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国内編
第一話 伝説の勇者、散る
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岩石で創られたドーム状の中で眠っていたワタシの前に、その女は現れた。
「久しぶりだね♪ アリア・マーガレット」
高い位置から彼女を上から見下ろす。
殺すべき対象がこうして自ら足を運んできてくれたことに高揚感が抑えられず、思わず声が高まってしまう。
長くて艶のある銀色の髪。腰には勇者に相応しそうな輝かしい一本の剣。
15年前に一戦を交えたときと何も変わっていないその姿に懐かしさも感じた。
「少し老けた?」
身に付けているもの自体は何も変わっていないが、顔はもうちょっと張りのある綺麗な肌だった気がする。
今はほうれい線がうっすらと浮かび上がっており、生物の老化を感じさせる。
「人間は悪魔神と違って年を重ねるごとに老化するんだよ」
「へぇ~。人間は大変だね」
「そういうお前は何も変わっていないな。見た目も中身も」
「そう? ありがと♪」
ワタシは褒め言葉を素直に受け止め、ニヤける口を肩まで伸びた黒髪を手ですくい覆い隠した。
「さてと、あいさつはこの辺でいいだろう。早速本題に入ろうじゃないか。アリア」
ワタシは飛び降りて地面にスタッと軽やかに着地。
こうしてアリアと正面に対峙してみると、当時の記憶が蘇る。
「こうしてワタシの前に現れたということは殺しに来たんだろう?」
「……私は」
瞳を寂しそうに伏せながらボソッと呟くアリアを見て、思わず呆けてしまう。
前の彼女であれば迷う素振りを見せることなく、力強くハッキリと『殺しに来た』と断言していたのに。
数秒の沈黙の後、アリアはワタシと目を合わせ告げた。
「私は殺しに来たんじゃない。お前と話がしたくてここに来たんだ」
「話? それはまた意外な回答だね。前の君ならとっくに斬りかかっているだろうに。どういう風の吹き回しだい?」
こちらの質問に返事をする前にアリアは地面に両膝を着く。
そしてそのまま上半身を前に倒し始めた。
(土下座?)
「悪魔神ゼロ。この場を借りてまずは謝罪をさせてくれ。私はお前のことを知ろうともせず、ただ人々に被害をもたらしたという事実だけで抹殺の対象だと決めつけていた」
「……」
「けどここ最近になって悪魔神の真実が明らかになってきている。それを目にしたとき、お前は––––––」
「どうでもいいよ。そんな話」
思った以上に冷たいトーンを放ってしまう。
「とりあえず、土下座なんていいから立ってくれる?」
アリアは素直に従うまま、ゆっくりと立ち上がる。
「アリア、ワタシはそんな話に興味はない」
自分の両手に目を向ける。
黒のストッキングで覆い隠している手。外せばそこには見るだけで鳥肌が立つような痛々しい火傷の跡が顔を出す。
実際にその傷跡を想像しただけで、ワタシの全身の毛穴がキュッと引き締まった。
「ワタシはあれから15年間、君を殺すことだけを考えていた。自分の無力感を痛感し、死に恐怖を感じていた自分が嫌で嫌で、ずっと君を超えることだけを考え鍛錬してきた」
自己鍛錬は自分で自分を追い込み続けるストイックさが必要で、自分に甘いワタシにとってそれに性に合わない。
だけど、この刻み込まれた火傷の跡を見る度に、自分を追い込み続けなければならない使命感を与えれ、ストイックになれた。
皮肉なものだ。
今の自分の強さはこの傷跡のおかげなのだから。
「【黒炎の剣(ヘルソード)】」
ワタシは黒炎の剣を生み出し、左手で握る。
「さぁアリア、君も剣を抜いてよ。ワタシの15年間を全てぶつけてあげるからさ」
剣先をアリアに向け宣戦布告する。
「私は戦いたいんじゃないっ! お前と和解をしに––––––!!」
地を蹴り、風を切るようにしてアリアに襲いかかる。
射程範囲内のところで剣を振りかざすと、アリアはかろうじて自身の剣を抜いて防いだ。
「さすがだね。よく反応した」
「ぐっ! ……どうしても、やるんだな?」
「それがワタシの生きる目的だからね♪」
「……考え直してはくれないのか?」
「笑止」
剣を力強く払うとアリアはそのまま剣で防ぎつつ大きく下がった。
「良い判断だ。今の内に呼吸と体勢を整えなよ。ここからが本番だからさ」
「……そうだよな。自分から殺しに掛かっておいて、和解しようと懇願すること自体間違っていた。すまなかったな、ゼロ」
「お礼は全力でいいよ♪」
「ああ。だから今度こそ、お前の気持ちに寄り添うことにする」
アリアが剣を構える。
その覚悟が問われた真剣な眼差しは、まさしくあのときの眼と同じもの。
「そう。それだよアリア。ワタシは君のその眼を待っていた」
ワタシも剣を構え気持ちに応える。
「さぁ、楽しもうじゃないか。死の戦いを!」
高まっていく気持ちが抑えられず、気付けばすでに正面から間合いを詰めていた。
振り下ろせば体を斬りつけられる。
だが分かっている。こんな単純なモーションが通じないということぐらいは。
それでも攻撃の一手としては悪くない。
この攻撃を受け止めるのか。それともかわすのか。
どちらに転んでも次の攻撃の準備は整っている。
鍛錬のときに何回もシミュレーションし、数多くのパターンは頭に植え付けてあるから。
抜かりはない!
(さぁどうする!? アリア!)
余裕な顔つきでワタシの剣先を捉えているアリア。
今のところ右手に持っている剣を動かす素振りはない。
つまり、かわす選択を取るつもりだろう。
ワタシは攻撃をかわす選択を取る前提で次の予備動作を入れることに。
(右か)
アリアが右に避けたところで右足の重心に力を入れ、跳ぶようにして先回りする。
「!」
「残念♪」
ワタシは背後から剣を振り下ろす。
しかしアリアは咄嗟に振り向き剣で防ぐ。
「わぁお。これも防ぐんだ」
「……」
「じゃあこれはどうかな? 【黒雨(ヘルレイン)】」
天井に無数の黒い雫が出現。
すると一気にアリアへと向かって落下し始める。
「ワタシの黒炎の特性は知っているだろう? 触れたものは燃え尽きるまでその炎が消えることはない。一滴でも触れたらジ・エンドだ」
狭い空間だからこそ効果の発揮するこの技。
自分は黒炎の体質を持っているため触れても何の影響を受けることはない。
「もちろん知っている」
アリアは剣を強く握り、天井に向かって大きく振り払う。
「はあああああああ!!」
すると豪炎をまとった爆風が雫全体を掻き消し、天井もろごと吹っ飛ばした。
突き抜けた天井の周囲は黒く焼き焦げ、ところどころ炎が燃え盛っている。
「……素晴らしいね。顔は老けても力は衰えていない」
アリアの凄まじさはその実力だけではない。
アリアの能力『豪炎』は触れたものを焼き尽くし、効果を無力化させる。
アリアは自身の剣を表面に豪炎をまとわせ、本来焼き尽くすはずの黒炎を逆に焼き尽くすという効果を発揮。
触れた剣が燃えないのもそのせい。
初めて自分の黒炎が通用しなかったときは目が見開くほどときめいたものだ。
天井が綺麗に取り除かれたことにより、薄暗い空間から日差しの差し込んだ明るい空間へと変わる。
「でも、反射スピードは衰えているかな? その証拠に防戦一方だ」
自ら攻撃に徹しないのはカウンターを恐れているからに違いない。
「戦いの中で分析もするとは。前とは別人だな。ゼロ」
「そりゃあ15年間、君を殺すことだけを目標に生きてきたからね。別人のようでなければ成長とは言わない」
「……ゼロ、聞かせてくれ。お前は何の為に生きている?」
「それさっき答えたばかりなんだけど?」
「違う。その後のことを聞いている?」
「その後?」
「そうだ。お前が私のことを殺したとして、その後はどうする? 何を目標に生きていくつもりなんだ?」
「…………さぁ? テキトーに空を見上げながらのんびり過ごすんじゃないの?」
「一時的にはいいかもしれない。だがそんな退屈な日々をこれから永遠に過ごすわけがない。過ごせるはずがない」
「じゃあ逆に聞かせてくれ。君は何を目標に生きているんだい?」
「娘の成長。そしてその場を提供することだ」
「へぇ、娘いたんだ」
「ああ。15歳のな。いずれ私を超えた伝説の勇者となる自慢の娘だ」
高らかに、そして本当に自慢げに語るアリアは温かい微笑みを浮かべている。
「親バカだねぇ。何を根拠に言っている」
「根拠はあるさ。私の娘だぞ?」
「……フッ」
「そして今、その第一歩がようやく始まる。日本には私が創立させた勇者を育成する専門機関『勇者育成機関』があるんだが、娘は今年からそこに入学しることになっている」
「知ったことではないね。なんでワタシが君の娘の話を聞かされないといけないのさ。ワタシには関係のないことだ」
「すまない。ただ惚気話をどうしても聞いて欲しかったんだ。親バカとしてこの高まる感情が抑えきれなかったもんでな」
「別にいいよ。退屈しのぎにはなった」
「それならよかった。願わくば、お前が娘の指導者になってほしいものだがな」
「面白いジョークだね。ワタシがそんな面倒なことをすると思うかい?」
「先のことは分からないものさ。自分が想定もしていなかったことが起こる、それが人生だからな」
「……」
「無駄話に付き合ってくれてありがとう。––––––さぁ、決着を付けようか」
アリアが左足の軸足を引き、右手の剣を上に突き出す。
剣に天まで届きそうなほどに紅蓮の炎が纏わりつく。
周囲には爆風によって瓦礫や小石などが吹き飛んでいき、中には亀裂の入っていた壁も勢いに押され共に飛ばされていく。
「素晴らしい……! 勝負はやっぱこうでなくっちゃ♪」
こちらも【黒炎の剣(ヘルソード)】に膨大な気を込め、負けずと大規模な剣を生み出す。
紅蓮の炎と漆黒の炎のオーラがバチバチとぶつかり合う。
同時に互いの眼を見つめ合う。
誰も近づくことさえ許されない神の領域が、今ここに誕生していた。
––––––両者、踏み込む!
「行くぞ、ゼロ!!」
「来な、アリア!!」
剣と剣が交じり合おうとする瞬間……。
両者の間に、決着が付いた。
★
「ワタシの勝ちだね。アリア」
「……ああ。そのようだな」
ワタシは仰向けで倒れているアリアを上から見下ろしながらそう言った。
「最後の一撃は単純な力比べだった。最初は接戦だったけど、ワタシの方が一枚上手のようだったね♪」
「……そうだな」
「最後に言い残すことはある? 良ければ聞くよ?」
剣先をアリアの眼前に向ける。
アリアはもう力を使い果たした。
これ以上抵抗を見せることはない。
後は生かすも殺すも全てワタシが握っている。
最初から後者の選択しか頭にはなかったが。
「あれを、取ってきてくれないか?」
アリアが向けた視線の先には金属の小さなものが落ちていた。
形状からしてロケットペンダントだろう。
ワタシはお望み通りそれを拾いに行き、アリアの手にそっと渡した。
アリアは手を振るわせながらもロケットペンダントを開き、中に映っている何かを見て頬を緩める。
「アリス……っ」
アリアは今まで見せたことのない温かな微笑みを見せる。
今にも泣き出してしまいそうなほどに幸せな笑みを浮かべる『アリス』というのは一体誰なのだろう。
単純に気になった。
「アリスって、誰?」
「私の娘だ」
「!」
さっき自慢げに語っていた15歳の娘か。
確かアリアを超える伝説の勇者になるとか言っていたな。
「そうか。アリスというのか。似ているね、名前も」
「ふふっ。私のように強くなって欲しいという想いを込めたからな。もしかしたら、ゼロを超える勇者になるかも」
「フッ。でも君は負けた。それも圧倒的にね。そんな君の娘がワタシを超えるとは到底思えない」
「言ったはずだ。先のことは分からないって」
「……」
「もし、わがままを聞いてくれるなら、これを娘に渡してくれないか?」
アリアはロケットペンダントを差し上げる。
「嫌だと言ったら?」
「それならそれで構わない」
「面倒なことは好きじゃないんだ。気が向いたらね」
「ありがとう」
ゼロは差し出されたペンダントを受け取るのを拒否。
アリアはお礼を告げると瞳を閉じ、満足そうな表情を浮かべる。
これはもう思い残すことのない、殺していいという決意の現れだ。
口にしなくとも、アリアのことをずっと想っていたワタシには分かる。
「娘さんに伝えることはないのかい?」
「……そうだな…………」
瞳を開き、手にしていたロケットペンダントに映る娘の顔を見つめる。
気づけば、目尻には涙が浮かび上がっていた。
「今までごめん。ずっと愛してる……って伝えてくれ」
「分かった」
ワタシは剣を大きく振り下ろし、心臓部分を一思いに刺した。
大量の血飛沫が吹き出し、それを上から全身に掛かる。
「最後まで背を向けずに戦い抜いた君のことは、まさしく伝説の勇者に相応しい最後だったよ。––––––アリア・マーガレット」
ワタシは血で汚れていない右手でロケットペンダントを手にし、アリアと娘の二人が映る写真を目にする。
「親子……家族……ね」
アリアにそっくりな娘の顔を見て、ロケットペンダントを閉じる。
「一度会ってみるのもいいかもね♪」
ロケットペンダントをポケットにしまい、まずは血を洗い落とせる水場へと向かった。
「久しぶりだね♪ アリア・マーガレット」
高い位置から彼女を上から見下ろす。
殺すべき対象がこうして自ら足を運んできてくれたことに高揚感が抑えられず、思わず声が高まってしまう。
長くて艶のある銀色の髪。腰には勇者に相応しそうな輝かしい一本の剣。
15年前に一戦を交えたときと何も変わっていないその姿に懐かしさも感じた。
「少し老けた?」
身に付けているもの自体は何も変わっていないが、顔はもうちょっと張りのある綺麗な肌だった気がする。
今はほうれい線がうっすらと浮かび上がっており、生物の老化を感じさせる。
「人間は悪魔神と違って年を重ねるごとに老化するんだよ」
「へぇ~。人間は大変だね」
「そういうお前は何も変わっていないな。見た目も中身も」
「そう? ありがと♪」
ワタシは褒め言葉を素直に受け止め、ニヤける口を肩まで伸びた黒髪を手ですくい覆い隠した。
「さてと、あいさつはこの辺でいいだろう。早速本題に入ろうじゃないか。アリア」
ワタシは飛び降りて地面にスタッと軽やかに着地。
こうしてアリアと正面に対峙してみると、当時の記憶が蘇る。
「こうしてワタシの前に現れたということは殺しに来たんだろう?」
「……私は」
瞳を寂しそうに伏せながらボソッと呟くアリアを見て、思わず呆けてしまう。
前の彼女であれば迷う素振りを見せることなく、力強くハッキリと『殺しに来た』と断言していたのに。
数秒の沈黙の後、アリアはワタシと目を合わせ告げた。
「私は殺しに来たんじゃない。お前と話がしたくてここに来たんだ」
「話? それはまた意外な回答だね。前の君ならとっくに斬りかかっているだろうに。どういう風の吹き回しだい?」
こちらの質問に返事をする前にアリアは地面に両膝を着く。
そしてそのまま上半身を前に倒し始めた。
(土下座?)
「悪魔神ゼロ。この場を借りてまずは謝罪をさせてくれ。私はお前のことを知ろうともせず、ただ人々に被害をもたらしたという事実だけで抹殺の対象だと決めつけていた」
「……」
「けどここ最近になって悪魔神の真実が明らかになってきている。それを目にしたとき、お前は––––––」
「どうでもいいよ。そんな話」
思った以上に冷たいトーンを放ってしまう。
「とりあえず、土下座なんていいから立ってくれる?」
アリアは素直に従うまま、ゆっくりと立ち上がる。
「アリア、ワタシはそんな話に興味はない」
自分の両手に目を向ける。
黒のストッキングで覆い隠している手。外せばそこには見るだけで鳥肌が立つような痛々しい火傷の跡が顔を出す。
実際にその傷跡を想像しただけで、ワタシの全身の毛穴がキュッと引き締まった。
「ワタシはあれから15年間、君を殺すことだけを考えていた。自分の無力感を痛感し、死に恐怖を感じていた自分が嫌で嫌で、ずっと君を超えることだけを考え鍛錬してきた」
自己鍛錬は自分で自分を追い込み続けるストイックさが必要で、自分に甘いワタシにとってそれに性に合わない。
だけど、この刻み込まれた火傷の跡を見る度に、自分を追い込み続けなければならない使命感を与えれ、ストイックになれた。
皮肉なものだ。
今の自分の強さはこの傷跡のおかげなのだから。
「【黒炎の剣(ヘルソード)】」
ワタシは黒炎の剣を生み出し、左手で握る。
「さぁアリア、君も剣を抜いてよ。ワタシの15年間を全てぶつけてあげるからさ」
剣先をアリアに向け宣戦布告する。
「私は戦いたいんじゃないっ! お前と和解をしに––––––!!」
地を蹴り、風を切るようにしてアリアに襲いかかる。
射程範囲内のところで剣を振りかざすと、アリアはかろうじて自身の剣を抜いて防いだ。
「さすがだね。よく反応した」
「ぐっ! ……どうしても、やるんだな?」
「それがワタシの生きる目的だからね♪」
「……考え直してはくれないのか?」
「笑止」
剣を力強く払うとアリアはそのまま剣で防ぎつつ大きく下がった。
「良い判断だ。今の内に呼吸と体勢を整えなよ。ここからが本番だからさ」
「……そうだよな。自分から殺しに掛かっておいて、和解しようと懇願すること自体間違っていた。すまなかったな、ゼロ」
「お礼は全力でいいよ♪」
「ああ。だから今度こそ、お前の気持ちに寄り添うことにする」
アリアが剣を構える。
その覚悟が問われた真剣な眼差しは、まさしくあのときの眼と同じもの。
「そう。それだよアリア。ワタシは君のその眼を待っていた」
ワタシも剣を構え気持ちに応える。
「さぁ、楽しもうじゃないか。死の戦いを!」
高まっていく気持ちが抑えられず、気付けばすでに正面から間合いを詰めていた。
振り下ろせば体を斬りつけられる。
だが分かっている。こんな単純なモーションが通じないということぐらいは。
それでも攻撃の一手としては悪くない。
この攻撃を受け止めるのか。それともかわすのか。
どちらに転んでも次の攻撃の準備は整っている。
鍛錬のときに何回もシミュレーションし、数多くのパターンは頭に植え付けてあるから。
抜かりはない!
(さぁどうする!? アリア!)
余裕な顔つきでワタシの剣先を捉えているアリア。
今のところ右手に持っている剣を動かす素振りはない。
つまり、かわす選択を取るつもりだろう。
ワタシは攻撃をかわす選択を取る前提で次の予備動作を入れることに。
(右か)
アリアが右に避けたところで右足の重心に力を入れ、跳ぶようにして先回りする。
「!」
「残念♪」
ワタシは背後から剣を振り下ろす。
しかしアリアは咄嗟に振り向き剣で防ぐ。
「わぁお。これも防ぐんだ」
「……」
「じゃあこれはどうかな? 【黒雨(ヘルレイン)】」
天井に無数の黒い雫が出現。
すると一気にアリアへと向かって落下し始める。
「ワタシの黒炎の特性は知っているだろう? 触れたものは燃え尽きるまでその炎が消えることはない。一滴でも触れたらジ・エンドだ」
狭い空間だからこそ効果の発揮するこの技。
自分は黒炎の体質を持っているため触れても何の影響を受けることはない。
「もちろん知っている」
アリアは剣を強く握り、天井に向かって大きく振り払う。
「はあああああああ!!」
すると豪炎をまとった爆風が雫全体を掻き消し、天井もろごと吹っ飛ばした。
突き抜けた天井の周囲は黒く焼き焦げ、ところどころ炎が燃え盛っている。
「……素晴らしいね。顔は老けても力は衰えていない」
アリアの凄まじさはその実力だけではない。
アリアの能力『豪炎』は触れたものを焼き尽くし、効果を無力化させる。
アリアは自身の剣を表面に豪炎をまとわせ、本来焼き尽くすはずの黒炎を逆に焼き尽くすという効果を発揮。
触れた剣が燃えないのもそのせい。
初めて自分の黒炎が通用しなかったときは目が見開くほどときめいたものだ。
天井が綺麗に取り除かれたことにより、薄暗い空間から日差しの差し込んだ明るい空間へと変わる。
「でも、反射スピードは衰えているかな? その証拠に防戦一方だ」
自ら攻撃に徹しないのはカウンターを恐れているからに違いない。
「戦いの中で分析もするとは。前とは別人だな。ゼロ」
「そりゃあ15年間、君を殺すことだけを目標に生きてきたからね。別人のようでなければ成長とは言わない」
「……ゼロ、聞かせてくれ。お前は何の為に生きている?」
「それさっき答えたばかりなんだけど?」
「違う。その後のことを聞いている?」
「その後?」
「そうだ。お前が私のことを殺したとして、その後はどうする? 何を目標に生きていくつもりなんだ?」
「…………さぁ? テキトーに空を見上げながらのんびり過ごすんじゃないの?」
「一時的にはいいかもしれない。だがそんな退屈な日々をこれから永遠に過ごすわけがない。過ごせるはずがない」
「じゃあ逆に聞かせてくれ。君は何を目標に生きているんだい?」
「娘の成長。そしてその場を提供することだ」
「へぇ、娘いたんだ」
「ああ。15歳のな。いずれ私を超えた伝説の勇者となる自慢の娘だ」
高らかに、そして本当に自慢げに語るアリアは温かい微笑みを浮かべている。
「親バカだねぇ。何を根拠に言っている」
「根拠はあるさ。私の娘だぞ?」
「……フッ」
「そして今、その第一歩がようやく始まる。日本には私が創立させた勇者を育成する専門機関『勇者育成機関』があるんだが、娘は今年からそこに入学しることになっている」
「知ったことではないね。なんでワタシが君の娘の話を聞かされないといけないのさ。ワタシには関係のないことだ」
「すまない。ただ惚気話をどうしても聞いて欲しかったんだ。親バカとしてこの高まる感情が抑えきれなかったもんでな」
「別にいいよ。退屈しのぎにはなった」
「それならよかった。願わくば、お前が娘の指導者になってほしいものだがな」
「面白いジョークだね。ワタシがそんな面倒なことをすると思うかい?」
「先のことは分からないものさ。自分が想定もしていなかったことが起こる、それが人生だからな」
「……」
「無駄話に付き合ってくれてありがとう。––––––さぁ、決着を付けようか」
アリアが左足の軸足を引き、右手の剣を上に突き出す。
剣に天まで届きそうなほどに紅蓮の炎が纏わりつく。
周囲には爆風によって瓦礫や小石などが吹き飛んでいき、中には亀裂の入っていた壁も勢いに押され共に飛ばされていく。
「素晴らしい……! 勝負はやっぱこうでなくっちゃ♪」
こちらも【黒炎の剣(ヘルソード)】に膨大な気を込め、負けずと大規模な剣を生み出す。
紅蓮の炎と漆黒の炎のオーラがバチバチとぶつかり合う。
同時に互いの眼を見つめ合う。
誰も近づくことさえ許されない神の領域が、今ここに誕生していた。
––––––両者、踏み込む!
「行くぞ、ゼロ!!」
「来な、アリア!!」
剣と剣が交じり合おうとする瞬間……。
両者の間に、決着が付いた。
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「ワタシの勝ちだね。アリア」
「……ああ。そのようだな」
ワタシは仰向けで倒れているアリアを上から見下ろしながらそう言った。
「最後の一撃は単純な力比べだった。最初は接戦だったけど、ワタシの方が一枚上手のようだったね♪」
「……そうだな」
「最後に言い残すことはある? 良ければ聞くよ?」
剣先をアリアの眼前に向ける。
アリアはもう力を使い果たした。
これ以上抵抗を見せることはない。
後は生かすも殺すも全てワタシが握っている。
最初から後者の選択しか頭にはなかったが。
「あれを、取ってきてくれないか?」
アリアが向けた視線の先には金属の小さなものが落ちていた。
形状からしてロケットペンダントだろう。
ワタシはお望み通りそれを拾いに行き、アリアの手にそっと渡した。
アリアは手を振るわせながらもロケットペンダントを開き、中に映っている何かを見て頬を緩める。
「アリス……っ」
アリアは今まで見せたことのない温かな微笑みを見せる。
今にも泣き出してしまいそうなほどに幸せな笑みを浮かべる『アリス』というのは一体誰なのだろう。
単純に気になった。
「アリスって、誰?」
「私の娘だ」
「!」
さっき自慢げに語っていた15歳の娘か。
確かアリアを超える伝説の勇者になるとか言っていたな。
「そうか。アリスというのか。似ているね、名前も」
「ふふっ。私のように強くなって欲しいという想いを込めたからな。もしかしたら、ゼロを超える勇者になるかも」
「フッ。でも君は負けた。それも圧倒的にね。そんな君の娘がワタシを超えるとは到底思えない」
「言ったはずだ。先のことは分からないって」
「……」
「もし、わがままを聞いてくれるなら、これを娘に渡してくれないか?」
アリアはロケットペンダントを差し上げる。
「嫌だと言ったら?」
「それならそれで構わない」
「面倒なことは好きじゃないんだ。気が向いたらね」
「ありがとう」
ゼロは差し出されたペンダントを受け取るのを拒否。
アリアはお礼を告げると瞳を閉じ、満足そうな表情を浮かべる。
これはもう思い残すことのない、殺していいという決意の現れだ。
口にしなくとも、アリアのことをずっと想っていたワタシには分かる。
「娘さんに伝えることはないのかい?」
「……そうだな…………」
瞳を開き、手にしていたロケットペンダントに映る娘の顔を見つめる。
気づけば、目尻には涙が浮かび上がっていた。
「今までごめん。ずっと愛してる……って伝えてくれ」
「分かった」
ワタシは剣を大きく振り下ろし、心臓部分を一思いに刺した。
大量の血飛沫が吹き出し、それを上から全身に掛かる。
「最後まで背を向けずに戦い抜いた君のことは、まさしく伝説の勇者に相応しい最後だったよ。––––––アリア・マーガレット」
ワタシは血で汚れていない右手でロケットペンダントを手にし、アリアと娘の二人が映る写真を目にする。
「親子……家族……ね」
アリアにそっくりな娘の顔を見て、ロケットペンダントを閉じる。
「一度会ってみるのもいいかもね♪」
ロケットペンダントをポケットにしまい、まずは血を洗い落とせる水場へと向かった。
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