吸血公ヴェルド侯爵の憂鬱~魔王の生贄となった病弱王子は、魔獣たちを従えて無双する

一ノ瀬 薫

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第17話 漂流者の到着

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 玉座の間では慌ただしく伝令のゴブリンが出入りし、逐次報告がなされた。
「侵入者は上陸を試みると思われます」
「わかった。では、海岸にて警告と保護を呼びかけよ。武器を捨て抵抗しなければ命は保証すると。抵抗するようであれば、無力化して捕縛し、連行せよ」
 できれば抵抗はしてほしくはないが、何しろ相手が魔獣であるから抵抗されても仕方がない。人間はそういう所は融通が利かない生き物である。
 ヴァンは少しばかり憂鬱になりながら、報告を待った。

「閣下、侵入者は上陸をいたしました。ご命令通り、警告と保護の呼びかけを行いましたが、上陸者の内、数名が抵抗をいたしましたので、捕縛し、他の者は無抵抗でしたので、そのまま連行しております。けが人と衰弱した者がおりましたので、これらの者たちは、ドラゴニュートに運ばせまして、一団より早く到着しております」
「それら者はどこにいる」
「控えの間にて休ませております」
 わかった、とヴァンは控えの間に向かおうとするとジュールがお待ちください、と引き留めた。
「どうした」
「ご用心ください。何かあるといけませんので」
 ふふ、とヴァンは笑みを漏らすと、心配には及ばぬが確かに用心は必要だ、とジュールの慎重さを褒めた。
 しかし、ジュールは余計なことを申し上げましたと頭を下げた。

 控えの間にヴァンが入ると、彼らを監視していたゴブリンが公のお出ましだ、と横たわる者たちに告げた。
 身を起こそうとする彼らにヴァンは、そのままでよい、と言った。
「後日尋問を行うが、それまでは療養せよ」
 そう告げると、ヴァンはその場で回復魔法を施した。
 魔獣には効いたのだから人にも効くだろうとやってみたが、どうやら効果が強いのか彼らは気を失ってしまった。
「だいじょうぶだろう。様子を見て目が覚めたら病人用の食事を与えよ」
 ヴァンは監視役のゴブリンに命じた。

 翌日、陸路で連行された人間が到着した。
 彼らを引率したゴブリンの長であるザードがヴァンの下に報告に来た。
「彼らは総勢十五名で、先に負傷して運ばれた者以外の者十名を連行したしました」
「わかった。それで彼らはどこにいる」
「いったん応接室で休ませております」
 漂流者と言ってもどのような身分の者かわからない。それを考慮して応接室に通したのはさすがはザードである。
 いつもジュールに厳しく言われているだけのことはある。

「ザード、さすがだな。そうした判断と配慮を心掛けるよう、一同に伝えよ」
「承知いたしました。それで彼らはこれからどのようにいたしますか」
 うん、とヴァンはしばらく考えた。
「彼らの体調はどうだ」
「道中は無理せず、休養を与えながら食事もさせましたので、上陸した時に比べれば回復しているかと」
 ヴァンは窓から見える黄昏時の赤い空を見た。
「明日、昼に食事のあと玉座の間で話を聞こう。監視は厳重に行え。それから詳しい報告を聴きたい。あとでもう一度ここに参れ」
 承知いたしました、とザードは一礼して退出した。 
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