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62.そこにあるから山に登って
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「これは・・・中々に・・・きついな」
右を見ても左を見ても木と藪と緑ばかり。
コロニーではこれだけの色に覆われることが無いだけになんとも圧倒されてしまう。
さっきまで潮の香りだったのに気づけば緑の深い香りに支配され、酸素を求めて息を吸うたびに青々しい空気が灰を満たしていく。
山登り。
昔ホロムービーか何かのドキュメントを見たことがあったのだが、その時に一度はやってみたいと思っていた遊びの一つ。
それをかなえるべく意気揚々とマップを見ながら歩くこと一時間程、最初はなだらかだった山道もだんだんと急になり、少し上るだけで息が切れてしまう。
じゃあなぜそんな辛い思いをして山に登るかって?
そこに山があるからだ、とそのホロムービーでは言っていた。
正直よくわからんけど。
「大丈夫ですか、マスター」
「とりあえずは」
「もう少し言ったら開けた場所に出ますからそこで休憩しましょう」
「頑張ってください、トウマさん!」
疲労困憊の俺とは対照的に元気いっぱいのディジーとイブさん。
イブさんはまぁわかる、元々かなりの身体能力を持っているのでこの程度でくたびれることはないだろう。
だがディジーのどこにこんな体力があるんだろうか。
若いからという言葉で片づけることは簡単だけど、普段受付をしているという事は基本座りっぱなしで体を動かすことは少ないはず、にも関わらず昨日は海の中に潜り、今日は山の中を歩いているんだから体力お化けと言っても過言ではない。
因みにヒューマノイドであるアリスにも体力という概念はなく燃料が続く限り歩くことができる。
そしてその燃料が無くなるのは・・・最低でも数年後だ。
結局足を引っ張っているのは俺一人、疲れた体に鞭打ちながらなんとかイブさんの待つ広場へと到達することができた。
「あぁぁぁ、疲れた」
「お疲れ様です」
フラフラと近くの岩に座り込むとアリスが水筒を差し出してくれた。
優しいじゃないかと思うかもしれないが、これを用意してくれたのもオルフェさん、ほんと何から何までありがたいことだ。
「そんなにしんどいですか?」
「俺にはしんどいんだよ。まったく若いからって体力を見せつけやがって、後で覚えておけよ」
「もう忘れましたー」
「でもこのルートを選ばれたのはトウマさんですよね?」
「その通りです。折角歩くなら険しい方が良い、そういう事でいくつかあるルートの中でも二番目に厳しいものを選ばれていました」
「仕方ないだろ、本物の山なんだからどんな感じか知りたかったんだよ」
それに一応地質調査的なものをやるという事だったのでそれがし易そうなルートを選んだわけだが、アリスがそれをやっているところは見ていない。
フラフラの俺の介護をしていたからと言われたらそこまでなんだが、折角の機会だししっかり調べてもらわないと困る。
惑星の良し悪しなんて俺達には分からないからな、何がよくて何が悪いかしっかり見極めてもらわないと。
「んー、気持ちいい!」
「心なしか海よりも空気が美味しいような気がします」
「そうか?」
「お二人の感覚はあながち間違いではないかもしれません、酸素濃度は同じですが待機中の成分が若干違っています。おそらく植物による光合成と蒸散作用によるものかと。海辺はどうしても潮の香りが強いのでそれがないからかもしれませんね」
うーむ、そう終われたらなんとなくそんな気もするんだけど、具体的んと言われると返答に困る。
植物の若干爽やかな香りは感じるので、それが原因だと思うんだがなぁ。
酸素濃度が高いこともありすぐに息切れは回復、暇そうにしていたイブさんとディジーはその時間を使って興味深そうに木を眺めている。
「お待たせ、何かいるのか?」
「虫です」
「虫?」
「樹液の香りに誘われているようですね。見た目にも鮮やかですしコロニー内のあの黒いヤツとは大違いです」
コロニー内の黒いやつ、大昔から生存する虫の一種で宇宙空間にも適応するというなんともアグレッシブな存在。
こういうと非常にポジティブに聞こえるが、合成機に入り込んで中身を食い荒らしたり配線を噛みちぎってショートさせたりと見た目以上にやることもえげつない。
その進化速度と耐性獲得能力から製薬会社との戦いが日夜繰り広げられているが、一説によると殺虫剤の売上が下がると、改良型を製薬会社自らばら撒いているという話も聞く。
知らんけど。
そんな悍ましい対象と対照的にこちらはどれも美しく、甲虫でさえ鮮やかに輝いている。
昔コロニーに来ていた展示会で標本を見たことがあったが、世の中にはこんなに綺麗な生き物がいるのかと感動したものだ。
「これも高く売れそうだな」
「残念ながら生き物の持ち出しは禁止されています。まぁ隠して持ち出すことはできますがあまりお勧めしませんよ」
「なんでだ?」
「どの虫も捕食者がいない状況では繁殖力が凄すぎてあっという間に増えてしまうからです。ソルアレスが虫に支配されてよろしいのであればどうぞ」
「よし!さっさと山頂まで行こう!」
欲を出すと身を滅ぼすとはまさにこのことか、触らぬ神に祟りなしというから大人しくしておこう。
気合を入れ直して再び山道へ、途中休憩をはさみながらもなんとか山頂へと到着することができた。
眼下には自分達が泊まっているロッジの他、広大な海と鬱蒼と茂る森が広がっている。
コロニーは隙間が無いぐらいに建物で溢れているけれどこっちはこれでもかというぐらいに自然が溢れている。
どちらが良いかと聞かれるとなかなか難しいが・・・個人的にはもう少し建物が増えてほしいところだ。
「すごい、こんなに緑がたくさん」
「これだけの惑星をほぼほぼ手付かずで運営できるってのは素晴らしいな。アリス、しっかり調査しておいてくれよ」
「もちろんです・・・と言いたいところですが、正直参考にならないんですよねぇ」
「そうだと思った。実際その環境ってのは惑星によって千差万別だからここを調査したところで参考にならなさそうだ」
「可能な限り手を加えたくないのですが、ここのように手を入れなさすぎるのにも問題はありそうです」
「といいますと?」
「自然環境が豊富すぎると生態系の進化が進みすぎて思わぬ病気や生き物が生まれかねません。自然災害のリスクもありますし、こういった観光惑星にしないのであれば一定のテラフォーミングも考えていく方が良いでしょうね」
ここの売りは自然環境だから致し方ないけれど、自分たちが住むのであればある程度快適な環境にしておきたい。
その為には少々手を加えるのも必要だろうというのがアリスの考え、それを踏まえて今後の惑星探査に生かしてもらおう。
この環境は嫌いじゃない、嫌いじゃないけれど、一か月とか一年単位で過ごすとまた考えが変わってくるだろうなぁ。
「ただ、一つだけ言えるのは山の上は気持ちが良いってことだ」
「海よりもですか?」
「俺は山の方が良いなぁ、しんどいけど」
「私は海ですね~、水も気持ちいいし何より綺麗だし!」
「私もどちらかといえば海ですけど、鍛えるなら山です。毎日ここを登っているといい鍛錬になりそうですね」
「何かあった時に呼吸が出来ないのがどうもなぁ・・・」
「私も山ですね、少なくともショートする危険は少ないですので」
それぞれに思う所はあるけれど山登りは楽しいというのは共通の認識、達成感というか解放感というかコロニーでは味わえない感覚がなんとも言えない気持ちになる。
もし惑星を買うのならば山がある場所が良いなぁ、と思うのだった。
右を見ても左を見ても木と藪と緑ばかり。
コロニーではこれだけの色に覆われることが無いだけになんとも圧倒されてしまう。
さっきまで潮の香りだったのに気づけば緑の深い香りに支配され、酸素を求めて息を吸うたびに青々しい空気が灰を満たしていく。
山登り。
昔ホロムービーか何かのドキュメントを見たことがあったのだが、その時に一度はやってみたいと思っていた遊びの一つ。
それをかなえるべく意気揚々とマップを見ながら歩くこと一時間程、最初はなだらかだった山道もだんだんと急になり、少し上るだけで息が切れてしまう。
じゃあなぜそんな辛い思いをして山に登るかって?
そこに山があるからだ、とそのホロムービーでは言っていた。
正直よくわからんけど。
「大丈夫ですか、マスター」
「とりあえずは」
「もう少し言ったら開けた場所に出ますからそこで休憩しましょう」
「頑張ってください、トウマさん!」
疲労困憊の俺とは対照的に元気いっぱいのディジーとイブさん。
イブさんはまぁわかる、元々かなりの身体能力を持っているのでこの程度でくたびれることはないだろう。
だがディジーのどこにこんな体力があるんだろうか。
若いからという言葉で片づけることは簡単だけど、普段受付をしているという事は基本座りっぱなしで体を動かすことは少ないはず、にも関わらず昨日は海の中に潜り、今日は山の中を歩いているんだから体力お化けと言っても過言ではない。
因みにヒューマノイドであるアリスにも体力という概念はなく燃料が続く限り歩くことができる。
そしてその燃料が無くなるのは・・・最低でも数年後だ。
結局足を引っ張っているのは俺一人、疲れた体に鞭打ちながらなんとかイブさんの待つ広場へと到達することができた。
「あぁぁぁ、疲れた」
「お疲れ様です」
フラフラと近くの岩に座り込むとアリスが水筒を差し出してくれた。
優しいじゃないかと思うかもしれないが、これを用意してくれたのもオルフェさん、ほんと何から何までありがたいことだ。
「そんなにしんどいですか?」
「俺にはしんどいんだよ。まったく若いからって体力を見せつけやがって、後で覚えておけよ」
「もう忘れましたー」
「でもこのルートを選ばれたのはトウマさんですよね?」
「その通りです。折角歩くなら険しい方が良い、そういう事でいくつかあるルートの中でも二番目に厳しいものを選ばれていました」
「仕方ないだろ、本物の山なんだからどんな感じか知りたかったんだよ」
それに一応地質調査的なものをやるという事だったのでそれがし易そうなルートを選んだわけだが、アリスがそれをやっているところは見ていない。
フラフラの俺の介護をしていたからと言われたらそこまでなんだが、折角の機会だししっかり調べてもらわないと困る。
惑星の良し悪しなんて俺達には分からないからな、何がよくて何が悪いかしっかり見極めてもらわないと。
「んー、気持ちいい!」
「心なしか海よりも空気が美味しいような気がします」
「そうか?」
「お二人の感覚はあながち間違いではないかもしれません、酸素濃度は同じですが待機中の成分が若干違っています。おそらく植物による光合成と蒸散作用によるものかと。海辺はどうしても潮の香りが強いのでそれがないからかもしれませんね」
うーむ、そう終われたらなんとなくそんな気もするんだけど、具体的んと言われると返答に困る。
植物の若干爽やかな香りは感じるので、それが原因だと思うんだがなぁ。
酸素濃度が高いこともありすぐに息切れは回復、暇そうにしていたイブさんとディジーはその時間を使って興味深そうに木を眺めている。
「お待たせ、何かいるのか?」
「虫です」
「虫?」
「樹液の香りに誘われているようですね。見た目にも鮮やかですしコロニー内のあの黒いヤツとは大違いです」
コロニー内の黒いやつ、大昔から生存する虫の一種で宇宙空間にも適応するというなんともアグレッシブな存在。
こういうと非常にポジティブに聞こえるが、合成機に入り込んで中身を食い荒らしたり配線を噛みちぎってショートさせたりと見た目以上にやることもえげつない。
その進化速度と耐性獲得能力から製薬会社との戦いが日夜繰り広げられているが、一説によると殺虫剤の売上が下がると、改良型を製薬会社自らばら撒いているという話も聞く。
知らんけど。
そんな悍ましい対象と対照的にこちらはどれも美しく、甲虫でさえ鮮やかに輝いている。
昔コロニーに来ていた展示会で標本を見たことがあったが、世の中にはこんなに綺麗な生き物がいるのかと感動したものだ。
「これも高く売れそうだな」
「残念ながら生き物の持ち出しは禁止されています。まぁ隠して持ち出すことはできますがあまりお勧めしませんよ」
「なんでだ?」
「どの虫も捕食者がいない状況では繁殖力が凄すぎてあっという間に増えてしまうからです。ソルアレスが虫に支配されてよろしいのであればどうぞ」
「よし!さっさと山頂まで行こう!」
欲を出すと身を滅ぼすとはまさにこのことか、触らぬ神に祟りなしというから大人しくしておこう。
気合を入れ直して再び山道へ、途中休憩をはさみながらもなんとか山頂へと到着することができた。
眼下には自分達が泊まっているロッジの他、広大な海と鬱蒼と茂る森が広がっている。
コロニーは隙間が無いぐらいに建物で溢れているけれどこっちはこれでもかというぐらいに自然が溢れている。
どちらが良いかと聞かれるとなかなか難しいが・・・個人的にはもう少し建物が増えてほしいところだ。
「すごい、こんなに緑がたくさん」
「これだけの惑星をほぼほぼ手付かずで運営できるってのは素晴らしいな。アリス、しっかり調査しておいてくれよ」
「もちろんです・・・と言いたいところですが、正直参考にならないんですよねぇ」
「そうだと思った。実際その環境ってのは惑星によって千差万別だからここを調査したところで参考にならなさそうだ」
「可能な限り手を加えたくないのですが、ここのように手を入れなさすぎるのにも問題はありそうです」
「といいますと?」
「自然環境が豊富すぎると生態系の進化が進みすぎて思わぬ病気や生き物が生まれかねません。自然災害のリスクもありますし、こういった観光惑星にしないのであれば一定のテラフォーミングも考えていく方が良いでしょうね」
ここの売りは自然環境だから致し方ないけれど、自分たちが住むのであればある程度快適な環境にしておきたい。
その為には少々手を加えるのも必要だろうというのがアリスの考え、それを踏まえて今後の惑星探査に生かしてもらおう。
この環境は嫌いじゃない、嫌いじゃないけれど、一か月とか一年単位で過ごすとまた考えが変わってくるだろうなぁ。
「ただ、一つだけ言えるのは山の上は気持ちが良いってことだ」
「海よりもですか?」
「俺は山の方が良いなぁ、しんどいけど」
「私は海ですね~、水も気持ちいいし何より綺麗だし!」
「私もどちらかといえば海ですけど、鍛えるなら山です。毎日ここを登っているといい鍛錬になりそうですね」
「何かあった時に呼吸が出来ないのがどうもなぁ・・・」
「私も山ですね、少なくともショートする危険は少ないですので」
それぞれに思う所はあるけれど山登りは楽しいというのは共通の認識、達成感というか解放感というかコロニーでは味わえない感覚がなんとも言えない気持ちになる。
もし惑星を買うのならば山がある場所が良いなぁ、と思うのだった。
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