負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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書斎に入り、机に向かって便箋とペンを用意する。
ギルバートもそばで「こういう文面がいいんじゃないですか?」と助言してくれる。レオンは黙ってその様子を見守っている。

「拝啓、ヴィクトリア・グランフィート様……先日の式典においては、温かいお言葉を賜り……」などと始めながら、私はさっさと本題に移る。

「実は先の事件について、心当たりがないかお伺いしたく……調査に協力いただけるようでしたら、改めてお会いする機会を……」と、おそるおそる言葉を綴る。失礼のないようにしつつ、明確に「調査への協力」を要請する形だ。

「こんなところかしら。あとは彼女の反応待ちね」

「ええ、これで十分伝わると思います。先方も興味をお持ちのはずですし」

ギルバートが文面を確認し、頷く。

レオンは頭をかくようにして目を伏せる。

「ごめん、僕あまり役に立ってないね。こういう文章や交渉事は苦手で……」

「気にしないでよ、あなたにはあなたの役目があるわ。今はこれでいいの」

書き上がった手紙をメイドに託し、すぐに馬を走らせて王都へ届けてもらうよう手配した。うまく行けば今日中に返事が来るかもしれない。

「はあ……少しだけ気が楽になったわ。何もしないよりはマシ」

そう言ってほっと息を吐くと、ギルバートも安堵したような顔を見せる。

「アデル、本当に大変ですね。王家の話、フローラの陰謀、レオンさんの立場……あなた一人で抱え込むには負担が大きいですよ」

「今さら言われてもね。でもギルがいるし、レオンもいる。お祖母さまもいるし、私を慕ってくれる使用人たちもいるから大丈夫」

そう強がってみせるが、内心では「本当に大丈夫かしら」と不安を拭えない。フローラの嫌がらせをかわしつつ、事件の真相にも踏み込もうなんて、かなりのリスクを伴う。

だけど、黙っていればいずれフローラに陥れられ、王家の内部争いにも巻き込まれ、余計に泥沼化するかもしれない。ここは私が動くしかないのだ。

「アデル、じゃあ今日はどうします? 領地の仕事もあるし、事件のことばかりに気を取られてはいられないですよね」

ギルバートが冷静に問いかける。そうなのだ。私には伯爵家の当主代理としての職務もある。領地経営の書類仕事が山積みだし、先日の投資家との打ち合わせのフォローアップも必要だ。

「わかってるわよ。今日は書類仕事をして、夜にはヴィクトリアからの返事が来るかもしれないし、それを待ちましょう」

「はい。それがいいですね。レオンさんはどうします?」

「僕? 何か手伝えることがあるならやるよ。料理でも書類の整理でも」

レオンが申し出てくれるのはありがたいが、彼を表に出しすぎると王家関連で注目されるリスクもある。

「レオン、じゃあ今日は屋敷の中のことを手伝ってくれる? 領地の書類作業はちょっと機密も多いし、ギルと私でやるから」

「あ、うん。わかった。僕、コック長にも教わりたいことあるし、使用人の仕事を手伝いながら過ごすよ」

「ありがとう。くれぐれも無理しないで。あと、外出は控えてほしいかな。変な連中に目を付けられたら困るから」
「わかったよ」

こうして、私たちはそれぞれの役割をこなすことにした。
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