそこまで多くない。食べ物の好き嫌いを考えたら一番無難な贈り物だと思うぞ。この時期は綺麗なのが多いし花屋に選んでもらえ。」

「そうします。」

がっくりと肩を落とす冒険者を見送り、買い取った素材を箱に片づけ、別の素材をそっとカウンターに乗せる。

個人的にはこの花を渡してやってもよかったんだが、効果がなかった時のことを考えるとダメージがデカそうなのであえて何も言わなかった。

『アザレアの花。ダンジョンの奥に咲く薄ピンク色のその花にはわずかな媚薬成分が含まれており、好意のある相手が近くにいる時だけ成分が活発化する。アザレアは恋の花とも言われ、その花を見ることで恋の喜びが胸にあふれてくるとも言われている。最近の平均取引価格は銀貨21枚、最安値銀貨12枚、最高値銀貨39枚、最終取引日は本日と記録されています。』

ダンジョンで見つかる花の一種で、さっきも言ったように媚薬としての効果も持つ不思議な花。

ただし誰にでも効くわけではなく好意のある相手にのみ作用するので、使ったものの反応がないという事はそういう事だと現実を突きつけられる可能性も十分に含んでいる。

それを理解した上で相手が反応するのならばむしろこういう物を使わずに花の一つでも送ってやればいいのにと思ってしまう。

まぁ、俺も元の世界では誰かに花を贈るなんて言うキザなことをしたことは一度も無かったけどな。

「おや、アザレアですか。」

「お、知ってるのか?」

「ダンジョンの奥に自生する誘惑系の花ですね。魔物にも作用しますので目くらましに使えますよ。」

「これを魔物に?」

「この時期は発情期に入りますので、アザレアの花で無理矢理その気にさせている隙に逃げる事が出来ます。もっとも、人間を繁殖に使う魔物には逆効果ですのでご注意ください。」

それはそれで恐ろしい。

女性だけが狙われがちだが、案外人間なら何でもいいっていう魔物もいるので寄生系の魔物には注意しなければ。

まぁ、今回は魔物に使う予定はないのでその辺は大丈夫だけど。

「今回は人間用だから大丈夫だろう。」

「それは何より。因みにそのまま成分を抽出するよりも、コンヒュージュバタフライの鱗粉を混ぜるとより効果が高まりますよ。」

「え、そうなのか?」

「本来であれば好意を持つ相手にしか作用しませんが、鱗粉を混ぜるとその感覚をマヒさせられますので誰にでも効果が出てきます。ただし持続時間は短めですから目が覚めた後のことは何も言えません。」

それはそれで面白いかもしれないけど、後で責任取れとか言われたくないので今回は正攻法で行くとしよう。

早速錬金術ギルドに持ち込んで成分を抽出してもらい、それを10倍に薄めて花と同じ薄ピンク色のボトルに詰めていく。

担当してくれた錬金術師曰く10倍以上に薄めないと効果が強すぎて幻覚作用があるとのことだったのでこの辺はプロの助言にしっかりと従うつもりだ。

こっちとしては薄めれば薄めるほど数を作れるのでありがたい話、最終的に一株銀貨15枚のアザレアから50個の媚薬・・・いや、恋の薬を作る事が出来た。

後はこれをどうやって売っていくのか。

普通に売るのは流石にあれなので、出来ればこの前の煙草のようにこそっと販売できればそれはそれで面白いんだがなぁ。

「失礼、シロウ様はいらして?」

「イザベラがここに来るなんて珍しいな。」

「ウィフからこの果物を持って行くように言われましたの。もう元気になったのに気晴らししてこいだなんて・・・あら?それはなんですの?」

珍しく店にやってきたイザベラがオレンジっぽい何かがたくさん入った籠をカウンターの上に置く。

文句を言いながらもどこかまんざらでもない感じなのはいつものことだが、そんな目立つところに置いているわけではなかったのに素早く例の薬に気付くあたりは流石の嗅覚というところだろうか。

「アザレアの花を使った薬だ。まぁ、媚薬ってわけじゃないけど特定の相手にだけ反応するっていうやつだな。」

「面白そうですわね、これの売り先はもう決まってまして?」

「それはまだなんだが、大々的に売り出すのもあれな品だし本当に欲しい人にだけこそっと売れればそれで十分だ。」

「シロウ様にしては志が低いですわね。でもまぁ物が物だけに気持ちはわかりますけど、いくらで売るおつもりですの?」

「原価はまぁそれなりにするが、この本数だし一本銀貨2~3枚ぐらいが妥当だろ。」

「ダメダメですわね、この件私に任せてもらいますわよ。」

突然やって来たと思ったら、果物と引き換えに新しく作った媚薬をかっさらっていく人妻。

それがまた媚薬という時点で中々絵面的にあれなのだが、本人が俄然やる気なのでわざわざそれに水を差す必要はないだろう。

「ウィフさんも心配してくれているんだからほどほどにな。」

「それぐらいわかってますわ。それと、この果物ですけどまだまだ残っていて困ってますの。シロウ様ならいいようにしてくださいますわよね?」

「いきなり来てうちの商品を強引に持っていくのかと思ったらと思ったら今度は押し売りかよ。」

「こちらも高く売れますわよ?」

「じゃあなんで俺の所に持ってくるんだよ。」

「工夫すれば高く売れる物ですもの、手を加えるのはお好きでしょう?」

確かにそのまま転がすよりも何か手を加えてより高く売る方が好きではあるが、それを前提として押し売りしてくるのはどうかと思うぞ。

カウンターに置かれたワインのような深い紫色をした果物。

それを一つ手に取り、おもむろに取り出したナイフで真ん中からスパン!と切ってみる。

『ブラッディーラバー。オランジェの一種で血のように濃い色をした果肉が特徴。酸味は少なく見た目以上に甘みは濃いのだが、色合いからかあまり人気がない。戦闘後など気分が高揚しているときに摂取すると性欲を掻き立てる効果があり、別名血の媚薬とも呼ばれている。最近の平均取引価格は銅貨50枚、最安値銅貨33枚、最高値銀貨2枚、最終取引日は3日前と記録されています。』

果肉から滴る果汁はワインを超えて血液のように深い色をしており、見方によってはかなりグロテスクではある。

が、効果は中々のようで別名もまた恰好がいい。

しかし戦闘後にこれを飲んで性欲を掻き立てるとか中々にチャレンジャーだよな。

ムラムラしすぎて戦闘に集中できないとか流石に笑えはない話だぞ。

一応普通に食べる分には問題はなさそうなので基本はそっちをメインに販売する方が良いんだろうか。

でもなぁ、これだけインパクトのある素材だけにそのままってのも惜しい所だ。

気分が高揚しているときってのが中々抽象的なので、とりあえず成分を抽出して試しに使ってみるしかないか。

戦いなのか、喧嘩なのか、はたまたお酒を飲んだ時なのか。

どんな時に使えるのかのデータを取り、それなりに効果があるのであれば量産化も視野に入れよう。

淡い恋の媚薬が売れるのか、はたまた情欲に燃える血の媚薬が売れるのか。

っていうか時期的な物とは言えこういう物は多く持ち込まれているってぶっちゃけどうなんだ?

そんなにみんな媚薬使いたいのか?

疑問がたくさん出てくるけれどとりあえず目の前の問題から解決していこう。

今回作った恋の薬。

それがどのようにして販売されたのかは最後まで教えてくれなかったが、予定の三倍もある売上金と共にどや顔で俺を見るイザベラの姿に大成功に終わったことを教えられたのだった。
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