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しおりを挟むそれから数日、私はギルバートや使用人たちと協力して、フローラの動向を探ることにした。
彼女の取り巻きに繋がる知り合いや、フローラが出入りしている商会などにさりげなく情報収集をさせるのだ。
実際のところ、フローラが王家内の誰かと連絡をとっているかもしれないし、再び道具を入手しようと動いている可能性もある。
屋敷の一室を「作戦室」みたいに使い、メイドたちが集めてきた噂をまとめる。
ギルバートとレオンもそこに入り、あれこれと整理していく。
「フローラ……やはりアルト様の周辺を固めてる感じがあるわね。彼女の取り巻きは公爵家の若い使用人とも親しくしているらしい」
私が書類を読み上げると、ギルバートが肩をすくめる。
「アルト様と本当に結ばれたいなら、それ自体は不思議じゃないんですが……」
「アルトがその気じゃないのは見え見えだけど、フローラは執念深そうだし。もしかしたら、公爵家を足がかりに王宮へ、という狙いはまだ継続中ね」
レオンが難しい顔で小さく唸る。
「でも、フローラは今の状態だと、アデルを陥れる一手を失ったままなんでしょ? 事件の犯人に仕立て上げる計画は崩れたし」
「うん、だからこそ次の策を探してるはず。例えば“レオンをはめる”とかね」
「それは絶対に防がないと……」
レオンの声には焦りが混じる。
「ええ。何か弱みを見せれば、そこにつけこまれる。仮登録する前後が一番危ないと思うわ。手続きが落ち着くまで、私たちの屋敷からあんまり出ないほうがいいわね」
「そうだね。わかった。外出は控えるよ」
私が決断を下し、レオンも納得してくれた。ギルバートも賛成の意を示す。
「そうですね。今は騒ぎを起こさず、フローラの動向を探りながらこちらの体制を固めるのが賢明です」
その翌日。
私は「作戦室」にこもってメイドや使用人から報告を聞いていたとき、突然クラリッサ(メイド長)が血相を変えて駆け込んできた。
「アデル様、大変です! 王都の商業地区で、フローラ様の取り巻きたちが、我が伯爵家を侮辱するビラを撒いているとの情報が……!」
「ビラ……?」
驚きつつも、私はすぐに状況を推察する。 要するに、「悪役令嬢と捨て猫が王家を騙している」みたいなデマを、紙媒体で拡散してるのか?
「ええ……商人たちが怒って連絡をくれました。『悪役令嬢は王家の道具を盗み、事件を起こしたが揉み消した』などという、根も葉もない内容だそうです」
クラリッサが息せき切って訴える。
「なんですって……!」
私の拳が震える。フローラ、ついに直接的な“流言飛語”戦法に出たか。
王宮では通用しなかった嘘を、今度は一般市民に広めて世論を利用しようという算段かもしれない。
「あの女……!」
顔を上げると、ギルバートがすでに黙って立ち上がっている。レオンは言葉を失ったように肩をすくませているが、その目には怒りが滲んでいる。
「すぐに対抗策を打たないと。こういうビラの情報は拡散が早いわよ。商人たちも戸惑っているだろうし」
「はい。ただ暴力的に排除しても、フローラはまた別の手段を使いますよ」
ギルバートの言葉に頷きつつ、私は頭を巡らせる。
ビラを撒かれているなら、私たちもビラで対抗するとか、噂を鎮静化させる方法を考える必要がある。だが、それではいたちごっこになりそうだ。
「ヴィクトリアに助けを求める?」
レオンが提案するが、私は首を振る。
「王家を巻き込むにはまだ早い気がする。これはいわゆる“街の噂レベル”の争いだから、まずは伯爵家独自の力でなんとかするのが先かも」
「そうですね……どうにか封じ込めたいところですが、フローラは一般市民を味方につけようとしてるのかもしれません」
「じゃあ、市民に直接訴える? 正々堂々“伯爵家はそんな悪事を働いてない”って広報活動をするのよ」
意外な提案にギルバートが目を丸くするが、私の脳内ではもうプランが浮かんでいた。
王家の件を大袈裟にしなくても、普段から伯爵家がしている領地支援や商人との提携などを、“街の人々”に向けてPRすればいい。
今まで極端に“悪役令嬢”扱いされた私には、その必要性がなかったかもしれないが、こうなったらやるしかない。
「ほら、たとえば前にも慈善パーティとかでアピールしたじゃない? あれをもっと拡大して行うの」
「なるほど、名声を高める作戦ですか。確かに、おかしなビラが出回っても、実際に我々を知る人々が支持してくれれば鎮圧できるかも」
ギルバートが納得してくれる。レオンも気持ちが少し晴れたようだ。
「うん、それなら僕も協力できそう。街の孤児院とか施設に顔を出して、支援の実態を見せるってことだよね?」
「そうよ。普段から意識的にやってきたけど、今回はもっと大々的に。“伯爵家が真摯に領地経営と慈善活動を行ってる”と示すの。そうしたら、フローラのビラなんて無力化するでしょ」
レオンは大きく頷き、「じゃあ、近々行動に移そう」と意気込む。
ギルバートも「できるだけ早めにやりましょう。明日あたりから準備しますか?」と具体案を出す。
「うん、私も領地の有力者に声をかけておく。フローラのビラには絶対負けないわ」
もう“フローラがビラをばら撒いている”なんて、許しがたいにも程がある。ここでひとつ私たちの力を見せつけ、「悪役令嬢」という不当な噂を払拭する絶好の機会だ。
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