負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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「あら、あなたたちも混乱に巻き込まれたくないようですね。私も同じ気持ちですよ」

ヴィクトリアは苦い顔をして、辺りを見回す。

「いま王族たちは“予定通り式典を進める”ということで落ち着きかけていますが、正直、不穏な感じが拭えません。あの仕掛けの犯人が誰か、全く手がかりがないというのに……」

「やはりそうですか。何か裏で動いているとか?」

私が聞くと、ヴィクトリアはため息をついて扇子を広げる。

「それはわかりません。ただ、この事件で得をするのは誰か、という視点で見れば、いくつかの可能性は浮上するでしょうね。フローラ令嬢が絡んでいるかどうかはわかりませんが、少なくとも彼女が利用しようとしているのは間違いないわ」

「利用……?」

レオンが首を傾げる。

「そう。フローラ令嬢は今の状況を最大限活用して、アデル様を陥れようとしている節がある。先ほどのあなた方の一件でわかったでしょう? 下手をすれば、このまま罪を着せられてもおかしくなかった」

ヴィクトリアの言葉に、私たちは苦々しい思いを噛みしめる。

「はい。それをアルトが止めてくれたんですよね。意外にも」

ギルバートが言うと、ヴィクトリアは「ふふ」と微かに笑った。

「アルト・ランペルージ公爵家嫡男は、あなたの元婚約者でありながら、まだ未練があるんじゃないかしら。フローラと組んではいても、本当の意味で彼女を支持していないように見えましたわ」

「私に未練……? 勘違いだと思うけど」

「そうかもしれませんね。ただ、あなたも彼も、互いの存在を完全には嫌い切れない部分があるようにお見受けします。少し意識しておいても損はないと思いますよ」


ヴィクトリアの含みのある物言いに、私は何とも言えない苛立ちを感じる。確かにアルトには複雑な感情を抱いているけれど、それが今さらどうなるというのか。

「そこはどうでもいいわ。問題は事件の犯人よ。私やレオンに矛先が向かないようにするにはどうしたらいいの?」

率直な疑問をぶつけると、ヴィクトリアはまたため息をつく。

「王城で起きた事件は、基本的に王宮の衛兵が捜査します。私の力で何とかできるわけではないの。ですが、いずれ“犯人探し”の波があなたたちにまで及ぶ可能性は否定できない。そもそも、フローラ令嬢のように“都合のいいスケープゴート”を探している人も少なくないのよ」

「……やっぱり、私たちがどうにか対抗するしかないのね」

「そうね。少なくとも、自分たちが無実であることを周囲に示すための準備くらいはしておいたほうがいいでしょう」

ヴィクトリアが扇子を折りたたんで続ける。

「もし協力できることがあれば、私も手を貸しましょう。レオン殿にも少し借りがありますしね」

そう言って、レオンに視線をやる。レオンは恐縮しながら「ありがとうございます」と頭を下げた。

私たちがヴィクトリアと言葉を交わしているうちに、ホールでは次のプログラムが始まったようだ。軽い舞踊や、王族によるお披露目のような出し物があるらしいが、正直楽しむ気分になれない。

「アデル、いったん屋敷に帰りませんか? このままいてもトラブルに巻き込まれそうですし」

ギルバートが提案するが、私は「でもね……」と答えを濁す。

「途中で退席したら、また“やっぱりアデルが犯人じゃないか”って言われかねないじゃない? 今はむしろ、堂々としていたほうが怪しまれないと思うの」

「なるほど……」

レオンが不安げにつぶやく。

「でも、アデルがこうしてがんばっても、フローラは何かと文句つけてくるだろうな」

「わかってるわ。……はあ、本当に面倒」

こうして私たちは、仕方なく式典に最後まで居残ることを決断する。幸い、ヴィクトリアのような協力者も出てきてくれた。もし事が大きくなれば、また動くこともあるだろう。

その後の数時間、王城の中では表面的には華やかなプログラムが進行していたものの、事件の影がちらついて、参加者の誰もが落ち着かない様子だった。

フローラは取り巻きのケガした令嬢を介抱しつつも、私を牽制する視線を絶やさない。アルトはアルトで気まずそうに私の動向を見守っているようだ。

王族たちは大勢いて、それぞれが違う思惑で動いているらしいが、その全容を把握するのは不可能に近い。
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