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第39話 新皇帝アリ
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「この後は皇子アリに帝国を引き継いでもらう。母たちを救ったのだから、それくらいはしてもらわねばな」
カテリーナは皇子アリと顔を見合わせ、不安な表情を浮かべた。
「閣下のご意向であればアリが皇帝となることに異存はありませんが、帝国の民が果たして我々を施政者として認めるでしょうか」
ヴァンはそれを聞くと、横たわる将軍と宰相を見下ろして笑った。
「そのためにこいつらを生かしておいたのだ。それでもダメなら帝国民など根絶やしにしてやる。そのあとで貴殿らの国で帝国を分割すればよい。あくまで平和的にだぞ、争うようであればお前たちの国もまとめて亡ぼす」
王妃と皇子たちはその言葉に黙って頷いた。
ヴァンは起きろと宰相レナードと将軍バックに告げると、二人は目を覚ました。
そしてヴァンは彼らが自分を認めたとみるや〈支配〉によって平伏させた。
「汝らは帝国民を無用の戦いに使役し、周辺国の民を蹂躙した罪を贖わねばならぬ」
「ははっ」
「前皇帝オーウェルは死んだ。後継者は第一皇子アリとし、帝位についた。宰相レナード、これを帝国民に知らしめよ」
「承知いたしました」
「将軍バックに命じる。これより軍の大権は皇帝にあることを宣言し、皇帝の命なく帝国軍を動かすことは禁じる。これを全軍に厳に命じよ」
「ご命令通りにいたします」
「次いで二人に命じる。これより両名は皇帝にその命を捧げ、その命令は絶対と心得よ。そして両名は皇帝の治世に尽力せよ」
では、新皇帝アリに忠誠を誓えとヴァンと命じた。
レナードとバックは新皇帝アリの前に膝を付き、頭を垂れると告げた。
「我らは皇帝アリ陛下に終生の忠誠を誓うものであります」
ヴァンはアリに目配せした。
アリは戸惑いながらもレナードとバックに向かって宣した。
「汝らの忠誠を認め、宰相と将軍の職を命じる。帝国の治世に尽力せよ」
「ははっ。ありがたき幸せ」
レナードとバックはそう言って、立ち上がった。
「では、宰相、将軍。新皇帝の即位を帝国民に告げよ。将軍には加えて命じることがあるので、その場で待て」
皇帝アリはそこまで言うと、ヴァンに訊ねた。
「ロア諸島の件、今命じておいた方がよろしいでしょう」
ヴァンはアリの肩に手を置くと頷いた。
「お願いする。エレン再興の折には、帝国と和平のための条約を交わさねばならぬ。それもよろしく頼む」
「承知しました。閣下にはこれからもご協力をお願いいたします」
「こちらこそ、万事良しなに頼む」
アリは一礼すると、将軍バックに命じた。
「直ちにロア諸島に進駐している全軍を引き上げ、帝国にあるエレンの民全員を解放し、ロア諸島に送還せよ」
「はっ」
バックはそういうや否や新皇帝アリに一礼すると、小走りに部屋を出て行った。
「これで、一件落着といったところか。いや、そうでもないか」
ヴァンのひとりごとにアリは不安そうな表情を見せた。
それを見たヴァンは、いやいや、帝国のことではないと笑顔を見せた。
「では、我らの仕事はここまでだ。いずれまたお会いしよう」
ヴァンはそう言って王宮を覆う結界を解くと、後ろに控えていたドラゴニュート達と共に飛翔した。
そして手を振る新皇帝らに見送られ、魔獣領への帰途に就いた。
カテリーナは皇子アリと顔を見合わせ、不安な表情を浮かべた。
「閣下のご意向であればアリが皇帝となることに異存はありませんが、帝国の民が果たして我々を施政者として認めるでしょうか」
ヴァンはそれを聞くと、横たわる将軍と宰相を見下ろして笑った。
「そのためにこいつらを生かしておいたのだ。それでもダメなら帝国民など根絶やしにしてやる。そのあとで貴殿らの国で帝国を分割すればよい。あくまで平和的にだぞ、争うようであればお前たちの国もまとめて亡ぼす」
王妃と皇子たちはその言葉に黙って頷いた。
ヴァンは起きろと宰相レナードと将軍バックに告げると、二人は目を覚ました。
そしてヴァンは彼らが自分を認めたとみるや〈支配〉によって平伏させた。
「汝らは帝国民を無用の戦いに使役し、周辺国の民を蹂躙した罪を贖わねばならぬ」
「ははっ」
「前皇帝オーウェルは死んだ。後継者は第一皇子アリとし、帝位についた。宰相レナード、これを帝国民に知らしめよ」
「承知いたしました」
「将軍バックに命じる。これより軍の大権は皇帝にあることを宣言し、皇帝の命なく帝国軍を動かすことは禁じる。これを全軍に厳に命じよ」
「ご命令通りにいたします」
「次いで二人に命じる。これより両名は皇帝にその命を捧げ、その命令は絶対と心得よ。そして両名は皇帝の治世に尽力せよ」
では、新皇帝アリに忠誠を誓えとヴァンと命じた。
レナードとバックは新皇帝アリの前に膝を付き、頭を垂れると告げた。
「我らは皇帝アリ陛下に終生の忠誠を誓うものであります」
ヴァンはアリに目配せした。
アリは戸惑いながらもレナードとバックに向かって宣した。
「汝らの忠誠を認め、宰相と将軍の職を命じる。帝国の治世に尽力せよ」
「ははっ。ありがたき幸せ」
レナードとバックはそう言って、立ち上がった。
「では、宰相、将軍。新皇帝の即位を帝国民に告げよ。将軍には加えて命じることがあるので、その場で待て」
皇帝アリはそこまで言うと、ヴァンに訊ねた。
「ロア諸島の件、今命じておいた方がよろしいでしょう」
ヴァンはアリの肩に手を置くと頷いた。
「お願いする。エレン再興の折には、帝国と和平のための条約を交わさねばならぬ。それもよろしく頼む」
「承知しました。閣下にはこれからもご協力をお願いいたします」
「こちらこそ、万事良しなに頼む」
アリは一礼すると、将軍バックに命じた。
「直ちにロア諸島に進駐している全軍を引き上げ、帝国にあるエレンの民全員を解放し、ロア諸島に送還せよ」
「はっ」
バックはそういうや否や新皇帝アリに一礼すると、小走りに部屋を出て行った。
「これで、一件落着といったところか。いや、そうでもないか」
ヴァンのひとりごとにアリは不安そうな表情を見せた。
それを見たヴァンは、いやいや、帝国のことではないと笑顔を見せた。
「では、我らの仕事はここまでだ。いずれまたお会いしよう」
ヴァンはそう言って王宮を覆う結界を解くと、後ろに控えていたドラゴニュート達と共に飛翔した。
そして手を振る新皇帝らに見送られ、魔獣領への帰途に就いた。
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