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#3 皆んなのスキル

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「クーちゃん起きてー! 朝だよー!」

「んみゅ…… あと30時間……」

「それもう1日超えちゃってるよ!? どんだけ寝るつもりなの、全く……」


 クローフィアは昨日は結局、一度夕食の時間に起こしてもらったが、その夕食後にはまたすぐ眠ってしまったので、昨日から今日にかけてトータル12時間は軽く寝たはずなのだがまだ眠いらしい。

 そんなクローフィアを同室のアカネはひょいっと持ち上げて叩き起こした。

 そしてそのまま椅子まで運び、ぴょこぴょこ跳ねたクローフィアの髪を櫛ですいていく。


「……アカネ、世話焼き」

「だって、同室の子を置いていくわけにもいかないでしょ? こうでもしないとクーちゃん本当にずっと寝てそうだし……」

「……睡眠は至高」

「まぁ、気持ちは分かるけどね? でも、生活リズム整えないと今後の学校生活大変だから、なるべく昼間は起きてるんだよ?」

「……うー」

「うーじゃない」

「ふふっ、あの2人仲良しですわね♡」

「そうですね」

「私達も準備しましょうか?」

「はい」


 セリーとフィオラは既に自分で起きており、テキパキと自分の用意を済ませていく。


「そう言えば、セリーちゃんは自分の事は自分でするんだね? なんか、王族ってなったらメイドさんとかにやってもらうものかと思ってたよ」

「ふふっ、その認識は間違ってませんわ? ですが、以前誘拐された時、私は本当に何もできませんでしたの…… だから、それからはなるべく自分のことは自分でやれるようにし始めたんです」

「セリーちゃんはすごいね?」

「従者としてはもう少し身の回りのお世話をさせていただきたさもありますが……」

「フィオラはいつも近くにいてくれるじゃありませんか♡ それだけで私の心はすごく暖かくなってますのよ?」

「勿体無いお言葉です……♡」

「あははっ、2人もすごい仲良しなんだね?」


 朝からほのぼのとした空気になったが、朝のホームルームまで時間はそう残されていないので、少し急ぎ目で用意をしていった。

 そして、制服をしっかり着込んだ4人は昨日の教室へと向かい、朝のホームルームを受けていく。


「よしっ、皆んなおはよう! 今日は早速なんだが必修科目の実践訓練がある! この後、運動服に着替えたら訓練所に集合だ!」


 ダッカー先生の朝の出席確認と諸連絡をホームルームで受け、その後生徒達はそれぞれ運動服に着替えていく。

 この学校は必修科目と選択科目があり、必修は今から行う実技訓練や魔導学、あとは基礎知識の時間が設けられており、選択の方は自分の目指す道に合った科目を選択して受講するという形式になっている。

 この先1週間ほどかけて選択科目の方はオリエンテーションなどを受けて決めていくのだ。


「実践訓練かぁ…… どんな感じなんだろ?」

「最初からそんな激しい事はしないと思いますがね?」


 アカネ達も運動服に着替えて訓練所に向かった。

 訓練所は屋内施設ではあるが、校舎と同じくらいの大きさがあり、端から端までは200メートル近くの広さを誇る巨大な建物になっている。


「よーし、集まったな! それじゃあこれから実技訓練を始めるぞ! とは言っても、今日のところは説明と各々の得意分野の確認が主だな!」

「は~い♡ 私もいるわよ~♡」


 訓練所に集まると、そこにはダッカーとリリーフィアが既にいた。

 どちらもジャージのような素材の服だが、リリーフィアの方は閉まらないのかわざとなのか、上の方のファスナーをざっくり開けており、しかも下に着けているシャツもかなり薄手ということもあって、その見事な谷間が露わになっていた。

 年頃の子供達にとっては非常に目の毒である。


「まずは班ごと…… 寮の同室のメンバーだな! それに分かれてお互いの出来ることを披露していこう! スキルを持っている者はそれも披露してくれ! この班は何もなければ卒業まで同じ班のままで、協力することもすごく多いから、今のうちにお互いのスキルを理解しておく事!」

「私とダッカー先生は一個ずつ班を回っていくわね~♡」

「その辺のスペースにある的は自動で再生する仕組みだから、試し撃ちに使っていいからな! あと、剣とか杖はそこに立てかけてあるやつを使ってくれ! 刃はもちろん潰してあるが、まともに当たると当然危ないから、取り扱いには注意しろよ!」


 という事で、各班訓練所内に散っていき、各々のスキルを披露することになった。


「誰からやりましょうか?」

「じゃあ、私から! 私のスキルは分かりやすいからね」


 アカネはそう言うと、訓練用の剣を手に取り、的から少し離れた距離に立った。


「いくよ! ふっ!」


 そして、少し体勢を低くしたかと思うと、目にも止まらぬ速さで的に近づき、その後の一振りで丸太くらいの太さのある木の的を粉々に粉砕した。


「わぁっ、アカネ様すごいですわ!」

「えへへ…… 私のスキルは『縮地』っていう一定距離を高速移動するスキルと、『剛力』っていう単純に力が上がるスキルだよ」

「スキル2つ持ちですか…… 珍しい上にどちらも強力なスキルですね」

「……ん、シンプルだけど、とっても良いスキル」

「それでは、次は私が…… アカネさんのスキルに比べたらいささか地味ですが」


 お次はフィオラが披露する番になり、得物は盾を持ってきた。


「そうですね…… では、アカネさん。 あの的に攻撃してもらえませんか?」

「え? うん、分かった」


 そう言いながらフィオラは盾を構えたが、そこはアカネと的からは少し離れた位置だった。


「えいっ!」

 キンッ!

「あれっ!? フィオラちゃん!?」


 フィオラの立ち位置に疑問を持ちながらも、アカネが的に斬りかかろうとしたところ、その剣筋の通り道にいきなりフィオラが現れ、アカネの剣を盾で受け流してしまった。


「そのままどうぞ」


 その後も色んな角度からアカネはどうにかして的を狙うが、必ずフィオラに回り込まれて全て受け流されてしまった。


「これが私のスキル、『守護』と『受け流し』です。 守護対象が一定範囲内にいれば、対象に向けられた攻撃に瞬時に割り込んで防げます。 受け流しの方はあらゆる攻撃を受け流す事ができるといった感じですね」

「すごいよフィオラちゃん! 攻撃してもなんかすごいツルツル剣が滑っちゃって全然手応えなかったよ」

「……何かを守る騎士に相応しいスキル」

「流石私の護衛騎士ですっ♡」

「あ、ありがとうございます……♡」


 フィオラは皆んなに褒められてちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。


「では、次は私ですわね! 私は魔導騎士志望なので魔法を披露します!」


 フィオラは魔力の伝達を補助する杖を手に取って、魔法を発動するために必要な詠唱を始めた。


「火球よ、眼前の敵を燃やし尽くせ! ファイアボール!(土塊よ、眼前の敵を押し潰せ! ロックボール!)」


 セリーが詠唱を済ませると、杖の示す先に大きな魔法陣が二つ浮かび上がった。
 

「えっ、な、なんか今、声が二重に聞こえたよ!?」

「あれがセリー様のスキルです」


 そして、その魔法陣から1メートルくらいの大きさの火球と土塊が現れ、それぞれ違う的へ飛んでいった。

 その2つの魔法は見事的に命中し、的を燃やし、吹き飛ばした。


「これが私のスキル、『多重詠唱』です!」

「確か、本来魔法は一度に一つしか放てないんだよね?」

「そうです。 それをセリー様は一度に複数の魔法を放つ事ができます」

「……セリー、とっても凄いスキル持ってる」

「クー様に褒めてもらっちゃいましたっ♡ 嬉しいですっ♡」

「で、残ったのはクーちゃんだけど……」

「ん、私のスキルは……」


 そう言われたクローフィアはおもむろに自分の手首を口元に持っていき……


「はい、ストップよ~♡」


 が、そうしたところ、いつのまにか横にいたリリーフィアがクローフィアの手を止めてしまった。


「……リリ?」

「クーちゃん、いきなり貴女が自分の体を傷つけたら、この子達が心配しちゃうわよ~?」

「えっ、自分の体を傷つける……? そんなことしようとしたの、クーちゃんっ」

「……スキル使うのに必要だから」

「そうしないとダメなら見れなくていいよっ」

「もう少しクーちゃんはお友達の事も考えれるようにならないとね? 例えば、アカネちゃんが自分の体に剣を突き刺して傷つけようとしたら嫌じゃない?」

「……確かに」

「そういうことよ~♡ ほら、お友達3人とも心配そうな顔してるわ?」

「……皆んな、ごめんなさい」


 心配そうにクローフィアの方を見てくるアカネ達に、クローフィアは素直にぺこりと頭を下げた。
 

「あ、謝らないでくださいませっ。 気にしておりませんわ?」

「リリーフィア先生、クーさんのスキルは危険なものなのですか?」

「うーん、危険では無いわよ? ただちょーっと絵面がショッキングだから今実践させるのはね~」

「……見せなくていいの?」

「と、こんな事もあろうかと~…… じゃ~んっ♡ はい、クーちゃんこれっ♡」

「……いつの間に」

「事務所のタンクから拝借してきちゃった~♡」


 リリーフィアは、その豊満な谷間に手を突っ込むと、蓋がついている銀色の容器を取り出してクローフィアに渡した。

 それを受け取ったクローフィアはその容器の蓋を開け、中身をひっくり返していく。

 そこから出てきたのは真っ赤な液体で、本来自由落下するはずの液体はクローフィアの手元でふよふよと浮かび、少しずつ集まってきて形を作っていった。


「リリーフィア先生、あの液体はなんですか?」

「血よ~♡」

「へっ?」

「あれは正真正銘、クーちゃんの血♡」


 アカネがその言葉に驚いていると、クローフィアの周りの血液はクローフィアの手の中で一振りの片手剣のような形に収まっていった。


「……これが私のスキル、『血操術』。 自分の血を思うがままに操る事ができる」


 そう告げたクローフィアの手に握られた真っ赤な剣は、美しくも妖しい光を帯びていた。
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