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第6話 継承の日
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魔王はヴァンに魔属領を依頼した日からおよそ八十年後、長き眠りについた。
眠りの前に主だった魔獣らを呼び寄せた魔王は、ヴァンを傍らに置くと、森の正式な支配者として指名した。
異論を唱える魔獣はおらず、知恵のある者が代表して新たな魔王としてヴァンに服従することを誓った。
魔王は継承の証として、己の力のすべてをヴァンに与え、ヴァンはそれまでの吸血鬼から吸血公となった。
そして、魔王と等しい力を持ち、魔獣たちが住まう森の支配者として、統治することになった。
「思わぬ巡りあわせで閣下には重荷を背負わせることになった。しかし我はいつの日か蘇る。その日がやってきたときに、それまでの月日の苦情を聞こう」
そう言い残し、魔王は穏やかな笑顔で目を閉じると長い眠りについた。
ヴァンは魔王を継承した吸血公として埋葬を執り行い、魔獣を集めて魔獣の森の統治を宣言した。
統治者と言っても、ヴァンがすることはさほどなかった。
初めの数十年は大きな揉め事があると、代表者がやって来るので話を聞いて意見を言うことくらいだった。
ヴァンは賢く穏やかな性格なので、彼の判断に異を唱える者はなかった。
継承してから百年ほどで、彼の判断や考え方は森で周知されるようになり、何か争いごとがおきても、前例を基に自主的に解決することが多くなった。
それでも新たな問題が起きると彼の下にその判断を仰ぎにやって来た。
もともと魔獣たちはヴァンに臣従しているので、最終的な判断はヴァンに委ねた方が事が穏便に済むからだった。
だがその後、ヴァンの指導で様々な経験を経た魔獣たちは、人類と遜色ない社会を形成するに至り、些細なことで自分たちが敬愛するヴァンの手を煩わすことは良くないと考えるようになった。
こうしたことから、彼らの中で不文律のようなものが定められて行き、様々な取り決めが制度化されるに至った。
ヴァンは以前に増してやることがなくなったが、魔獣たちの希望で年に一度、気候のいい時期に案内を連れて森を巡回する日がある。
その日は魔獣はみな仕事を休み、ヴァンの来訪を喜ぶ祝日になっている。
特に歓迎の宴などはないが、いくつかの場所で魔獣の長《おさ》と話をして必要があれば、後日その件に関して彼らと会談を行う。
森に関してはそんな風になっていた。
ヴァンは城の私室の西側の窓から鬱蒼とした魔獣の森を見降ろす。
ワース村の住人は別として、ヴァンは人類よりも魔獣たちに絆や親しみを感じるようになっていった。
長い年月の中で、自分を主として頼りにしているのは、魔獣たちであることを感じていたからである。
そして彼らと接する時には魔王のことを思い出す。
魔王はヴァンにとって、王族としてどこか無用者のような引け目を感じていた自分を、人類からも魔獣からも役に立つ者にしてくれた存在だったからだ。
こうしてヴァンにとって穏やかな日々が続いたように見えるが、時折その日々を波立たせる出来事もある。
ヴァンの憂鬱はそうした時に訪れるのだった。
眠りの前に主だった魔獣らを呼び寄せた魔王は、ヴァンを傍らに置くと、森の正式な支配者として指名した。
異論を唱える魔獣はおらず、知恵のある者が代表して新たな魔王としてヴァンに服従することを誓った。
魔王は継承の証として、己の力のすべてをヴァンに与え、ヴァンはそれまでの吸血鬼から吸血公となった。
そして、魔王と等しい力を持ち、魔獣たちが住まう森の支配者として、統治することになった。
「思わぬ巡りあわせで閣下には重荷を背負わせることになった。しかし我はいつの日か蘇る。その日がやってきたときに、それまでの月日の苦情を聞こう」
そう言い残し、魔王は穏やかな笑顔で目を閉じると長い眠りについた。
ヴァンは魔王を継承した吸血公として埋葬を執り行い、魔獣を集めて魔獣の森の統治を宣言した。
統治者と言っても、ヴァンがすることはさほどなかった。
初めの数十年は大きな揉め事があると、代表者がやって来るので話を聞いて意見を言うことくらいだった。
ヴァンは賢く穏やかな性格なので、彼の判断に異を唱える者はなかった。
継承してから百年ほどで、彼の判断や考え方は森で周知されるようになり、何か争いごとがおきても、前例を基に自主的に解決することが多くなった。
それでも新たな問題が起きると彼の下にその判断を仰ぎにやって来た。
もともと魔獣たちはヴァンに臣従しているので、最終的な判断はヴァンに委ねた方が事が穏便に済むからだった。
だがその後、ヴァンの指導で様々な経験を経た魔獣たちは、人類と遜色ない社会を形成するに至り、些細なことで自分たちが敬愛するヴァンの手を煩わすことは良くないと考えるようになった。
こうしたことから、彼らの中で不文律のようなものが定められて行き、様々な取り決めが制度化されるに至った。
ヴァンは以前に増してやることがなくなったが、魔獣たちの希望で年に一度、気候のいい時期に案内を連れて森を巡回する日がある。
その日は魔獣はみな仕事を休み、ヴァンの来訪を喜ぶ祝日になっている。
特に歓迎の宴などはないが、いくつかの場所で魔獣の長《おさ》と話をして必要があれば、後日その件に関して彼らと会談を行う。
森に関してはそんな風になっていた。
ヴァンは城の私室の西側の窓から鬱蒼とした魔獣の森を見降ろす。
ワース村の住人は別として、ヴァンは人類よりも魔獣たちに絆や親しみを感じるようになっていった。
長い年月の中で、自分を主として頼りにしているのは、魔獣たちであることを感じていたからである。
そして彼らと接する時には魔王のことを思い出す。
魔王はヴァンにとって、王族としてどこか無用者のような引け目を感じていた自分を、人類からも魔獣からも役に立つ者にしてくれた存在だったからだ。
こうしてヴァンにとって穏やかな日々が続いたように見えるが、時折その日々を波立たせる出来事もある。
ヴァンの憂鬱はそうした時に訪れるのだった。
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