スライム退治は全裸にかぎる

なまり

文字の大きさ
10 / 36
回想編

10 夢

しおりを挟む
10 夢


エルフィールは、背後に隠れている蒼い毛の子にも話しかけてみる。

エルフィール:
「だ、大丈夫? 怖かったね?」

蒼い毛の子はエルフィールの足元で小さくなっているだけで、まともに聞いていない様子。
紅い毛の子は相変わらずマイペースに佇んでいる。

うーん、やっぱり蒼い毛の子も言葉が通じないみたいだ。
と諦め、ひとまず開かない扉をもう一度調べてみる。
やはりびくともしない。動くイメージが沸かない。

エルフィールが扉の文字や宝石を観察していると、ふと背後の気配がないことに気づく。
あれ?
振り返ると、さっきまで足元にいたはずの蒼い毛の子の姿がない!
 紅い毛の子はいるが、蒼い毛の子だけがいない。

エルフィール:
「えっ!? うそ、どこ行ったの!? まさか一人で通路に…!?」

危ないかもしれない!と慌てて部屋を飛び出し、通路へ。
紅い毛の子もその後ろをてちてちとついてくる。

エルフィールは通路を走り、曲がり角を急いで曲がる。

エルフィール:
「どこ行ったのー!」

曲がった先、少し開けた通路の真ん中で、エルフィールは目を疑う光景を目の当たりにする。
蒼い毛の子が、2体のニョロニョロの触手を、まるで邪魔な小枝でも払うかのように、
一瞬で引きちぎり、本体を爪でズタズタに切り裂いていたのだ! 
ニョロニョロは抵抗する間もなく、白い粘液を撒き散らして崩れ落ちていく。
その速さと威力は、エルフィールが苦戦したのが嘘のように圧倒的だった。


エルフィールはその場に立ち尽くし、呆然と蒼い毛の子の戦闘を見つめる。

…………

「大丈夫だった?」なんて言葉は、喉まで出かかったが、引っ込んだ。代わりに、
ぞくり、と背筋に冷たいものが走るのを感じる。
こ、怖い……。
今まで感じていた親近感や庇護欲とは違う、理解を超えた存在に対する畏怖。

私が守っている気になっていたけど、紅い毛の子も同じ位強いのだろうか?
さっき凄い力で蒼い子を殴ってたし、蒼い子より強いのかも?
振り返ると、紅い毛の子がじっと此方を見ていた。

蒼い毛の子は、ローパーの残骸には目もくれず、何事もなかったかのように、
さらに通路の奥へと、ガウガウ言いながら歩き出す。
エルフィールは、かける言葉が見つからず、ただ黙って、少し距離を置いて蒼い毛の子の後をついていく。
紅い毛の子はリンゴをシャクリと齧りながら、エルフィールたちの後をのんびりついてきていた。

一行はT字路に到達。ガウは迷わず直進する。エルフィールも黙ってそれに従う。

落下してきた穴の横を通り過ぎ、その先に進むと、なんと上に続く階段がみえてきた。
エルフィールは急いで駆け寄って絶望してしまう。
階段は途中から天井や壁が崩落した瓦礫で完全に埋まっており、
上へ進むことは不可能だと一目でわかってしまった。

入口がこんなだから誰にも見つからなかったのだと悟った。

蒼い毛の子は崩れた階段には目もくれず、さらに奥の通路へと進む。
エルフィールと紅い毛の子も後を追う。
通路を抜けると、そこは驚くほど広い空間だった。
壁際には、木製のベッドが20台以上ずらりと並べられている。埃っぽい匂いがする。
なんだ? ここ…寝るとこ…?
と、予想外の光景に少し戸惑う。

蒼い毛の子は、一番手前にあったベッドにひょいと飛び乗り、くるんと丸まって、すぐにすーすーと寝息を立て始めた。


エルフィールは、寝てしまった蒼い毛の子を呆然と見つめた後、気を取り直して広い休憩所をぐるりと見回す。他の通路や扉がないか、壁際を念入りに調べる。
しかし、どこにも出口らしきものは見当たらない。完全に袋小路のようだ。
ここも行き止まりか…

すやすや眠る蒼い毛の子と、隣でリンゴを齧っている紅い毛の子を交互に見る。

出口が無い。
いや出口らしき場所がふさがっている。そして 奥に続いてそうな扉は開かない。
そして謎の2人の獣人の子。子供かどうかは分からないのだが。
私は2人に心の中で呼ぶ名前を付けた。
クゥと鳴く子がクゥ、ガゥと鳴く子がガゥである。
そのままだが仮の名であれば十分だろう。

 んーん、どうしようね。
そう思ってベッドに腰掛けると クゥが寄ってきてくれた。
かわいい。
右手に食べかけのリンゴ、左手にもう一つリンゴを持っている。
無言で手を出してみた。

クゥは私の手を見て、それから自分の右手と左手を交互に見て、
右手に持っているリンゴを私に渡してくれた。
食べかけだ―!心の中でそう叫ぶ、まさかくれるとは思わなかった。
嬉しいかも。
小さくて綺麗な歯形が付いたリンゴを見ながら、結局このリンゴは何なのだろうかと思う。

エルフィール:
「リンゴの木なかったね」

  返事は無く、少し小首をかしげて新しいリンゴにかぶりつくだけだった。

扉の向こうにはリンゴの木があるのだろうか?
この子達は何なんだろうか?
ダンジョンモンスターなのかな?
モンスターがすべて人を襲うと言う事はない。
それは村に行商に来る亀屋さんも大きい亀のモンスターに乗ってるし、
大きいモンスターが工事している光景もみたことがある。
この子達も人間を襲わないモンスターなのだろうか?


クゥの歯形が付いたリンゴを一口齧る。

ん!やっぱり美味しい…!なんか、ちょっと元気出たかも!

結局、この子たちの親御さんらしき人は見つからなかったし、道も全部行き止まりだった。
仕方ない、他に調べる場所も無くなっちゃったし、もう一度宝箱を見てみようか。
誰もいないみたいだし、仕方ないよね? 緊急時なんだから、
何か使えるものがあるかもしれないし。
持ち主さん、ちょっとだけごめんなさい!

エルフィールはクゥに「行こ」と声をかけ、宝箱のある部屋へと引き返す。


宝箱の部屋に戻ると、念のためもう一度部屋に誰もいないことを確認してから、
宝箱に近づく。

エルフィール:
「さてと…何が入ってるかな…」

蓋を開ける。中身は前回見た時と変わっていない。
一番上に革の胸当て、その下に突光石、さらにその下に大きな革袋があり、
底にはリンゴが二つ。

エルフィールは革袋を取り出し、中身を床に広げてみる。

エルフィール:
「あ!ロープだ!」

  中には、丈夫そうなロープ、薄手の毛布、革手袋、手のひらサイズの金属製の炉、
そして小さな作業用ナイフが入っていた。

エルフィール:
「ロープ! やった!」

  これならいけるかも?

ロープと作業用ナイフ、革手袋以外は宝箱に戻すと。
ロープを手に取り、意気揚々と落下してきた穴のある場所へ向かう。
クゥも後ろからついてくる。

穴の下まで来ると、上を見上げる。
あの木の根っこに、このロープを引っ掛けられれば…!
ロープの先端に作業用ナイフを結びつけ、重りにしてブンブンと振り回し、
穴の奥めがけて投げ入れる。

しかし、容易ではない。
距離がありすぎて届かない、あるいは変な方向に飛んでしまう、
穴の中に入っても、なかなか引っかからない。

エルフィール:
「うーん、難しい…! もっと高いところから投げないとダメかな…」

  エルフィールは休憩所まで戻り、えっちらおっちらとベッドを一つ引きずってくる。
さらに、もう一台引きずってきて、それを重ねる。
その上に休憩所の椅子を乗せて、即席の足場を作る。

エルフィール:
「よっ、と…! これでどうだ!」

不安定な足場の上によじ登り、バランスを取りながら、再びロープを投げる!
何度も何度もチャレンジするが、なかなか狙った木の根に引っかからない。
足場が不安定なせいで結構な体力を使う。

エルフィール:
「はぁ、はぁ…くっそー! あともうちょっと…!」

  エルフィールがロープをブンブンと回しながら狙いを定めていると、
不意に何かがロープに当たる。
びっくりして振り返ると、ガゥがロープをがっちり抑えていた。

エルフィール:
「わっ! ガウ!? 何やってるの危ないよ!ナイフがついてるんだよ!?」

  怪我は無いようだったが、いきなり近くに来られて声を上げてしまった。
驚くエルフィールを尻目に、ガウはロープの先のナイフを口に咥える。
そして、信じられないような跳躍力で、壁を蹴るようにして、
一気に穴の中へと駆け上がっていく! まるで重力を無視しているかのような動きだ!

エルフィール:
「えええぇぇぇぇ!?」

ガウはあっという間に穴の中へと姿を消した。
エルフィールは呆然とその様子を見上げている。

しばらくすると、泥の塊が滑り降りてきた。そして、エルフィールの隣にちょこんと座る。

エルフィール:
「……えっと…?」

  何が起こったのかよく分からないまま、ロープの端を引っ張ってみる。
すると、ロープはびくともしない。しっかりと固定されているようだ。

エルフィール:
「…! やった! 引っかかってる! ガゥ、すごい! ありがとう!」

  興奮気味にガゥにお礼を言うと、ガウガウ言いながら、変な動きをしていた。

エルフィールは革手袋をはめ、ロープをしっかりと掴む。

よし、登るぞ!

壁を足場にしながら、ロープを頼りに、必死に穴を登っていく。
途中、何度も土が崩れて滑りそうになる。
ようやく穴の上に到達! 体中土まみれになりながらも、見慣れた工房の床に転がり込む。

エルフィール:
「はぁ…はぁ…つ、着いた…! 助かった…!」

  つ、疲れた。
息を切らしながら見ると、ロープは工房の太い柱に、
しっかりと何重にも巻き付けられて固定されていた。


工房の床に転がり込んだエルフィールは、荒い息をつきながら、泥と汗と、そして安堵感にまみれていた。かろうじて近くのソファまで這っていき、そこに倒れ込むと、まるで糸が切れたかのように、深い眠りに落ちていった……。



エルフィール:
「……ん?……夢か……」

寝てしまっていた。
半年前、この子達と出会った時の夢だ。
あの後から、ここには、ほぼ毎日来ているのに、結局誰も来なかった。
結局、宝箱は持ち主も居ないようだったので中身は全部頂くことにした。


すっかり冷めた、どんぐりコーヒーを飲み干すと、カップを泉ですすいで、
ついでに顔を洗う。本当はこのまま寝てしまいたいところだが、
明日はルルちゃんが帰ってくるので。村に戻って部屋を掃除しなくてはならない。
暗くなる前に帰らなくては。

火が消えてる事を確認して、帰り支度をしながら二人を見ると、ガゥは丸まって、
クゥはお腹を出して大の字で寝ている。クゥのお腹に毛布を掛けて、
軽く2人を撫でると立ち上がった。

エルフィール:
「おやすみ」

  工房に上がると燻製が出来上がっていたので、それを取り込んで工房を後にした。

2人に出会ってから毎日が楽しい。
あの子たちと、ずっと一緒にいられたらいいのに…
夕暮れの帰り道、広い世界を一緒に旅する光景を思い描く。

ルルちゃんならきっと力になってくれるはずだ。
早く会いたいな。
幼馴染の顔を思い浮かべながら家路についた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...