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回想編
10 夢
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10 夢
エルフィールは、背後に隠れている蒼い毛の子にも話しかけてみる。
エルフィール:
「だ、大丈夫? 怖かったね?」
蒼い毛の子はエルフィールの足元で小さくなっているだけで、まともに聞いていない様子。
紅い毛の子は相変わらずマイペースに佇んでいる。
うーん、やっぱり蒼い毛の子も言葉が通じないみたいだ。
と諦め、ひとまず開かない扉をもう一度調べてみる。
やはりびくともしない。動くイメージが沸かない。
エルフィールが扉の文字や宝石を観察していると、ふと背後の気配がないことに気づく。
あれ?
振り返ると、さっきまで足元にいたはずの蒼い毛の子の姿がない!
紅い毛の子はいるが、蒼い毛の子だけがいない。
エルフィール:
「えっ!? うそ、どこ行ったの!? まさか一人で通路に…!?」
危ないかもしれない!と慌てて部屋を飛び出し、通路へ。
紅い毛の子もその後ろをてちてちとついてくる。
エルフィールは通路を走り、曲がり角を急いで曲がる。
エルフィール:
「どこ行ったのー!」
曲がった先、少し開けた通路の真ん中で、エルフィールは目を疑う光景を目の当たりにする。
蒼い毛の子が、2体のニョロニョロの触手を、まるで邪魔な小枝でも払うかのように、
一瞬で引きちぎり、本体を爪でズタズタに切り裂いていたのだ!
ニョロニョロは抵抗する間もなく、白い粘液を撒き散らして崩れ落ちていく。
その速さと威力は、エルフィールが苦戦したのが嘘のように圧倒的だった。
エルフィールはその場に立ち尽くし、呆然と蒼い毛の子の戦闘を見つめる。
…………
「大丈夫だった?」なんて言葉は、喉まで出かかったが、引っ込んだ。代わりに、
ぞくり、と背筋に冷たいものが走るのを感じる。
こ、怖い……。
今まで感じていた親近感や庇護欲とは違う、理解を超えた存在に対する畏怖。
私が守っている気になっていたけど、紅い毛の子も同じ位強いのだろうか?
さっき凄い力で蒼い子を殴ってたし、蒼い子より強いのかも?
振り返ると、紅い毛の子がじっと此方を見ていた。
蒼い毛の子は、ローパーの残骸には目もくれず、何事もなかったかのように、
さらに通路の奥へと、ガウガウ言いながら歩き出す。
エルフィールは、かける言葉が見つからず、ただ黙って、少し距離を置いて蒼い毛の子の後をついていく。
紅い毛の子はリンゴをシャクリと齧りながら、エルフィールたちの後をのんびりついてきていた。
一行はT字路に到達。ガウは迷わず直進する。エルフィールも黙ってそれに従う。
落下してきた穴の横を通り過ぎ、その先に進むと、なんと上に続く階段がみえてきた。
エルフィールは急いで駆け寄って絶望してしまう。
階段は途中から天井や壁が崩落した瓦礫で完全に埋まっており、
上へ進むことは不可能だと一目でわかってしまった。
入口がこんなだから誰にも見つからなかったのだと悟った。
蒼い毛の子は崩れた階段には目もくれず、さらに奥の通路へと進む。
エルフィールと紅い毛の子も後を追う。
通路を抜けると、そこは驚くほど広い空間だった。
壁際には、木製のベッドが20台以上ずらりと並べられている。埃っぽい匂いがする。
なんだ? ここ…寝るとこ…?
と、予想外の光景に少し戸惑う。
蒼い毛の子は、一番手前にあったベッドにひょいと飛び乗り、くるんと丸まって、すぐにすーすーと寝息を立て始めた。
エルフィールは、寝てしまった蒼い毛の子を呆然と見つめた後、気を取り直して広い休憩所をぐるりと見回す。他の通路や扉がないか、壁際を念入りに調べる。
しかし、どこにも出口らしきものは見当たらない。完全に袋小路のようだ。
ここも行き止まりか…
すやすや眠る蒼い毛の子と、隣でリンゴを齧っている紅い毛の子を交互に見る。
出口が無い。
いや出口らしき場所がふさがっている。そして 奥に続いてそうな扉は開かない。
そして謎の2人の獣人の子。子供かどうかは分からないのだが。
私は2人に心の中で呼ぶ名前を付けた。
クゥと鳴く子がクゥ、ガゥと鳴く子がガゥである。
そのままだが仮の名であれば十分だろう。
んーん、どうしようね。
そう思ってベッドに腰掛けると クゥが寄ってきてくれた。
かわいい。
右手に食べかけのリンゴ、左手にもう一つリンゴを持っている。
無言で手を出してみた。
クゥは私の手を見て、それから自分の右手と左手を交互に見て、
右手に持っているリンゴを私に渡してくれた。
食べかけだ―!心の中でそう叫ぶ、まさかくれるとは思わなかった。
嬉しいかも。
小さくて綺麗な歯形が付いたリンゴを見ながら、結局このリンゴは何なのだろうかと思う。
エルフィール:
「リンゴの木なかったね」
返事は無く、少し小首をかしげて新しいリンゴにかぶりつくだけだった。
扉の向こうにはリンゴの木があるのだろうか?
この子達は何なんだろうか?
ダンジョンモンスターなのかな?
モンスターがすべて人を襲うと言う事はない。
それは村に行商に来る亀屋さんも大きい亀のモンスターに乗ってるし、
大きいモンスターが工事している光景もみたことがある。
この子達も人間を襲わないモンスターなのだろうか?
クゥの歯形が付いたリンゴを一口齧る。
ん!やっぱり美味しい…!なんか、ちょっと元気出たかも!
結局、この子たちの親御さんらしき人は見つからなかったし、道も全部行き止まりだった。
仕方ない、他に調べる場所も無くなっちゃったし、もう一度宝箱を見てみようか。
誰もいないみたいだし、仕方ないよね? 緊急時なんだから、
何か使えるものがあるかもしれないし。
持ち主さん、ちょっとだけごめんなさい!
エルフィールはクゥに「行こ」と声をかけ、宝箱のある部屋へと引き返す。
宝箱の部屋に戻ると、念のためもう一度部屋に誰もいないことを確認してから、
宝箱に近づく。
エルフィール:
「さてと…何が入ってるかな…」
蓋を開ける。中身は前回見た時と変わっていない。
一番上に革の胸当て、その下に突光石、さらにその下に大きな革袋があり、
底にはリンゴが二つ。
エルフィールは革袋を取り出し、中身を床に広げてみる。
エルフィール:
「あ!ロープだ!」
中には、丈夫そうなロープ、薄手の毛布、革手袋、手のひらサイズの金属製の炉、
そして小さな作業用ナイフが入っていた。
エルフィール:
「ロープ! やった!」
これならいけるかも?
ロープと作業用ナイフ、革手袋以外は宝箱に戻すと。
ロープを手に取り、意気揚々と落下してきた穴のある場所へ向かう。
クゥも後ろからついてくる。
穴の下まで来ると、上を見上げる。
あの木の根っこに、このロープを引っ掛けられれば…!
ロープの先端に作業用ナイフを結びつけ、重りにしてブンブンと振り回し、
穴の奥めがけて投げ入れる。
しかし、容易ではない。
距離がありすぎて届かない、あるいは変な方向に飛んでしまう、
穴の中に入っても、なかなか引っかからない。
エルフィール:
「うーん、難しい…! もっと高いところから投げないとダメかな…」
エルフィールは休憩所まで戻り、えっちらおっちらとベッドを一つ引きずってくる。
さらに、もう一台引きずってきて、それを重ねる。
その上に休憩所の椅子を乗せて、即席の足場を作る。
エルフィール:
「よっ、と…! これでどうだ!」
不安定な足場の上によじ登り、バランスを取りながら、再びロープを投げる!
何度も何度もチャレンジするが、なかなか狙った木の根に引っかからない。
足場が不安定なせいで結構な体力を使う。
エルフィール:
「はぁ、はぁ…くっそー! あともうちょっと…!」
エルフィールがロープをブンブンと回しながら狙いを定めていると、
不意に何かがロープに当たる。
びっくりして振り返ると、ガゥがロープをがっちり抑えていた。
エルフィール:
「わっ! ガウ!? 何やってるの危ないよ!ナイフがついてるんだよ!?」
怪我は無いようだったが、いきなり近くに来られて声を上げてしまった。
驚くエルフィールを尻目に、ガウはロープの先のナイフを口に咥える。
そして、信じられないような跳躍力で、壁を蹴るようにして、
一気に穴の中へと駆け上がっていく! まるで重力を無視しているかのような動きだ!
エルフィール:
「えええぇぇぇぇ!?」
ガウはあっという間に穴の中へと姿を消した。
エルフィールは呆然とその様子を見上げている。
しばらくすると、泥の塊が滑り降りてきた。そして、エルフィールの隣にちょこんと座る。
エルフィール:
「……えっと…?」
何が起こったのかよく分からないまま、ロープの端を引っ張ってみる。
すると、ロープはびくともしない。しっかりと固定されているようだ。
エルフィール:
「…! やった! 引っかかってる! ガゥ、すごい! ありがとう!」
興奮気味にガゥにお礼を言うと、ガウガウ言いながら、変な動きをしていた。
エルフィールは革手袋をはめ、ロープをしっかりと掴む。
よし、登るぞ!
壁を足場にしながら、ロープを頼りに、必死に穴を登っていく。
途中、何度も土が崩れて滑りそうになる。
ようやく穴の上に到達! 体中土まみれになりながらも、見慣れた工房の床に転がり込む。
エルフィール:
「はぁ…はぁ…つ、着いた…! 助かった…!」
つ、疲れた。
息を切らしながら見ると、ロープは工房の太い柱に、
しっかりと何重にも巻き付けられて固定されていた。
工房の床に転がり込んだエルフィールは、荒い息をつきながら、泥と汗と、そして安堵感にまみれていた。かろうじて近くのソファまで這っていき、そこに倒れ込むと、まるで糸が切れたかのように、深い眠りに落ちていった……。
エルフィール:
「……ん?……夢か……」
寝てしまっていた。
半年前、この子達と出会った時の夢だ。
あの後から、ここには、ほぼ毎日来ているのに、結局誰も来なかった。
結局、宝箱は持ち主も居ないようだったので中身は全部頂くことにした。
すっかり冷めた、どんぐりコーヒーを飲み干すと、カップを泉ですすいで、
ついでに顔を洗う。本当はこのまま寝てしまいたいところだが、
明日はルルちゃんが帰ってくるので。村に戻って部屋を掃除しなくてはならない。
暗くなる前に帰らなくては。
火が消えてる事を確認して、帰り支度をしながら二人を見ると、ガゥは丸まって、
クゥはお腹を出して大の字で寝ている。クゥのお腹に毛布を掛けて、
軽く2人を撫でると立ち上がった。
エルフィール:
「おやすみ」
工房に上がると燻製が出来上がっていたので、それを取り込んで工房を後にした。
2人に出会ってから毎日が楽しい。
あの子たちと、ずっと一緒にいられたらいいのに…
夕暮れの帰り道、広い世界を一緒に旅する光景を思い描く。
ルルちゃんならきっと力になってくれるはずだ。
早く会いたいな。
幼馴染の顔を思い浮かべながら家路についた。
エルフィールは、背後に隠れている蒼い毛の子にも話しかけてみる。
エルフィール:
「だ、大丈夫? 怖かったね?」
蒼い毛の子はエルフィールの足元で小さくなっているだけで、まともに聞いていない様子。
紅い毛の子は相変わらずマイペースに佇んでいる。
うーん、やっぱり蒼い毛の子も言葉が通じないみたいだ。
と諦め、ひとまず開かない扉をもう一度調べてみる。
やはりびくともしない。動くイメージが沸かない。
エルフィールが扉の文字や宝石を観察していると、ふと背後の気配がないことに気づく。
あれ?
振り返ると、さっきまで足元にいたはずの蒼い毛の子の姿がない!
紅い毛の子はいるが、蒼い毛の子だけがいない。
エルフィール:
「えっ!? うそ、どこ行ったの!? まさか一人で通路に…!?」
危ないかもしれない!と慌てて部屋を飛び出し、通路へ。
紅い毛の子もその後ろをてちてちとついてくる。
エルフィールは通路を走り、曲がり角を急いで曲がる。
エルフィール:
「どこ行ったのー!」
曲がった先、少し開けた通路の真ん中で、エルフィールは目を疑う光景を目の当たりにする。
蒼い毛の子が、2体のニョロニョロの触手を、まるで邪魔な小枝でも払うかのように、
一瞬で引きちぎり、本体を爪でズタズタに切り裂いていたのだ!
ニョロニョロは抵抗する間もなく、白い粘液を撒き散らして崩れ落ちていく。
その速さと威力は、エルフィールが苦戦したのが嘘のように圧倒的だった。
エルフィールはその場に立ち尽くし、呆然と蒼い毛の子の戦闘を見つめる。
…………
「大丈夫だった?」なんて言葉は、喉まで出かかったが、引っ込んだ。代わりに、
ぞくり、と背筋に冷たいものが走るのを感じる。
こ、怖い……。
今まで感じていた親近感や庇護欲とは違う、理解を超えた存在に対する畏怖。
私が守っている気になっていたけど、紅い毛の子も同じ位強いのだろうか?
さっき凄い力で蒼い子を殴ってたし、蒼い子より強いのかも?
振り返ると、紅い毛の子がじっと此方を見ていた。
蒼い毛の子は、ローパーの残骸には目もくれず、何事もなかったかのように、
さらに通路の奥へと、ガウガウ言いながら歩き出す。
エルフィールは、かける言葉が見つからず、ただ黙って、少し距離を置いて蒼い毛の子の後をついていく。
紅い毛の子はリンゴをシャクリと齧りながら、エルフィールたちの後をのんびりついてきていた。
一行はT字路に到達。ガウは迷わず直進する。エルフィールも黙ってそれに従う。
落下してきた穴の横を通り過ぎ、その先に進むと、なんと上に続く階段がみえてきた。
エルフィールは急いで駆け寄って絶望してしまう。
階段は途中から天井や壁が崩落した瓦礫で完全に埋まっており、
上へ進むことは不可能だと一目でわかってしまった。
入口がこんなだから誰にも見つからなかったのだと悟った。
蒼い毛の子は崩れた階段には目もくれず、さらに奥の通路へと進む。
エルフィールと紅い毛の子も後を追う。
通路を抜けると、そこは驚くほど広い空間だった。
壁際には、木製のベッドが20台以上ずらりと並べられている。埃っぽい匂いがする。
なんだ? ここ…寝るとこ…?
と、予想外の光景に少し戸惑う。
蒼い毛の子は、一番手前にあったベッドにひょいと飛び乗り、くるんと丸まって、すぐにすーすーと寝息を立て始めた。
エルフィールは、寝てしまった蒼い毛の子を呆然と見つめた後、気を取り直して広い休憩所をぐるりと見回す。他の通路や扉がないか、壁際を念入りに調べる。
しかし、どこにも出口らしきものは見当たらない。完全に袋小路のようだ。
ここも行き止まりか…
すやすや眠る蒼い毛の子と、隣でリンゴを齧っている紅い毛の子を交互に見る。
出口が無い。
いや出口らしき場所がふさがっている。そして 奥に続いてそうな扉は開かない。
そして謎の2人の獣人の子。子供かどうかは分からないのだが。
私は2人に心の中で呼ぶ名前を付けた。
クゥと鳴く子がクゥ、ガゥと鳴く子がガゥである。
そのままだが仮の名であれば十分だろう。
んーん、どうしようね。
そう思ってベッドに腰掛けると クゥが寄ってきてくれた。
かわいい。
右手に食べかけのリンゴ、左手にもう一つリンゴを持っている。
無言で手を出してみた。
クゥは私の手を見て、それから自分の右手と左手を交互に見て、
右手に持っているリンゴを私に渡してくれた。
食べかけだ―!心の中でそう叫ぶ、まさかくれるとは思わなかった。
嬉しいかも。
小さくて綺麗な歯形が付いたリンゴを見ながら、結局このリンゴは何なのだろうかと思う。
エルフィール:
「リンゴの木なかったね」
返事は無く、少し小首をかしげて新しいリンゴにかぶりつくだけだった。
扉の向こうにはリンゴの木があるのだろうか?
この子達は何なんだろうか?
ダンジョンモンスターなのかな?
モンスターがすべて人を襲うと言う事はない。
それは村に行商に来る亀屋さんも大きい亀のモンスターに乗ってるし、
大きいモンスターが工事している光景もみたことがある。
この子達も人間を襲わないモンスターなのだろうか?
クゥの歯形が付いたリンゴを一口齧る。
ん!やっぱり美味しい…!なんか、ちょっと元気出たかも!
結局、この子たちの親御さんらしき人は見つからなかったし、道も全部行き止まりだった。
仕方ない、他に調べる場所も無くなっちゃったし、もう一度宝箱を見てみようか。
誰もいないみたいだし、仕方ないよね? 緊急時なんだから、
何か使えるものがあるかもしれないし。
持ち主さん、ちょっとだけごめんなさい!
エルフィールはクゥに「行こ」と声をかけ、宝箱のある部屋へと引き返す。
宝箱の部屋に戻ると、念のためもう一度部屋に誰もいないことを確認してから、
宝箱に近づく。
エルフィール:
「さてと…何が入ってるかな…」
蓋を開ける。中身は前回見た時と変わっていない。
一番上に革の胸当て、その下に突光石、さらにその下に大きな革袋があり、
底にはリンゴが二つ。
エルフィールは革袋を取り出し、中身を床に広げてみる。
エルフィール:
「あ!ロープだ!」
中には、丈夫そうなロープ、薄手の毛布、革手袋、手のひらサイズの金属製の炉、
そして小さな作業用ナイフが入っていた。
エルフィール:
「ロープ! やった!」
これならいけるかも?
ロープと作業用ナイフ、革手袋以外は宝箱に戻すと。
ロープを手に取り、意気揚々と落下してきた穴のある場所へ向かう。
クゥも後ろからついてくる。
穴の下まで来ると、上を見上げる。
あの木の根っこに、このロープを引っ掛けられれば…!
ロープの先端に作業用ナイフを結びつけ、重りにしてブンブンと振り回し、
穴の奥めがけて投げ入れる。
しかし、容易ではない。
距離がありすぎて届かない、あるいは変な方向に飛んでしまう、
穴の中に入っても、なかなか引っかからない。
エルフィール:
「うーん、難しい…! もっと高いところから投げないとダメかな…」
エルフィールは休憩所まで戻り、えっちらおっちらとベッドを一つ引きずってくる。
さらに、もう一台引きずってきて、それを重ねる。
その上に休憩所の椅子を乗せて、即席の足場を作る。
エルフィール:
「よっ、と…! これでどうだ!」
不安定な足場の上によじ登り、バランスを取りながら、再びロープを投げる!
何度も何度もチャレンジするが、なかなか狙った木の根に引っかからない。
足場が不安定なせいで結構な体力を使う。
エルフィール:
「はぁ、はぁ…くっそー! あともうちょっと…!」
エルフィールがロープをブンブンと回しながら狙いを定めていると、
不意に何かがロープに当たる。
びっくりして振り返ると、ガゥがロープをがっちり抑えていた。
エルフィール:
「わっ! ガウ!? 何やってるの危ないよ!ナイフがついてるんだよ!?」
怪我は無いようだったが、いきなり近くに来られて声を上げてしまった。
驚くエルフィールを尻目に、ガウはロープの先のナイフを口に咥える。
そして、信じられないような跳躍力で、壁を蹴るようにして、
一気に穴の中へと駆け上がっていく! まるで重力を無視しているかのような動きだ!
エルフィール:
「えええぇぇぇぇ!?」
ガウはあっという間に穴の中へと姿を消した。
エルフィールは呆然とその様子を見上げている。
しばらくすると、泥の塊が滑り降りてきた。そして、エルフィールの隣にちょこんと座る。
エルフィール:
「……えっと…?」
何が起こったのかよく分からないまま、ロープの端を引っ張ってみる。
すると、ロープはびくともしない。しっかりと固定されているようだ。
エルフィール:
「…! やった! 引っかかってる! ガゥ、すごい! ありがとう!」
興奮気味にガゥにお礼を言うと、ガウガウ言いながら、変な動きをしていた。
エルフィールは革手袋をはめ、ロープをしっかりと掴む。
よし、登るぞ!
壁を足場にしながら、ロープを頼りに、必死に穴を登っていく。
途中、何度も土が崩れて滑りそうになる。
ようやく穴の上に到達! 体中土まみれになりながらも、見慣れた工房の床に転がり込む。
エルフィール:
「はぁ…はぁ…つ、着いた…! 助かった…!」
つ、疲れた。
息を切らしながら見ると、ロープは工房の太い柱に、
しっかりと何重にも巻き付けられて固定されていた。
工房の床に転がり込んだエルフィールは、荒い息をつきながら、泥と汗と、そして安堵感にまみれていた。かろうじて近くのソファまで這っていき、そこに倒れ込むと、まるで糸が切れたかのように、深い眠りに落ちていった……。
エルフィール:
「……ん?……夢か……」
寝てしまっていた。
半年前、この子達と出会った時の夢だ。
あの後から、ここには、ほぼ毎日来ているのに、結局誰も来なかった。
結局、宝箱は持ち主も居ないようだったので中身は全部頂くことにした。
すっかり冷めた、どんぐりコーヒーを飲み干すと、カップを泉ですすいで、
ついでに顔を洗う。本当はこのまま寝てしまいたいところだが、
明日はルルちゃんが帰ってくるので。村に戻って部屋を掃除しなくてはならない。
暗くなる前に帰らなくては。
火が消えてる事を確認して、帰り支度をしながら二人を見ると、ガゥは丸まって、
クゥはお腹を出して大の字で寝ている。クゥのお腹に毛布を掛けて、
軽く2人を撫でると立ち上がった。
エルフィール:
「おやすみ」
工房に上がると燻製が出来上がっていたので、それを取り込んで工房を後にした。
2人に出会ってから毎日が楽しい。
あの子たちと、ずっと一緒にいられたらいいのに…
夕暮れの帰り道、広い世界を一緒に旅する光景を思い描く。
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